十四朗亭の出納帳

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十四朗

Author:十四朗
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四畳半慧霖-飲み会編3-

飲み会編これにて終了ー
ちょっとSSの趣向がシフトしてきた気がする。
これだとまるで蓮子がアホの子じゃないか。




『四畳半慧霖-飲み会編3-』



霖之助、慧音、蓮子、メリー











「かんぱーい!」

もう三回目になる乾杯の音頭と共に高らかにグラスを掲げると、
マエリベリーと慧音と霖之助もそれに続いてグラスを掲げ、
グラスの縁を軽く当てた。

グラス同士の当たる澄んだ音は、居酒屋の活気の中に飲まれてゆき、その余韻を楽しむ暇もない。
それにそんな気ももう薄れてしまっている。
流石に三回目の乾杯となると新鮮味もあったものではない。
もっとも蓮子は最初からそんな事等気にもしていないようで、
一番最初に口をつけてグラスに注がれたビールを、息継ぎ無しで一気に飲み干した。

「ふはー! 今日も暑かったから美味しー!」

造り物のお酒だというのに、心底美味そうに飲む蓮子を見て、
霖之助も少しは合成ビールに対して抵抗が無くなる気分だった。
物を美味しく飲み喰いできるのも才能だなと、霖之助は考えながら自分もグラスを傾ける。

テーブルには鶏軟骨の唐揚げ、ガーリック風味のフライドポテト、
ラー油冷奴、焼き鳥、キャベツのごま油和え等が所狭しと並んでおり、
どれも食欲をそそる匂いと外見だが、造り物だという潜在意識からか、
食欲が若干マイナス方面への補正が掛かってしまう。

とはいえ料理が運ばれてくる前に各自、三杯も酒を飲んでいるのだから、
そろそろ何か胃に食物を入れないとマズい。
今の霖之助と慧音は普通の人間なのだから、その辺りの事情も普通の人間と同じになる。

「料理も食べてね二人とも。ここ食べ放題に飲み放題だから、じゃんじゃん食べていいのよ」

「お構い無く。悪酔いしないようにしっかり物を胃袋へ入れているよ」

「そう。まぁ、お喋りもしたいしその辺はお好きに。
 酔いつぶれちゃって、お喋りどころじゃないってのも風情がないし」

「一番酔い易いのは何処の誰よ」

「分からないじゃないメリー。もしかしたら霖之助さんと慧音さんはすっごくお酒に弱いかもよ」

「心配しなくても僕達は人並みに大丈夫な方だと思うよ」

多分、と小さく付け加えた。
何せ幻想郷での人並みとこちらでの人並みにどこまで隔たりがあるのか分からない。
何にせよ、酒があるのなら飲めばいいし、向こうが霖之助達よりも弱いのなら、
限界に触れない程度に付き合えばいいだけの話だ。

軟骨唐揚げの山にレモンエキスをかけようとしている蓮子と、
それを制止しようとしているマエリベリーを横目に、霖之助は慧音に目をやった。

ちびちびとだが酒にも口を付けているし、料理も口にしている。
この賑やかな雰囲気に萎縮してしまって、
何もしないのではないかと不安になっていたが、とんだ杞憂だったらしい。

「ん、どうした霖之助? お前は食べないのか」

視線に気づいた慧音が顔を上げて、霖之助の瞳を見つめた。
柔らかな笑みを浮かべる口元と、
霖之助を見つめる二つの紅玉が居酒屋特有の眩い照明の中で妖美な雰囲気を醸し出している。

「フライドポテト美味しいぞ、ほっくほくで」

「じゃあ僕も貰おうかな」

「はい」

不意に箸で摘まんで差し出されたフライドポテトをそのまま頬張る。
ガーリックパウダーの風味と芋の甘味が口いっぱいに広がって、
造り物にしては中々いけるなと口には出さなかったが、そう思った。

「霖之助さん……」

「慧音さん……」

口の中のフライドポテトを咀嚼していると、べっとりとした二つの視線が肌にへばりつくのを感じて、
視線が飛んで来た方向に顔を向けずにはいられなかった。
顔を向けてみると、案の定ジト目で睨む蓮子とマエリベリーの姿があった。

「ねぇ、もしかして家ではずっとこんな調子なの?」

「いや、家ではこんな風じゃないと思うよ。多分」

「なのになんで外だとこんなに積極的なのよぉ」

「……雰囲気かな」

「全然分かんないその理由!」

「まぁ、いいじゃないの蓮子。新婚さんってそういうものよ」

「そう、そういう事で纏めておいてくれ」

蓮子の剣幕に押されながらも、もう一度ちらりと慧音の方へ眼をやる。
そこには先程の妖美な表情を引っ込め、顔を真赤にして俯いてしまっている彼女が居るだけだった。
半年以上同じ屋根の下で暮らしていたが、あんな表情を見たのは初めてだ。
あの表情を見た時、不意に胸がドキリとしたのは否定のしようがない事実だ。

らしくもない。そんな言葉でその感情を振り払いつつも、あの胸の感覚は何時までも付いて回る。
まだじんわりと胸の奥が暖かかった。燻った炎が中々消えてくれないらしい。

「あーうー! もうご飯食べる! 軟骨が、軟骨が美味しいのよ!」

「もう、蓮子ったらお酒が入ると妙にテンション上がっちゃって。
 お二人とも気にしないでくださいね。いつもの事ですから」

「大丈夫だよ、お互い自由にやろう。
 お酒の席で無粋なルールを持ち出すのは楽しみを減らすことになる」

「そう言っていただけると気が楽です」

ため息をつくマエリベリーは本気で蓮子の事を危惧していたようで、
霖之助の言葉を聞くとホッと一息ついて胸を撫で下ろした。
それから自身もぐいっと一気にグラスを傾ける。
お淑やかな外見や、普段の言動とは打って変わった行動だったが、
昼間蓮子の言っていた事を思い出すと妙に納得してしまう。

何をしてても似合うし、どんな行動でも府に落ちる。
言い換えると極めて無色透明という事になるが、そういった印象の薄い存在という訳ではなく、
極めて色濃いものを残しながらも、どんな模様にも適応する。

言葉にするとありえない事かもしれないが、
そうして表現する以外にマエリベリー・ハーンという人物を言い表せない。

「楽しいですか? 霖之助さん」

「楽しいよ。こうして多人数で賑やかに飲むのは久しぶりだから」

「そうじゃなくて、過ぎ行く日々が。こうして過ごす日常がですよ」

「随分と哲学的な事を聞くんだね。」

「日常が楽しいのと一時が楽しいのは別ですから。
 どうです? 現は楽しいですか」

「楽しそうにしていないからそう聞いたのかい」

「逆ですよ。楽しそうだから尋ねたんです。いやですね、霖之助さん。
 私、楽しそうじゃない人に楽しいかなんて聞いたりしませんよ。
 だってあんまりにも趣味が悪いでしょう」

「悪いね。僕の知り合いにそんなのが居るからつい。」

「それはまぁ、意地悪なお方」

ラー油冷奴を摘むマエリベリーの屈託ない笑顔と、
言葉の意味が光の明暗にも似たコントラストを彼女の表情に上塗りしてゆく。
見えない、どこからどう覗いてもマエリベリー・ハーンがクリアに見えてこない。
気持ちが悪いと言えば、気持ちが悪いが、ただそれだけだ。

マエリベリーは他人に自分の中身を見せない代わりに、
自分も他人の中身を全て見透かそうとはしない。

ちょっと表面に触って、それでおしまいだ。
ぬるりと不気味に手を動かし、
スキマを見つけてはそこから冷たい手を突っ込んでくる様な人物よりずっと良心的に思える。

疑問を薄めさせるように口に運んでいたビールが無くなっている事に気付いた霖之助は、
テーブルに設置されたコンソールを指でタッチして新たに日本酒を頼んだ。
こんな感情は酒で薄めて飲み込むに限る。

「霖之助さん、別々のお酒を胃の中に入れるのは体に毒よー」

「僕は元々日本酒が飲みたかったんだ。だから体に悪くても飲ませてもらうよ。
 そんな事より蓮子。君もう顔が紅いじゃないか」

「体質なんだってば。私ちょっとアルコールで顔が赤くなりやすいのー」

「口調が怪しいよ」

「口調も怪しくなりやすいのー」

イヒヒ、と白い歯を見せて笑う蓮子を見ていると、
自分の胸に燻っていた感情が馬鹿らしく思えてきた。
考えすぎだ。何事も深く考えすぎて失敗するのがお前じゃないか。今日ぐらいは気楽にしろよ。
そう自分に言い聞かせて、注文のボタンを押し、自分も積極的に料理を摘み始めた。

「そういえば慧音さんと霖之助さんっていつ結婚しようって言い出したのー?
 そんでもってどっちから言い出したのー?」

料理を食べると決めた瞬間から、不意打ちと言っていい質問に霖之助の箸は止まり、
慧音は顔を赤くして飲み込もうとしたビールにむせていた。

「蓮子、何失礼なことを聞いてるの」

「失礼? あーメリーが言うなら失礼なのかも。
 でも私知りたい。霖之助さんと慧音さんってどんな風に結婚を決めたのかなって」

「全然、ダメね……霖之助さん、慧音さん。この酔っ払いの言葉は無視してください。
 きっと、頭に思った事が出やすくなってるんです。
 ほろ酔いになるといっつもこれで……」

「本格的に酔うとどうなるんだい」

「無意識に行動します。思った事がそのまま口に出て、大変なんですよ」

「マエリベリー……もう飲ませない方がいいんじゃないか。
 霖之助もそう思うだろう?」

「思う。もう、止させたほうがいい」

「止めて止まるなら、私はいつも楽なんですけどね……」

「すまない、軽率な事を言った」

何故か謝る慧音と、もうあきらめムードのマエリベリー。
それからニタニタ笑う蓮子は話の続きを聞きたくてウズウズしているようだ。

「分かった、分かった話そう。話してあげよう」

「ホントに? うっわーい!」

両手を上げて子供の様に喜ぶ蓮子を見据えて軽く一息つくと、
霖之助はゆっくりと、何かのお話を言って聞かせる様に喋りだした。

「僕達の生まれが故郷が一緒で、幼い頃からずっと一緒に居たって事は話したと思う。
 というか大筋は以前君達に話した事があると思う。
 僕達の生まれ故郷は、遠い場所……ちょっと簡単には行き来出来ない場所があって、
 僕は前々からそこから抜けだして外へ行ってみたいと考えていたんだ」
 
「故郷が嫌になったの? それに簡単に行き来できないって?」

興奮気味の蓮子が疑問に思ったであろう事を、いっぺんに質問してきた。

「蓮子、質問は一つ一つしよう。
 僕は他の多くの人達がそうであるように、幾つかの違った質問をいっぺんには返せない」

「あいあいさー」

「じゃあ君の質問の一つ目。故郷が嫌になったのかって事だけど。
 別にそういうのじゃないんだ。僕は今でも故郷が好きだよ。
 今でも僕の心はあそこにあると信じている。
 けれどね、そこで一生外の空気を吸わないまま死ぬ気も無かった。
 写真だとか話だけじゃない、本当の外を感じたくて僕はここへ来たんだよ」

「なるほどー要するに男なら外で大きく羽ばたきたかったって事ね」

「そういう事にしておいてくれ。
 それで二つ目の質問だけど……これはちょっと説明できないな。
 そういう風になっている、としか説明できない」

「ひょっとして外国なの?」

「そういう言い方も間違ってないけど正しくもない。
 それは表現の一つに過ぎないし、完全な表現でもない。
 一つ言えるならば、そこはとっても楽しい場所だって事だ。
 住んでいる人も、住んでいる動物もとってもユニークな性質をしている」

「へーまるでこの世じゃないみたい。嘘くさいわー
 まさか岡崎教授みたいに平行世界なんて言い出さないわよね」

彼女の言う岡崎教授が誰かは分からなかったが、
とりあえず「いくらなんでもそれはユニークすぎるよ」と冗談交じりに返してお茶を濁した。

当然ながら幻想郷の事は他言無用なので、
蓮子やマエリベリーに全てを話すことは出来ない。
といっても、話したところで信じてくれるはずもないだろう。
いや、この二人ならひょっとすると両手を上げて大喜びするかもしれない。
「妖怪なんて素敵!」なんて言い出しそうだ。

だがなんにせよ、言わないに越したことはない。

「本題に戻そう」

コホン、と短く咳払いをする。
赤い顔の蓮子はぼんやりとした瞳で姿勢をただし、背筋をしゃんと伸ばした。
酔っていてもこういう所だけは妙に律儀なのが可笑しい。

「故郷から出る時、僕は身につけている物だけで故郷を出た。
 勿論、住む場所や店として使う物件の手配をしてくれた人は居るから、
 今の生活があるんだけど、それ以外はまるっきり何も無しで出た。
 たった一つの例外を除いて」

「それが慧音さん」

ゴクリと生唾を飲んで、そう切り替えした蓮子はやはり宇佐見蓮子だ。
ケセラセラに生きているようで、その実ちゃんと話を聞いて周りを観察する事ができる。
これはちょっとした才能なのかもしれない。
精神のずっと奥深くに、そういう事を出来る回路が埋めこまれているのだろう。

「一切合切を手放したつもりだったけど、彼女の腕だけは手放せなかった。
 だから、一緒に連れてきたんだ。彼女の手を引いて。側にいて欲しいと言った」

話が始まってから無言だった慧音とマエリベリーは勿論の事、
先程からうるさいぐらいに相槌を返していた蓮子も無言になった。
四人の間に有った喧騒は振り下ろされた金槌で潰され、
一纏めにされてどこかへ捨てられてしまったらしい。

「しらけてしまったね。もっと別の話をしようか」

「後悔は無いんですね。お二人とも」

声の主はマエリベリーだった。
ハッとなって彼女を見つめると、
マエリベリーの眼は直接霖之助の心にそう訪ねていて、
口に出した言葉はそれの副産物に過ぎなかった。

なんだこの眼は。
全てが透明であるかのように物事を見透かしていて、感情の揺れが些かも感じ取れない。
なのに、問い掛けだけは朗々と頭に響いて、嫌でも答えを強要してくる。

知らない、旅行先で三日間一緒に行動していた時にマエリベリーはこんな眼をしていなかった。
視線を逸らすという行為さえ拒絶させる、この眼は人間の物とは思えない。

一体誰なんだ? この人物は一体誰なんだ。
本当にマエリベリー・ハーンなのか。これではまるで。

「……していないよ」

疑問を振り払うように霖之助が答えた。
そんな考えは認めない。そうあって欲しくないと願って振り絞った声だった。
深く考えれば考える程、それが現実味を帯びてくるのが嫌で仕方がなかった。

「やっぱりそうですよね。だって、後悔なんてしている人は二人仲良く旅行なんて行きませんし、
 あーんなんてしませんよね」

「なっ、マエリベリー! まだ私が霖之助にあーんをしたことを言うのか!」

「だってしたのは事実じゃないですか慧音さん」

「事実でも改めて言うな!」

笑いながら慧音の反論を交わすマエリベリーは、
間違いなく霖之助の知っているマエリベリー・ハーンだった。

戻った。そんな言い方がすとんと腹に収まる。
一瞬だけだったかもしれないが、
あの霖之助が知らないマエリベリー・ハーンはもうここには居ない。
いや、ある意味あの人物を霖之助は知っているかもしれない。
だが、それはマエリベリー・ハーンという人間に形の一致しない人物だ。
とにかく、ここにいるマエリベリー・ハーンはよく気のきく、蓮子がメリーと呼ぶ女性だ。
それ以上でも以下でもない。といよりも、そうあって欲しくない。

霖之助はトイレに行くと言って席を立った。
トイレに入ると洗面台で顔を洗い、
頬を何度か叩いてやると幾らか自分が正気に戻ったような気になれた。
大丈夫、お前は気が変になってなんかいない。マエリベリーはマエリベリーだろう?
そう言い聞かせて、席へと戻った。

席に戻ると、とうとう酔い潰れた蓮子がマエリベリーの膝を枕に眠っていて、
膝を枕にされているマエリベリーは面倒見のいい笑顔を見せているだけだった。
もう彼女の眼は元通り、見えない物が存在している世界を映している。
そうだ、これでこそ……これこそがマエリベリー・ハーンだ。









頭が酷く重たい。
意識が温い泥の中から引き上げられて一番最初に思ったのはそんな事だった。
だが意識が引き上げられるに連れて、重たいのは頭だけではなく、
腕、肩、腰、足……つまりは全身だという事が理解できた。

そこまで理解すると今度は、
頭の中で頭蓋骨を削るみたいに鋭い痛みが定期的にやって来ている事に気が付いた。
ガリガリという擬音がよく似合う、そんな痛みだ。

吐く息が酒臭い。
自分は一体何をしていたのだろうか?
そう、確か自分は……飲んでいた。誰と?
メリーと慧音と、それから霖之助。
確かこの三人。蓮子も含めて四人で飲んでいたはずだ。
四人より多くも少なくもなく、きっかり四人がテーブルを囲んで喋りながら酒を飲んでいた。

話の内容は……慧音と霖之助が結婚した時の話だったはずだが、詳しくは思い出せない。
話の細部は温い泥がこびり着いてしてしまって、読み取れない。
そしてそれ以降の記憶がないのを考えると、どうやらそこで潰れてしまったらしい。

飲み会の発案者は自分だというのに、
そんな早くにダウンしてしまうとは、なんとも情けない話だ。

それにしても、揺れる。自分はいま何処にいるのだろう。
電車の中か。いや、電車にしてはやけに生物的な揺れだし、じんわりと温かい。
体の感覚も、何かに座っているようではなく、おぶさると言った方が正しい。

おぶさる……温かい……そこまで考えて、蓮子は顔を上げた。
背中。そうだ、これは誰かの背中だ。酔い潰れた蓮子を誰かが運んでいる。

だとしたら誰の? と一瞬思ったが、
その答えは今までの疑問よりも早く頭に浮かんだ。
霖之助だ。このがっしりしていて、大きな背中は霖之助のものだ。

メリーは一部を除いて蓮子と同じ背格好だし。
蓮子よりも背が高い慧音でも、ここまでがっしりしていない。
だとしたら残るは一人。霖之助だけになる。

「霖之助……さん?」

思うように声が出ない口を動かして、霖之助に呼びかけた。
彼の背中に居るので表情は分からない。

「目が覚めたのかい、蓮子」

「うん……まだちょっと気持ち悪いけど」

「吐きそう?」

「女の子にそんな事聞かないで」

にゅっと霖之助の背中から顔を出すと、
前方をメリーと慧音が談笑しながら歩いているのが見えた。
左右にはスパンコールを散りばめたような繁華街の灯りが流れ、
同じ方向へ行く人や、すれ違う人達がたくさん居る。

「どのぐらい寝てたの?」

「三時間ジャストってところかな」

「私、殆ど料理食べてない」

「仕方ないよ、潰れていたんだから」

「損ねー私の分まで食べてくれた?」

「それはもう」

「妬ましい」

軽い吐き気を覚えながらも、それを隠して笑った。
笑顔なんて浮かべても、相手に見えはしないが、こういうのは気持ちが大切だ。

「霖之助さん、煙草ある?」

「有るけど、僕の背中で吸うのは勘弁してくれ。
 どこに灰と吸い殻を捨てるつもりだい。
 それに、首に根性焼きされそうだから嫌だ」

「しないって……でもまぁ、確かにそうね。分かった、我慢する」

「よしいい子だ」

首を上げているのも辛くなったので、また霖之助の背中へ顔を埋めた。
大きくて、温かくて、何より優しく感じる。
耳を当てると背中越しに心臓の音が聞こえた。
当たり前だが、霖之助にもちゃんと心臓が有って、
それによって生命を維持しているらしい。

「自分の鼓動は感じ易いけど、他人の鼓動は近づいて、
 さらに身を寄せ合わないと気づかないものね」

「何か言ったかい?」

「何も」

うっかり拾われかけた独り言を、彼から引き離して、自分だけのものにした。
背中に当てた耳からは鼓動が絶えず聞こえてくる。
いつもはこの鼓動を慧音が感じて居るのだろうか。
だとしたら、後でこの権利は慧音に返しておかなくてはならない。
だが今は返そうにも、返せないので、とりあえずはこの鼓動を満喫することにした。

広くて大きな温かい背中で、鼓動だけを感じていた。

Comment

蓮霖の新たな可能性と聞いてスキップで来ました。
霖之助は慧音とは違う蓮子の膨らみを背中で堪能するといいと思います。

それでも慧音が安心してるのは信頼感のなせるワザか。
メリーはいいところを持って行きなさる……。
  • by:道草
  •  | 2011/02/10/21:52:12
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