十四朗亭の出納帳

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十四朗

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『使用弾薬7.62x54mmR 前編』

いつもの鈴仙さんのSS。
毎回毎回自分の嗜好を全面に押し出して書けるシリーズなので書いてて楽しいです。
しかし鈴仙さん単独行動回なので他のキャラの出番は激減してしまった。
次回は派手にアクションしていきたいと思います。


『使用弾薬7.62x54mmR 前編』


鈴仙、二号、にとり、霖之助










眼下に広がる白銀の世界。
山々が、木々が、大地が、白く塗り潰され、
厚い雲の切れ間から覗く陽の光によって輝いていた。

幻想郷の長い冬だ。
厚く高く雪が降り積もり、冷気と静寂が支配する幻想郷の冬。
鈴仙は地上に降りてくるまでは雪という自然現象の存在を知らなかった。
正確には、雪という存在を知識として理解していたが、
経験としての雪を知らなかった。

初めて触れた雪は冷たく、柔らかく、軽いものだった。
降り積もった雪は一時的に地形さえ変え、平地を小高い丘にする。
幻想郷にやってきてからというもの、驚愕の連続だったが、その中でも一番の驚きは雪だった。

降り始めた雪を永遠亭の縁側からただ見つめ続け、積もっていく過程を観察した。
雪は優雅で美しいものだった。雪は白い、清廉潔白な存在だ。
昔師匠である八意永琳が柄にも無くロマンティックな事を言った。

「雪が白い理由が分かる?」

鈴仙はいいえと答えた。

「自分を知らないからよ。名前も、アイデンティティも、
 何もかも知らないの。だから雪は白いのよ」

鈴仙は無表情でそうですかと答えた。
無関心だった訳ではない。むしろその逆で、
その時鈴仙は永琳の言葉に深い感銘を受けた。
鈴仙が無表情を貫き通したのはその時の感情を上手く表情として出力する事が出来なかったからだ。

あの頃の鈴仙は雪と同じく真っ白な存在で、
自分について理解している事など皆無に等しかった。
物心ついた時から軍に所属し、生命を奪う技を教え込まれ、
自分の部隊を持ち、戦争が起こり――鈴仙は地上へ降りていた。

鈴仙・優曇華院・イナバは脱走兵だ。
敵前逃亡、臆病行為、職務放棄、その他大小様々な罪を合わせると極刑は免れない。
軍人らしく銃殺刑が妥当なところだろうか。

両手両足を柱に括りつけられ、目隠しをされた状態で無数の銃口が向けられる。
「何か最後に言い残す言葉はないか?」と執行官が問いかける。
その問いかけに対して鈴仙は、
「ありません。死を与える側にどんな大義名分があろうと結局のところ行う業は人殺しです。
 それと同じように死にゆくものにどんな主張や大義があろうと行き着く先は死ですから」

鳴り響く銃声。暗闇の中で途絶える鈴仙の意識。
それで終わりだ。

呆気無く、意味もなく鈴仙は処刑される。
無論鈴仙はそのように無意味に無価値に殺されてやるつもりなどさらさらない。

願わくば天寿を全うし布団の上で死にたいものだ。
他人に殺されるなど御免被る。

そう、他人に殺されるなど御免被る。
殺されたくない。鈴仙はそう強く願う。
鈴仙だけでなく、きっと誰もが。己の生を生きようとする誰もが殺されたくないのだ。

だからこそ殺しの技術というものは奥深く、太古より脈々と受け継がれているものなのだろう。
鈴仙は今、生命を奪おうとしている。

引き金に指を掛け、左目を瞑り、右目をスコープに合わせる。
右目には切り取られた景色と、T字の照準線が映り、
照準線の中心には逞しい角の牡鹿と、毛並みの美しい雌鹿に、
脚を負傷し震える脚で何とか大地立っている仔鹿が居た。
傷口はまだ赤く、血が流れている。捕食者に襲われたのだろう。
太ももの部分が喰い千切られたように引き裂かれていた。

距離にしておよそ三町。メートル法に直すと三百二十七メートル。
如何に野山で暮らす動物が危機察知能力に長けていようとも、
この距離で息を殺して獲物を狙う狩猟者の存在を感知する事は不可能だろう。

現在鈴仙は妖怪の山の麓に存在する広大な森に身を隠している。
森の中で自然に発生した小高い丘。
天まで至る巨大な妖怪の山を仰ぎ見る事が出来、
尚且つ麓の森を広く見渡せる場所だ。

そこで鈴仙はスコープを付けたボルトアクション式ライフルを構え、
伏せの体勢で獲物に狙いを定めた。
とはいえ朝から晩までこの場所で獲物を待ち伏せしていた訳ではない。
狩りの大部分は獲物の痕跡を辿る事に費やされた。

まず十分な防寒着の上に、自作のギリースーツを羽織り、
自然と一体化する形で森へと入る。

荷物や物資の運搬にはソリを使い、
自身の装備は弾薬、ナイフ、火打石、携帯食料、パラコード、コンパス、拳銃、程度に止め、
真新しい獲物の痕跡を発見した場合はすぐにソリをその場に待機させ獲物を追跡した。

ギリースーツは前もって用意した枯れ草や枝等を古いコートに纏わせ、
白く塗装した簡素な物を使用している。
あくまで簡易的なギリースーツの為、十全な隠密性を獲得したとは言い難いが、
古いコートを加工して製作したものなので保温性は高い。

装備しているライフルにも同じように戦闘迷彩を施した。
具体的にはスコープの上に白い布を被せ、
目立たないようにする等の細かな工夫だ。

こちらはギリースーツの制作よりも遙かに少ない労力で効果を得る事が出来た。
真冬の雪山の中で加工された鉄の色は目立つ。
そのせいで獲物に勘付かれては元も子もない。

獲物の足跡を見つけると、今度は更なる獲物の痕跡を辿る。
この場合、痕跡の多くは獲物の排泄物だった。
糞を探し、そこから獲物との距離を逆算する。
糞を見つけ次第手袋を外して糞を手に取り、温度と臭い、それから質感等を確かめた。
まだ温度が残っていて匂いが強く、
質感が柔らかい場合はまだ獲物が近くに居る可能性が高い。

そこまでくると鈴仙は身を屈め、這うように移動しながら獲物を探した。
目視できない場合は自らの能力で波長を操り、周囲を索敵しつつ移動を行う。

無論、この段階まで到達出来るのは稀だ。
足跡を見つけても途中で消えていたり、排泄物の痕跡自体が古いものであったり。
そうなる度に鈴仙は深追はせずに、ソリの位置まで戻るとまた獲物を探すのだった。

狩猟とは獲物を追うのではない。獲物を追い詰めるものだ。
何処で狩るかを獲物に決めさせはしない。
何処で狩るかを決めるのは何時何時でも狩猟者でなくてはいけない。
そう言い聞かせて鈴仙はソリを引き、獲物の探索を続けた。

こうして狩りを始めてもう四日になる。
勿論夜になれば下山し、天候が悪くなりそうならばすぐに下山した。
今は白銀の輝きを見せるこの山も、夜になれば冷え込み、
吹雪になれば容易に道を見失ってしまうような環境なのだ。

自然は時にどんな優れた兵器よりも無慈悲かつ簡単に命を奪う。
一個の生命など、自然の前では塵にも等しい。

もう一度鈴仙はスコープ越しに三匹の鹿を一瞥する。
牡鹿と雌鹿と怪我をした仔鹿。
然程迷いもせず鈴仙は怪我をした仔鹿に照準を合わせた。

立派な角の牡鹿は見るからに健康体で、一撃では仕留められない可能性がある。
鈴仙が今回使用している銃はボルトアクション式の為次弾装填までに若干のタイムラグがある。
一瞬の事とはいえ、この遅延は牡鹿が即死しなかった場合致命的な失態となる。

次に雌鹿。これも同様の理由だ。この番の鹿は雄雌共に健康体だ。
もし急所以外に当たった場合のリスクが大きい。

それに対して仔鹿の方はどうだろうか。
いまだ出血は止まらず、脚が震えている。
おそらく現時点で相当な体力を消耗しているのだろう。
このままでは命を失うのも時間の問題だ。

寄りすがるように雌鹿に体を寄せているが、
それは生と死の残酷なコントラストとなって鈴仙の目に映った。

あの仔鹿ならば簡単に命を奪える。
万が一急所を外したとしても銃撃による負傷は仔鹿の運動能力を奪い、
死に至らしめる事が出来る。
極めて合理的な判断だ。

吐く息が白くならないように口に含んだ雪が溶ける。
鈴仙は唾液と一緒にそれを飲み込んだ。
呼吸を止め、右目を見開く。照準は仔鹿の眼に合わせる。
静寂の世界が段々と静止に近づき、万物が停滞しているように感じられた。
限界まで引き絞った引き金を引き切る。

雷管が叩かれ火薬に引火。
弾頭が薬室から螺旋を描くバレルを経てマズルフラッシュと共に飛び出した。
静寂の世界に轟く銃声。

遅燃性火薬によってバレルの中で十分な加速と回転を得た弾頭は、
何の遠慮も慈悲もなく仔鹿の右目を貫き、仔鹿の顔は右側を抉られ、
血飛沫と脳漿と頭蓋骨が混ざった液体とも個体とも区別できないものをまき散らして倒れた。

木々にとまっていた鳥達が銃声に驚き、一斉に飛び立つ。
仔鹿の体は雪を赤く染めながら何度か大きく痙攣した。
息がある訳ではない。

脳を破壊されたショックで身体の電気信号が出鱈目に行き交っているだけだ。
あの損傷なら間違いなく即死していたはずだ。
もし即死していなくともあの状態では逃げる事も出来ない。

既に牡鹿と雌鹿の姿は無い。銃声と共に一目散に逃げ出していた。
妥当な判断だ。
鈴仙に二発目を撃つ気がなくとも正体不明の敵から攻撃を受けた場合、
撤退するのが合理的だといえる。

野山で暮らす獣にそんな考えがあるかどうかはさておき、とりあえずは獲物を狩る事が出来た。
後は仔鹿を解体してソリに積み込み下山するだけだ。
仔鹿は体が小さいため一人でも解体しやすく、運搬も楽に行える。
それに肉も柔らかい。食用としては良い事づくめだ。

溢れ出る歓喜を噛み締めつつ、周囲への警戒を怠らず、
周囲に不審な点が無いか確認する。
命を奪った事に何の感傷も抱かなかった。
慈愛も後悔も悲しみも迷いも戸惑いも存在しなかった。

鈴仙は己の感情と引き金を引く指を分離して目標を撃つ事が出来る。
戦うものがまず会得しなくてはならないスキルの一つだ。
感情だけで引き金を引く事が許されないのと同じように、
感情で引き金が引けないというのは許されない行為だろう。

伏せ状態だった鈴仙がゆっくりと体を起こす。
スコープから眼を離すと先程まで鮮明に見えていた仔鹿の体は豆粒程の大きさに見えた。
周辺には仔鹿の血液が赤い絨毯のように広がっている。

早めに回収しなくては狼や狐といった他の捕食者に仔鹿を横取りされてしまう。
コートのフードを外し軽く深呼吸を行う。
冷えた空気が肺を満たし冷気で肌が痺れるようだった。

鈴仙はボルトハンドルを起こし、
ハンドルを握るとそのまま後部へ向かってハンドルを引いた。
薬室から空薬莢が排莢され、虚空で弧を描いて雪原に落下する。
そのままハンドルを押し込み起こしたハンドルをまた寝かせた。
次弾装填完了。装填数残り四発。

落ちた空薬莢を引い上げ、胸ポケットに入れると、
鈴仙はもう一度仔鹿の方を見た。
変わらず仔鹿はその骸を雪原に横たえている。

一見すると何も変わっていない。
しかし鈴仙の眼と耳は即座に異変を察知した。
森の中に居る。

片膝をついた姿勢のままでライフルを構え、右目をスコープに合わせた。
距離は変わらず。狙いは仔鹿の骸が横たわる場所からやや右に逸れた木陰。
そこに居る。

呼吸を整え、待つ。
目を見開き、待つ。
引き金に指を掛け、待つ。

木陰が揺れ、影の中から巨大な白い塊が姿を表した。
全長二メートル程。限りなく白に近い灰色の毛並み。
やはりか、と鈴仙が小さく舌打ちする。

何処と無くそんな予感はしていた。
この状況、このタイミングで乱入があるとすれば、
彼以外に考えられなかった。

巨大な白狼。
幾年月を重ねたのかも分からない程の巨躯に、知性の篝火が宿った瞳。
二日前、川沿いで鈴仙が目撃した白狼と同じ個体に違いなかった。

あの邂逅は今でも鈴仙の脳裏に強く焼き付いている。
知性のない獣の眼ではなく、知性を持った眼でただ鈴仙を見つめていたあの存在。
爪と牙以外で事を成すという行為を知っている。思慮深い眼だ。

長い年月を経て獣が妖怪に変異するという事例を何度か聞いた事がある。
脱皮のように何度か古い自分を脱ぎ捨て、徐々に新しい姿へと変貌していそうだ。

だとしたらあの白狼もそういった変異の過程にある存在なのかもしれない。
鈴仙は引き金から指を離さずに、頭の中だけでそう結論付けた。

しかしそれとこれとは別だ。
知恵があるからといって他人の獲物を横取りしていいという理由にはならない。
むしろ知恵があるのならばそういった下賎な行為は避けるべきだ。

略奪者には死を持って贖いを。
訓練兵時代、教官だった綿月依姫が口癖のように言っていた言葉だ。

白狼へ照準を合わせる。
威嚇ではなく、頭部、より正確に述べるならば右目を狙った狙撃。
この距離では重力によって弾道が下がるので狙いはやや上方に。
風は弱い。微風だ。この程度ならば照準の補正も微々たるもので構わない。

威嚇射撃による追い払いも考えたが、
この白狼は先程の発砲音から大した時間差もなくこの場所にやって来た。
愚かか勇猛なのか、その事実は白狼が発砲音に対して恐れを抱いていない事に他ならない。
威嚇による追い払いという選択肢は早い段階で鈴仙の中から消え失せていた。

静かに空気を吸い込み、そのまま呼吸を止める。
全身の筋肉に静止を命令。ライフルの銃床を肩に当て、左手で固定。
右手は引き金を引き絞る寸前で静止させている。

こちらの準備は万端だが、まだ撃てない。
相手が静止ないし限りなく静止に近い状態を狙う。
この場合、彼にとっても獲物である仔鹿に口を付けた瞬間が妥当なタイミングと言える。

一匹狼であれ、群れを構成する狼であれ、
この場で食事を始めるなどという迂闊な行動はとらないだろう。
巣穴か邪魔の入らない岩場の影まで獲物を運搬し、そこで食事を始める。

ならば必然、タイミングは仔鹿を運搬しようと顎で咥える一瞬となる。

白狼はゆったりとした足取りで仔鹿に近づく。
その度に鈴仙は照準を修正、頭部から狙いを外さない。

静寂に支配された世界で繰り広げられる無音の駆け引き。
両者の間で保たれた危うい均衡状態は一瞬先には存在していないだろう。
決着というものは如何なる形であれ必ず訪れるものだ。









もうもうと白い湯気を上げる紅葉鍋を前にして霖之助とにとりは沈黙していた。
長い話に一区切りをつけた鈴仙は、
自分の器に取り分けられた紅葉鍋を静かに食している。
二号は話を聞きながらも左手で箸を持つという慣れない課題に悪戦苦闘しながら鍋をつついていた。

一昨日前、鈴仙が二号に対して「両方の腕を使えるようにしなさい」と命じた為、
二号は箸や筆を利き手とは反対の左腕で扱うように心がけている。
初日は散々な様子だったが、今では苦戦しているとはいえ何とか物を箸で摘み、
読める程度の字を筆で書く事が出来るようになった。

飲み込みは悪くない。そうにとりは思う。
知識と技術の吸収に関して、二号は常人よりも遙かに優れた能力を有している。
それを上手く戦闘訓練で発揮出来ないのは、
二号の性格があまり戦闘向きではない事と、
鈴仙が一切の手加減をしない事だろう。

少なくともにとりが見ていた限りでは、鈴仙は二号に遅れをとった事はない。
何時何時でも鈴仙は二号の策を看破し、物理的に打ち破り、二号を下してきた。

強いのだ、鈴仙・優曇華院・イナバという少女は。
体術や銃火器、近接武器の扱いに留まらず、
精神面、話術、騙し合い、罠の設置。

相手を打ち負かすという技術において鈴仙は他者より頭一つ分飛び抜けている。
生来の基質による『能力』としての戦闘能力ではなく、
後天的に技能を得た戦闘能力は感嘆に値する。

物理法則を無視した能力面での戦闘で鈴仙よりも格上の相手は山程居るだろ。
吸血鬼、亡霊、竹林の不死人、山の神、地底の八咫烏、寺の僧侶、そして幻想郷の管理者。
あえて名前を出すならば鬼や烏天狗連中もそうだ。
生物学的に鈴仙よりも強い連中等石を投げれば当たる程度には存在しているのは間違いない。

しかしそれでもにとりの眼には鈴仙が強者として映る。
それは言ってしまえば単純な理由で。
鈴仙が戦い方と勝ち方を知っているから、というのが結論だ。

「それでさ、話の続きを聞かせてよ」

にとりが言った。

「無論話の続きはしますよ。
 ですが今の私は空腹です。一旦休憩にして食事の方に専念したいのですが」

鈴仙の口調はいつもと変わらず平坦なものだった。
感情の起伏というものが掴み難く、何を考えているのか分からない。

利き手である右手を使わず、
左手で卒無く箸を扱っている現状においてもそれは変わらない。

右肩には真新しい包帯が巻かれ、消毒液を含んだガーゼが当てられていた。
戦闘による負傷。にとりが鈴仙と知り合ってもう半年以上になるが、
今の今まで彼女が血を流すような負傷をしている姿を見た事がなかった。

「そう言われても気になるものは気になるんだよ。
 鈴仙がやりあって怪我をするなんて珍しいからさ」

「確かに、二号相手に格闘技の訓練をしている時では考えられない事ですね」

「わふぁふぃ?」

「二号、口の中に物を含みながら喋らないでください。
 次口に物を含んで喋った場合雪山での一週間サバイバル訓練を命じます」

青い顔をして二号が押し黙る。
鈴仙なら本気でやりかねない懲罰だ。
もっとも、潤沢な装備があるとはいえ、
冬の山に連日狩りに出かけていた鈴仙にとって、
その程度の事は大した罰ではないのかもしれない。

ここ数日、鈴仙は山と香林堂を往復する生活を送っていた。
射撃場に雪が積もり、除雪が終わるまで訓練が行えないという事なので、
二号の野外訓練を一旦中止し、基本的な座学を教える事となった。

講師は主ににとりと霖之助。
にとりは銃火器の機構と運用方法を教え、
霖之助は一般教養と読み書き、計算等の技術を教えた。

学の無い者はいい兵士になれない、と言って鈴仙もこの方針には納得していた。
思い返してみれば鈴仙はよく本を読む方だ。
医学関係の資料は勿論、小説、図鑑、オペラの脚本、歴史書、兵法指南書。
ジャンルに一貫性はないが、とにかく鈴仙は多くの書物に目を通している。

この前は家庭菜園の本を読んでいた。
理由を尋ねると彼女は「野菜型の異星人が攻めてきた時に参考になるかもしれません」、
と珍しく冗談を口にした。

「その白狼と君は戦った。その結果君は負傷した。そんなところかな鈴仙?」

熱燗を鈴仙の猪口に注ぎながら霖之助が口を開く。
無言のまま話を聞いていた霖之助だったが、
彼もこの話に興味があるらしい。

元々霖之助とにとりが紅葉鍋でも食べたいと言い出した事から始まった鹿狩りだ。
その事で鈴仙が負傷したとあれば、少なからず負い目も感じる。

「ありがとうございます。
 そうですね、白狼との戦闘で負傷したのは間違いありません」

「そんなに彼は手強い相手だったのか? 何か能力の類を使用するような」

「いえ、私が交戦したのは彼ではなく彼女ですよ」

「彼女?」

意味深に微笑んで鈴仙は熱燗の注がれた猪口を傾けた。
にとりは首を捻り、霖之助は自分の猪口に熱燗を注いだ。

「霖之助さん、そこは私に注がせるのが礼儀ではありませんか?」

「君は肩を痛めているから、
 こういうのは自分でやった方がいいとおもっただけだ」

「気にしなくても結構です。
 痛みという感覚は忌々しいものですが、我慢出来ないものでもありません。
 ですから私の扱いは普段通りで結構ですよ」

「そうか。なら次は頼もうかな」

「えぇ、是非」

先程の意味深な笑顔とは裏腹に、少し高揚した笑顔で鈴仙が言った。
心の片隅で「お前のような怪我人がいるか」とにとりは毒づいた。

「ほらほら、酒もいいけど早く話しの続きをしてよ」

「アナタは落ち着きのない河童ですねにとり」

「いいところで鈴仙が切るからでしょ。焦らすな」

「焦らすのが秘訣だと師匠に教わったので」

「良い事教えてあげる。今は焦らすタイミングじゃない」

「そうですね、焦らしたところでにとりの気を引く事しか出来ませんし」

「この戦闘兎女が。いつか何かしてやる」

「何時でもどうぞ。私の方は迎撃の用意ありですから。
 言っておきますが専守防衛に徹するつもりはありませんよ」

相変わらずにとりの皮肉に鈴仙は涼しい顔で応える。
可愛げのない女だと思う反面、
この憎たらしい澄まし顔も死んでしまったら二度と見られないのだと再認識した。

面と向かって本人に言うのは気恥ずかしい事だが、
にとりにとって鈴仙は恋敵で有る前に一人の友人だという事だ。
何はともあれ、今は友人が無事に帰還した事を祝うべきだろう。

「さて、話の続きですが」

「お、してくれる気になった?」

「そうですね、まぁ勿体ぶるようですが」

空になった鈴仙の猪口ににとりが熱燗を注いでやる。
口元を緩めてにやりと気安い笑顔で鈴仙が笑った。

「話の続きは食事が終わってからにしましょうか」

Comment

#No title
白狼との駆け引きがワクワクして、続きがすっごく気になります。
後編が楽しみです。

二号のシゴキ、もとい可愛がりが素敵ですねw
  • by:らぷこ
  •  | 2012/01/12/22:59:12
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・・・ここまで理想的な兵士の鈴仙がなんで恐怖から月を抜け出したか理由付けがほしい感じです。
あと、野菜型宇宙人~辺りはガンスリンガーガールのラバロさんかなww?
  • by:朱月
  •  | 2012/01/16/05:43:03
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