十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

プロフィール

十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
メッセ&スカイプは大歓迎です
SkypeID『Brassp905』


リンクはフリーなので
どなたでもどうぞ
もしご連絡いただければ高所から
イヤッホォォォォ!!します


PS3アカウント『auscam』
大体マルチ対応ゲームやってると思います。

バナー

Web拍手

Twitter

 

入店者

検索フォーム

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

夏のお届けもの

『春と共に去りぬ』の続きです。
忘れた頃に続きとか書いちゃう派。

短いお話ですけれど、思った以上にすらすら書けたお話でしたねー
普段もこれぐらいスラスラ筆が進みといいんですけど。


『夏のお届けもの』


レティ、霖之助、魔理沙





「真っ白な物もいいけれど、艶やかな模様が付いてるのも悪くはないわね」

そうレティ・ホワイトロックは白くて丈の長いワンピースと、
向日葵を意識した淡い黄色の刺繍が施されたワンピースを見比べて言った。

なんて事もない、女性が衣服について悩んでいるというだけのよくある光景だ。
現にそれを見つめる森近霖之助は心底つまらなささそうに、
そして気怠く頬杖をついて彼女を見つめていた。

彼にとってこんな光景は他の客で飽きる程見てきたに違いない。
後数分もしたら「買うか買わないかハッキリして貰えないかな?」
と遠慮のない声色で言うはずだ。

「霖之助はどっちが好き? シンプルな方か、艶やかな方か」

「どっちでも。君の趣味に従ったらいいじゃないか。
 僕の意見なんて参考になるとは思えないしね」

「参考になると思ったから聞いたんだけどなぁ」

「それよりも買うか買わないかハッキリ……」

「ねぇ、霖之助。私どっちにしてもこの服着られないのよ」

霖之助が頭の中でいつ言い出そうかと迷っていた言葉を、
彼女は霖之助の言葉を遮って、そう霖之助に言った。

その言葉に霖之助は「だろうね」とだけ短く返し、
視線を横にやって窓から外の景色を見つめた。

窓の外には一面真っ白な景色が広がっていて、
一番遠くに見える山の峰が、白く濁った曇天と区別できなくなる程のものだった。

一目見るだけで分かる。
今の季節は冬だ、それも真冬。

山の動物から妖怪まで、冬眠する者は眠ってしまい。
そうでない動物は厳しい寒さの中少ない食料を見つけて、
身を寄せ合い生き延びるかそのまま死ぬか。
そんな厳しい季節なのだ。

霖之助も今朝からストーブを点けて、寒さを凌ぎながら店を開いている。
それでも寒いので普段着の上から更に丹前を羽織っているような有様だ。
少なくとも彼女がどちらにしようか悩んでいる、薄手のワンピースが活躍する季節ではない。

「ならどうしてそんな物を見ているのかな。
 季節外れだから店の奥にしまっていた物を態々出してきて」

「分からない? 憧れるのこういう服。
 涼しそうな格好をして日傘を差してね、夏のお日様の下を歩いてみたりとか」
 
「その調子だと浴衣を来て夏祭りに行きたいとか言いだしそうだね」

「あ、行ってみたいかも。話しでしか聞いたこと無いけど、綿飴ってお菓子を食べてみたいわ」

「冬の妖怪が夏の風物詩に思いを馳せるか」

「別に変な事でも無いでしょう。
 だってそのどれもが私の世界には無い物だもの。 
 ねぇ、夏のお日様の下で感じる風ってどんなのかしら」

心底楽しそうにレティは霖之助にそう質問する。
彼女とはそれなりの付き合いだと思っていたが、
まさか彼女がこれ程まで他の季節に興味が有ったとは思わなかった。

「意外だね、何時も冬の終わりは憂鬱そうな表情をしていたから、
 てっきり僕は君が冬以外は嫌いだと思ってた」

「勿論冬が一番よ。
 雪景色が綺麗だし、空気が澄んでるから星空だって他の季節よりも素敵よ。
 他にももっともっと、冬は素敵な事がある。
 でも、それでも冬には無い物を他の季節は持っているから。
 少しだけ、そうほんの少しだけそれが気になるの」

「誰だって自分の持っていない物には憧れるからね」

霖之助の言葉にレティは何も返さなかった。
ただ憂いた様な表情で黙って、手に持った二着のワンピースを見ているだけだった。
そんなに着たければ着ればいいのにとも霖之助は思ったが、
それは愚問だと自分ですぐに気付き口には出さなかった。

確かに彼女ならこの季節夏の格好をしてもなんら問題ないのかも知れない。
だが彼女のやりたい事はそういう事ではないのだろう。

冬を愛し、冬に生き、
春が来れば憂鬱になって何処かへ消えてしまう様な妖怪が夏に憧れるとは、
何とも可笑しな話だが、先程思った事と同じ様に表には出さなかった。

「珈琲でも飲むかい?」

「うん、飲むわ。ミルクと砂糖をたっぷり入れてね」

「分かってるよ。そんなにたくさんミルクと砂糖を使うのは君ぐらいだから」

霖之助は立ち上がり、店から台所へ向かおうとしたところで立ち止まって、
もう一度レティの方を向いた。
その行動にレティは「どうかした?」と不思議そうに聞いた。

「いや、今年は何時まで起きているのかと思ってね」

「大体毎年同じよ。多少前後する事は有っても、大幅に変わる事はないわ」

「君が一回多く香霖堂へ来るか来ないかぐらいは変わるさ」

「なぁにそれ。ひょっとして来て欲しいって催促なの?」

「だといいのだけれど」

肩を竦めて霖之助は苦笑をした。
レティもその態度を分かりきっているようで、
特に反論する様子もなくただ同じ様に苦笑した。









春が過ぎて、夏が来た。
レティはあれから春が来るまでに十二回香霖堂に来て、
その年最後に香霖堂へ訪れた時には、
もうすっかり雪が溶けてしまった後だと言うのに小さな雪うさぎを作って来た。

春の訪れと共に力が弱くなった自身の能力で精一杯作った雪うさぎだ。
レティは雪うさぎについて殆ど何も口にしなかったが、
長い付き合いだけにそんな事は聞かなくても分かる。

それが、あの冬最後の彼女との思い出だ。

「香霖、何ぼけっとしてるんだ?」

「魔理沙か、いらっしゃい」

「おう、いらしたぜ」

霖之助の思考の隙間を潜り抜けて魔理沙が店に来ていたらしい。
半袖になった白黒の魔法使装束に、黒いとんがり帽子。
つばの広い帽子のせいか、二の腕より先は浅黒く焼けているのに、
顔から首に掛けての肌は余り焼けていなかった。

「暑いなーこれで八月の始めって言うんだから参っちまうぜ」

「大丈夫だよ、八月の中頃になれば慣れる」

「夏に慣れると冬が辛いんだぜ。
 それに夏が厳しいとその年の冬も厳しいって聞くしな」

やれやれと言わんばかりに魔理沙は首を左右へ振った。

「冬か……」

「香霖は冬が厳しいのは嫌いだろ?」

「まぁ、確かに余り好ましくないね。
 寒いし、食べ物も少なくなるし」

「だろだろ」

「まぁでも、一人お得意さんが居るからそうでもないかな」

予想と違う反応だったのか、魔理沙はよく分からないと言った風に霖之助の顔を覗き込んだ。
冬嫌いを公言している霖之助がこんな発言をする程のお得意様と言うのが気になったのだろう。

魔理沙はそのお得意様について霖之助に幾つか質問をしたが、
霖之助ははぐらかすばかりで明確な答えは話さなかった。

その内に業を煮やした魔理沙がふとカウンターの隅へ視線をやると、
そこに重ねて置いてある数枚の写真に気付いたようで、
霖之助に許可も取らずに手に取った。

「余り面白い写真でもないよ」

「夏祭り、小川、林道、ひまわり畑、空……香霖、これ何なんだ?
 風景写真にしては趣がないし……」

「趣がないとは失礼だな、と言えないのが少し悔しいね。
 写真に関して、それも風景写真に関しては殆ど素人だから多めに見てくれ」

「だとしても、何でこんな物撮影してるんだ?
 飽き飽きする程見てきた夏の光景じゃないか」

「だからだよ」

またも魔理沙には意味が伝わっていないようで、
「お前の短所は物事を分かりにくく話すところだぜ。
 逆に長所は簡単な話しを難しく出来るところだな」と皮肉った。

「ん、香霖質問してばっかりだけど後ろのそれ何なんだ?」

写真に対してこれ以上の興味を失った魔理沙が次に興味を示したのは、
霖之助の背後にハンガーで掛けられている二着のワンピースだった。

一つは白く、シンプルなデザインの物。
もう一つは淡い黄色に向日葵の刺繍が施されたデザインの物だ。

「中々良さそうな物じゃないか。売り物か?」

「いや、非売品だよ。何人か売って欲しいと言うお客は居たけれど全部断った」

「なんだそれ。そんな物店先に掛けておくなよ」

「いや、これはここに掛けておかなくちゃいけない物なんだ。
 お得意様に対する僕なりのご好意さ」

「ちぇ、またお得意様かよ。まぁいい、喉渇いたし麦茶貰うぜ香霖」

「あぁ、ついでに僕の分も用意してくれるとありがたい」

「やーだよ、そのお得意様って奴にでも用意してもらうんだな」

ベーと下を出し、帽子を帽子掛けに掛けると、魔理沙はそのまま店の奥へと消えて行った。
霖之助はそんな彼女の態度に溜息をつきながらも、
夏の風景を収めた写真と二着のワンピースを意識の中心へと据える。

二着のワンピースは時々夏のそよ風を受けてゆらゆらとその裾を揺らした。
その光景は夏風の中この服を着て出かけたいと言った彼女が夏空の下で、
優雅に散歩している姿を思い起こさせるには十分過ぎるものであった。

Comment

管理者にだけメッセージを送る

Pagetop ]

Copyright (C) 十四朗亭の出納帳 All Rights Reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。