十四朗亭の出納帳

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十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
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新・霖雨と共に2

不定期で続ける慧阿霖過去話。
心なしか霖之助さんも若い感じ


『新・霖雨と共に2』



阿弥、文、霖









ここはいい場所だ。
自分に後ろ指を指す人間が居ないわけではないが、その数は以前居たところよりもずっと少ない。

本当にいい場所に来たものだ、と男は思う。
今まで居たどんな場所よりもここはいい場所だ。
この場所で彼は雨風をしのげる寝床を与えられ、衣食にも困らず、仕事の手配もしてもらえる。

そして何よりも嬉しかったのが、きちんとした名前を与えられたことだ。
いままで思い出すのも嫌になるような名前でしか呼ばれたことがなかったから、
今自分の手元にあるしっかりとした名前と言うのは新鮮で少し不慣れなものだ。

『霖』と言うのが彼に与えられた名前。
その名前はまだ彼の心に浅く埋めこまれているだけで完全に定着しては居なかったが、
それでもじきに根を張り彼のものとなるだろう。

今でも半信半疑だが、ようやく彼は安住の地と言うものを見つけられたようだ。
だがそれを意識の深い所で認知するにはまだ時間が掛かる。

今まで何度もそう思おうとして裏切られてきたのだ。
奪われ、蔑まれ、傷めつけられ、親しいと信じていた者達からの裏切りもあった。

長い時間を掛けて積み重ねられてきたそれらを完全に振り払うには、
まだこちらに来てからの時間が余りにも不足している。

だから確かめなければならない。
自分は本当にこの場所に居ていいのかどうかを。

「霖? どうしたーさっきから上の空で」

独りだけになっていた霖の意識はずずいと急激に元の世界へ引き戻された。
とっさに霖は声の主の顔を確認する。
それから軽くため息を一つついた。

「阿弥、僕を何処へ連れていこうと言うんだい。
 それにあまり遠くへ出ると慧音さんが怒るよ」

「いいさ、慧音先生も慣れっこだよ。
 それに霖と一緒に居たって言えば先生も怒らない。
 危険だから外へ行くなって言ってるのは俺一人だからだよ。
 大人の男である霖が一緒に居れば危険じゃないから大丈夫、大丈夫」

「その僕が危険な男かもしれない」

「またそれかよー霖は危険人物指定された訳?」

「そういうつもりは……うーん、言わんとしている事が伝わりづらいな」

「じゃあ無理に伝えなくていいんじゃないの」

霖の腕を引っ張って先に進もうとするのは、
霖がお世話になっている稗田家の現当主、稗田阿弥。

稗田家と言うのは少々特殊な家系で。
幻想郷の歴史や妖怪に関する記述を纏めるのを主な生業としているらしい。
その他にも写本の作成や、文字の読み書きを里の子供に教えたり。

そしてその稗田家に百年に一度特殊な能力を持った子供が生まれるらしい。
御阿礼の子と呼ばれるその子供達は一度見た事柄を忘れることがないという、特殊な能力を持っているそうだ。
更に普通の子どもよりずっと早く言葉を喋り、教えなくとも膨大な知識を有しているという。

断片的に慧音から聞いた話ではこんなところだ。
普通の子供にしては聡明過ぎるのでおかしいとは思っていたが、
彼女も慧音や自分と同じく特殊な性質をもった存在らしい。

「あぁ、教えておくとこれから向かう場所は中有の道って場所だ。
 三途の川の近くにあって、毎日露天が出てる賑やかな場所さ」

「賑やかって……三途の川の近くなんだろう? 物騷じゃないのかい」

「いや、俺みたいな生者もよく来てるよ。
 露天の兄ちゃんはちょっと怖い人達が多いけど基本的には気さくな連中ばっかりさ。
 慧音先生は近づくなって言うけど、部屋で本の執筆ばかりやってると気が滅入る」

「あまり慧音さんに心配をかけない方がいと思うよ。 
 彼女、君を自分の子供みたいに大切にしてるから」

「子供ねぇ……慧音先生結婚した事無いくせに」

「それに生きている者が三途の川だなんて縁起でもない」

「はは、いいんだよ。どうせすぐ渡る場所なんだし」

「何年後だと思っているんだ。少なくても君ぐらいの歳なら後四十年は掛かるぞ」

「はは、そうだな。うん、確かにそのくらいは掛かるよ普通な……」

その時背後で何かが地面に落ちる大きな音がした。
当然の反応として二人は音のした方向へ振り向く。

そこには背中に黒くて大きな羽を生やした少女が顔ごと地面に突っ伏していた。
白いワイシャツに羽と同じ色をした黒いスカート。
髪も同じように黒く、頂上に小さな赤い頭巾が乗っかっている。

「ぷっはー! カ、カメラ大丈夫かな。あ、良かった大丈夫だ。
 危ない危ない。まだ一回も記事を書いてないのにカメラを壊したら河童に怒られちゃうわ。
 よし、カメラも無事だったし引き続き御阿礼の子を追跡して……」

「追跡してどうするのお姉さん」

「決まってるじゃないですか! 記事にするんです記事に!
 御阿礼の子は美味しい特ダネなんです。
 でも普段はガードが硬くって中々生態を調べられないんですよねぇ~」

「そうなんだ。なぁ霖、俺特ダネになるんだってさ」

「よかったね阿弥」

「うん」

「えっ……な、なんとぉぉぉ!?」

顔を土埃で汚したまま絶叫する少女に近づいて阿弥は懐から取り出した手ぬぐいを差し出す。
土埃少女は驚いた顔のまま一応その手ぬぐいを受け取って顔に付いた土埃を拭う。

背中の羽からするにこの土埃少女は人間ではないだろう。
それどころか普通の妖怪ですら無い。
頭に乗った頭巾と立派な黒い羽。
もしかするとこの少女は……

「君、天狗なのかい?」

「あや? はい、私は天狗ですよ。
 って、何で答えてるんだろう私……」

「聞いたことあるな。天狗って確か瓦版を作るのが好きで、
 よくつまらないネタを瓦版にしては身内で楽しんでいるらしい」

「つまらないとは失礼ですね! いいですか? 天狗の瓦版は情報の塊なんです。
 アナタも文化人ならば情報の大切さが分かるでしょう。
 まさに情報は蜜! 知識を貪るものの栄養源と言えるでしょう」

「俺そんなに知識欲貪欲じゃないし。
 それに情報って言うのは濾過して煮詰めないと意味がねーの。
 天狗の新聞だなんて主観ダダ漏れのものはちょっと情報としてはどうかな」

阿弥は土埃少女から離れて霖の下に戻ると「さっさと行こう」と促した。
彼女に対してそれ程興味を抱いていないのか、心なし霖と初めて会った時より冷たくあしらっている印象を受ける。

やはり生まれの特殊さ故、幼い頃から大勢の興味に晒されてきた彼女にとって、
この土埃少女の様に興味だけで近づく者はつまらないものと映るのだろう。

「あやや! 待ってください! 是非とも取材をさせてくださいな!
 ほら、ここで会ったのも何かの縁。袖すり合うも他生の縁じゃないですか」

「えーアンタの服袖ないじゃん」

「言葉のあやです! あ、私の名前は射命丸文って言います」

「へぇ、アンタもあやって言うんだ」

奇しくも同じ名前。
妙な事もあると思ったが世の中は自分が思っているよりも広い。
暮らしていれば同じ名前の人物と知り合うことだってあるだろう。

「じゃあ早速取材の方を」

「ん、屋台の食べ物奢ってくれたらね」

「へっ?」

「あったりまえだろーお姉さんタダで取材しようだなんて甘いよ」

「あの、私あんまり持ち合わせが無いんですけど……」

「安心しなよ、屋台の食べ物ってそんな高くないから。 
 行こ霖。お姉さん奢ってくれるから何でも好きなの食べていいよ」

「あやぁぁぁ! うぅ、ついてるのか厄日なのか分かりません……」









マイペースに露天へと足を運んでは食べ物を注文し、
文に代金を払わせる阿弥を後ろからそっと追い、どんどん青い顔になってゆく文を宥める。
かれこれ半刻程こんな事を繰り返しているが一向に阿弥は取材を始める気配がない。

「あの、稗田さん何時になったら取材に応じてくれるんでしょうね」

「さぁ、彼女の気が向いたらと言うしか」

霖は文の奢りで買ってもらったどら焼きを頬張る。
焼き立てのふっくらした食感と温かさ。
それに甘さ控えめのあんこがたまらない一品だ。

「うぅ、稗田さんの取材なのにどうしてアナタにまで奢らなきゃ」

「阿弥の意志だからね。僕にはどうにも出来ないよ。
 良かったら少し分けようか」

「いりません。
 見てるだけだと普通の……少し変わっているけど普通の女の子だから、特にシャッターチャンスがないし。
 あーやー早く何かネタになるような事柄を聞き出さないと」

「何も無いと思うけどね。彼女には新聞の一面を飾るような性格じゃあない。
 話しを聞いたところで出来るのはただの対談記事さ。
 それよりも適当な姿をそのカメラで記憶して、勝手な文章を書けば記事にはなるとおもうよ」

「出来ませんよそんな詐欺師まがいの事。
 私は真実を伝えたいんです。他の天狗とは違って例え面白おかしくなくても真実を伝えたいんです」

文は知り合ってから初めて見せる真面目でまっすぐな眼をして霖にそう訴えた。
その意気込みに偽りはない。
快晴の青空みたいに遮るものがなく、澄んだ眼だ。

けれどもそんな眼をしているからこそ、霖はこの少女を理想主義者だと思う。
多分この少女の書いた新聞は流行らないだろうとも思う。
ただ真直ぐなだけで成功が掴める程、天狗の新聞業界は綺麗なものではないだろうし、
何より理想と言うのは高ければ高い程喰らいついてでもものにするという貪欲さが無くなる。

意地汚くとも最後まで喰らいついていた者が勝利をおさめる世の中だ。
自分の身を汚さずに栄光を勝ち取ろうなどというのは都合のいい話に違いない。

「そういえばどうしてこのカメラが物事を写しとる機械だと分かったんですか?
 ついでにこのカメラの名称も。
 人里には出回ってない代物ですし、外の世界でもそんなに知られた機械でもない筈ですよ」

「そう見えたからね、僕の眼が」

「眼が……そういう能力ですか?」

「そうだよ。そういう能力。
 僕の眼は道具の名称と用途が分かる眼なんだ。
 だから君のそのカメラもなんて名前で、どういう用途なのか分かる。
 けどそれしか分からない。どうやって使うのか、そして君がどんな使い方をしているのかもね」

「へー言うと悪い気がしますが何だか中途半端」

「まぁ、半端者って意味では僕にうってつけさ」

どら焼きの残りを口に放り込んで霖は少し歩みの早い阿弥の後に続く。
文もその後ろに続いて歩く速度を上げた。

「何だかアナタの言葉や眼って冷たい気がします。
 アナタがどんな生活をしているかは知りませんが、
 稗田家に住んでいるのなら、それなりに良い待遇なのでしょう。
 なのにどうしてそんな冷たく世界を見ているのですか」

「冷たいか。そんな自覚は無かったんだけどね。
 他人にそう言われるのならそんな目をしているんだろう。
 さて、いい加減話す相手を僕から阿弥に変更したほうがいいんじゃないか」

「そうしたい気持ちは山々ですよ。でも稗田さんと話が出来たと思ったら大体屋台の支払いについてだし。
 まいったなぁ、余り長い期間待てないから今日を選んだのに」

「待てないって、別に阿弥の仕事が片付いて彼女が人間として落ち着いてからでも遅くはないだろう。
 阿弥の老後に当時の話を振り返って語ってもらうとかさ。
 人間が年を取るまで待つなんて妖怪にしてみれば短い時間だろう」

「待てませんよ、私がじゃなくて稗田さんが。
 彼女がこうして口をきける時間が後どれだけ残っているか……」

「おいお姉さん」

先程まで二人の会話に無関心だった阿弥が会話に割り込んできた。
その言葉は心なしか気が立っているように思える。
阿弥はゆっくりと振り返ると真っ直ぐに文の瞳を睨みつけた。

「取材したいんだろ。もう屋台巡りにも飽きたし受けてやるよ」

「ホントですか! ふふーん、そうでないと」

脳天気に嬉しそうな声を上げて笑う文を見ながら、霖は阿弥の今までと違った態度を不思議に思う。
まだ短い期間とは言え同じ屋根の下で暮らしているのだ、僅かな表情の動きぐらいは分かる。

「ではまず好きな食べ物から。あ、飲み物でも結構ですよ」

「緑茶と羊羹」

「渋い趣味ですね。では次。
 日々の日課は?」

「昼寝と長風呂」

「あやー結構のんびりとした日課なんですね。
 では次。好きな事と嫌いな事は?」

「好きなのは珍しい話を聴く事。嫌いなのは長ったらしい説教」

「流石御阿礼の子だけあって珍しい話に対する興味は常に持っていると言う訳ですね。
 ではでは……」

「あのさーお姉さん。これ本当に新聞の取材?
 なんか普通に俺の個人的な話をしてるだけだと思うんだけど」

「えっ、そうですか?」

「そうそう、なんて言うかこんなんで本当に記事になる訳?」

きょとんとした表情の文に阿弥が追求する。
霖も取材というものがどんなものかは知らないがこれが新聞の取材と言われると首を傾げてしまう。

「あの、新聞の取材ってどんな感じなんですか?」

「はぁ?」

「いや、だから新聞の取材ってどんな感じなのかなーっと思いまして……
 私……私その、実は取材とか初めてで……」

「初めてで実験台を俺にしようって事?」

「そうじゃないんです! それは断じて違います。
 ほら、初めて新聞を出すんだからとっておきのネタを書いてみんなの注目を集めようかなって。
 そしたら今後も私の新聞を見てくれると思うんですよ」

「あーうん、いいと思うよ俺は。はぁ……」

「それでは続きいいですか?」

「どうぞご勝手に」

「では、阿弥さんは求聞史紀を纏めた後。つまりは残りの寿命をどう過ごすおつもりですか?
 御阿礼の子は代々短命だと聞きます。歴代御阿礼の子は結婚した者も居れば自ら命を絶った者も居るらしいですね。
 阿弥さんは求聞史紀の作業が終わったらやりたい事等があるんですか?」

霖はその時文の質問を飲み込むのにいくらか時間が必要だった。
今彼女の言った言葉「御阿礼の子は代々短命」が酷く飲み込みづらい。

阿弥が変に文の言葉を遮ったりしていたのはこの為だったと霖は理解した。
言葉にする事でそれを強く自覚してしまうからか。
それとも霖にその事実を知られたくなかったからか。
そのどちらなのかは霖には分からない。

阿弥が俯いてしまって何も答えないからだ。

「阿弥?」

霖之助我不穏な空気を押しのけて阿弥に尋ねる。

「阿弥、答えたくないのなら別に答える必要はないんじゃないかな」

「別に、そんな訳じゃ……お姉さん、その質問の答えだけど俺は特に何も考えていないよ」

「何も考えていないですか?」

「そう、俺の役割が終わって自由の身になった時どうするかなんて考えてない。
 考えても仕方のない事だと思っているから」

「どうしてそんな風に?」

阿弥は答えなかった。
代わりに「ちょっと今日はもう話す気になれないから今日はここまで」と言って取材はこれまでとなった。
文は余りにも急に取材終了宣言を付きつけられ唖然としていたが、その理由が霖には何となく分かる。
彼女は阿弥の聞かれたくない部分に深入りしすぎてしまったのだ。
誰だって心の不可侵領域と言うものは少なからず存在する。
そして大抵の人はそれが侵されるのを嫌う。

霖だってそういった心の領域は存在するし慧音にも文にも存在するだろう。
問題なのはお互いがお互いのそういった領域をおおっぴらにすることができないと言う点にある。
自己紹介をする時に好きな食べ物、嫌いな食べ物について話すことは有っても、
自分の抱えているほの暗い部分を話すことなんて皆無に等しい。

話すだけでもその部分に触れてしまうからだ。

「取材なら都合がいい時にまた受けてあげるからさ、だからまた今度な」

「えぇ、私は構いませんけど。その、もしかして私気に触るような質問しましたか?
 気を悪くされたのなら謝りたいのですが……」

「そんなんじゃないって。行こう霖。またね、ひよっこ記者の姉ちゃん」

「ひよっこ言わないでください! 
 と言いたいところですが確かに私はまだまだ駆け出し記者ですから、そう言われるのも仕方有りませんね」

「次はもっと取材らしい取材を頼む。それまで他の天狗からは取材を受けないからさ」

阿弥は右手で霖の袖を握って左手では文に腕を振り別れの挨拶を交わす。
霖之助も小さく腕を振って挨拶をした。

文は軽く地面を蹴ると羽ばたいてあっという間に上昇するとすぐに見えなくなった。
中有の道から外れたこの場所には霖と阿弥の二人っきりが残り、
何だか急に騒がしさとは切り離された別世界に来たように思えた。

「霖、聞いてたか?」

不意に阿弥が霖に尋ねる。
霖は「何が?」と聞き返した。
本当は聞き返さなくても彼女の質問の意味を分かっている。
分かっていて霖は聞き返した。そうしないと彼女の口から直接その内容を聞けない。

「俺の寿命の話」

「聞くも聞かないもすぐ側に居たからね。嫌でも耳に入るさ」

「そっか……それで霖はその事について何か感じた?」

「正直言うと驚いた。君は元気な子供だから、人よりも早く逝ってしまうなんて思いもしなくてね。
 けれどそれだけ。僕がこの事実に対して抱いた感情は驚いたという感情だけ」

「本当に? 本当に他の事は何も感じなかったんだな?」

「あぁ、早く死のうが遅く死のうが君は君だ。
 それにその口ぶりだと同情して欲しいなんて思っているわけじゃない。
 むしろ君は他人にそんな感情を抱いて欲しくないとさえ感じている」

「何でそんな事まで分かるのさ? 俺はまだ何も話してないぞ」

「僕は君の何倍も人の顔色を気に掛けて生きてきた。
 だから言葉の発音や表情だけで大まかな感情ぐらい理解できる。
 君が不安に思っていたのは寿命の事で僕が君に遠慮するんじゃないか。
 君への態度が同情混じりの態度になるんじゃないかって事だろう?」

すっぱりと霖は言い切る。
阿弥はしばらく頭を強く殴られた時みたいに唖然とした表情を浮かべていたが、
すぐに白い歯を見せてニカっと笑うと霖の少し前を歩き始めた。
霖もそれに続く。

「そうだよ、俺は霖までそんな感情を抱いて欲しくなかった。
 だから俺は寿命の事を聞かれまいと思っていたんだ。
 何せこの話を聞いた大人はみんな俺を可哀想な目で見るから。
 けどこれで二人目だ。俺をそんな目で見なかったのは。
 慧音先生が一人目で、二人目が霖」

大切な宝物を秘密の隠し場所へしまうみたいに阿弥はその言葉を自分に言い聞かせた。
霖には後ろ姿しか見えなかったがきっと今の阿弥は笑っているのだろう。
阿弥の背中に続いて霖もゆっくりと歩き出した。

確かに半妖と人間の、それも寿命がうんと短い人間の歩幅は違う。
けれどもこうしてお互いに相手を考える事が出来るのなら、その違う歩幅でも同じペースで歩けるのではないだろうか。
霖はそんな風に思う。こんな自分でさえ受け入れてくれた土地でそんな事を思う。

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