十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

プロフィール

十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
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リンクはフリーなので
どなたでもどうぞ
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『使用弾薬7.62x54mmR 後編』

『使用弾薬7.62x54mmR 前編』の後編。
今回はバトル回。泥仕合な気がしなくもない。
しかしこの鈴仙、逃亡しなさそうである。


『使用弾薬7.62x54mmR 後編』


鈴仙、椛、にとり、二号、霖之助










息を止め、体を静寂へと近づける。
自分と雪原の境界線が穏和になり、存在そのものが景色に溶け込んでいくようだった。
装填数は残り四発。相手を即死させるか、行動不能に追い込んでの二発目。
どちらにせよ外しさえしなければ鈴仙に優位な状況だった。

巨大な白狼は一歩ずつ仔鹿の亡骸へと歩みを進め、やがて仔鹿の傍らで止まった。
引き金をゆっくりと引き絞る。白狼に最後の瞬間を与えるその直前まで。

その時、不意に白狼が表を上げた。
直前まで見つめていた仔鹿から目を離し、何処か遠く、
今自分を見つめている狩人が存在する方角へと視線を向けた。

嫌な胸騒ぎがして少し指が強張った。
だがその感情を御し、冷静に対処する。

偶然や気まぐれといった可能性は捨て、もっと必然的な、
自身の居場所を察知されたという場合を瞬時に想定した。

逃走か闘争。

鈴仙を危険と判断し、敵わないと見切りをつけて逃げるのか。
それとも鈴仙を喰えると判断し、こちらに向かって突撃してくるのか。

逃げるのならば追わない。
鈴仙個人の目的は達成され、後は獲物の解体と運搬をこなせばそれで終了だ。
今から下山すれば十分夕食に間に合う。

それが無理をして白狼を追った場合はどうだろうか。
山中を逃走する狼を狩るのはまず間違いなく困難で手間と時間が掛かるだろう。
無益に時間は浪費され、気がつけば日暮れ前。
徒労と獲物を抱えて下山する頃にはとっくに夕食時は過ぎている。

鈴仙は結果的に食材が手に入るのならばこのまま白狼を逃してもいいと考えた。
無論、獲物に手を出したり、鈴仙自身を襲う場合は容赦なく撃ち殺す考えは変わらない。

スコープ越しに重なる鈴仙と白狼の視線は互いに長い沈黙のまま硬直した。
知性の篝火を宿した白狼の瞳は暗い金色で、
狩人の冷徹さを秘めた鈴仙の瞳は澄んだ赤色だった。

やがて白狼は頭を垂れたかと思うと、天を仰ぎ見て猛々しく吠えた。
咆哮は鈴仙の耳にも届き、空気の振動で白狼の近くの木から枝に積もった雪が落ちた。

鈴仙は白狼が吠えた理由を探る。
宣戦布告か降伏の白旗か、それとも――考えたくない可能性だが、増援を呼んだのか。
それらを並列して思考し、注意深く白狼を観察し、愚行と分かりつつ周囲を見渡した。

こんな時、観測手とバックアップを兼ねた人物でも傍らに居れば、
目標に照準を合わせたまま周囲の警戒を行えるのだが。
まず真っ先に二号の顔が浮かんだ。
そしてすぐに彼女はこの環境に耐えられないだろうと諦めた。

山岳地帯ならではの起伏に加え、足を取られる雪。
冷気は体温を奪い、生い茂った木々は方向感覚を狂わせる。
そんな中でただひたすら潜み、痕跡を見つけ、獲物を追い詰めなければならない。

ここは極寒の地だが、雪を掻き分けて歩き続ければ防寒着に覆われた体は当然汗をかく。
汗をかくとその汗が冷え、より多くの体温を奪っていく。
悪循環だ。実際に鈴仙は体力の次に体温管理に気を使っている。

その為、水分補給は必要最低限に済ませ、
インナーを重ね着する事で空気と肌が直接触れ合わないようにしていた。
また体温が下がった場合は、小さなスキットルを胸ポケットから取り出し、ウォッカを少しだけ口に含んだ。

飲酒は血管を広げ、血液の巡りを良くする効果がある。
しかし多量の摂取は放射熱の増加や体温調節の麻痺を引き起こす。
このような極寒の地で酔っ払ってしまった場合、待ち受けるのは死だ。
加減を誤らないように注意を払いながら飲む必要がある。

細心の注意を払ってもまだ危険で過酷だと感じる状況に、
半人前の二号を連れてくるのは彼女にとって無謀な事だった。

天を仰ぎ見る白狼と白狼に狙いを定め微動だにしない鈴仙。
いつ終わるとも知れぬ膠着状態を打開したのは銃声でも、白狼の撤退でもなかった。

周囲に放っていた波長に乱れが生じる。
白狼のすぐ近く、山を覆う木々の中でも一際背が高い大木の上。
第三者の接近を感知し、鈴仙がそちらへ銃口を向ける。

優先順位は第三者の方が高い。
白狼と違い、上方からの接近。
これは飛行能力、またはそれに類似する跳躍能力を持つ事の証明だ。

そのような機動力を持った者がこのタイミングで白狼の近くに現れたという事はつまり増援と考えていいだろう。
二対一。機動性では向こうが優っている。

木の上に照準を合わせ、スコープを覗き込み確認。
山伏のような服装。腰にはナタをそのまま拡大したような大剣が一振りと矢の入った箙。
手には和弓。大きさからして小型の梓弓か。
口元から首にかけて赤いマフラーで覆っており、目はゴーグルで保護していた。
頭部に白い獣耳。臀部からは巨大な白い尻尾が伸びている。
それ以外は人と変わらず、華奢な少女の体つきだった。

口元を覆うマフラーと目元を覆うゴーグルで表情を窺い知る事は出来ない。
しかし状況を鑑みるに友好的な相手ではない事は確かだ。
彼女もまた、白狼と同じく地に伏せた鈴仙をじっと見つめている。

鈴仙は上体を起こし、照準を合わせたまま片膝をついて少女と向き合った。
あの白狼と違い、少女にははっきりとした敵意のようなものが感じられる。
そしてそれと同じだけの殺意も感じられた。

少女の正体は分からない。
天狗かそれとも山に住む妖怪か。
一つ言える事があるとすればあの白狼と何かしらの接点があるというだけの事だった。
それだけで十分だった。

どちらかが退かねば事は収まりそうにない。
鈴仙は何日も掛けて仕留めた獲物を黙って狼の夕食にする気はなかったし、
ここで撤退したとしても自分の身の安全が保証されるという確信もなかった。

白狼と少女にしても同じだろう。
よそ者である鈴仙が自分達の縄張りを侵し、あまつさえ自分達の食料を奪っていこうというのだ。
一応、筋の通った報復と制裁を行う権利はある。

つまり結果として両者の衝突は避けられぬものだった。
殺す殺さないは別にして、交渉という名の武力行使は必ず行われる。

こちらが敗北した場合の謝罪と、
相手を下した場合の事後処理を考えながら鈴仙は引き金を引いた。

乾いた発砲音。
着弾よりも早く少女は跳躍し、別の木へと飛び移る。
本音を言えば初弾で行動不能に追い込みたかったが、
距離と彼女の身体能力を考えればそれは難しい話だった。
構わず排莢と装填を行う。

身体能力の面であの少女は鈴仙を凌駕している。
もっとも、玉兎の身体能力を鑑みれば、
大抵の妖怪は鈴仙よりも数段上の身体能力を持っているだろう。

玉兎は弱い。
少なくとも腕っ節だけで物事を解決できるような種族ではない。
はっきり言って戦闘には全く向かない種族だ。
非力な腕力、愚鈍な思考。楽天的で臆病な気質。
殆どの玉兎は戦いなど知らないし、望まない。

しかしは鈴仙違う。
命の奪い方も知っているし、
自身の命を奪われないようにする方法も知っている。
自身を圧倒する力に対して対抗する術を知っている。
鈴仙が軍で学んだ事は戦い生き残り勝ち取る手段だった。

そしてその手段を学んだ鈴仙は――

再び発砲。
次の木へと着地するタイミングを見計らい、予測した地点への偏差射撃。
だが少女は直前で着地のタイミングを外し、木の根元へと着地した。
驚嘆に値する動作だった。
銃を構えた相手に対して臆するどころか最短距離で接敵を試みる度量もそうだが、
ただ猪突猛進に迫るだけでなく、鈴仙の狙いを読んで銃撃を躱している。

中々厄介な相手だと思いつつも、鈴仙は次弾を装填。
狙いを少女に合わせた。

少女は木の根元を蹴って初速を得ると、
そのまま雪の上に露出した岩を足場に疾走し、鈴仙へと近づく。
距離は既に二百メートル程。

弓の射程距離を百メートルと考えた場合、その有効射程はおよそ半分の五十メートルから。
まだ相手の攻撃を考えなくてもよい距離だが、それでも早く仕留めるに越した事はない。
疾走する少女を視線で追いながら、次に動きが止まる位置を探す。

だが鈴仙の予想に反して少女は真っ直ぐにこちらへと疾走を続けた。
点と点で結んだ場合の直線最短距離を少女は猛然と突き進んでいる。

正気を疑う凶行に鈴仙は驚いた。

業を煮やしての正面突破はあまり賢明な判断とは言えない。
それともこちらの射撃間隔。
つまりはボルトアクション方式の欠点である連射性の低さを察知しての行動か。

もし後者だったとしたら鈴仙にとって非常に危うい作戦だと言えるだろう。
武器の特性を読まれたのは勿論だが、何より今銃に込められた弾は残り一発しかない。
これを外せばクリップ式の弾倉を新たに装填しなくてはならない。
そうなると通常よりも長い時間が必要となる。
その間に少女は鈴仙に接近し、反撃するチャンスを得るだろう。

仕留めるなら次か。

思考を冷静に保ち、引き金に指を掛ける。
狙いは少女の胴体。急所への直撃ではなく当てる事を第一に考えての選択だった。
命中、転倒、装填、発砲。

目測で彼我の距離を算出。
――百八十、百七十、百六十。

人間や玉兎とはかけ離れた尋常ならざる脚力は、
降り積もった雪や起伏のある地形など歯牙にもかけずに走破する。
一人乗りの小型雪上車の如き速度だ。

接触は時間の問題だが、まだ引き金は引けない。
遠距離からの射撃を三度躱された。
完璧な、見事と言っていい程のタイミングだった。

結果、鈴仙は後のない状況へと追い込まれている。
次を外す事は許されない。しかし離れていてはリスクを背負う。
接近を許す訳にはいかなかったが、同時に離れた状態での射撃も賢い手段とは言えない。
ジレンマだった。

――百二十、百十、百。

そこで鈴仙は考え、その結果両方の意見を折半する事にした。
ある程度の接近を許すが、必ず一撃で仕留める。
具体的には百メートル以内。
三十メートル以上、五十メートル未満。
これが鈴仙にとっての殺傷有効範囲であり、最終防衛線だった。

相手がこちらの射撃パターンを分析した事には驚いたが、
鈴仙も彼女の移動パターンは分析している。
そして自身が万が一の事態に陥った場合の手段も。

――七十、六十、五十。

疾走状態の少女が一瞬身を屈め、速度を緩める。
しなやかな弾性のある筋肉が縮み、一拍だけ力を貯めた。
箙から矢を抜き、弓へ番える。
右足を踏み込み、足を雪原から露出した岩へ。
跳躍体勢。一瞬で上昇と接近を行うつもりだ。

鈴仙はまだ撃たない。
このタイミングでは駄目だ。直後の跳躍で躱される。
現時点での発砲は少女にチャンスを与えるだけだった。

少女が岩を蹴り宙へと駆け上がる。
弓を引き絞り、跳躍と共に鈴仙へと狙いを定め発射。
矢羽が空を切る音と共に、矢が鈴仙へと迫る。
上方から放たれた矢は上から下へ撃ち下ろされる形となり、
重力加速度の作用を受けて真っ直ぐに飛んだ。

少女が地面から足を離し、上昇と共に矢を放った事を見届けてから引き金を引いた。
狙いは跳躍の頂点。上昇する力と下降する力が均衡状態となる零の境界線だった。

矢が鈴仙の右肩を掠め、ギリースーツごと肉と皮を引き裂き喰い破った。
焼けるような痛みが駆け巡り、血液が外部へと溢れ出る。
何とか直撃は免れたものの、傷は深く右腕は満足に動かなくなってしまった。
滴り落ちた赤い血が足元の雪を赤く染め上げている。
止血と消毒が必要だ。鈴仙は痛みを堪えながらそんな事を考えた。

そして少女へと目をやる。
少女は着地に失敗し、数メートルの距離を転がったようだ。
転がった後には赤い血痕が残っていた。

どうやら横腹に命中したらしく、
少女は呻きながら体を起こすと左側の腹を抑え、鈴仙を睨んだ。
目を保護していたゴーグルは転がった拍子に外れてしまったらしい。
幼さが残る精悍な顔立ちをしていた。やや少年的に見える。
鮮血が抑えた指の隙間から溢れており、
傷は深くないものの、有効な一撃であった事を察した。

左手で腰のホルスターから拳銃を抜き、片手で安全装置を解除。
少女へ銃口を向けたままゆっくりと歩み寄る。

「その場で止まりなさい。これ以上抵抗しなければ命までは奪いません。
 腰の大剣と所持している武装全てを破棄しなさい」

あの白狼が近づいていないかを確認した。
奇妙な事に白狼は見当たらなかった。
少女との戦闘中も姿を見せなかったので不審に思ったが、
伏兵として忍ばせている訳ではないらしく、
鈴仙が突然背後から襲われるといった事もなかった。

「武装を破棄したら両手は後頭部に。
 妙な真似をすれば即座に発砲します。
 助けを求めた場合も交戦の意志があるとみて発砲します」

一歩、また一歩と鈴仙は少女に近づく。
左手で拳銃を握り、右手はグリップを軽く支えているだけだった。
流れ出る血液が徐々に冷え、右腕に冷たい感覚が広がっていく。
傷口から段々と感触が失われていくのが分かった。

オープンサイト越しに少女と視線が交差する。
目を見れば分かる、少女は欠片も自分の敗北を認めていなかった。
激情が彼女を奮い立たせているのではなく、筋の通った一本の信念が彼女を支えていた。

傷口から手を離し、腰に釣った大剣へと手を掛ける。
ゆっくりと引き抜き、雪原へと刀身を沈め……そのまま勢い良く振り上げた。
降り積もった雪が舞い上がり、白銀がざわめき立つ。

鈴仙はすかさず三発の銃弾を打ち込むと、殆ど感覚のない右手でナイフを鞘から引きぬいた。
同時に姿勢を低くした少女が下方に大剣を構えたまま突撃を行う。
そのまま掬い上げるように大剣を下段から上段へと振り抜いた。
舞い上がる粉雪。飛び散る互いの鮮血。

寸前で鈴仙は斬撃を回避すると、そのまま組み付く形で少女に体当たりを仕掛けた。
両者はバランスを崩し、丘の斜面を転がる。
交互に上下を変えながら、互いは互いを拘束し、無力化しようともがく。
その過程で少女の手から大剣は滑り落ち、鈴仙の手から拳銃が弾き落とされた。

それでも尚転がり続け、丘を転げ落ちると鈴仙が上方を取る形で少女を抑えつけた。
左腕で少女の関節を捻って組み伏せ、右手で持ったナイフを突きつけようと右腕を振り上げた。
だが少女も必至の力で鈴仙の拘束から逃れようと万力の如き力で鈴仙の手首を締め付け、
ついにはその鋭い牙で噛み付いた。

痛みに力が揺らぎ、拘束が一瞬緩む。
少女はその隙を逃さず体を捻って上下を入れ替えると、
今度は鈴仙を無理やり組み伏せ右腕に握ったナイフを奪おうとした。

両腕の関節が軋み、痛みで力が抜けていく。
両者に言葉はなかった。元より闘争に言葉など不要であった。
ただどちらのものと知れない掠れた呻き声が互いの苦悶を表していた。
これは訓練でもごっこ遊びでもなく、純粋な戦いだ。

きっかけは、確か些細な事だった。
互いに名も知らぬし、こうして間近で顔を合わせるのも初めてだった。
当然鈴仙は彼女の趣味趣向やどのような人となりがあるのか等まったく理解していなかった。
戦闘にそんなものは不要であるし、蛮族的な考え方だがそんなものは戦えば理解できる。

故に言葉は不要だった。
戦闘とは過激な交渉手段であり、議論だ。
最終的に相手を黙らせた方が自分の意見を通せる。

鈴仙は目を見開き少女を見つめた。
少女は鈴仙から奪ったナイフを振り上げ、
今まさに鈴仙の喉元に突き立てようとしていた。

この瞬間を待っていた。

にやりと鈴仙が笑って、彼女の紅い瞳が輝く。
光と共に波長が、波が――少女の体内を駆け巡る生体電流の動きが掻き乱される。

捻って曲げる。歪めて交差させる。切断して接続する。
手は足に、足は手に、腰は首に、首は膝に。
生体電流の方向を出鱈目に掻き乱す。

元より格闘戦で勝つつもりなど鈴仙にはなかった。
身体能力の基礎からして違う相手に格闘戦を挑むなど愚の骨頂だ。
しかし相手は鈴仙に構わず距離を詰め、食らいつこうと肉薄する。

そこで三段の構えを持って迎え撃つ事にした。
まず第一に接近される前に叩く。
これは説明するまでもなく失敗に終わった。
鈴仙の射撃は尽く少女に躱され、
結果鈴仙は早々にこの第一段階に見切りをつけ作戦を第二段階へと移行。

第二段階は相手が踏み込むまで引きつけてからの精密射撃。
結果は半分程成功したが、相手を沈黙させるには至らなかった。
更に鈴仙自身も手傷を負い、戦力を削がれてた。

そして第三段階。
相手との接触。鈴仙が持ち込みたくなかった肉弾戦での戦闘を含む作戦だ。
ここで鈴仙は可能な限り本気を出して少女と格闘戦を演じた。
隙があれば殺してしまおうと考える程に。
そうして少女を追い込み、焚きつけて感情を揺さぶる。

すると必然、鈴仙を仕留めんとする少女の精神には隙が生まれるのだ。
一つの事にしか思考が働かず、それ以外はおざなりとなる。
結果、鈴仙の能力に付け入る隙を与えた。

少女の体は糸の切られた人形のように力なく崩れ落ち、鈴仙と重なった。
痙攣する少女の腕からナイフを奪い、自分の上に覆い被さる少女をどかしてナイフを鞘に収めた。
それから少し歩いて雪原に転がった自分の拳銃を拾う。

「まだ続けますか? これ以上の戦闘は無意味だと私は考えます。
 私は貴女の命を奪える状況にありながらまだ貴女を殺害していません。
 これがどのような意味か、説明しなければ分からない訳ではないでしょう?」

平坦な口調で少女にそう告げた。
少女は思うように動かなくなった体で必死に寝返りを打ち、鈴仙を見つめる。

「元々私は狼狩りが目的でここに居るのではありません。貴女方が……」

「先に銃を向けたのはそちらでしょう」

少女の言葉らしい言葉を耳にしたのはこれが初めてだった。
状況を鑑みれば対等な立ち位置での会話でない事は誰の目から見ても明らかだったが、
それでも少女の言葉には少しも臆した様子はなく、堂々としたものだ。
勇ましい。きっと生まれながらの戦士なのだろう。
臆する事を恥だと考え、武道に殉じる事を名誉とする。
兵士ではなく戦士の考え方だ。

鈴仙とは違う。
表には出さないが鈴仙は死ぬのも痛い思いをするのも嫌いだ。
苦しいのも辛いのも耐えるのも出来れば御免被りたい。
だから戦う手段を知っていて、だから死なない方法を体得している。

理想に殉じる事など、
大衆が美徳とする理想に身を投げて死ぬ事などこれっぽっちも名誉だなんて考えていない。
だから鈴仙とって死は恐ろしく、自分は死を恐れぬ勇猛果敢な戦士ではないと自覚していた。
彼女自身が思うに、鈴仙・優曇華院・イナバとはただの自分勝手な臆病者なのだ。
でなければ戦争から逃げ出したりなどしない。

「増援を呼び交戦の意志を表明したのはそちらです。
 詮無い水掛け論はよしましょう。
 私達は一時とはいえ互いの命を狙った者同士、
 そんな二人が責任の擦り付け合いをするなんて滑稽です」

「確かに。結果として私は敗北した。
 敗者の長話程惨めなものはありませんね」

「生きているのなら貴女もまた勝者ですよ」

これ以上彼女に交戦の意志が無い事を汲み取ると、
鈴仙は拳銃をホルスターに収め転がり落ちた斜面から少し歩いて、
停車しておいたソリを引っ張って少女の元まで戻った。

「すぐに動けるようになります。
 あまり無理に体を動かすと元に戻った時に違和感が残りますからじっとしていてください」

鈴仙はギリースーツに改良したコートから右肩を露出させ、
アルコールを染み込ませたガーゼを当てて包帯で縛った。
強く縛りすぎず、血行の妨げにならないように注意する。
あまり強く縛りすぎると血の巡りが悪くなり凍傷を誘発する危険があるからだ。
アルコールの刺激が傷口をちくちくと刺すようだった。
直接口を付けたものなのでウォッカの使用は避け、
少量持ち込んだ消毒用アルコールを使用した。

「次は貴女の番です。
 妖怪が驚異的な生命力を持っているとはいえ、
 怪我を放置しておくというのは賢い選択ではないでしょう?」

「アナタに負わされた怪我ですけどね」

「一発だけなら誤射かもしれない」

「私はあんな正確な誤射を見た事がありません」

上着を捲り、左腹部の銃創を診断する。
斜め下から着弾した弾頭はそのまま少女の左腹部貫通し体外へ抜けたようだ。
傷口が食い破られたようになっている。
内蔵への損傷はないが、通常の人間だったら出血多量等で最悪死に至る恐れがある。
だがそこは流石妖怪と言うべきだろうか。傷口は癒着していないが、血は既に止まっていた。
一両日中には傷口が癒着し、一週間もすれば不自由なく動けるようになるだろう。

通常ならば一月以上は傷が痛むうえに、完治した後も古傷として残るような傷だ。

「少し染みますよ」

ガーゼにアルコールを染みこませ、傷口に当てる。
少女は小さく呻いたが情けなく叫んだり痛みに震えたりする事はなかった。
包帯を巻いて応急手当を終了。不要になった荷物をソリに積み込んだ。

「一つ、質問をしてもいいですか?」

「何でしょう」

既に少女から敵意や殺気を感じられなかった。
緊張状態を解いて今は無表情だが落ち着いた態度で寝転がっている。

「私を殺さない理由は何となく分かります。
 そもそもアナタは殺すのも殺されるのも好まない人物なのだろうという事が伝わりました。
 無論、私と対峙した時には殺すつもりでいたようですが、
 私にこれ以上の戦闘継続能力がないと分かればすぐに殺さない方向に考えを改めた。
 この点はいいんです。私も似たようなものですから。ですが、この治療は不可解だ。
 殺さないがそのまま放っておくというのが一番自然な選択のような気がするのに、
 アナタは私に治療を施した。情けですか?」

「いえ、職業柄ですよ。私はこう見えても医者の卵ですから。
 怪我人を、それも私が傷つけた人物を放っておくのは道義に反します」

「それは偽善です」

少女は強い眼差しと共に真っ向から鈴仙を否定した。
嫌味でも皮肉でもなく、少女の生来の気質がそう言わせたのだろう。
そうだ、確かにこれは偽善だ。
自分で傷つけておいて自分が治療を行う。
自尊心の為か、自分が他者を傷付けたという事実から目を逸らす為か。

いずれにせよ、鈴仙の行いは偽善に変りなかった。

「確かに、独善に基づいた偽善的行為であるとは自覚していますよ。
 私はやらない善よりやる偽善なんて言葉は大嫌いです。
 他者への善意の押し売りを正当化しているだけだ。
 私のこの行動も貴女への善意の押し売りです。
 しかし私はこの偽善を正当化しようなどと思いません。
 この偽善は私が私自身の心を偽らない為のものです。
 私がしたい、私がすべき事を偽善だからと言って行わないのは自分に背く行為です。
 私は誰かに背く事なんて何とも思いません。
 ですが自分だけは。自分の心にだけは嘘をつきたくない。そういう事です」

無言になり、鈴仙を見つめる少女をそのままに。
鈴仙は丘の上まで行くと先程落としたライフルを拾ってストラップを肩に掛けた。
それから獲物を解体する為に仔鹿の亡骸の元へと向かう準備をした。
ソリまで戻る間に鈴仙は獲物の肉が凍ってしまっていた場合の事を考えた。
刃が通りにくくて面倒だ。
最悪の場合は解体せずにそのままソリに縛り付けて運搬する事も考えなければならない。

ソリまで戻ると少女は大剣を杖がわりに、よろめきながらも立ち上がっていた。
本当に感嘆に値する頑丈さだ。もう一瞬遅かったら鈴仙の方が危なかったかもしれない。

「素晴らしい肉体ですね。
 アナタの運動に関わる生体電流を掻き乱したというのに、
 こんな短時間で立てるようになるとは」

「ちょっとしたコツです。
 足を動かそうと思えば手が動く、手を動かそうと思えば足が動く、
 腰を動かそうと思えば首が、首を動かそうとすると腰が。
 それぞれ感覚とそれに対する運動がバラバラになっているのを上手く掴んでしまえば立ち上がる事は出来ます」

「理屈的に聞こえますがとんでもない根性論ですね。
 貴女程の気力があの子にもあればいいのですが」

「あの子?」

「こちらの話です」

すぐに弱音を吐き無理だと悲鳴を上げる二号の事を思い浮かべた。
実力はともかくとして、彼女にもこの心意気を少しでいいから分けてほしいものだ。

「では、私は行きます。獲物を解体して下山をしなければ。
 日が暮れると厄介ですし」

「あぁ、あの仔鹿の事なら心配なく。少々お待ち下さい」

少女が親指と人差し指で輪を作ると、それを口に当てて勢い良く指笛を吹いた。
すると今まで静寂に包まれていた木々の間からざわめきと、
甲高い咆哮がいくつも聞こえこちらに近づく数十もの足音を感知する事が出来た。

咄嗟に腰のホルスターに手をやる。

「安心して下さい。あの子達は貴女を襲いませんよ。
 見ていましたから、私とアナタの戦いを」

少女は笑って楽にするように勧めた。
思えば鈴仙がこの少女の笑顔を見たのは初めてだった。

丘の上や木々の隙間から白い影が数匹、十数匹、数十匹と現れ少女と鈴仙を取り囲んだ。
その中には先程鈴仙と対峙した巨大な白狼も混じっていた。
他の狼の毛並みはみな白く、雪に溶けこむような印象を受ける。
集団の規模からして巨大な群れである事は確かだった。

そしてその群れの中で一番大きな白狼、
少女と鈴仙が戦う切っ掛けを作った巨大な白狼がゆっくりと鈴仙の前に歩みでた。
口には鈴仙が仕留めた仔鹿が咥えられており、
白狼は鈴仙の前でゆっくりと頭を垂れ仔鹿を差し出した。

「アナタの獲物です。この子達は横取りなどという卑賎な行為を良としません。
 ましてや私を下した相手から食料を奪うなど言語道断。
 たとえこの山で狩ったものとはいえ、これはアナタに献上されるべきものです」

「そんな仰々しい言い方をしなくても結構ですよ。
 元々勝手に入ったのは私の方ですから。
 それにもしこの群れの中にお腹を空かせて今にも飢え死にしそうな狼が居るのなら、
 足の一本ぐらい譲るのも吝かではありませんよ」

「心配はいらないそうです。
 先程生きのいい大人の牡鹿と雌鹿を仕留めたそうで、
 食べるものには困っていないと言っています」

頭を垂れる白狼の頭を撫でながら、少女は言った。
牡鹿と雌鹿。心当たりがある。だが鈴仙には関係のない事だった。
つまりはそういう運命でそういう結末だったというだけでしかない。
特に何の感想もなかった。

「貴方は狼の言葉が分かるようですね。
 その尻尾と耳を見るかぎり、貴女も狼なのですか?」

「はい、私は白狼天狗。天狗の里で哨戒や見張りの仕事をしています。
 この子達は私の同胞。正確には同胞となる予定の者達です。
 狼が長い時間を経て智慧と妖力を持ち妖怪へと転じる。
 この一番大きな白狼はもう少しで白狼天狗に転じます」

合点がいった。
あの知性の篝火を感じさせる瞳に、威圧感を感じる巨躯。
何処か異質だと感じていたがつまりはそういう事だった。
そして少女が鈴仙と敵対した理由も、ここまで来れば説明がなくとも察しがつく。

「同胞を守る為ですか」

「はい。みんな私の大切な家族ですから。
 血ではなく、種族という括りで見た場合の家族ですけど」

「同胞の為に自分を投げ打って戦えるか……。
 貴女はやはり戦士ですね。えっと――」

「椛です。犬走椛」

互いにまだ名乗っていない事にようやく気がついた。
犬走椛。紅葉の季節を思わせる色鮮やかな名前だった。

「私は鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙で構いません椛。臆病者の鈴仙です」

「アナタが臆病などと誰も思いませんよ。
 ではまた手合わせする機会を楽しみにしています鈴仙。
 次は稽古という形で手合わせ願えれば幸いです」

「いえ、こちらこそ。不出来な教え子の訓練に付き合っていただけると助かります。
 それでは戦士椛」

椛はお辞儀を、鈴仙は敬礼を行った。
やはり自分とは違うタイプだと鈴仙は改めて思った。
鈴仙は一生掛かっても椛のように勇猛果敢な武人に離れない。
精々、逃げるのが上手な臆病者の野兎が関の山だろう。
憧れている訳でないが、彼女のような生き方もあるのだと直感的に感じた。









「という訳でその後椛と一緒に仔鹿を解体し、
 白狼の背に乗せてもらって下山。現在に至るという訳です」

鍋も佳境に差し掛かり、半ば鈴仙の話を酒の肴にしつつ宴は進行していた。
皆鈴仙の話に聞き入っていた。
普段は無口で愛想が悪い癖にこんな時はよく舌が回る。
淡々とした口調が大仰になりすぎず、語り部として一定の好感を与えてくれるからだろう。

「成る程、そんなドラマがこの紅葉鍋にはあったんだ。
 いやー深い話だなーってんな事言うとでも思ったか!
 何私が修復した銃で揉め事起こしてくれてるの!?」

にとりが吠えた。
二号が咄嗟に耳を塞ぎ、霖之助は酒を飲みながらただ黙って事の成り行きを見守っている。

「色々ありましたが丸く収まりました。
 それににとり。私は銃を修復した貴女を責めるつもりはありません。
 銃を作った者が悪いというのは都合の良い言い訳です」

「およ、久々にまともな事を聞いた気がする」

「銃を作った者も悪いのです」

「一緒だぁ! 期待した私が阿呆だったわ」

「良い事を言おうとしたのですが、腕に矢を受けてしまいまして」

「一ミリも関係ないよそれ。
 全く鈴仙が怪我だなんて珍しいと思えば、なんだ椛とやりあったのか」

「知り合いですか?」

「顔馴染みだよ。偶に将棋をやったりするんだ。
 天狗の若い衆の中ではとびきり生真面目な奴で、
 新米の面倒見もよくって老人連中にも受けがいいんだよ。
 ただ偶にふらりと居なくなる事があるって聞いてたけど、
 ふぅん狼の面倒なんて見てたんだ椛」

「良い方でした。
 私は彼女のような人物になる事は出来ませんが、
 彼女のように高潔で武人としての誇りを持った方には好感を持ちます」

「鈴仙が他人を褒めてるだと?」

「あ、あの。私は先輩に殆ど褒められた事無いんですけど……」

「貴女はおよそ褒められるべき点が何もありませんからね」

「ひ、ひどい! 何かあるでしょう先輩!」

「そうですね、貴女のいい点といえば……。
 どれだけ厳しいトレーニングを課しても次の日にはけろりと忘れている事でしょうか」

「わぁ! ありがとうございます先輩! 私明日からも頑張ります!」

「二号、これはまったく褒めてないと思うよ。
 こいつは二号が体の良いサンドバックぐらいにしか考えてないと思う」

「そんな事は多分少しだけありますよ」

左手に持った箸を置き、鈴仙は一息ついた。
照れ笑いの二号と不服そうな表情を拭いきれないにとりに、
相変わらず黙ったままの霖之助。
別段変わらないいつもの四人だった。

「まぁ、何にせよだ。
 喧嘩で友人が出来るとは青春時代の典型としてよくある話じゃないか。
 僕は嫌いではないよ」

今まで黙っていた霖之助が口を開いた。

「喧嘩で友達が出来るって言うのこの場合?」

「確かに。先輩の場合喧嘩かどうかも怪しいですよね」

「失敬な。過程はどうあれまた一つ貴重な交友関係の輪が広がった事に違いはありません。
 彼女にアグレッサーとして協力していただけたら二号の教育もはかどります」

「よく分からない言葉が聞こえた気がしますけど、
 それって私が今よりももっと痛い目を見るって事ですよねぇ!?」

「答えようと思ったのですが、腕に矢を受けてしまいまして」

「は、はぐらかさないでください!」

「安心して下さい『とも』に協力してもらって貴女を鍛えるだけですから」

「その『とも』って何て字を書くんですか! 
 強い敵と書いて『強敵』ですか!?
 戦の友と書いて『戦友』ですかぁ!?」

縋りつく二号を片手で御しながら鈴仙は怪我をした方の右腕で器用に酒盛りを続けた。
器用なものだなとにとりは感心する。だが無意味だ。

「鈴仙元気そうだけどしばらくは安静にした方がいいだろうね」

「違いない。永琳に任せておけばよくなるだろう」

「ついでに戦争馬鹿につける薬も処方してもらえないかな?」

「無理なんじゃないだろうか」

「無理かなぁ」

「まぁ、僕はあのままでもいいと思うがね。
 それに鈴仙も以前より変わってきているよ」

「確かに、出会い頭にパカスカ撃たれた頃よりは随分と落ち着いた気がするけど」

穏やかにはなった、と思わなくもない。
昔はもっと他人を信頼しておらず、気に入らない事は何でも口にした。
それが今ではにとりや二号に混じって軽口を叩いたり冗談を言ったりする程になった。

単純に距離が縮んだおかげで接しやすくなったのか。
それとも本当に鈴仙の中で何かが変わっているのか。
にとりにはまだ分からない事だった。

Comment

#No title
確かにこの鈴仙は逃亡しなさそうですねwww
  • by:ナビ
  •  | 2012/03/06/20:43:30
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