十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

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十四朗

Author:十四朗
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ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
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『12.7x99mmの信頼』

鈴仙GUN道~うお、まぶし!~
そんな感じです。最近この鈴霖で取り上げる銃のチョイスに悩みます。
西側を何回かやったので次は東側の銃とかもいいかもしれません。

書いてて思いましたが、あるいみセーラー服と機関銃。
間違ってはいないはず


『12.7x99mmの信頼』


霖之助、鈴仙、にとり、依姫、レイセン










朝と呼ぶには時間が遅く、正午と呼ぶにはまだ早い。
朝でも昼でもないそんな時間帯。

まだ夏の日差しが本格的に照りつける時間帯でも無いせいか、空気は凛とした涼を宿し、
時々発生するそよ風は心地のよいものだった。

日がな一日こうして過ごしやすい気候ならば、熱中症や日射病で永遠亭に担ぎ込まれてくる患者も減るのだろう。
大きく伸びをしながら、鈴仙はそんな事を考えた。

指先から爪先に掛けて、全身の筋肉をゆっくりと伸ばす。
柔軟に体が動くように、また体がある程度の不可を許容するように。
そのストレッチは長い時間を掛けて行われた。
体をゆっくりと伸ばす間に、鈴仙は視線の先に広がる光景を見つめる。

いくつか木を切り倒し、整地をして、設備を追加した香霖堂の裏庭は初めて鈴仙が試射をした時から随分と様変わりした。
木の板と土嚢によって構成された射撃レーンにターゲットを固定する為の台座。
ターゲットの後ろには流れ弾を防止する為にこれまた土嚢が積まれている。

レーンの数は五つで、それぞれ長さが違い、鈴仙から見て左へ行くにつれてターゲットまでの距離が長くなっていた。
この射撃場は主ににとりが作成したもので、鈴仙も少なからず口出しをしたが、着工から竣工まで一貫してにとり主体で行われた。
射撃場の斜め後ろに設けられた四阿は中心が簡易作業台になっており、そこで試射前の銃の点検やセッティングなどを行う。
その他にも三人で集まり今後の予定を話しあったり、他愛のない雑談をしたりするのがすっかり日常となっていた。

一晩布団で眠ると生物の体というものは岩のように固まってしまう。
生きている事を忘れたかのように筋肉が硬直し、本来あるべき生物としてのパフォーマンスを失う。
寝ている間に発生する水分の消失もそうだが、眠るという行動そのものが体の性能を一時的に封印してしまうと言っても過言ではない。

だから鈴仙は朝から昼頃に掛けて、暇があればこうして体を伸ばしたり軽いストレッチを行って体をほぐすようにしている。
朝起きて、ストレッチをし走りこみを行った後の筋力トレーニングを欠かした事はないが、それと同じく体の柔軟化も怠った事がない。

最近はいつも行なってきたトレーニングに加え、香霖堂から貸し出してもらった弾の入っていない拳銃の分解、清掃、組み立てと、
通常の筋力トレーニングに加えて、拳銃を一旦ホルスターに収めてから抜き打ち射撃の型を練習したり、
縄跳びやダンベルなどで脚と腕の筋力を底上げする為の鍛錬を行っている。

同じ永遠亭に住む兎の因幡てゐからは「香霖堂の店主に熱を上げてダイエットでもしてるの?」とからかわれたが、
これは筋力を底上げする為のトレーニングなので痩せてしまっては意味が無い。
そういった点も踏まえ、食事は脂質を少なく、だがタンパク質の多い物を好んで摂取し、足りない部分をお手製プロテインで補う。

こういった生活を続けたおかげか、少し体重は増えたものの以前に比べて基礎となる筋肉が増えたせいで体が軽く感じられる。
体型も絞まり、意識しなくとも背筋が真っ直ぐ伸びるようになった。
まだまだ全盛期には程遠いが、これで以前よりももっと上手く香霖堂で銃を扱う事が出来る。
そうしたら今までよりもずっと彼に貢献する事ができるはずだ。

つい緩んでしまった頬を隠そうともせず、鈴仙は足元に置いた水桶と柄杓を手に取り、
射撃場の隣で四阿の正面に広がる広い空間へと移動して、そこで打ち水を行った。
埃っぽい土の匂いと、気化して水蒸気となり漂う水の匂い。
にわか雨が降り始めた時の匂いとよく似ている。

鈴仙は桶の水が無くなるまで水を撒くと、その後は静かに深呼吸をして涼と土の香りを楽しんだ。
月の土は匂いがしない。穢がないからそこには何も無い。

綺麗過ぎる水に生き物が住めないのと同じように、綺麗過ぎる土に生命は宿らない。
バクテリアやその他の微生物、地中に住む昆虫やミミズにモグラ。
草木はやがて枯れ土に還り、また新しい草木の糧となって循環を促す。

全ては生きるという穢を含んだ行為の中にありながら、生命の営みというものはこうも逞しく美しい。
自分が生まれ育った月の都や、そこに住む人々の思想が間違っていると言いたい訳ではないが、
彼等が間違っていないのと同じぐらい、地上に住む人々や生物も間違ってはいない。

豊かに生き、その生が他の生を繋いでゆく事が間違いだと鈴仙は思いたくない。
だから今の鈴仙にとって、穢などというものはさして気になるものでもなかった。

「うがー重たいー! 霖之助もちょっとは手伝ってよー」

「君はアームにやらせている分楽じゃないか。僕は自分の腕で支えているんだぞ」

「くそぉう、この仕打忘れはしないよ」

そうこうしている内に店の方から声がした。
騒がしく抗議するにとりの声と、それを受け流す霖之助の声。
やっとか、と鈴仙は肩をすくめて苦笑した。

「遅いですよ、お二方」

「何も運んでない癖に偉そうな事いうなー!」

「にとりが触らせてくれないのが悪いのでしょう。
 私だって運搬を手伝っても良いと言ったのに」

「ぐぬぬ……そりゃ、あの時は手塩にかけて修理したこの子を他人に触らせるのが嫌だっただけでぇ……」

「結局最後に撃つのは私ですけどね」

「うっさい! 分かったよ! 最後まで自分で運ぶよもぅ」

頬を膨らませながら背中に背負ったリュックサックから伸びる多目的作業用機械腕。
通称『のびーるアーム』と、アームに支えられた『それ』を射撃場の四阿まで運んだ。
このアームは「河童の腕は伸び縮みする」という伝承を元ににとりが開発したもので、
主に自分の手が仕えない時や、重たい物を持ち上げる際に彼女が使用している。

アームに支えられたそれは、黒く重厚な本体を重たい音と共に作業台に横たえながら、寡黙に自らの出番を待っていた。
長方形の本体から真っ直ぐ伸びた銃身は太く、周囲を威嚇するような沈黙を守ってそこの収まっている。
鈴仙も初めてそれを見た時は大いに驚いた。

今までの銃とは根本的に威力と規模がが違う物。
建物を撃ち抜き、車両を喰い千切り、人間を血肉に変えるバケモノ。
故に個人で持ち運ぶ事は極めて困難な程の巨体と重量を持つに至った存在。

それが今回試射を行う銃。『重機関銃』と呼ばれるカテゴリーに属するものだ。
拳銃やライフル銃等で使われている弾薬よりももっと大きく、威力の強い弾丸を連続的に発砲する。
文字通り本体の重量がとても重く、生身の人間が運搬するには、最低でも三名以上の人手が必要となる。
だがそれをもって余りある破壊力が魅力的だ。

改めて見てみるとその重厚ながらも、銃弾を発射するという目的の為に磨き上げられた構造には惚れ惚れする。
なんとも巨大で美しい人工物なのだろうか。

「僕は三脚の固定かな。低くした方がいいかい?」

「そうですね、簡易な固定だけしか出来なさそうですから、今回は低く構えて重心を安定させましょう。
 伏せよりも少し高い程度、座り撃ちが出来るぐらいの高さがいいでしょう」

「分かった。ではそのように」

そう言うとテキパキと霖之助は三脚を展開し、鈴仙の言った通り座り撃ちが出来る程度の高さに三脚を固定した。
三脚を固定する場所は先程鈴仙が打ち水をしていた場所だ。
土埃が舞い散らないように、予めそうやって水を撒いて下準備をする。
埃が舞っていい事など一つもない。機関部に砂が入れば動作不良の元になり、
視線を遮る土埃は命中率の低下及び周囲の安全確保が出来なくなる原因にもなる。

「にとり、本体を固定してください」

「はいはい、それにしても重すぎるよこれー。
 三脚と本体合わせたら私より重いし」

「私よりも重いですよ」

「嘘だぁ」

「本当です。確かにアナタより筋肉はあるかもしれませんが、それでもこの銃は私より重たいはずですよ」

「さらりとモヤシ河童と言われた気がする……覚えときなさいこの脳筋兎」

にとりののびーるアームによって本体が三脚に取り付けられ、鈴仙が金具を留めてしっかりと固定する。
射撃の最中に金具が外れては大問題だ。自分だけが怪我をするならまだしも、
他人が死傷するという事態は一番あってはならない事だ。

固定が終わると、今度は銃の後ろにシートを敷いて自身が腰掛ける場所を確保した。

「にとり、弾薬を」

「ほいほい。今出しますよー」

のびーるアームの長く金属質な腕がリュックサックの中に一旦引っ込むと、
次に出て来た時には四角い弾薬箱を持っていて、それを鈴仙に渡した。

明らかに内容量を超えた収納スペースとアームの耐久力や腕力、
それに加えて精密動作まで兼ね備えているのびーるアームを、
鈴仙は前々から軍事転用可能ではないか? と考えている。

腕が多ければそれだけ一度に出来る事も増える。
忙しい時は腕が何本あっても足りないぐらいだ。

「にしても大きな弾だよねー量産するのに手間取っちゃったよ。
 おまけにこの弾薬帯ってヤツ? これも結構面倒だね」

「一つ一つが杭のようなものですから。もっとも、杭のように底を金槌で叩いて使用すると大変な事になりますが」

弾薬箱から弾薬帯に繋がれた弾薬の末端を弾薬箱から取り出し、鈴仙は特に問題が無いかじっくりと点検する。
雷管が装着された薬莢と発射された際に目標へ向かって跳んでゆく弾頭の部分。
薬莢部分が一番太く、一度ボトルネックになっている薬莢の末端部分で窄み、弾頭部分は鋭利な杭のような形状となっている。

ボトルネックの部分には金属製の弾薬帯で固定されており、
それらがチェーンのように続くことによって、長い長い弾薬の帯が構成されていた。

陽の光を受けてキラキラ輝くそれらを見つめて鈴仙は満足気に頷くと、霖之助とにとりに予定通り試射を行う事を伝えた。
基本的にどのような銃でも、射手である鈴仙が安全性に問題なしと判断しなければ試射は行わない。
テストを行う上で、一番危険な役割が誰か分かっている三人にとっては当然の事だった。

鈴仙は光を遮るよう、遮光処理をレンズ部分に施したゴーグルを装備。
それから耳には耳あて型の耳栓を。手には革製の黒いグローブを装着した。

鈴仙の準備はこれで完了だ。
にとりと霖之助は耳あてだけを装備して後方の四阿で待機している。
開始のタイミングは任せたという事だ。

大きく息を吸って、それから一度肺の中を空にするように吸い込んだ空気を吐き出す。
落ち着いてやりなさい。動作不良なんて無い、あの二人を信じるのです。
そう鈴仙は心の中で呟いた。

機関部を覆っているカバーを上に開き、そこに弾薬帯の末端部分を置いて、そのままカバーを閉める。
しっかり銃が弾を咥え込んでいるのを確認して、次はボルトを引く。

どれだけサイズが大きくなろうと、基本的にボルトを引いて装弾するという動作は変わらない。
ただしこの場合、ボルトはとても大きく軽々と引けるものではない。
銃の側面から突き出た太いボルトをしっかりと掴み、後方へ体重を掛けながら力の限り引いた。

金属同士が噛みあう動作音。さらに銃が自らの奥深くに弾薬を咥え込む。
重たいボルトは鈴仙の腕力と体重に引かれ下がりきり、手を放すと同時に元の位置へと素早く戻った。
準備完了。懸念していたボルトの重さも想定内で鈴仙は安心した。
これでボルトが引けなければまた一からトレーニングの内容を見なおさなければならない。

安堵感に胸を撫で下ろしながらも、鈴仙はシートを敷いた地面に深く腰掛け、
機関銃の最後部にある二本の縦棒を握り、普通の銃の引き金に相当する発射レバーに軽く指を置いた。

この銃はトリガーではなく、への字型をしたこのレバーを強く押し込む事で発砲を行う。
引き金というより押し金と言った呼称した方がいいのかもしれない。

鈴仙はゆっくりと照準を覗き込み目標へと狙いを定める。
今回の目標はいつも通り樹だ。いつもよりも大きい、周囲の長さが鈴仙三人分はあろうかという大木だ。
そこにはペンキで塗られた的はなく、自然のままで大木が佇んでいる。

庭に射撃場を作る際、にとりがどうやって切ろうかと最後まで思案して、
結局この日の為に残しておこうと三人で話し合った大木。
それを今日、今この瞬間切り倒す。この機関銃で。

まず狙うは大木の末端。鈴仙から見て左側面に当たる位置だ。
重々しい機関銃の本体を操りながら、鈴仙の赤い目はしっかりと照準から目標を見据えている。
ブレがないよう、息を止め、慎重に操り、鈴仙の思うタイミングで一気に発射レバーを押し込んだ。

直後に轟音。
空気を破裂させ、肌を叩きつける轟音と衝撃波が鈴仙を襲い、銃口から溢れた閃光が眩い。
轟音と共に発生した反動は地面を揺らし、銃を握っている鈴仙を容赦なく襲う。
腹の底まで響き、心臓に変わる新しい鼓動としてそのリズムは鈴仙の体に刻まれ、鈴仙を奮い立たせた。

予想以上の発射音とその衝撃に思わず鈴仙は大声で叫んだ。
声にならない言葉を、心の底から溢れ出る雄叫びを。鈴仙は少しも抑えようともしない。
今まで行って来た試射なんて全て豆鉄砲を撃っていたようなものだ。
これに比べれば、この衝撃に比べれば生ぬるい。

全身に響くこの衝撃が鈴仙には快感だ。
自分の中の何かを揺り起こし、そして本当の自分をさらけ出してくれるかもしれないという希望が湧いてくる。

流れるような速さで機関部へと吸い込まれてゆく弾薬帯は、
機関部に飲み込まれた次の瞬間にはもう空薬莢と弾薬帯を構成していた金具となって地面へと吐き捨てられていった。
反動によって前後への往復を繰り返す機関部は発射、排莢、給弾のサイクルを少しも乱さず、ただ与えられた自らの仕事を機械的に行う。
何も言わず、ただ自分の操作に反応して動いてくれるこの動作が、鈴仙・優曇華院・イナバはたまらなく好きだった。

加熱した空薬莢が地面に落ちる度に、地面の水分を蒸発させしゅうしゅうと音を立てる。
硝煙の匂いと大地に染み込んだ水分が蒸発する匂いが入り交じり、鈴仙の嗅覚をより強く刺激した。
一帯百十発の弾薬帯を撃ち切ると、鈴仙は迷いのない動作で機関部のカバーを開き、
新しい弾薬帯を噛ませカバーを下ろすと、太いボルトを全身の力で引いてすぐに発射体勢へ戻った。

何発か一纏めに発射しては軌道修正を繰り返し、正確な射撃を心がける。
弾は無限にある訳ではない、だから正確な射撃を。
そう自分に言い聞かせながらも、鈴仙は重機関銃の生み出す鋼と火薬の狂想曲に身を委ねて発射レバーを押し込んだ。

目標にされた大木は、初弾を側面に受けるなり木屑を撒き散らしながら側面を抉り取られ、初弾に続く鉛弾の嵐に晒され続けた。
側面から中心へ、中心から反対側の側面へ。それが終わればまた折り返して中心へ。

何十年、ひょっとしたら何百年もの間その場所に佇んでいたかもしれない大木は、み
るみるうちにその姿を見るも無残なものへと変えてゆく。

動く事を知らず、ただ根を張った一生を貫き続ける植物にとって、この鉛弾の嵐は暴虐とも言えた。

何度も撃ち抜かれる度に摩擦熱で弾痕は焼け焦げ、衝撃で葉が散る。
やがて空気を揺さぶる轟音とは別に、樹の幹が裂けて軋む音が周囲に響いた。

巨体が枝を揺らし、土埃と木屑を巻き上げながら無残にも倒れてゆく。
数百発の弾丸が長い年月を掛けて成長した大木に勝った瞬間だった。
それと同時に最後の弾薬帯を撃ち切り、周囲に響き続けた轟音はピタリと止んだ。

耳あてを外し、ゴーグルとグローブも外すと鈴仙は改めて一息ついた。
非常に楽しかった。今までで一番気持ちの良い試射だった。
撃てば撃つ程気分が晴れ、胸がすくようなあの気持ち。

鈴仙は自身の右手を見つめ、握って閉じてといった運動を数回繰り返す。
その間にも右手は小刻みに震えていた。興奮がまだ鈴仙の奥で燻っている証拠だ。
あの感触を鈴仙の体はしばらく忘れてくれそうにない。

つい先程まで照準を向けていた方へ視線をやると、そこにあった大木は完全に切り落とされ、今はその巨体を大地に横たえている。
やれば出来るものだ。もう少しぐらいは弾薬が必要だと思ったが、思ったよりも少ない弾数で目標を達成できた。

「すごいすごい! すごいよれーせん! れーせんやったぁー!」

静かな余韻に浸っていると、背後から突然にとりに抱きつかれた。
不意打ちにぐらりと体が揺れるが、すぐに反応してにとりの腕を締め上げる。

「あでででででぇ! ちょ、たんま! ギブギブ! タップタップ!」

「止めるんだ、それ以上はいけない」

霖之助の言葉に鈴仙はハッとなってにとりへの拘束を解除した。
鈴仙の悪い癖だ。急に背後から来られるとつい腕を締め上げてしまう。

「大丈夫ですかにとり?」

「う、うん。一応……一瞬腕が変な方向に曲がったけど」

「次からは気を付けてくださいね」

「わかったよ、もう二度と後ろからは……って! なんで私が謝るのさ!
 今のはどう考えても鈴仙が悪いよね!」

「背後から近づくという行為は何をされても文句が言えない行為の一つですよ?」

「どこの国のルール!? 少なくとも幻想郷では大丈夫だよ!
 しかも思いっきり痛くなるように締め上げてさぁ!」

「痛くせねば覚えませぬ」

「くぅ……まぁ、それは後々白黒つけるとして。
 凄いね鈴仙! まさかあんな大木を切り倒しちゃうなんてさ」

「この子の力です」

鈴仙は至って涼し気な顔で先程まで自身が操っていた機関銃を指さした。
照れ隠しでも何でもない。この銃が自身の威力であの大木を切り倒しただけの事だ。

「でも君がやった事だ。君が銃を操作して切り倒した。
 不慣れな僕やにとりでは出来ない事だよ。もっと自慢してもいい」

にとりと鈴仙の会話を静かに見守っていた霖之助がゆっくりと口を開いた。
低く落ち着いた声色は鈴仙に確かな納得を与えてくれる。

「そうですか……そうですね。そう思った方が誇らしいかもしれません」

「君の射撃の腕は僕もにとりも認めている。もっと自分に自信を持つといいさ」

「はい」

「このわざとらしい反応の違い! ひょっとして霖之助に色目使ってんじゃないのー?」

「はい、確かに私の目は赤色です」

「そういう意味じゃないっての!」

「にとりの目も澄んだ青色をしていて綺麗ですね」

「は、はい!? な、何さ急に……」

「もっと自分に自信を持てって意味です」

「くぅ! 小馬鹿にされた! 絶対いつか慌てふためかせてやる!」

「めでぃーくめでぃーっく、もっとモルヒネをー、血がー血が止まらないー。こんな感じでいいですか?」

「また馬鹿にしたぁ!」

いつもの表情で冗談を飛ばしただけだというのに、にとりはますます憤慨するばかりだ。
いったい彼女は鈴仙にどういった発言を求めているのだろうか。
にとりとはそれなりに深く付き合っていた自覚があったのだが、今でも彼女のこうしたところは分からない。

「まぁ、とりあえず言い争いは後にしてだ。
 後片付けが山程ある。本体と三脚、それから空薬莢の後始末。
 切り倒した樹だってそのままにしておく訳にはいかない」

「そうですね、それが先決です。
 銃と空薬莢は熱いので冷えてからにしましょう。その間に、あの樹の後片付けの準備でも。
 にとりが一晩でやってくれるでしょう」

「のびーるアームでも持てないよ!」

「ジョークです」

「アンタのジョークはジョークじゃなぁい! 真顔で言われても冗談に聞こえないの」

ガミガミと言いながらも、何だかんだで根っこの部分では楽しそうだ。
楽しいから付き合う。
口ではとやかく言いながらもきっちり付き合ってくれるのは、にとりの妖怪らしい部分の表れだろう。

「さて、役割分担をしてそれぞれの作業に……」

「やはり先程の銃声は貴女でしたか」

霖之助、にとり、鈴仙の内、誰のものでもない声。
高く澄み渡る、凛とした気品と強さのようなものを含んだ声だった。
三人が同時に声のした方向へと振り向く。

「八意様の言っていた通り、まさか本当に射撃訓練を行っていたとは。
 感心です、鈴仙。私の教えは無駄ではなかったようで」

「アナタは……」

振り向いた視線の先には背の高い女性と、それに付き添うやや背の低い少女。
女性の方は長い藤色の髪を後頭部で一本に纏め上げ、あくまで柔和な笑顔を浮かべながらこちらを伺っている。
白いブラウスに、赤のロングスカート姿で腰には一振りの刀が差してあり、それが彼女の得物である事を窺わせていた。
女性的な外見ではあるが、その目付きには油断ならないものがあり、気を抜く事が出来ない。

鈴仙はこの女性を知っている。
外見とは裏腹に、苛烈なまでに厳しい心を内に秘めたこの女性を知っている。

「……綿月依姫様」

「お久しぶりです、鈴仙。幻想郷と月の間で諍いにもならない騒動があった時以来ですね」

「えぇ、お久しぶりです。あの時はろくに挨拶も出来ず、申し訳ありませんでした」

「いえいえ、貴女が私に会いたくない事ぐらい理解しているつもりです。構いませんよ、私は寛大に赦します」

「あのー会話が弾んでる最中に悪いんだけど、お姉さん誰?」

現状を理解出来ないといった風のにとりが我慢できずに依姫へと質問した。

「私ですか。まぁ、お月様のお役人と言ったところですよ。少し手荒な事が専門ですが」

「月に変わってお仕置きよ! って感じ? というか私、鈴仙以外の月の民なんて初めて見たよ。
 あ、私は河城にとりね。よろしく」

「いいですねその口上。今度使ってみます。
 驚くのも無理はありませんよ、河城にとり。何せ月の民はあまり地上に来る事はありませんから。
 何はともあれよろしくお願いします」

「えへへ、どうもどうも。こちらこそよろしく」

「それよりもどうしてこんな場所へ? 地上はお嫌いでは」

世間話染みた雑談を始めたにとりを押しのけ、鈴仙は依姫に対して更に問い詰める。
正直な話、あまりいい気分ではない。
彼女は自分の過去と密接に絡み合った存在だ。
鈴仙にとって自分の過去とは振り返りたくない、ましてやその過去と関係のある人物とは会話さえしたくない。
それなのに、自分の過去に限りなく近しい人物がこうしてこの場に居るのは、鈴仙にとって喜ばしい事態ではなかった。

「蛇蝎のごとく嫌わなくてもよろしいでしょう。
 私は今回お願い事があって貴女を尋ねて来たのですから。
 それに月の情報を盗み聞きしている貴女に嫌な顔をされても困ります。これでイーブンですよ」

「知っているのなら泳がせずに対策ぐらい立てれば良いのです。
 それで、態々そんな事を盾にしてお願いごとですか?」

「えぇ、そうです。まぁ、その事は彼女から詳しく話していただきましょう」

そういうと依姫は今まで自分の側に付き添っていた少女を前に出し、軽くお辞儀をさせた。
今まで依姫に付き添っていたにも関わらず、一言も言葉を発する事のなかった少女。

鈴仙と同じラベンダー色の髪に、鈴仙と同じく長く大きな兎耳が生えている。
だが彼女の耳は鈴仙とは対照的なふわふわとした柔らかそうな毛並みをしていた。
格好は鈴仙に似たブレザーとスカート姿で、前途の耳と相まって両者に何らかの関係性を匂わせる。

鈴仙はこの少女も知っていた。
いつだったか、月より逃げてきた兎が博麗神社を通して永遠亭に送られて来た事がある。
その時にちらりと顔を合わせてそれっきり。名前も知らないまま月へと送還されていった兎だ。

「どうも、先輩以外の方は初めまして。レイセンと申します」

「へっ? 同じ名前? 鈴仙とレイセン?」

ますます混乱した様子でにとりが目を回している。
それもそうだろう。いきなり現れた人物が自身の友人の前で、その友人と同じ名を名乗ればこうもなる。

「はい! 私の名前は先輩に因んで名付けられたものです。
 なんでも優秀な大先輩にあやかってとの事らしくて」

「……依姫様?」

「これでイーブンです」

にこやかに微笑む依姫に思わず鈴仙は頭痛がした。ご丁寧に先程と同じ言い回しなのが癪に障る。
確かに月の都の玉兎何名かと波長を用いて交信をして月の都の現状を調査、随時永琳に報告してはいたが、
こうして面と向かってその事実を突きつけられ交渉の手段に使われるのは気分がいいものではない。

「それでですね。そのお願いというのが彼女に関する事でして」

「ちょっと待った」

腕を組み、動向を見据えるような面持ちで沈黙を貫いていた霖之助がここでようやく口を開いた。
表情は怒っている様子でも笑っている様子でもない。
彼が真面目な交渉をする時に見せる、内面を覆い隠すような冷たい表情。

「貴方は? まず名乗って頂かないと、何とお呼びすればいいのか分かりません」

「森近霖之助だ。この店の、というよりもこの土地の主だよ」

「あぁ、それはそれは。まず一番に挨拶すべきでしたね」

「それはいいよ、別に怒りはしない。
 ただ君の言うお願いなんだが、こんなところで立ち話もなんだ。
 せっかくだから客間で腰を据えてゆっくりとするのはどうだろうか?」

「良い提案ですね。地上人にしては実に良い発想です。
 そうしましょうか。その方がじっくりお話できます」

「では中へ。にとり、彼女達を客間へ案内してもらえるかい?」

「お安い御用さー。あれ? でも霖之助と鈴仙は?」

「空薬莢だけ片付けたらすぐに行く。放っておくと散らばって片付けが面倒だ」

「あっそ。じゃあ先に案内して待ってるねー」

「ではのちほど、店主さん」

にこやかに笑って依姫とレイセンはにとりに案内されて店の奥へと消えていった。
姿が見えなくなったのを確認して、鈴仙はがっくりと肩の力を抜いて安堵した。

「彼女が苦手かい?」

そんな鈴仙を心配してか霖之助が鈴仙へ声を掛けた。
先程の鉄面皮は消え去り、いつもの落ち着いた表情で話しかけてくれる霖之助を見ていると心底安心する。
霖之助が言った「空薬莢を片付ける」と言うのは嘘で、本当は鈴仙と二人っきりで話をする口実を作るた為のものだったようだ。

「いえ、そういう訳では。ただ昔の事で私を問い詰めに来たのかもしれないと思うと……」

「君の過去か」

霖之助には月に居た事は話しているが、細かい事は話していない。
軍務についていた事は伝えていても、何故地上へ逃げてきたのかまでは話していないし、出来れば話さないままでいたい。
彼の中での自分を保ちたいが為に、鈴仙は霖之助に対してひた隠しにしている過去がある。

それの事に霖之助も薄々は気付いているのだろうが、それでも何も言ってこないのは彼が優しいからだろう。
いつか鈴仙が自分から話してくれるのを待ってくれている。鈴仙にとってはいつになるかは分からない事だが。

「大丈夫だよ。彼女はそこまで怖いお願いをしに来た訳じゃない。
 もし彼女の要件が君の身柄に関する事だったとしたら、態々声を掛ける訳がない。
 僕達を奇襲して君の身柄を確保するなりなんなりするはずだ」

「そうですね。えぇ、そのはずです」

「大体、今頃になって連れ戻すというのもおかしな話だ。
 多分君に危害を加える気はない。その上で何かお願いがあるんだろう」

「はい、きっと……」

「だから警戒しなくてもいい。彼女のお願いを僕達で聞いてやろうじゃないか」

「僕達……ですか」

「そうだ、僕達だ。僕達ならきっと上手くいく」

僕達と彼は言った。それは鈴仙とにとりと霖之助の三人を表す言葉。
三人がそれぞれ協力しあってきた仲間達。
鈴仙はもう一度胸の中で「僕達」と呟いた。

「いけるかい?」

「いけます」

「なら良かった。じゃあ行こうか」

「霖之助さん」

先にを行く霖之助を呼び止める。
もう気分はすっかり良い方へと傾いていた。
そうだ、自分一人で悩む必要など何処にもない。

「ありがとうございます。そういう不器用な励まし方好きですよ」

「不器用とは言ってくれるな。僕は器用な方だと自覚はしているんだが」

「いいえ、不器用です。だって、霖之助さんの気持ちがちゃんと伝わってきましたから」

「そうかい」

照れくさそうに笑って、今度こそ霖之助は店へ向かって歩き出した。
鈴仙もそれに続いて歩き出す。

前を向いて、地面を蹴って。
自分が信じる仲間の居る場所へと歩き出した。
まだ自分の過去と向き合うには不安がある。

けれども、霖之助とにとりが一緒なら何も怖くない。
強さも弱さも全部抱いて、自分の今までを見つめられる気がした。
きっと、それは二人が鈴仙にとってかけがえのない仲間だからそう思えるのだろう。

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