十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

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十四朗

Author:十四朗
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『四畳半慧霖-飲み会編2-』

メリーは食いしん坊だと可愛い。
だからあんなふっかふかなんですよ!
蓮子がスレンダーならメリーはふんわりボディー美女。
書いてから気付いたんだけど、今回霖之助出てないし。



『四畳半慧霖-飲み会編2-』



慧音、メリー







予め切り揃えられ、パッケージングされた野菜が並ぶ冷蔵棚から、
じゃがいも、玉ねぎ、人参を手に取りカートへと入れてゆく。

なんとも食欲をそそられない売り方だと思うが、
そう思う者は世界において慧音と霖之助を含めてもごく僅かだろう。

誰もが疑問や不快感などを感じずに造られた食材を口に運んで、命を繋ぐ。
生まれた時からそうしているのだから、そこに不純物の入る隙間など存在しないのだろう。

命を繋ぐのは命でなくてはならないのに。
慧音がこの世界をひどく無機質なものだと感じるのは、そうした命の繋ぎ方にあるのだろう。

それでも今は半人半妖ではない自分達はこうして食事を摂らなければ飢えてしまう。
幸い味はオリジナルとそう変わらないし、大抵の食品は予め切り揃えてあるから手間が少なくて済む。
もっと簡単に済ませるのなら、出来合いの物でも買えばいいのだが、そこまで不精になる気もない。

自分一人ならそれでも一向に構わないが、今の自分は独り身ではない。
一人の男性の妻としてこの世界に身を置いている以上、炊事洗濯をこなすのは妻の務めだ。
職場の同僚には古いと言って笑い飛ばされたが、この信念は揺るがないし、揺らすつもりもない。
それは慧音が自分で立てた誓いの様なものだから。それを自分で無かった事にするのは虫が良すぎる。

リノリウムの床を歩いて、今度は食肉売り場へと足を運ぶ。
青果売場と同じ様に、作り物の肉が並べられている冷蔵棚から、
『カレー・シチュー用』と書かれた肉を手に取って、カゴに放り込んだ。

「あら、ひょっとして慧音さん?」

張り詰めた弦が弾かれた様に、高く、よく通る声。
聞き覚えがある声だが、ふよふよとその感覚だけが宙を漂って中々確信が舞い降りてこない。
とりあえず慧音は、その声の主を視界に収めるべく背後を振り向いた。

「えっと……マエリベリー」

「そうです、マエリベリー・ハーンです。
 お久しぶりですね慧音さん。こんな所で会えるなんて、ホント偶然」

「こちらこそ、お久しぶり」

照明の下でも輝く金髪と、紫のワンピース姿を見ただけで慧音の記憶は一気に蘇ってきた。
そうだ、彼女はマエリベリー・ハーンだ。
一週間前の広島旅行で行動を共にしていた二人組の片割れ。
比較的慧音とよく喋っていたのに、声を覚えていないのは不覚だったが、
顔を見ただけで思い出せただけよしとしよう。

「青果売場でも似たような人を見かけたんですけど、自信がなくって。
 それでお肉売り場で近づいてよく見てみたんです。そしたらやっぱり慧音さんだった」

「そうか。元気そうでなによりだよ。
 マエリベリーも夕食の買い物に?」

「はい、今夜はシチューにでもしようかと」

「なんだ、家と同じじゃないか」

「あらまぁ、また偶然」

にっこりと人好きのする笑顔を浮かべたマエリベリーを見て、慧音も幾らか柔らかい表情になって言葉を返した。
こうして見知った人物と話せるのはいい事だ。
限りなく無感情になってしまう家の外で感情の明かりが灯るのを感じられる。

「蓮子が好きなんです。シチュー」

「ん、一緒に暮らしているのか?」

「いえ、一緒にという訳ではありません。お隣さんなんです。
 二年程前に蓮子が私が住んでいるアパートの隣へ越してきたて、
 それ以降はこんな感じに私が料理を作ったり」

「その口ぶりだと蓮子は作らないみたいだな」

「えぇ、実際作りませんよ。蓮子は料理が苦手なんです。
 蓮子の料理って食べれなくは無いんですけど、美味しくもないんです」

「友人にしては厳しいな」

「友人だから厳しいんです。幸いなのは蓮子も自分の料理は美味しくないと自覚している事です。
 だから無理に料理してその後片付けを手伝わされるなんて事もありません」

「そういうの、私にも分かるよ」

肩を竦めて笑うと二人は調味料売り場へ向かい、
シチューのルーをカゴに入れ、その後はレジへと向かった。
途中絶えず会話が行き交い、大半は愚痴だった。

蓮子はすぐに部屋を散らかすだとか、霖之助はあまり食に興味がないだとか。
ただの愚痴だが、嫌味な部分は無い。
そういう部分を含めて互いに相手を認め合っているからか、自然と嫌な感じにはならない。

自動で会計を済ましてくれるレジを抜けた後、
マエリベリーは近くのドーナッツ屋に慧音を誘ったので、特にその後の用事が無い慧音はそれを快く承諾した。
昼下がりのドーナッツ屋はそれなりに賑わっていて、
やっと見つけた空きテーブルは、店の前に設けられたオープンスペースの端っこだった。

席に着くと、マエリベリーは慧音に飲み物とドーナッツの確認だけを取って店の中へと入って行き、
五分程すると山盛りのドーナッツをトレーにどっさり乗せて戻ってきた。

「そんなに頼んでいないぞ、マエリベリー」

「私の分ですよ、慧音さん。私ドーナッツって凄く好きなんです。
 まず形が面白くって、それから味も食感も素敵で」

「そんなに食べて大丈夫なのか? 夕食とか、体型とか」

「ドーナッツは別の場所に入るんです。
 きっと私には普通の食べ物を入れる胃袋と、
 ドーナッツだけを入れる胃袋があって、
 それが役割を分担しながら働いているんですよ」

「体型の方は?」

「私って太らない体質なんです。その代わり運動音痴なんですけどね。
 蓮子はよくその事で噛み付いてきます。不公平だって」

「けれどその蓮子は運動が出来たりするんだろう?」

「えぇ、蓮子はスポーツ万能ですよ。
 中学の時はバレー、高校の時はソフトボールをやっていたらしいですから。
 その他にも水泳だとか、卓球だとか、とにかく色々やっていたみたいです。
 これは本質的なものですね。だから私はちっとも不公平だと思いません。
 甘い思いをするか、フレッシュな思いをするかの違いでしょう、そういうのって?

「違いない」

ドーナッツの山からチョコレートドーナッツを手にとって、頬張るマエリベリーの表情は子供の様に無邪気だ。
初めて会った時の印象。同年代よりも落ち着いているという印象とはまた違ったマエリベリーの表情。
これもまた彼女の一面なのだろう。
まったく違った表情を見せても、不思議な部分がないというのが面白い。
彼女の言う本質的なものというのは多分こういう事なのだろう。

そう結論付けると慧音も自分の分のドーナッツに手を伸ばし、それを頬張った。
さっくりと軽いプレーンドーナッツの味と食感は素敵なものだ。

「最近何か映画は観たのか?」

ふと、あの日。
宮島へと向かうフェリーの上でマエリベリーが昔の映画を観るのが趣味だと言った事を思い出した。

「二つ観ましたよ」

「どんな映画だったんだ?」

「一つはアポロ計画……大昔に人を月へ送った時のお話です。
 まだ宇宙開発が実験と試行錯誤の繰り返しだった時代を描いた映画ですよ。
 ロケットを飛ばして、月へ辿り着くだけでも困難なのに、
 その途中で宇宙船にトラブルが発生してしまうんです」

「もう一つは?」

「もう一つの方は、刑務所のお話です。
 死刑囚を監視する看守と不思議な力を持った死刑囚が出会った事によって、
 小さな奇跡が生まれていって……」

「奇跡?」

「その死刑囚は手をかざすだけで生物の怪我や病気を治す事が出来るんです。
 死にかけのネズミを治したり、看守の持病を治したり。
 そうした中でその死刑囚と看守は交流を深めていくんです。
 けれど、死刑囚は死刑囚ですから」

「刑に処されてしまうんだな」

「そうです。とっても悲しいお話でした。
 二つとも毛色の違うお話でしたが両方共面白かったですよ。
 よかったら慧音さんも今度観てみます?」

「そうだな、私も観てみたい。
 丁度霖之助と何か映画を観たいと考えていたところだから」

「蓮子は昔の映画なんてちゃちくって退屈だって言いますけど、
 慧音さんと霖之助さんならきっと楽しめますよ。
 なんだかお二人って今の人じゃないみたいですから。
 これは失礼な意味じゃなくって、なんだろうな……そう、本質的な意味で」

「本質的な意味で」と慧音は小さく繰り返した。
今の人ではない、という言葉が胸に刺さり、一瞬ドキリとしたが、
裏表なく笑うマエリベリーの表情を見ていると、そこに他意がない事は明白だった。

本当にこのマエリベリー・ハーンという女性は素敵な笑顔を浮かべる。
何かの彫刻や、絵画的な笑顔ではなく、
単に魅力的という賛美がぴったり一致する笑顔。
どんな比喩や例えも当てはまらないその笑顔は、不思議と人を納得させる。

何処にあっても、何処にでもあう笑顔。
彼女の有り様を説明するにはこの言葉だけで十分だ。

「じゃあ今度、私の部屋で観ましょう。
 私はいつでもいいですから、そちらの都合が……」

その時、テーブルの上に置かれたマエリベリーの携帯電話がブルブルと震えだした。
「ごめんなさい」と断って、携帯電話を取ると、
先程まで興奮気味だった声色を押さえて「もしもし」と答えた。

「そうよ、夕食の買出しが終わって今ドーナッツ屋で休憩してるところ。
 あ、聞いて蓮子。なんと、今慧音さんと一緒に居るとこなの。
 慧音さんは覚えているわよね? うん、広島で一緒だった霖之助さんの奥さん。
 えっ……そっちもって、どういう事?」

話を聞いている限りだと、電話の相手は蓮子らしい。
最初の方は楽しそうに話していたが、後の方になるに連れて困惑した様子が見て取れた。
一体何を話しているのだろうか。

「うん、そう。写真を渡す為にね。
 驚いたわ、何だかとっても出来すぎた偶然だったから。
 それで……はい? 今夜飲みに行く? ちょっと、あんまりにも急すぎるわよ。
 夕飯の食材だって買っちゃったし。いや、明日にすればいいって問題じゃなくて。
 大体、蓮子はいつもいつも急で! って切れてるし……」

怒ったと思ったら、今度は急にがっくりと肩を落としてため息を付いた。
本当にどんな要件だったのだろうか。
飲みに行く、と言っていたところを見ると今夜蓮子とマエリベリーで飲みに行こうと言う話だろう。
それにしても、マエリベリーが口にした出来過ぎた偶然と言うのが気になる。

「すいません、慧音さん。何だか騒がしくしちゃって」

「いや、構わない。私も見てて楽しかったし」

「ありがとうございます。あの、蓮子なんですけど……どうやら霖之助さんと一緒に居るみたいです」

「霖之助と?」

この事柄に慧音は素直に驚いた。
マエリベリーと慧音が偶然出会ったように、蓮子と霖之助も偶然出会ったのだろうか。

「どうも旅行の写真を渡す予定で霖之助さんと待ち合わせてたみたいです。
 思い返してみれば昨日の夜、食事も摂らずに写真の現像をしていましたから。
 妙に急いでたみたいですけど、そういう事でした」

「そういえば霖之助も今日はお土産があると言っていたが、そういう事だったのか」

「それで、なんと今夜みんなで飲みに行こうって蓮子が言うんです。
 みんなって言うのは、私と蓮子、慧音さんと霖之助さんですよ。
 もう、急にそんな事言われてもこっちは夕飯のお買い物だって済ませた後なのに」

「いいじゃないか。食材も一日ぐらいならどうってことないだろう。
 蓮子はそうやって、楽しい事を見つけるのが好きなんだよきっと」

「楽しさにしか眼を向けていないんですよ、蓮子は」

「それでもマエリベリーは一緒に居るじゃないか」

「縁ですから。ちょっとやそっとでは切れないんですよ」

いつの間にか半分程度になっていたドーナッツの山から、クリームドーナッツを手に取って、
マエリベリーは少しでも気分を収めるために、半ば投げやりにそう言った。

「改めて聞きますけど、慧音さんはいいんですか今夜?」

「霖之助がいいなら私はそれで。
 向こうからそう言ってくるという事は霖之助も了承しての事だろう。
 だったら私はそれで構わない」

「そんな風に泳がせていると蓮子は調子に乗りますよ。
 嫌なら嫌と言ってくれて構いませんから」

「嫌じゃないって」

残りのドーナッツをアイスティーで流しこみ、慧音は空を見上げた。
相変わらずギラギラとした夏の日差しが、飽きもせず青空を泳いでいる。
何処で見ても変わらない空。
この空の続く場所に幻想郷があるのかどうかは定かではないが、
この空の続く場所に霖之助は確かに存在している。

慧音にとって唯一、誰にも代われない特別な存在が。

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