十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

プロフィール

十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
メッセ&スカイプは大歓迎です
SkypeID『Brassp905』


リンクはフリーなので
どなたでもどうぞ
もしご連絡いただければ高所から
イヤッホォォォォ!!します


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大体マルチ対応ゲームやってると思います。

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『私の霊夢は凶暴です』

『れーむちゃんはとまらない』に寄稿した原稿をアップ。
気がついていたら本になったりしていたれーむちゃん。
挿絵と表紙が非常にふてぶてしい顔をしていてGood。

私が書いたお話はれーむちゃんがアリス(ロリ)と出会うお話。
多分ロリスは割とまとも。れーむちゃんよりは遥かにまとも。

挿絵はSYLLAさんに描いていただいたものをアップ。
スモーとかスペリオルガンダムとか描いてもらったのが一番満足だったりします。

れーむちゃん①




雨が降り続いていた。
冷たく、寒気を伴った秋霖が連日連夜降り注ぎ、今日は朝から底冷えのするような気温だった。
体を摩りながら布団を後にした僕は洗面所で顔を洗い、軽く歯を磨く。
桶に汲み置きしておいた水が身を切るように冷たく、少し手を浸しただけで手が赤く滲んだ。

過ごしにくい季節になってきたものだ。
僕は一人そうぼやくと、寝室に戻って寝間着から普段着へと着替え、店の方へと向かった。
朝食はいいだろう。
半人半妖の僕は食わなくても死にはしないし、今日は何かを食べようという気分ではない。

こういう日は朝食を抜きにして、昼食も出来るだけ簡単なもので済まし、
夕食に野菜や肉がたっぷり入った鍋でも食べるのが理想だ。
葱に白菜、大根、牛蒡、人参等々。
つい最近人里に住んでいる古馴染みの上白沢慧音からお裾分けしてもらったものがたくさんある。

肉は昨日つぶしてもらった鶏肉がまだあったはずだ。
一晩置いたものだが、今は夏場でもないしよく火を通せば食あたりする事もないだろう。
となると今日の夕食は、野菜と鶏肉がたっぷりの水炊きにするのが理想的か。
鍋の最後は野菜と鶏肉の旨みがよく出た汁で雑炊なんてのもいい。
塩と醤油を少量垂らし、味を確認しながら調整を行い白米と鶏卵を投入して手早く仕上げる。
薬味には刻み葱もいいし、少量の柚子胡椒で旨みを損なわない程度に刺激を付与させるのも捨て難い。

何にしても華やかな夕餉になりそうだ。
ただ、鍋を一人で用意し、食すという行為には少なからず虚しさを覚える。
もう少し人里と近い所に店を構えていれば、慧音なり霧雨の親父さんなり、
昔からの馴染みを呼んで小規模な宴会じみた夕餉の時間を過ごせるのだが。

如何せん僕の店は少々人里から離れた位置にある。
独立した際に妖怪と人間。双方の集客を見込んでこの場所に店を構えたのはいいが、
お世辞にも僕の店は繁盛しているとはいいがたい。

両方の集客を期待した結果、両方とも中途半端な形となってしまった。
やはり二兎を追うものは一兎をも得ずという事だろうか。
まぁ、客足の少なさについて時々後悔する事はあるものの、この静かな生活は性に合っている。
商いに忙しく自分の時間さえ満足に過ごせないよりはいいだろう。

それに少ないながらも常連やお得意様と呼べる程度の客は居るんだ。
多くを望み過ぎる事は人生において賢い生き方とは言えない。

御釈迦様も法句経の中で、
「孤独に歩め悪をなさず求めるところは少なく林の中の象のように」と言っている。
孤独に歩んでいるかはともかくとして、僕の生き方は悪をなさず求めるところは少ない生き方だ。
そんな僕の日常に波風が立つ訳がない。
いつも通り僕はこの店で草木のように静かな生活を送る。

こんな僕に何か騒々しい話題を持ってくるとしたらそれは――。

「霖之助さんゆにばーす」

「霊夢か……今日は早いんだな。ユニバースという新しい挨拶の言葉はさておき、どうやって入った?」

赤と白の衣を纏った幼い少女がカウンターの上に座っていた。
じっとりと睨むような目付きをしていて僕を見つめていた。
特に不機嫌な訳でも何かに腹を立てている訳でもない、彼女はだいたいいつもこんな表情をしている。

博麗霊夢は仏頂面が基本スタイルだ。
決して感情が欠如している訳ではないのだが、この子は滅多に笑わないし、滅多に泣く事もない。
この年頃の子供にしては些か物静かなところがあるし、妙に達観しているようにも見える。

その癖食べ物や寝る事に関しては歳相応に素直で、
よく僕のところにやって来ては温かい食事と布団を要求するのがお馴染みの光景となっていた。

こんな幼い彼女でも一応は当世博麗の巫女として妖怪退治や結界の維持等の仕事を請け負っている。
曰く、彼女が僕のところにやって来るのは監視だからという理由で、
半人半妖である僕を監視対象として見張っているらしい。

その割には監視対象である僕の目の前で昼寝をするし、特に警戒する事無く食事に箸をつける。
この歳にしてこの子は本音と建前を使い分ける術を知っているというのか。

「針金を使って開けた」

「そうか、君は実に器用な子供だな」

「凄い」

「うむ、凄い。だがこんな事は今後一切しないように。
 この店だったから良かったものを、他だったら怒られるぐらいじゃすまないぞ」

「はーい」

よく見てみるとカウンターの上には古ぼけた針金が二本転がっていた。
要するに勝手に開けたらしい。こんなスキルを彼女に教えた憶えはない。
何処で憶えてきたのか。それとも誰かに教えられたのか。

誰かが教えたのなら大体察しがつく。
彼女の育ての親であり、現時点での正当な保護者らしい『おばさん』なる人物だろう。
僕はまだそのおばさんと対面した事はないが、
霊夢が持つありとあらゆる知識も元を辿ればそのおばさんが教えたものらしい。

中には到底子供に教えるべきではないような知識も多々あり、
僕は霊夢がおばさんと呼び慕う人物に対して複雑な感情を抱いている。

機知に富み、飄々としていて掴み所のない人物だという事は容易に想像する事ができるが、真っ当な人物とは到底思えない。

霊夢に吹き込まれた知識はその殆どが出所不明のものばかりで、
博麗の巫女に必要な知識には程遠い。
おまけに霊夢は普通の子供より飲み込みが早く、
色んな物事をすぐに覚えるので余計に始末が悪い。

僕に対する見張りもそのおばさんから命じられた事らしく、
何かあったら退治してもいいという許可まで貰っているそうだ。
僕の意志に関係なくそんな命令を下すとは何事か。
第一僕は見張られるような事をした覚えも、これからする予定もない。
何を思って彼女のおばさんは霊夢に僕の監視を命じたのか。
ここ最近は賽でも振って適当に決めたのではないかという気がしてならない。

「それより霊夢。ずぶ濡れじゃないか」

「うん。凄く濡れた」

「傘を差して来なかったのか?」

「神社に傘無い」

「本当に何も無いんだな、神社には。まったく、
 こんな冷たい雨の中ずぶ濡れになりながらやって来るなんて何を考えているんだか」

「ご飯の事考えてた」

「だろうな。そんな事だろうと思っていたよ」

「寒い」

「傘も差さずに全身ずぶ濡れになれば寒いに決まってるよ」

「地球の雨というものは温かくないのだな。緑の地球、我らが故郷」

「もう秋だからね。とりあえず着替えて髪を拭く事だ。
 代わりの巫女服なら押入れにある。自分で着替えられるね?」

「うん」

「じゃあ着替えだ。その間に僕は食事の用意をするよ」

「早く着替える」

「君が早く着替えたところで食事は早く出来上がらないよ。せめてご飯を炊く時間ぐらい待つんだね」

「そう言って飯を食わせぬ作戦だなお主」

「僕が今まで君にご飯をご馳走しなかった事があるかい?」

「そう言えば無かった」

「そうだろう。僕はいい大人だから腹を空かせた子供を放っておけないのさ」

「自分で言うことじゃない」

「言ってくれるな。とにかく議論も食事も着替えの後だ。早く着替えてきなさい」

「任務了解」

霊夢は駆け足で店の奥へと消えていった。
僕はそれを見送ると、カウンターの上を手ぬぐいで拭いて自分がいつも座っている椅子に腰掛けた。
懐から紙巻煙草を取り出すとマッチを擦り先端に火を灯す。
赤く燻る煙草の火を見つめながら煙を吸い込み、気怠げにゆっくりと吐き出した。

吐き出された紫煙は店内に充満した湿気と絡みつくようにねっとりと広がり、拡散してく。
思えばここ最近は霊夢と毎日顔を合わせている気がする。
朝夕問わずいつの間にか彼女は僕の傍らにいて、僕と何気ない言葉を交わしながら商売に勤しむ。
客が来ている時は熱い茶でも啜りながら静かにしているので、商売の邪魔になるという事もない。
大多数の客はそんな霊夢を見て「よく出来たお嬢さんですね」と口にした。
歳の割に落ち着きがあって構ってやらなくとも煩くする事がない。
一見すると同年代の子供よりも早熟なように見える。

しかし霊夢の発言は時折荒唐無稽で突飛なところがあるものの、
その奥にあるのはまだ未成熟で他人の温もりを求めようとする子供の縋るような言葉だ。
極めてシンプルな、この年頃の子供なら誰もが持っていてもおかしくはない。
むしろそういった感情を持たない子供の方が異質だといっていい。

結局のところ霊夢も突き詰めてしまえば普通の子供だ。
歳相応に自分の感情に素直で、大人という存在に安心を求める。

一見安定しているように見えてその実彼女の内面は不安定なものだ。
親代わりだったおばさんという人物はいつも霊夢と一緒にいる訳ではないらしい。
最近はおばさんと過ごす時間も減っているそうで、
近い内におばさんは霊夢の元を離れ何処かへ行ってしまうという事を聞いた。
普段滅多に悲しそうな顔をしない霊夢がその時ばかりは悲壮な面持ちで語る様子を僕は忘れる事が出来ないだろう。

となれば必然、困っている子供を見過ごす訳にもいかない。
何らかの縁があって僕の事を見張っている以上、必要最低限の責任は負うべきだろう。

煙草の灰が崩れ落ちる。
思っていたよりも長く物思いにふけっていたらしい。

「ごめんください」

僕が思考を中断すると同時に店のドアが開き、鈴の音が来客を告げた。
声は高く鈴を鳴らしたように澄んだ声で、姿を目にしなくとも少女のものである事が分かった。

「いらっしゃい。何か入用ですか?」

言葉と共に声の主人へと目をやる。
背が低く、色の白い少女。年頃から察するに幼女と形容するのが妥当か。
霊夢と同年代かそれよりも少し上かもしれない。

明るい碧眼に麦の穂先を思わせる発色の良い金髪。
肌の色が白いのでそういった身体的特徴が際立った。

れーむちゃん②


ただ全身ずぶ濡れで所々に泥汚れが目立つ。
何処かで転びでもしたのか、酷い有様だ。
おまけに手には折れ曲がった傘を持っており、
一目見るだけでそれがもう傘としての役割を果たさない事を悟った。

はて何処の子供だろうか。
人里にこんな容姿の子供が居た憶えはない。

「ここは道具屋さんですか?」

寒さのせいか、あるいは見知らぬ大人に話しかける事が怖いのか、少女の声は小刻みに震えていた。

「そうだよ。道具屋香霖堂。僕はその店主、森近霖之助だ。よろしく」

「私はアリス。よろしくお願いします」

アリスと名乗った少女が会釈をすると、僕もそれに釣られて座ったまま小さく頭を下げた。
丁寧な言葉使いに上品な物腰。よく教育されている。
どこか良いところのお嬢さんか何かだろうか。

「あの、一ついいですか?」

「何かな」

アリスは少しだけ警戒を解きつつ、カウンターへと近づいた。
僕もなるべく怯えさせないよう、霊夢と接する時のような態度を取り繕う。

「道具の修理を依頼出来ますか?」

「勿論。そういった依頼は大歓迎だ」

「良かった……」

「修理して欲しいのはその傘かな」

「は、はい……その、滑って転んだら壊れちゃって」

「どれ、貸してみなさい」

アリスから折れ曲がった傘を受け取る。
中棒が歪み親骨が何本が露出しており、到底傘としては機能しない。

「酷いな」

こんな感想が口をついて出た。

「直りますか?」

「時間を掛ければなんとか。
 といっても応急処置程度の修復しか出来ないだろうけど。
 また改めて専門の職人に修理を依頼するのが無難だろう。
 それにしても日傘か。どうしてこんなものを雨の日に使ったのやら」

「それは……」

「話せないかい?」

「……はい」

「別にいいよ。話せないのならそれでいい。
 僕は道具屋で君は修理を依頼した。互いに深いところまで探り合うのは野暮というものだ」

「ありがとうございます」

「礼は修理した後にお代と一緒に貰おうか」

「あ、お代……」

「君みたいな子供が修理代を賄える程のお金を持ち歩いているとは思っていないから別にいいよ。
 お代は後日君の保護者から徴集する事にしよう」

「アイツから……」

「お母さんかお父さんにこの事を話すんだね」

「お父様は居ません」

特に感情を含んでいない淡々とした物言いだった。
父親が居ない。複雑な家庭環境があるのだろうか。
出会ってまで半刻と経っていない相手に込み入った話をするのは無粋かもしれないが、
それでも気になってしまうのは僕の甘さから来る憂いか。

「……じゃあお母さんに話すんだ」

「お母様は今違うところに住んで居ます」

「難儀だな。となると今君を養っている人は誰になるのかな。
 よその親戚にでも預けられているとか?」

「お母様の友達のところに住んでいます」

「その人の名前は?」

「……多分払ってくれないと思う。とても怖い人で意地悪する人だから」

会話から察するに親元を離れて親類に預けられているという事は確かなようだ。
身なりがよく、言葉遣いや態度が丁寧である様子から養子として貰われたのかもしれない。

「払ってもらう。僕は商いをしたのだからその分の対価はきっちり頂く。
 僕は商人だから金銭面での妥協は絶対にしない。
 だから教えてくれるかな? 君の保護者の名前」

「……幽香。風見幽香って言うの」

風見幽香という名前に覚えはない。
名の響きから女性だという事はなんとなく分かるものの、それ以上はさっぱりだ。
風見幽香……僕のように人里の外に住居を構えている人物あるいは妖怪なのだろうか。
もし風見幽香なる人物が妖怪だった場合、
このアリスという少女も人外の存在だと考えるのが必然だろう。
とはいえアリスからは危険な雰囲気や好戦的な様子は感じ取れない。

一口に人外の存在と言えども、その種類は千差万別。
好んで人間を殺戮ないし捕食する者もいれば、人と交流を持ち商いを行ったり、酒を酌み交わす者もいる。
昔に比べればそういった妖怪の比率は増えた方だろう。

「素敵な名前だね、響きが洒落ている」

「でも怖い。とっても意地悪なの」

「名は体を表すと昔の人は言ったが、必ずしもその言葉が一致する訳ではないさ。
 風見幽香さんのところのアリスだね。よし、この依頼承った」

「お願いします」

ペコリと小さな頭を下げるアリス。
僕は幼いながらもよく躾けられたこの行動に思わず舌を巻いた。
これはうちの霊夢とは違う種類の生き物だ。
あの霊夢にこの態度を求めるのは不可能に近い。
霊夢がこんな殊勝な物言いで礼をするだろうか。否、断じて否だ。
有り得ない。そんな霊夢は存在しない。何か硬いものに頭をぶつけたのなら話は別かもしれないが。

「それはそうと。君、寒いだろう」

「いえ特には」

相変わらずアリスは小刻みに震えている。やはり寒さが身にしみるらしい。
当然だろう。こんな季節にずぶ濡れになった衣服を身に纏っていては体温が奪われていくだけだ。
出来れば早急に他の服へ着替えるのが好ましいところだろう。

「どうせ修理が終わるまでに時間がかかるんだ、何か洋服を貸してやるから奥で着替えてきなさい」

「そこまでお世話になる訳にはいきません。
 お母様が御好意は返せる範囲で受け取りなさいと言っていましたから」

「着るものを借りた恩ぐらいすぐに返せるさ。僕は気の長い性分だからそれぐらい待てる。
 問題なのは恩を返さない事よりも風邪をひかれる事だ。
 それに小さな女の子がずぶ濡れ泥だらけの状態なのを放置しておく事は常識的ではない。
 君はそんな無責任な大人の役を僕に演じさせるつもりなのかな?」

よく躾けられているのは結構。
誇り高くまた気高く自らを保つ為に、自身を律する事は良家の娘としては当然といえる。
それが母親からの教育だとすれば尚更だ。
だがしかし他人の好意を無下にするのは誇り高い者の行いとは言えない。
時には人の好意を受け取り、
相手への感謝を忘れずに居る事。これこそが誇り高き行いだと僕は思いたい。

「ではお言葉に甘えます。ありがとうございます森近小父様」

「……お、小父様か」

心が軋み、小さな亀裂の入る音がした。
今何と言った。小父様だと。
確かに僕はアリスや霊夢の何十倍も年が上で、彼女達からしたら年上の男性かもしれない。
だから年上の男性に使用する呼び名として『小父様』は適切だといえる理屈の上では。

だからといって僕に入ったダメージがそれで無かった事になる等という事はない。
僕のこの胸は今確かに大きく抉られたのだ。彼女の発した『小父様』という言葉に。

まだ、若いつもりだったのだが……。

「アリス、すまないがその……」

「何ですか森近小父様」

不思議そうな表情でアリスがまた『小父様』と読んだ。
もう止めてくれアリス。そんな呼び名を続けていては心が壊れて人間ではなくなってしまう。
元より半分人間ではないが。

「小父様という呼称は止してくれないか。
 確かに僕は半人半妖で普通の人間よりも長生きで、見かけよりも歳を喰っているが、
 それはそれだ。あまり面と向かってそういった呼び方をされると」

「も、もしかして気に触りましたか?」

「いや、気に触ったという訳ではなくだな。決して君に不快感を抱いた訳ではない。
 ただそういう訳ではなく、
 その何だ……呼び方の年齢層をもう少し下げてもらえるとありがたい」

気には触った。だが敢えて皆まで言うまい。
少し話をしただけだが、この子は聡明な少女だ。
霊夢でもあるまいし少し話せば分かってくれるだろう。

「分かりました。えっと……森近お兄様」

「もう一声」

惜しい。随分とダメージは減ったもののまだしっくりとこない。
『お兄様』という呼び名は背中が痒くなる。もっと気安い呼び名の方が僕はいい。

「森近お兄様」

「繰り返して欲しいという意味ではなくてだな。もっと気安くていいという意味だよ」

「霖之助お兄様」

「もっと低く」

「霖之助お兄ちゃん」

気安すぎる。これでは僕が年端も行かない幼女に半ば無理やり『お兄ちゃん』等と呼ばせている変態ではないか。

いくらアリスという名前に些か幼児性愛者の好みそうな響きがあるとは言え、
僕は極めて真っ当な倫理観を持った半人半妖だ。
そんな事に悦びを感じる事など無い。

「分かった、うむ理解した。よし、じゃあ僕の事は霖之助さんとでも呼んでくれ」

「そ、そんな! わ、私恥ずかしいです!」

「何故だ。お兄様やお兄ちゃんよりもずっと恥ずかしくないだろう」

「だって私お母様の事をさん付けで読んだ事ありません!」

「それはそれこれはこれ。君の家は君の家、僕の店は僕の店。了解したかい?」

「了解しました、えっとその……霖之助さん」

俯き加減で恥じらいながらアリスが礼を言った。
心なしかその時のアリスは歳相応の子供が見せる気取った所のない表情だったように見えた。

「服はその辺に適当なものがあるだろう。
 そうだな、今着ている洋服と意匠が似ているその服なんてどうだろう?
 目測だがサイズも同じぐらいだと思う」

座ったまま、商品の洋服を指さす。
僕が指差したのはブラウスと明るい青色のスカートがセットになった子供向けの洋服だ。
アリスの今現在着ている洋服によく似ていた。

「はい、ありがとうございます」

「着替えは奥の方に部屋があるからそこを使ってくれ。
 何分男の独身だから汚い場所だが」

「いえ、そんな事は。着替えと着替える場所を貸していただけるだけで有難いですから」

アリスは洋服を手に取ると、そのまま奥へと消えていった。
去り際にまたペコリと頭を下げたのが印象的だった。
溜息が出る。うちの霊夢に少しでもそのお上品な品性と謙虚な心を分け与えて欲しいものだ。
霊夢にももう少し女の子としての自覚と態度があれば変わってくるのだろうが。

生憎霊夢が「ご飯」と「お風呂」と「眠る」意外の欲求で動いている様子を僕は見た事がない。
花も恥じらう前に花を見つけたら「これ食べられるの?」と僕に尋ねるぐらいだ。
育ち云々よりも元からの気質からして霊夢がお淑やかな女の子になるのは無理だろう。

僕は椅子から立ち上がり、傘の修繕を行う前に霊夢が言っていた食事の準備に取り掛かる事にした。
急な依頼が入ったので飯を炊いてやる事は出来ないが、確か食パン少しが余っていた筈だ。
目玉焼きと味噌汁でも作ってやれば文句は言うまい。
つまるところ霊夢は美味しく食べられるものなら何でもいいのだ。
実に分かりやすい嗜好だが、こういった状況では非常に助かる。

「そう言えば」

ここで一つ気になる事柄があった。
はたしてアリスは朝食を食べて来たのだろうか。
こんな時間だ。何かしらの理由があって出てきたのなら早めに朝食を済ませているのも頷ける。
だがアリスの様子を見ていると、どうも何かしらの計画あっての外出ではなく、極めて突発的な。
言い換えるならば家主と喧嘩をして家を出てきたような気がするのだ。

深く詮索をするつもりはない。
だがもしもアリスがまだ朝食を済ませていないようなら霊夢だけに食事を与えるのも変な話だ。
一応、確認してみる必要があるな。

「ふ、ふえぇぇぇぇぇぇ! うぅ……いきなりぶたれたぁ!」

鳴き声混じりの悲鳴が店の奥から聞こえる。アリスのものだ。
十中八九霊夢の仕業に違いない。

迂闊だった。
あの霊夢が初対面の少女と仲良く出来る筈がない。
あの霊夢が見知らぬ少女に優しく接する筈がない。
あの霊夢が興味を唆る対象を前にして何か行動を起こさない筈がない。

どうせ「とりあえずグーパンチで」等という何がとりあえずなのかよく分からない発想で行動したのだろう。
そう考えると頭が痛くて仕方がなかった。
今後はきっちりと教えなくてはいけないな。
初対面の人にはまずグーパンチではなく挨拶と自己紹介から始めるという事を。










「お、美味しいです」

「…………」

「は、半熟の目玉焼きって私好きなんです。卵黄がとろっとしてて……そ、そのとっても」

「…………」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃん! すっごい睨んでくるよぉ!」

「止めないか霊夢。アリスが怯えている」

「監視。怪しい行動をしたら武力行使も厭わない」

「君は何かにつけてすぐそれだな。別にアリスは怪しい人物ではないだろう」

「怪しい」

「うぅ、疑われてる……」

案の定、霊夢とアリスの初対面は最悪の形となった。
普通初対面の相手に対してげんこつで頭を叩くものだろうか。
おかげさまでアリスは泣き出し宥めるのに一苦労した。

何とかその場を収める事には成功したものの、
霊夢がアリスに抱いた不信感は拭い去れていないようだ。
それと同時にアリスも霊夢に対してすっかり怯えてしまっている。

両者共に朝食はまだだと言うから食事を用意してやったというのに、
仲良く食事をする事ぐらい出来ないのか。
それもこれも霊夢の協調性の無さが原因だ。

霊夢の境遇を鑑みるに、同年代の子供との触れ合いが少ないのは納得出来る話だが、
それにしてもこの取っ付きにくさはもはや才能といっていいだろう。

「霊夢、彼女はお客さんなんだ。
 仲良くしろとまでは言わないからせめて普通に接する努力ぐらいはしなさい」

「努力はする。けれど努力が実を結ぶとは限らない。
 要するに結果が認められて初めて努力は実を結ぶ。これはその結果」

「ほう、成程。そうやって言い訳するのか。よし、じゃあ僕にも考えがある」

「言うがよろしい」

「アリスと仲良くしないのならおやつ抜きだ」

「アリス、一緒に遊ぼう」

「ひっ……いきなり優しくなった。怖い……」

表情は変えずに、いきなり友好的な提案をした霊夢にアリスが怯えた。
無理もない。
初対面でいきなり殴りかかってきた相手が急に友好的な態度をとってくれば誰だって身構える。

「君は下手だな」

「しかし下手だね、どうも」

「君は他人との接し方をもっと学んだ方がいいのかもしれない」

「おばさんにもそう言われた事がある」

「久しぶりに君のおばさんの意見に同意したよ」

「おばさんはいつも半分ぐらい正しい」

「半分は正しくないのか」

「うん。中途半端」

「でもさっきの意見は正しいと思うよ。食事が済んだらアリスと一緒に遊ぶといい」

「遊ぶ」

「よろしい。アリス、という訳だから霊夢と仲良くしてやってほしい。
 さっきの事は許してやってもらえないかな。彼女はこう、人付き合いというものが苦手で」

「は、はい。そのよろしく霊夢。私の名前はアリス、人形とか好きなの」

「私は博麗霊夢。二千五百年の演習を続けた武門の家柄の出身」

「二千五百年も!? す、凄い」

「戦うと元気になる」

「私はあんまり元気にならない……」

「よしなに」

いまいち会話が噛み合っていない気がする。
だがまぁ、当人同士はそれなりに上手くいっているので問題はないだろう。
霊夢もやれば出来る子だ。人並みの協調性ぐらいはあるに違いない。








「アリスは撃墜されました」

「えっ!? な、なんで!?」

「バリア張ってなかったから。どうしたアリス、
 シュミレーションでは七対三で私の方が勝っていた」

「だ、だってぇ! 霊夢がずるばっかりするんだもん!」

「ずるしてない。私はバリア張ってる。だから負けない」

れーむちゃん③


人形遊びと霊夢は言った。そう確かに僕は聞きとった。
だが僕の目の前で行われているのは人形遊びとは程と多い、
何と言うかもっと物騒な単語が飛び交う遊びだった。

プラモデルと呼ばれるプラスチック製の模型を手に取り二人で遊ぶ。
はたしてこれを人形遊びと呼称しても良いものなのか。
人形遊びという可愛らしい響きにしてはいかんせん無骨過ぎる内容な気もする。

ちなみにアリスが手にしているのは白と青を貴重にした角の生えたプラモデルで、
霊夢の方は全体的に丸く力士のような体型をした金色のプラモデルだった。

「金色のモビルスーツは強い。ただし肩に百と書かれたものは除く」

「モビ、モビなんて?」

「モビルスーツ。機械人形でもいい」

「そうなんだ……でも金色ってなんか趣味が悪く思えるの」

「…………」

「や、やめて! そんなに睨まないで! うん、強い! 金色ってすっごく強いと思う!」

「だが白いお髭には及ばない」

「は、はぁ……」

困惑の表情を浮かべながら僕に何かを訴えかけているアリスに「すまない。僕もよく分からない」と目線だけで返した。

霊夢は何故か外の世界のアニメーション作品について詳しい。それも半ば異常な程に。
おばさんに教えてもらったとだけしか言わないので僕も詳しい事までは分からないが、
何処かで外の世界と繋がりがあるのかもしれない。
結界を管理する仕事に就いている博麗の巫女の事だ、
外の世界について何かしら情報を持っていても不思議ではないだろう。

「楽しいかい? 霊夢」

「楽しい」

「そうか。アリス、すまないね付き合わせてしまって」

「いえ、私も楽しいです。アイツのお屋敷には私ぐらいの子供が居ませんから。毎日退屈で」

「やはり同じ年頃の子供同士で遊ぶのは楽しいか。
 もっと早く霊夢にもそんな機会を設けてやればよかったな」

「霖之助さん?」

「いや何、こちらの話しさ。気にしないでくれ。
 もう少ししたら何か菓子でも出そう。二人で仲良く分けて食べるように」

「お菓子? お菓子? お饅頭? お煎餅? お餅?」

「カステラだ」

「カステラ甘い美味しい好き」

「知ってる。アリスはカステラが特に苦手だったりしないかな?」

「いえ好きです。冬虫夏草が入っているもの以外なら」

「冬虫……夏草……だと?」

僕が記憶している限り冬虫夏草とは、主にコウモリガ科の幼虫に寄生し、
それを養分にする子嚢菌門核菌綱ボタンタケ目バッカクキン科冬虫夏草属の菌類の一種だ。
主に中華料理の薬膳料理や漢方の生薬として利用され、その効果は無類だと聞く。

主に薬膳料理や漢方に使用される。この下りが重要だ。
薬として使用されるぐらいなのだからその効能は語るまでもないだろう。
しかしあろう事かそれをカステラに入れるだと。
何かの懲罰かカステラへの個人的憎悪が産み出した愚行としか言いようがない。

霊夢のおばさんなる人物も相当だが、
アリスの保護者である風見幽香なる人物も中々の人物である事は間違いない。

無論否定的な意味で。
同時にアリスが何故雨の中日傘を差して家を出たのかについても検討がついた。
要するに家出のようなものだろう。家主の奇天烈っぷりに立腹して家出したに違いない。

「とーちゅーかそー」

「うん、冬虫夏草。霊夢は知ってる?」

「知ってる。
 とーちゅーかそーはコウモリガ科の幼虫に寄生しそれを養分にする子嚢菌門核菌綱ボタンタケ目バッカクキン科冬虫夏草属の菌類の一種」

「す、凄い詳しい……霊夢って物知りさんなのね」

「ひゃくしき」

「?」

「霊夢。ひゃくしきじゃなくて博識だ。博麗霊夢の博」

「はくしき」

特に知っていなくてもいい物事を知っている癖に当たり前の事を知らない。
別段無知な訳でも無教養な訳でもないというのに、この子の頭の中はどうなっているのだろうか。
宇宙のように無限に広がるカオスでも形成されているのか。

「まぁ、何だアリス。
 風見さんの教育方針と食育についてあまり口出し出来る立場ではないのは分かっているが、
 カステラに冬虫夏草はどうかと思うよ僕は」

「しかも自家製なんです」

「普通に漢方薬にすればいいのに……」

「美味しく食べれて栄養満点で一石二鳥だって言ってます」

「その……アレだ。ユニークなんだな、風見さんというのは」

「そうだといいんですけど……」

その時鈴が鳴った。来客を知らせる為に僕が玄関に仕掛けた鈴だ。

「ごめんください。少し聞きたい事があるの」

来客は深い緑色の髪の女性だった。
葉緑体をたっぷり含んだ木々の葉のように青々としていて、生命の息吹を感じさせるような緑の髪。
それが緩やかなウェーブを描いて腰まで伸びている。
肌は白く、目鼻立ちがくっきりとしていてローマ式の彫刻のように豊かさと繊細さを感じさせる身体をしていた。

一言で言い表すなら美人の部類に入る女性だろう。
言葉遣いには丁寧な響きがあるものの、物怖じしない威風堂々とした物言いがあった。

体は雨に濡れている。しかし店にやってきた当初のアリスや霊夢程ではない。
いつの間にか雨は小雨になっていたのだろう。
湿気を帯びた女性はやたらと妖艶に見え、僕は思わず息を飲んだ。

「いらっしゃい。何のご用かな。欲しい古道具でも探しに?」

「いえ、そういう意味ではないの。期待させてごめんなさいね。実は人を探していて」

「人を」

「そうなの。とても可愛い小さな女の子で金髪碧眼が特徴的な……」

「ゆ、幽香! 何で!? 幽香何で!?」

「ん、アリス?」

霊夢と遊んでいたアリスが目を見開いて女性に呼びかける。
表情に強張った様子が見られ、一目見るだけで焦っている事が分かった。

「ここに居たのねアリス。私の日傘を持ちだして何処かへ行ってしまうものだから心配したのよ」

「うぅ……」

「アリス?」

「もう少しここに居たいもん……」

「我儘を言うんじゃありません。このお店に居たら店主さんにも迷惑がかかるでしょう」

「だって幽香虐めるし……」

「誰が虐めるのよ誰が。私は虐めたりなんかしないわよ」

「幽香のご飯美味しくない……」

「ア、アレは何と言うかアレンジに失敗しただけと言うか何と言うか……」

「まともな料理が作れない癖にアレンジに挑戦するのはアレンジじゃなくてチャレンジだってお母様が言ってたもん!」

「神綺ぃ! 余計な事を!」

「ここのご飯美味しいから私ここに居る!」

「な、何とかして美味しいご飯作るから戻ってきて!」

「嫌! 幽香にご飯を作る才能も資格もない!」

「うごぉあ! 血反吐を吐きそうな程心に突き刺さる一言ォ!」

幽香と呼ばれた女性とアリスは睨み合いながらそんな会話を続けた。
アリスは幽香の事を嫌っているようだが、一見するとそんなに仲が悪い様には見えない。
またアリスが言うような意地の悪い女性にも見えない。 

その態度は穏やかで、相手を心から心配し労るような感情が見え隠れしている。
つまりは保護者の模範的な感情と思考だと言っていい。

「霊夢! こいつ悪い妖怪! 
 巫女は妖怪を退治するのが仕事なんでしょ! だったらこいつ退治してよ!」

「こらぁ! いつの間にか仲良くなってた見知らぬ女の子にそういう物騒な事頼むんじゃありません!」

「めんどい」

「お礼に私の分のお菓子あげるから!」

「Let's play」

サムズアップに流暢な英語で頷くと霊夢はじっと幽香を見つめた。

「ふっふっふ、お嬢ちゃん。
 博麗の巫女って言葉がチラッと聞こえたけど、
 私をそう簡単に退かせる事が出来ると思わない事ね」

「強い?」

「そりゃもう当然。先に言っておくけど私はかーなーり強いわよ」

「どのぐらい?」

「どのぐらいって……どのぐらいなら満足なの?」

「両手両足両肩両足首と頭が分離して個別に動きまわり神の国への引導を渡せるぐらい強いと満足」

「そんな器用な事が出来ると思う?」

「思う」

「思うの!? マジで!? 幽香さんびっくりよ!
 外見の印象でそんな事が出来ると思われたのは初めてよ」

「あと戦うと元気になりそう」

「う、うーん……まぁ少しは」

「すげぇ」

「あ、うんありがとう。そうよ風見幽香は凄いのよ」

「分離は?」

「だから無理だって」

「じゃあ凄くない」

「だぁぁぁぁぁぁぁ! もう! 分離機構は絶対なの!?」

「うん、絶対」

「そうなの、中々難易度高いわね」

段々とこの風見幽香という女性が可哀想に思えてきた。
それと同時に霊夢の無茶な要求に対して真剣に悩む姿が日頃の僕に重なった。
尚更彼女が悪い人物には見えなくなってしまう。

要するに彼女は本質的には悪人でないのだろう。
ただ少し、いやかなり不器用なところが有るだけで言動や行動の全ては善意の空回りに違いない。

「あのー風見さん……」

「ちょっと待って、今真剣に合体分離機構の私について考えてるから」

目付きが真剣だ。いや、そんな事に真剣になられても困る。

「霊夢の発言に関しては無視してくれて構わない。
 とりあえず確認までに聞いておきたいんだが、君がアリスの保護者という事で相違ないかな」

「えぇ、まぁ今のところは」

「うむ、それじゃあ早速なんだがこれを見て欲しい」

カウンターから折れ曲がった傘を取り出し彼女に見せつける。

「アリスから修理を頼まれてね。現在進行形で修理をしていたところだ」

「そ、それは私の日傘……」

「経年劣化を含めその他諸々の原因はあるが、
 とにかく傘としては機能しない状態でね。
 応急手当程度に修理をしていたところだ。
 近い内に本職の傘職人に修繕を依頼するのが懸命だろう」

「アリス!」

「ひゃ、ひゃうい!? ご、ごめんなさい!」

やや力の篭った声で名前を呼ばれたアリスは飛び上がり、霊夢の背中へと隠れた。
霊夢の方から少しだけ顔を覗かせて幽香の様子を震えながら窺っている。
それに対して霊夢はいつもの仏頂面にジト目といったスタイルを崩さない。
本当に驚くべき程霊夢には表情の変化がない。

「アンタねぇ!」

「こ、転んだ時にこわれちゃって、
 それで、それでぇ……ひぃぃぃん! お仕置きはいやぁ!」

「怪我はないの!?」

「へっ?」

拍子抜けと言った表情でアリスが幽香を見上げた。

「だから怪我! 膝とか肘に怪我してないの? 顔は見たところ大丈夫そうだけど」

「お、怒らないの?」

「そういうのは二の次。この後怒るけどまずは怪我してないかの確認が先に決まってるじゃない。
 傘は壊れても直せば傷は消せるけど、怪我の傷は中々消えないんだからね。
 特に顔に傷がついたらどうするの。
 アナタは女の子なんだから、そういう事には気をつけなさい。分かった?」

「はい……ごめんなさい」

「よろしい。
 とりあえず黙って居なくなった事と無断で私の日傘を持ちだした事については後で罰を与えるとして。
 店主さん」

毅然とした態度のまま幽香は僕の方へ視線を向けた。

「この子が世話になったわね」

「いや、世話という程の事は特に。雨に濡れた女の子が突然やってくればそれ相応の対処をするだけだよ」

「それって格好つけ?」

「違う。ただそういった扱いに慣れているだけだ」

「あらそう。見かけによらず中身はいい男なのね」

「見かけによらずが余計だ」

「失礼、陰気臭い男だと思ったから」

艶やかな美人なのにカラカラと笑うさっぱりとした笑顔が印象的だ。
根が純朴な人柄なのだろう。話してみると悪い印象を受けない。

「名乗りが遅れたわね、知ってると思うけど改めて名乗らせてもらうわ。
 私は風見幽香。そしてこの子はアリス。私の友人の娘で、魔法使い見習いなの。
 今は修行の一環として幻想郷にある私の家で魔法を学んでいるわ。
 私はいわばアリスの先生兼保護者みたいなものと思ってくれていいわよ」

魔法使い見習いか。成程、何となくだがアリスからはそんな雰囲気がする。
霊夢とはまた違った方向で普通の少女とは違う。触れている空気や理が一般的ではない。
要するに霊夢とは似たもの同士だと言えるだろう。

「僕は森近霖之助。この古道具屋香霖堂の店主だ。
 そっちに居るのは当世博麗の巫女博麗霊夢。
 色々あって半ば僕が面倒を見ている。知っての通り変な子だ」

「変じゃない」

「とりあえずこちらこそよろしく」

「変じゃない」

変な子と言った瞬間霊夢は僕の側に駆け寄るとチョップで僕の背中を殴り始めた。割と痛い。

「霊夢それ結構痛い」

「博麗の法の裁きは受けていただく」

「分かった分かった変じゃない。君は変じゃない」

「よろしい。何故その言葉がもっと早く言えんのだ」

「何なんだこの横暴さは……これが若さか」

「いいえ、ニュータイプです」

「ふふふ、面白い人達」

「騒がしいだけだけどね」

「その騒がしさが面白いのよ」

口に手を当てて笑う幽香と共に僕も頬を緩めて少し笑った。
確かに悪くはない。こんな騒がしい生活も悪くはない。
元来の性格として頼られる事が嫌いではないからなのか、
こんな風に霊夢が僕に頼ってくるのもつい受け入れてしまう。

「さてアリス。一緒に帰りましょうか」

「えっ、でも傘。それにこの服も借り物だし……」

「むむぅ、そういえば服が微妙に違う。元の服はどうしたの?」

「泥だらけになったから着替えさせてもらったの」

「あら、そんなところまでお世話になって」

「いやいいんだ、僕が勧めた事だから」

「となると参ったわねぇ、当然まだ乾いてないんでしょう?」

「天気がよろしくないからね。中々乾かないと思うよ」

今日は太陽が雲に隠れていて幾分弱まったとは言えまだ雨が降り続いている。
このままでは当分の間洋服は乾かないだろう。
元々アリスがもっと長く香霖堂に居るものだと思って着替えを勧めたのだ、
こんなに早く迎えが来ると分かっていたら体と髪を拭くだけに留めていた。

「ねぇ、店主さん厚かましい提案だと思うかもしれないけど一ついいかしら?」

「どうぞ」

「この洋服もう少しだけ借りられないかしら? 
 一両日中には返すから、勿論お礼だってちゃんとするわ」

「いいけど、乾くまで店で待てないのかな。もしかしてこれから何か用事でも?」

「そうね、ちょっとアリスとやらなくちゃいけない事があるのよ」

幽香は手招きでアリスを自分の方へと呼び寄せる。
アリスは若干戸惑った様子だったが、
幽香に対しての認識を改めたのかゆっくりと幽香に近づいた。

「アリス、アナタ確かハンバーグ好きだったわよね?」

「うん、好き。
 でも幽香の作る形が馬糞みたいで炭化したかつて挽肉だったものの成れの果てみたいな放射性物質は嫌い」

「……そ、そこまで酷かったかしら?」

「酷かった」

何て悲しい目をしているんだ。僕は口には出さないもののそんな事を心の中で呟いた。
アリスの悲しみに染まった碧眼を見ているとそんな言葉がつい浮かんでしまう。

「ねぇ、アリス。神綺からハンバーグの作り方は教わった?

「うん。お母様に教えてもらった事がある。お母様の作るハンバーグが好き」

「アイツのハンバーグを再現するのは無理でも、
 アイツから直接作り方を教わったアナタが手伝ってくれたら私にもきっと美味しいハンバーグが作れると思うの」

「思えない」

「そこは思いなさい。それでね、アリス。
 アナタは今日の罰として私にハンバーグの作り方を教えなさい。
 あと一緒に買物にも行く事。いいわね? 当然拒否はさせない」

「それで許してくれるの?」

「それで許してあげる。覚悟しなさい、
 ちゃんと美味しいハンバーグが作れるまで許してあげないんだから」

「うん。幽香のハンバーグより一兆億倍美味しいハンバーグが作れる自信がある」

「おいやめろ、それ以上言うな」

うちの霊夢もそれなりだが、アリスはアリスで中々辛辣な事を言う。
おそらくはアレがありのままのアリスなのだろう。
心なしか僕と会話している時よりも肩の力が抜けているように思える。

「そういう事だから、この服借りていくわね。しっかりと洗濯して返すから」

「傘はどうする?」

「この際だからアナタに本格的な修理を依頼するわ。何事も中途半端は嫌いなのよ私」

「僕に頼むより傘職人に頼んだ方がいい仕事をすると思うけどね」

「個人的にこの店とアナタが気に入ったとだけ言っておくわ」

幽香がクスリと悪戯っぽく、妖艶に笑った。
しかし今まで散々幽香の間の抜けた一面を見せられただけにあまり怪しくは見えない。
嘘をつくのが下手そうな妖怪だ。性根が真っ直ぐ過ぎる。

「それじゃあアリス、お友達にバイバイしなさい」

「と、友達違うもん! 一緒に遊んだだけだもん」

「それを友達と言わずに何と言うのよ。いいからほら」

「うー……バイバイ霊夢」

れーむちゃん④


恥ずかしそうにそっぽを向きながらアリスは霊夢に手を振って別れの挨拶をした。

「あでゅーアリス」

霊夢は仏頂面にジト目を崩さず気怠そうな様子で手を振った。
最後に幽香は僕に礼は必ずするからと念を押して店を後にした。

二人が居なくなり、店の中は少しだけ静かになったような気がした。

「…………」

霊夢は何も喋らない。ただ黙って先程幽香達が出ていった扉を見つめているだけだ。
大体何を考え、何を感じ取っているのかは察しがつく。
だがそれは今までの霊夢にない新しい感情だったに違いない。

僕は黙って背後から霊夢を抱き上げると、そのまま胸に抱き寄せた。

「友達が出来たな霊夢」

「友達」

「そうだ。君は友達が出来たんだよ霊夢。僕や君のおばさんとはまた違う分類の繋がりだ」

「大切なの?」

「それは勿論。時に友というものは伴侶よりも長い付き合いになる事があるんだよ。
 だから友達は大切にするんだよ。分かったね」

「分かった。霖之助さんは大体いつも正しい。だから信じる」

「そこまで厚い信頼を寄せられてもなぁ。でもこの言葉を信じていても損はないかもね」

「ねぇ、霖之助さん」

「何だい」

霊夢の小さな手が僕の襟を掴む。
この仕草は暫くこうして抱き抱えていろという合図だった。
霊夢はいつも何を考えているか分からない仏頂面をしているが、抱っこされるとこうして喜ぶ。

「今日のお夕飯何?」

「まだ昼も食べていないのに夕飯の話か」

「いいから」

「はぁ、食欲に素直な君には感心すら抱くよ。今日の夕飯は鍋だ。鳥の水炊きだぞ」

「テンション上がってきた」

「結構、結構。ただ働かない輩に飯を喰わせる程僕もお人好しじゃない」

「食べさせないと退治する」

「まぁ、待て話を最後まで聞け。君が働けば鍋を食べさせてあげようじゃないか。
 つまり鍋の準備を手伝えって事だ」

「よゆー」

「よし、そう言ったからにはしっかり手伝ってもらうぞ」

「おー」

気のない返事を返す霊夢に僕は思わず苦笑したが、まぁこんなものだろうと納得した。
よそはよそ、うちはうちというやつだ。幽香とアリスのように体当たり上等な間柄でもない。
僕達の関係はこれでいい。何処か気が抜けていて、張りのないだらけた雰囲気。
それこそ僕と霊夢の関係に丁度いいように思えた。

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ヒャッハー 幽香様可愛い! ふむ、妻:幽香、娘が霊夢&アリスか…… ふむ
  • by:くぅ
  •  | 2012/06/26/13:01:52
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