十四朗亭の出納帳

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十四朗

Author:十四朗
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ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
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四畳半慧霖-旅行編2-

少女が霖之助と一緒に外の世界に行くとしたら、どんな生活になるだろう。

以上テンプレ略。

前回の旅行編の続き。
舞台になった宮島の描写は割と適当です。
なにせ行ったのが何年も前なのでよく覚えてない。
一応最近行った人にも話を聞いたりしましたけど。

この時代の観光地は観光地らしさを出すために結構ローテクなものが残ってそうな印象。


『四畳半慧霖-旅行編2-』

慧音、霖之助、蓮子、メリー











その日慧音は初めて海を見た。

初めて観た海は太陽の光がギラギラと反射していて、奥に行けば行く程輝いて見えた。
岸に近い方は空の色にも似た青色で、波打ち際まで押し寄せては白い泡になって崩れた。
列車の窓一枚隔てたその先に未知の光景が広がっている。
思わず慧音は窓へ張り付いて外の光景を凝視してしまった。

写真で見たことはある。
こっちの世界に来てからはテレビでも見たことがある。

けれども実際に自分の目で見るというのはまた別のものだった。

なんて広くて、そして心を掻き乱すものなのだろう。
その内慧音は一番遠くで空と海が交わる場所。
水平線を指でなぞっていた。

左端から右端へ。
ゆっくりと列車の窓に指を当ててなぞる。

そこでやっと慧音は同席している霖之助と蓮子とマエリベリーの視線に気づいた。
霖之助の方はまぁ仕方がないなという様な表情だったが、
蓮子とマエリベリーの方は少々怪訝な表情をしていた。

慧音は慌てて座席へと腰を降ろす。
そして二人に「いや、海が珍しくて。その……内陸の育ちだから見たことがないんだ」
と言って取り繕った。

口でそういったあとも慧音は視線で窓の外を見るのを止めなかった。

「そう言えば二人とも向こうに着いてからの予定は?」

妙な空気に居心地を悪くしてか蓮子が口を開いた。

「いや、特には。大きな目標としては厳島神社があるけれど、
 それを観終わった後の予定は特にないね」

「ほうほう。随分と簡素な予定ですね」

「元々それを観たいがための旅行だったから。
 一応向こうのことは調べたが、
 紹介されているものが多すぎて何処を回ればいいのかよく分からなくってね」

「あ、じゃあ私達と一緒に回らない? 私達も厳格な予定が有るわけじゃないから」

「蓮子、いい加減図々しい発言に目を瞑るのも疲れたわよ。
 ほんとにもう、アナタって……」

「いや構わないよ、僕の方は。慧音はどうだい?」

「私も構わない。何だか見知らぬ土地に二人っきりで居ると何もしないまま終わりそうだ。
 だから引っ張ってくれる人物が居ると助かる」

「わぁ、やった! ねぇメリー二人ともいいって」

「はぁ……すいませんお二人共」

マエリベリーはそう言っているが慧音は安心していた。
日常生活でもどうやって声を掛けようか迷う程なのに、
旅行先で霖之助と会話が続く訳がない。

海が見えなくなると慧音の気分も比較的落ち着いて、
そこからは平凡な会話が続いた。

そう言えば宮島に行く為には短い時間だが連絡用のフェリーに乗らなくてはいけないはずだ。
また海が見れる。それも今度は大きな船の上から。

旅の楽しみを着実に見つけていることを嬉しく思いながら、
慧音は蓮子やマエリベリーと会話を交わし少しずつ打ち解けていった。









広島に到着し、新幹線を降りてからは、
幾つか電車の乗換をして真っ直ぐフェリー乗り場へと向かった。

フェリー乗り場に継いたのは昼過ぎ。
出た時間が早かったので宿に到着しても荷物だけ置いて観光が出来そうだ。

そんなに急ぐ必要も無かったが、旅先で出来るだけ長い時間を過ごしたいという霖之助の意向でこうなった。
宿のチェックイン時間も早めに設定してある。

蓮子とマエリベリーとは流石に宿まで同じではなかったが、
調べてみると近くの宿だったので集合するには都合が良かった。

四人分のチケットを買い、フェリーに乗り込む。
ここまで来ると、あの時心を揺さぶられた海は嫌でも目に入った。

磯の香りを含んだ潮風が慧音の髪を弄ぶ。
蓮子とメリーは帽子を飛ばされまいと風が吹く度に片手で抑えていたが、
その内面倒になったのか、肩にかけている大きな旅行鞄に帽子を入れてしまった。

搭乗の時間が来て、慧音は霖之助に手を引かれて船に乗り込んだ。
あんなに速い列車に乗ったのは初めてだったが、こんなに大きな舟に乗るのも初めてだった。

乗客は慧音達の他に何人かが乗っただけで船内はがらんとしていた。
船が動き出すまでは大人しく船の中に居たのだが、
船が動き出し海面を滑りだすと我慢できずにデッキへ出た。

霖之助と蓮子は喫煙ルームへ行ったので着いてこなかったが、
代わりにメリーが同行した。

先程よりも強い風が慧音の髪を弄ぶ。
こんな事なら後ろに束ねておけば良かったのかもしれない。

風の中二人は一番見晴らしのいい最上階へと登り、そこから海の景色を眺めた。
背後には先程まで自分達が居たフェリー乗り場。正面には目的地である宮島が見える。

列車の窓から見た時と同じ様に海面は夏の日差しを受けて輝いていた。
そしてやはり遠くの方は空と海が一つになっていて、どこまでも続いている。

慧音は手すりに手を掛けゆっくりと視線を左右へ移動させた。

「本当に海は初めてなんですか?」

「あぁ、恥ずかしい話だが。色々有って故郷からは出たことがないんだ」

「だったら一目惚れですね」

「違いない。とっても素敵だったから」

綺麗な金髪をかきあげ、マエリベリーは慧音の隣で同じ様に手すりへ手を掛けた。
何だろう、彼女は何処か変わっている。

別に人格が変わっているという訳ではない。
むしろ同じ年代の若者に比べれば随分としっかりしている方だろう。
おおらかな人柄だし、礼節を弁えて相手に不快感のない言葉を選んで喋る。

慧音が疑問に思ったのはそこだった。
つまり慧音はマエリベリー・ハーンがそうして他人に不快感を与えない様な言葉を態々選んで喋ることを疑問に思った。

何故だかは分からない。
彼女とは間違いなく初対面のはずだ。
それに慧音は彼女に不愉快な感情を抱いている訳ではない。

とにかくこんな事は出来るだけ考えたくない。
せっかくの旅行仲間を理由も無しに疑うのは酷い事だ。

「私は海が少し怖いです。今こうしている時でも。
 幼い頃、よく父に昔の映画を観せられたんです。
 あ、父はそういった昔の映画を集めるのが趣味なんです。
 それで、その中でも特に船が沈没してしまう映画が印象に残っていたんです。
 何百もの人が次々に沈没する船から海に飛び降りて。
 中には船諸共沈んだ人も居ました。
 幼い私にはそれが怖くて怖くて……」

「幼い頃の経験は大半が忘れてしまうのだが、中にはそうして何時までも残り続けるものもあるからな」

「その通りです。他の映画は内容なんて忘れてしまったのに、それだけが深く心に残って。
 だから私は海を見ると飲み込まれそうになるんです。
 そんなに激しい感情じゃないんですけど、頭の片隅でふとそんな事を思ったり。
 ほら海って大きいから何でも飲み込んじゃうじゃないですか。
 それってとっても残酷な事に思えて」

メリーは自嘲気味笑って、再び髪を掻き上げる。
そう言えば慧音は映画というものを観たことが無かった。
一度そういうものを見てみるのもいいかもしれない。

霖之助に頼めば連れていってくれるだろうか。
その前に自分は霖之助に「映画を見に行こう」と誘えるだろうか。
多分とんでもなく苦戦しそうだ。

「でも、船が沈むという時に甲板で最期の演奏会を始めた音楽団のシーンは好きかな」

「嫌々見ていたような口ぶりだったが、そういうマエリベリー自身結構映画が好きなんじゃないか?」

「うーんでしょうね。言われてみれば確かにそうかも。
 昔観た映画はもう殆ど覚えていないけど、
 最近になって私も昔の映画を見始めたし、結局は父の影響かも」

「不愉快じゃないんだろう」

「えぇ、昔は嫌っていたのに不思議なものですよ」









フェリーが宮島に到着すると四人はまずそれぞれの宿泊先に向い荷物を置くことにした。
旅館のフロントでチェックインを済まし、
荷物を置いてすぐ出かけたいと言う意向を伝えると、
荷物の方は旅館側が部屋に運んでおくのでフロントに預ければいいと言われた。

身軽になった状態で先程フェリーから降りた場所まで向かう。
フェリー乗り場に着くと先に蓮子とマエリベリーが待っていた。

「待たせたかな?」

「いや全然。私達の方がホテルに近かっただけだから待ったって程のものでもないわよ」

「そうかい。じゃあ最初はやはり……」

「あ、ちょっと待って。どうせ厳島神社へ行こうって言おうとしたんでしょ?」

「そうだけど何か?」

「やっぱりメインディッシュは後に取っておきましょうよ。
 神社以外にもロープウェーとか水族館とか色々あるし」

「ロープウェーに乗りたいの蓮子?
 揺れるし遅いし、あんなアナログな乗り物に態々乗らなくてももっといいのが……」

「だーめ。一回乗ってみたかったのよねー空中綱渡りって感じでさ面白そうじゃない」

「アレって綱渡りって言うのかしら……」

蓮子の言った水族館という単語が気になった。
知識として水族館がどんなものかは知っている。
確か海に住む魚や動物を飼育して、展示している施設だ。

今までの慧音なら強く興味を惹かれるということはなかったが、
海を観た後だとそういった施設には引き寄せられるものがある。

「水族館か。私は行ってみたいな」

「ん、じゃあ最初は水族館からにする?
 あーまさか慧音さん水族館も初めてだったりしてー」

「は、はは……まさか」

図星だったので思わず乾いた笑いを浮かべてしまった。
今頃向こうにはよっぽど世の中を知らない女だと思われているだろう。

「じゃあ水族館に行って、次にロープウェー。最期に厳島神社ね。
 昼食は移動しながらよさそうな場所を探しましょう。
 はいみんな意義は?」

全員が「異議なし」と頷いた。
やはり彼女達と一緒に行動するのは間違いではなかったようだ。
霖之助と二人っきりだったらここまで行動的な計画は持ち上がらなかっただろう。

先頭にたって歩き出した蓮子にマエリベリー、霖之助、慧音の順で続く。
途中広島焼きの店によって腹ごしらえをした以外は特に寄り道することなく真っ直ぐ水族館へ向かった。










「霖之助! これはイソギンチャクだそうだ!」

「分かった、分かったからそうグイグイ引っ張らないでくれよ。
 ふむ、写真で見るよりもずっと柔らかそうで面白い動きをしているね」

水族館に到着してから慧音は大はしゃぎだった。
彼女にとっては見る生き物全てが珍しく、興味惹かれるものだった。

写真でしか見たことのない目の前で生物が動きまわっているのを見れば無理も無いのだろうか。
霖之助も出来るだけ彼女に温度を合わせて喜んだり珍しがったりしたが、
霖之助が一番珍しがっている事は慧音の態度だった。

こっちに来てからすっかり静かな女性となってしまった慧音がまた幻想郷に居た頃のように賑やかな笑顔を浮かべて、はしゃぎまわっている。

彼女のあんな表情しばらく忘れていた。
そうだ、霖之助はあの笑顔が好きだった。
時々里に出向くと子供達に囲まれた慧音があんな表情をして子供の相手をしている。

泣いたり怒ったり落ち込んだり。
いろんな表情があるが、やはり霖之助はこの笑顔が一番好きだ。

「慧音さん、霖之助さん待ってってばぁー二人とも進むの速すぎ」

「すまない。慧音が興味が湧いたものにすぐ近づいていくものだから」

「あーだってほら、珍しいものだからつい。
 このウミウシって生き物可愛いぞ?」

「いや、そういう問題じゃなくってね慧音」

「ウミウシって可愛いものかしら?……」

いまいち興奮気味の慧音と温度差があるせいか話が噛み合わない。
蓮子は後ろで「ねぇメリー、ウミウシって可愛い?」等と聞いている。
正直霖之助には余り可愛いと思えなかった。
毒々しい色をした巨大ナメクジにしか見えない。

彼女の笑顔を取り戻すと言う望みは叶ったが、
興奮気味で少々奔放になている慧音をどう制しようかという悩みが浮上してきた。
元気なのはいいことだが、元気すぎる慧音というのも考えようだ。

「おぉ、このエイって生き物も可愛いな」

「うん、可愛いんじゃないかな」

「ねぇメリー、エイって可愛い……」

「本人が可愛いって言ってるんだから可愛いのよきっと」

慧音がまた可愛いと言ったエイと呼ばれる生き物はこれまた可愛くなかった。
平たい体に尖った尻尾が突き出ているだけの妙な生き物だ。
目と思われる器官が前方に付いていて何だかまの抜けた面をしている。

それなりに彼女の事は理解していたつもりだったが、
やはりつもりはつもりだったらしい。
まだ慧音のことについて霖之助が知らない事は多そうだ。

その後大きな水槽に入ったアザラシなどを鑑賞して水族館を後にした。
蓮子とマエリベリーはアザラシのことを可愛いと言ってはしゃいでいたが、
慧音は「普通かな」と言って特に興味がある訳でもなさそうだった。
ますます分からない。
ちなみに霖之助はアザラシの事を可愛いと思った。

水族館から出るとロープウェー乗り場に向かうがてら、近くの屋台で売っていたアイスを買った。
霖之助は抹茶、慧音はバニラ、蓮子とマエリベリーはチョコレート。
夏の日差しが直に当たるので冷たい食べ物は有難かった。

途中慧音と一口だけアイスを交換したり、
宮島の昔話などをしていたのでロープウェー乗り場に着くまで退屈はしなかった。

ロープウェー乗り場は山の中にあって、シーズンオフのこの時期他の観光客は殆ど居なかった。 
マエリベリー曰くシーズンでも余りこのロープウェーに乗る人は居ないという。
景観の為に残してあるそうで、人が乗っていなくとも一応は動いている。

窓口は無人で人数を指定しお金を払うだけで入場が出来た。
(と言ってもこの世界ではほぼ全ての乗り物は無人で運行するし、窓口も無人だが)
入場して乗り場でしばらく待っていると無人の搬器がやって来て、四人の前で停まった。

古ぼけた外見の搬器はところどころ傷が付いていて、塗装も剥げている。
四人が乗り込むと不安定な搬器はぐらぐらと揺れた。

「わぁ、やっぱり噂通り揺れるわねーうりうり」

「ちょっと蓮子わざと揺らさないでよ。落ちたらどうするのよ」

「大丈夫大丈夫、落ちないって。整備はしっかりしてるんでしょ?」

「そうだけど……」

ロープウェーに乗る事を希望していた蓮子は大はしゃぎだ。
メリーの制止も聞かずに窓から外を見て喜んでいる。

一方の慧音は余り元気がなかった。
あんなに海が見れたと言って喜んでいたのに、
今では窓の外に見える海に目もくれず、座席に座ったまま俯いていた。

霖之助は慧音の隣に腰掛け彼女の様子を伺う。

「どうしたんだい慧音?」

「いや、その……ほらこの乗り物宙ぶらりんだろう?」

「まぁ、そうなるね。ワイヤーにアームだけでぶら下がっている訳だし」

「そ、そんなんで大丈夫なのかなぁって」

「……慧音向こうに居た頃は日常的に飛んでいたじゃないか」

「だ、だけどこっちでは飛べないんだぞ!? これがもし落ちたら……」

霖之助も高い場所から下を見下ろすと不安な気持ちになるが、
彼女みたいにロープウェーで怯えたりはしない。

日々の凛とした態度が嘘の様に怯えているのでそれが可笑しくて霖之助も軽く搬器を揺らしてみる。

「うぉ!? おぉぉぉ! 落ちる! 落ちる!」

悲鳴をあげながら霖之助に縋りつく慧音の反応が面白く、
霖之助の方もつい揺れを強くしてみる。

「や、やめろ霖之助! やめろってば!」

気づけば慧音は半べそをかいて霖之助に懇願していた。
さすがにいたたまれなくなった霖之助は揺らすのを止め、慧音を宥める。

「悪かったね慧音。ほら、僕も調子に乗りすぎた」

「霖之助ぇ……この、この馬鹿者が!」

「悪かった、本当に悪かった慧音。余り動くとまた揺れるよ」

半べそのまま霖之助の頬を抓ろうとする慧音を必死に押さえつけながら、
謝罪をするがまったく効果がなく、慧音はさらに激しく霖之助に詰め寄った。

「甘いわメリー。甘いわよ」

「甘いね蓮子。甘過ぎるわよ」

傍で見ている二人は呆れたような眼差しを向けるだけで一向に止めようとしない。
一緒に居るのだからこういう時に助けてくれるとありがたいのだが、
余り大きな声で助けて欲しいとは言えなかった。









ロープウェーが山頂付近に到着してもまだ慧音の機嫌は直らなかった。
さっきから声を掛けているのに霖之助には視線さえも返してくれない。

地図によると山頂には展望台があるらしく、そこに通じる山道を四人で歩いた。
山道は石畳になっていて道端には幾つもの地蔵が鎮座していた。
空は木々に遮られて良く見えなかったが、
丁度いい具合に日差しを遮ってくれて涼しい。
頭を冷やすには丁度いい小休止と言ったところか。

「カンカンですね慧音さん」

見かねた蓮子が霖之助に話しかけてきた。

「いや参ったねホントに。
 あそこまで怒るとは思わなかった」

「慧音さんがあそこまで怒るのは珍しい事なの?」

「割とね。こっちに来てから……結婚してからは初めてかもしれない」

「あらまぁ。そりゃ大事ね」

「どうすればいいと思う?」

「食べ物の好き嫌いは特に無い蓮子さんでも流石に夫婦喧嘩は食べられないわよ。
 自分の奥さんだし自分で機嫌を取らないと」

「やっぱりね」

「あ、でもこの先の景色を見たら気分が変わるかも。
 慧音さん海好きなんでしょ?」

「海が好きというか、今日好きになったというか」

「だったら安心よ。どーんと蓮子さんの言葉に乗っかりなさいな」

やや半信半疑で霖之助は歩みを進める。
前方ではマエリベリーと慧音が宮島の鹿について話をしているのが耳に入った。
どうやら彼女は蓮子よりもマエリベリーの方と良く気が合うらしい。

「ほら霖之助さん、展望台が見えたわよ」

俯き加減で歩いていた霖之助は蓮子の呼びかけで顔を上げた。
薄暗い木陰から火に照らされた展望台に目をやると目がクラクラとして視界がぼやけたがすぐに鮮明な景色が目に飛び込んできた。

視界に映ったものは海。
しかもそれだけではない。
近くの山々のうねりから、海に浮かぶ小さな島まではっきりと見える。
周辺に自分達よりも背の高い建物や山はなく、天から海を見下ろしている気分だった。

霖之助は慧音の方へと目をやる。
慧音は口を大きく開けて景色をただ呆然と見つめていた。
初めてづくしの彼女にはさぞ魅力的な光景に思えただろう。

「ねぇ二人とも写真とるから並んでみてよ。さぁ早く早く」

慧音に声を掛けようとしたところで蓮子が割って入る。
ただその声は二人の邪魔をしている訳ではない。

さっきは自分で機嫌を取れと言っていた癖に、いざこうなると世話を焼いてくるとは。
案外彼女はお節介焼きなのかもしれない。

霖之助は蓮子に言われた通り慧音の手を引いて背景が海になるように二人で並んだ。
慧音の方も特に抵抗はなかった。

「うーん、もうちょっとこう夫婦らしくさー
 あ、そうだ霖之助さん慧音さんの肩に手を回してみてよ」

「何を言うんだ君は」

「いいから手を回す!」

溜息をつきながらも霖之助は慧音の肩に手を回して、寄り添う形を取ってみせた。
慧音は恥ずかしそうに体を震わせたが蓮子はご満悦の様子だった。

「笑ってー」と言う声の後蓮子が手に持ったカメラのシャッターを切る。
霖之助は出来るだけ自然な笑みを浮かべていたが、慧音の方は少し顔を赤らめて恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。









下りのロープウェーに乗り、厳島神社に到着する頃。
霖之助は慧音と何とか自然に会話が出来るまで持ち直していた。
とりあえず一休みしてから神社を見学しようと言う事になったので、
土産屋兼茶屋の店先に置かれた長椅子に腰掛けながら、
一行はもみじ饅頭と淹れたての緑茶を堪能していた。

「やっぱりロープウェーとは言えそこに到るまでの道程と降りてからの山道で結構歩いたわね。
 何だか疲れたわ」

「蓮子運動不足じゃないの? と言ってる私も疲れてるけど」

「現代人の運動不足問題がこんな所で響いてくるとは。 
 ねぇ、霖之助さん達は大丈夫?」

「あぁ、あれぐらいならなんともないよ。
 普段よくある歩くしね。仕事柄重い荷物も一人で持ち上げなきゃいけないし」

「あー霖之助さん意外とタフなのね。
 一見優男だけど実は逞しいって何だか素敵な要素」

「流石に本格的なトレーニングをしている人物には敵わないよ」

「なんだ、二の腕に慧音さんぶら下げてグルグルが出来ると思ったのに」

自分と慧音のそんな姿を想像してみたが、具体的な光景が見えてこないので止めた。
霖之助の隣にいる慧音は静かにお茶を啜っているが、
話自体は当然聴こえているようで、霖之助と同じくよく分からないといった表情をしていた。

「ん、何だろうあの人集り」

「何、どしたのメリー?」

「ほら、神社の方。何だか人集りが出来てるじゃない」

「あ、本当だ」

マエリベリーの指さした方向へ霖之助も目線をやる。
彼女の言う通り確かに神社の方で人集りが出来ていた。
何かの行事だろうか。

「人集りが出来ている場所には行くのが礼儀。ちょっと行ってくるわねー!」

長椅子に饅頭の料金を置くと蓮子は一目散に駆け出した。
ちなみにお茶はもみじ饅頭をかったお客へのサービスなので料金を取られない。
次に呼び止めようとしたマエリベリーも同じ様にお代を置いてメリーを追った。

「忙しがないな。と言いたいが僕もあれは気になるな」

「勿論行くんだろう?」

「あの二人と別行動をするのは得策じゃないしね」

慧音と霖之助もお代を置いて二人の後を追う。
二人は少し行った場所で人集りの中に紛れていた。
霖之助は人集りの中に割って入り、二人に声をかける。

「何の騒ぎなんだい?」

「結婚式ですよ霖之助さん。ほら、先頭に宮司さんが居て後に新郎さんと新婦さんが続いているでしょう?」

マエリベリーの指さした方向には確かに宮司と紋付袴を着た新郎に白い花嫁姿の新婦が居た。
盛大な祝の中で新郎と新婦は恥ずかしそうに笑いながらもその表情は幸せに満ちていた。

「世界遺産で結婚式か……何だか壮大ね」

「蓮子はああいうのに憧れちゃうタイプ?」

「うーん、凄いなとは思うけどちょっと恥ずかしいかな。
 そう言えば霖之助さん達の結婚式はどんなだったの?」

蓮子の一言は何気ないものだったかもしれないが、
霖之助に取ってその質問は非常に答えづらい質問だった。

何せ夫婦という形だけだから結婚式なんてものは行っていない。
式の事を聞かれるなんて思いもしていなかったから、この質問は完全な不意打ちだ。

「そうだね、実を言うと僕達は式を挙げていないんだ」

黙ってしまうのも変なので正直に打ち明けた。
理由はこっちへ引っ越す為の準備や店の事で忙しく式を挙げている暇がなかったということにした。

「そうだったんだ……ごめんなさい配慮に足りない質問をして」

「いや、配慮も何も普通は式を挙げていないなんて思いもしないから別に構わないよ」

申し訳なさそうな表情をしている蓮子に霖之助はそう言った。
とりあえず怪しまれずにこの話題を横に流せればそれで良かったので、
変に拗らせずにこの話題を終わらせる。

それからしばらく結婚式の一団を見つめた。
ゆっくりと神社の方に入っていって、見学しようとする人達はそれに続いた。
霖之助達は後を追わずに入口付近で見えなくなるまで佇んでいた。

神社のある入江に押し寄せる波の音が頭の中に反響する。
一団がいなくなった後は殆ど霖之助達だけしか居なかったので、昼間の入江にしばしの沈黙が訪れた。
慧音は何も喋らない。
彼女なりに何か感じるものでもあったのだろうか。

その後誰が言うでもなく一行は神社の見学をし、
見学が終わると解散してそれぞれの宿に向かった。

慧音が無言になったのはその時だけで、
神社の見学中や蓮子達と別れた後も特に変わった様子もなかった。









旅館に着いてからはあっという間だった。
案内されるがままに部屋に行き、
少しゆっくりした後に食事が始まり、食事の後には風呂に入った。

蓮子とマエリベリーが居なくなった事でお互いに口数は減ってしまったが、
慧音が懸念していた「全く喋らなくなる」と言う状況にはならなかった。
二人で今日の出来事を語り合い、普段よりもずっと豪勢な食事に舌鼓を打つ。
流れる空気は穏やかでとても心地が良い。

いつものように日常生活を送る中で浮かんでくる不自然な思案は全くなかった。
それどころかいつになく自然な態度で霖之助に接することが出来る。

いい傾向だ。
濡れた髪を脱衣所に設けられた洗面台で貸し出されたドライヤーを使って乾かしながらそんな事を思う。
慧音は乾かした髪を後頭部で結い上げ鏡の前から離れた。

元々着ていた服をたたみ、
旅館の名前が刺繍入りされた浴衣に身を包んだ慧音は何でもない様な表情を取り繕って女湯から出た。
外では既に霖之助が待っていた。
彼も慧音と同じ様に旅館の刺繍入り浴衣を着ていて、手にはさっきまで着ていた服を持っていた。

「やあ、いいお湯だったよ慧音」

「うん、いいお湯だった」

「真っ直ぐ部屋に帰るかい?」

「そうだな。お前がそうしたいのなら私はそれでいいが」

「そうか。なら少し売店にでも寄りたいと思う。
 お酒や簡単なおつまみぐらいなら売っているらしいから、
 それを買って二人で少し飲もう」

慧音は頷いて「いいよ」と返す。
特に断る理由もないし、何より今は少しお酒が欲しい。

二人は売店で缶ビール数本とおつまみを購入して部屋に戻った。
部屋に戻ると二人が出て行った間に二人分の布団が並んで敷かれていて、
部屋の中央にあったテーブルは片付けられていた。

一瞬どこで飲もうかと迷ったが、
窓際に小さなテーブルと椅子があったのでそこに座って飲むことにした。

「今日一日お疲れ様。乾杯」

「乾杯」

缶ビールの縁を軽く当てて乾杯をした。
旅の始まりは不安だらけだったが、今となってはそんなもの欠片も残っていない。
こっちに居られる期間は後二日。その間も慧音は安心と幸福感に包まれて過ごせそうだ。

「霖之助」

「ん、なんだい?」

「今回の旅行の件、ありがとう。
 霖之助が思い切って言ってくれなかったら、こんな経験できなかったと思うから。
 何だか私はいつも霖之助が言い出してくれないと何処にも行けないな」

「いや、お礼を言われるまでの事でもないよ。
 僕はきっかけを作っただけだから。僕の商売と同じだ。
 僕は道具と人が出会うきっかけを作っているに過ぎない」

「褒められたりお礼を言われるとそうやって逃げるのは昔から変わらないな」

「苦手なんだよ。そういう事に馴れてないから」

椅子に深く腰掛け、窓の外を見つめる霖之助。
慧音も彼と同じ様に視線を窓の外にやる。

暗くなっているせいかどこまでが陸で、
どこからが海かはよく分からなかったが、
港付近は照明のせいで明るく、停泊している船や海のうねりが確認できた。

慧音はそっとガラスに手を当ててみる。
ひんやりとした感触。
ガラスには慧音の顔が映っていて、その表情はいつもよりリラックスしているようだった。

「今日神社で見た結婚式素敵だったな」

「あぁ、盛大だったね。けど少し盛大すぎるかな。僕はもっと静かな方がいい」

「私は憧れるよ。あの夫婦を羨ましく思う。
 夫婦としての一生を送る上で、
 始まりの日を何よりも幸せな日に出来るのは幸運な事だとは思わないか?」

「ロマンチックな事を言うな。まぁ、君の言葉が分からない訳ではないよ。 
 長い間苦楽を共にするなら、最初くらい幸せな方がいい」

「なんだその言い方。お前は夢がないな」

「長生きすると夢なんて自然に現実的になるものさ。
 僕には君みたいになれない」

「私だって長生きだよ。けど夢みたいな夢は抱ける」

「じゃあそれが僕と君の違いだ」

二人はしばらくの間黙った。
静かにビールの入った缶を口に当て傾けると今度はつまみを口に運ぶ。
二人で居るけれど静かな時間。
慧音はこの時間を利用して色々な事を考えた。

幻想郷の事、こっちに来た時の事、こちらでの生活の事、
幻想郷に残してきた生徒や身近な人達の事、今日出会った気のいい二人組の女子大生の事、これからの事。

そして最後に自分達の関係の事を考えた。

今自分達は夫婦と言う肩書きの上に生活している。
その方がこちらの世界に不都合無く順応できると八雲紫は言った。
確かに夫婦なら二人で暮らしていても問題ないし、社会的にも安定した存在で居られる。

けれども二人の夫婦という肩書きは役割でしかないのだ。
役割で夫婦を演じているだけ。
今日も蓮子とマエリベリーの前では夫婦を演じていた。
つまりは折角知り合って仲良くなった二人を一日中騙していたという事になる。

そう考えると胸の奥が苦しくなった。
騙していることもそうだが、
やっぱり自分と霖之助は離れているんだと思うと胸の奥が締め付けられる。

「なぁ霖之助」

「なんだい慧音」

「私達は……結局偽物なんだろうか」

「突然何を?」

「だってそうだろう。偽物の身分に偽物の夫婦関係。
 経歴だって人に喋るのはデタラメばかりだ。
 全部嘘でしかない」

「仕方のない事だろう。そうしないとこっちの世界で僕達は生きていけない。
 この世界にいる間だけは嘘を付いていないと……」

「なら私達の関係も幻想郷に帰ったら終わるんだな」

慧音が霖之助の言葉を遮って言った。
酒の勢いもあったが、この事は前から慧音が疑問に思っていたことだ。
自分と霖之助が夫婦で居られるのはこの世界にいる間だけ。

「…………」

「答えて欲しいんだ霖之助。
 私達の関係はこの世界にいる間だけ演じなければならないただの役柄なのかどうか」

霖之助は懐から煙草を取り出して咥えると、それに火をつけようとする。
だが慧音は身を乗り出して彼の口から煙草を取り上げた。

「答えてくれ」

しっかりと目を見つめて、頬に手を当てる。
今この場で答えを出して欲しかった。
もし彼が「そうだ」と言ってもそこでこの感情が割り切れるのなら明日からも夫婦としての役割を全うできる。

重要なのは答えが肯定か否定かではない。
答えを出す事が重要なのだ。

「僕の独り善がりな答えでもいいかい?」

「あぁ、構わない。お前の言葉でお前の意思を聞きたい」

一呼吸だけ間が有った。
その間お互いに瞬きもせずに見つめ合う。

「僕は……外の世界から帰っても君とこのままの関係で居たい。
 このまま夫婦として幻想郷でもやっていきたい。
 もし迷惑じゃなければ、僕と一緒にいてくれないか?」

「……それがお前の本当の気持なんだな?
 嘘じゃ、嘘じゃないんだな。嘘はもう嫌だぞ」

「本当だよ慧音。嘘なんかじゃない」

「そうか、よかった」

いつの間にか鼓動が速くなっていて頬には涙が流れている。
嬉しいはずなのに涙が止まらずに、慧音はよく分からないまま笑った。

「嬉しくって、けどさっきまでの自分の行動や発言を思い返すとなんだか恥ずかしくって。
 霖之助……どうしたらいいのか分からないよ」

「僕に聞かずに自分で答えを出してみたらどうかな」

「意地悪」

霖之助の額と慧音の額が触れ合う。
吐息どころか体温すらお互いに分かり合える距離。
慧音の赤い顔は霖之助に取ってさぞ温かいものだろう。

やがて慧音の体が霖之助の方に少し傾いた。
二人の影が一つになる。
一つになった影は長い間ずっと繋がったままだった。

Comment

#No title
どこかの賢者のような事をいうメリーに少しドキドキしましたw
この慧霖シリーズで元気な慧音が見られたのでほっとしました。あとエイは可愛いです。
  • by:姫街道
  •  | 2010/12/05/02:51:54
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#No title
水族館でハシャぐ慧音とやれやれとか言いながらついていく霖之助が見えましたww
最後の今の自分達の関係の事からの件にドキドキしました(´∀`)
次の日からはもっとラブラブですねwww
ウミウシは汁が厄介ですね。エイは泳ぐところが可愛いと思いますww
  • by:新羅
  •  | 2010/12/05/03:36:50
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#No title
エサを食う時のエイの可愛さは異常

By水族館アルバイト
  • by:
  •  | 2011/08/28/00:26:01
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