十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

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十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
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朱鷺のすみか 仲直り 後編

やっとこさ完成しました前回からの続きとなっております。

思い出せば前回書いたの三ヶ月ぐらい前なんですよねー
いやぁ、おまたせして申し訳ないです。
待ってた人が居たかはともかくとして。

妹紅が子供の面倒みるの下手なお姉さんになりつつ有る。

霖之助、慧音、朱鷺子、妹紅、霧雨の親父さん









細くて、白い手が朱鷺子の腕を引いている。
爪は短く切り揃えられ、ヤスリできちんと形を整えられたその爪は、
怠惰そうな彼女にしてはやや勤勉な印象を受ける。

手の主、藤原妹紅は時々朱鷺子の方を向いて、
霖之助や慧音の事を聞いてきたが、人里に入ってからはそれもしなくなってしまった。

人々の雑踏で満ちた人里では、
そうして自分達の音を立てるのは無意味だと思っているのかもしれない。

それについて朱鷺子は特に寂しいとも思わず、
ただ歩みを進める度に揺れる妹紅の長い白髪と、
手入れの行き届いた爪を交互に眺めながら彼女に同行した。

右脇には香霖堂から持ってきた『非ノイマン式計算機の未来』の十三巻を携帯している。
妹紅が何処へ向かっているのかは知らないが、
その目的地で暇になったのならこの本を読めばいい。

それにしてもよく手入れの行き届いた爪だ。
以前霖之助が「人の手はその人物の一面を反映している」
と言っていたが、これはつまりそういう事なのだろうか。

失礼な話だが、朱鷺子には普段の彼女の事を、
怠惰でいて道楽主義的な人物だと解釈している。
永い時間を生きると、明日に頓着する事がなくなり、
その日一日の暇潰しを見つけるのが最優先になる物だと思っていた。

それだけに、彼女の几帳面な一面は少々意外だ。
どれだけ永く生きても、
人間として生まれたからには人間らしい部分が付いて回ると言う事だろうか。
だとしたらそれはとても酷な事かもしれない。

人間の気持ちなんて朱鷺子には客観的にしか理解出来ないが、
それでもそう思えてしまう。

元々永く生きる為の心を持っていない人間が、
永い命を持ったらこうなってしまうのだろうか。

妖怪程人外として割り切れず、人間程自分を人だと確信できない。
日々人間離れしてゆく精神を人間の残り香が繋ぎ止める。
人のコミュニティからも妖怪の繋がりからも外れた生き物が出来上がるのだろう。
どっちつかずで中途半端な立ち位置。

ある意味、それは朱鷺子の保護者である霖之助と慧音に通じるものがある。
だがそのあり方は全員が全員バラバラと言っていい。
霖之助は人と妖怪、どちらにたいしても公平に接し、
慧音は人に味方して人里の守護者をやっている。

一方の妹紅は、人と妖怪そのどちらからも一歩身を引いて付き合う。
あり方としては霖之助に似ているかもしれないが、
他者と接する事が前提の霖之助とは違い、
彼女のあり方はあくまで自身だけの生き方だ。

詳しく彼女の過去を聞いた訳ではない朱鷺子には、
妹紅がそうして生きる理由がよく分からない。
朱鷺子も話してくれないのならそれでいいし、無理に聞こうとは思わない。

朱鷺子にだって話したくない事は有るし、他の誰もがそうだろう。
心の内側というのは何処の誰それに好き勝手見られていいものではない。
同じ様に、誰かれ構わず心の内を見せるものでもない。

「着いたよ」

考えに浸っていた朱鷺子に、妹紅が声を掛けた。
思えばこれが人里に入ってから初めて妹紅の声を聞いたかもしれない。

今まで殆ど周りを見て歩いていなかった朱鷺子は、
改めて自分達が訪れた場所を視界に収める。

大きな建物だ。
曇りの無い黒瓦が屋根にびっちりと敷き詰められ、
四隅には魔除の鬼瓦が厳つい顔をして鎮座していた。

周囲の建物と比べてこの建物は一回りも二回りも大きい。
勿論、朱鷺子が住んでいる香霖堂よりも大きい。
建物の大きさ以外に目立つ物といえば『霧雨』と書かれた立派な看板。
丁度妹紅と朱鷺子がいる場所から少し視線を上にやった場所にその看板は掲げられている。

「霧雨のお店」

「そうそう、霖之助から聞いてる?」

「うん、聞いてる。前に小父さんに有った事があるよ」

「なら良かった。別に霧雨さんの事は苦手じゃないよね?」

「苦手じゃないよ。とっても明るくて面白い人だった」

「よしよし、それならなお良し」

二月前の夏祭りで初めて霧雨の小父さんと朱鷺子は出会ったが、
特に嫌な人だという印象は受けなかった。
妹紅のこの発言は朱鷺子の人見知りを気遣っての事だろう。

確かに朱鷺子は今でも初めて出会う人と話すのは少し苦手だが、
以前と比べて随分と良くなっている。

妹紅は再び朱鷺子の手を引いて今度は店の中へと歩みを進めた。

「こんにちは霧雨さん」

「おう妹紅さん、待ってたよ。それにお嬢ちゃんも」

店の中には様々な道具がキチンと棚に陳列されてあって、
物の多さに反して雑多という印象は受けない。
そしてそのキチンと陳列された商品が並ぶ店の奥に、この店の主は居た。

手には算盤と筆、目の前には帳簿が有る。
店の経理でもやっていたのだろう。
霖之助も時々ああして帳簿をつけている。
ただ霖之助と違いちゃんと黒い印を付けているところが霖之助と異なる点だった。

「こんにちは小父さん」

「香霖堂と先生は出かけてるのにお前さんだけ置いてけぼりかい。
 二人共中々酷い事をするもんだな」

「ううん、私が自分で行かないって言ったんだよ。
 私が居ると二人共私ばっかり構うから」

朱鷺子がそう言うと霧雨と妹紅はお互い大きな声を上げて笑い出した。
ひとしきり笑った後、妹紅は朱鷺子の頭に手を載せてくしゃくしゃと撫でた。

「ぐ、ぐぁ~妹紅どうしたのー?」

「ふふ、いい子いい子。とってもいい子」

きょとんとした顔で頭を撫でる妹紅を朱鷺子は不思議そうな目で見て、
疑問を投げかけてみたが、妹紅はそれを殆ど無視する形で朱鷺子を抱き上げて更にクシャクシャにした。

「もこぉー止めてよー うひゃあ! 擽ったい」

「ほれほれーもう本当に可愛い子なんだから!」

急に抱き上げられたので朱鷺子は驚いて、
『非ノイマン式計算機の未来』の十三巻を地面に落っことしてしまった。
拾おうと思って妹紅の腕を振り解こうとするが、力強く抱き抱えられているので逃れられない。

こんな時、霖之助ならもっと優しく抱き抱えてくれるのに。
もごもごと妹紅の腕の中でもがきながら朱鷺子はそう思った。

「その辺にしといたらどうだい、藤原さん。
 お嬢ちゃんも苦しそうだ」

「ねぇねぇ、今度家に来ない? お菓子あげるわよ」

「藤原さん? 聞いて……」

「泥鰌が好きなんだっけ? 捕ってきてあげるから一緒に食べよっか?」

「藤わ……」

「あ、一緒にお風呂入ろうか! 頭洗ってあげるし背中も流してあげるわよ」

「藤原さん!」

何度目かの霧雨の声で、ようやく妹紅は朱鷺子がもみくちゃになっている事に気が付いた。
妹紅はとりあえず朱鷺子を地面に降ろしてから、恐る恐る朱鷺子の顔を覗き込む。

「あっと……ごめんね朱鷺子。
 アンタが良い子だからついつい」

「止めてって言ったのにぃ……
 ばかぁ、妹紅のばかぁ……うぅ」

スカートの裾をギュッと握った拳と声が震えている。
よく見れば彼女の紅く澄んだ目は、溜まった涙のせいで潤んでいた。

妹紅は慌てて頭を下げて謝った。

「ホントごめん朱鷺子!
 私もやりすぎたって事で反省してるから。
 ゆ、許して!」

「息苦しかったもん……グス……
 すっごい息苦しかったもん……うぅ」

「あ、飴玉あげるから! ねっ!
 飴玉あげるからゆるして!」

「あーダメだな。そんなんじゃあ全然ダメだ」

霧雨はそう言うと、地面に落ちた本を拾って朱鷺子に渡した。
本を受け取った朱鷺子は、本を胸に抱き小さな声で「ありがとう」と言った。

「まぁまぁ、藤原さんも悪気があった訳じゃないし泣くな。
 長生きしてる癖に人付き合いが少ないからちょっと不器用なんだ。
 勘弁してやってくれ」

「ちょっとーまるで私が友達少ないみたいじゃない」

「少ないだろう。十分」

「むぅ……言い返せない」

膨れっ面でそっぽを向く妹紅を無視して、霧雨は朱鷺子の頭に手を載せた。
ただ妹紅の時とは違って手付きはとても優しい。
どことなくだがその手付きは霖之助に似ていた。
触れていると安心する、まるでその人物の優しさに直接触れたみたいだ。

霖之助もこんな風によく朱鷺子の頭を撫でてくれる。
朱鷺子はその行為が大好きだった。
いいことをしたら褒めながら頭を撫でてくれる。
落ち込んだ時は優しい言葉と共に撫でてくれる。

大きな手が頭の上に覆い被さって、ゆっくりと動く。
その目を瞑って感触を楽しみながら、胸の中に広がる感触を楽しむ。

ずっと昔に経験した気がする懐かしい感触のはずなのに、
漠然と『ずっと昔』と言う事しか思い出せない。
忘れていると言うよりは、その経験が少な過ぎるという事が原因だろう。

朱鷺子はしばらくそうして頭を撫でられる感触を楽しみ、
やがてコクコクと頷いて「うん、許してあげる」と言った。









二人で観る約束をしていた演劇は昼前に終わり、
事前に予約しておいた料理屋に二人は足を運んだ。

妹紅や朱鷺子が居ない状態でこうして会うのは随分と久しぶりな気がする。
だと言うのに懐中時計の一件から慧音は、
どうも霖之助に対して遠慮のような感情が先行してしまって、
上手く顔を合わせて話す事が出来無い。

霖之助と向い合って話す時につい赤面してしまうのは何時もの事だが、
それでも今日みたいに顔すら合わせられないなんて事はなかった。

どうしてしまったのだろうか。
彼がこの懐中時計をくれた意味を考えるだけで、胸がドキドキする。
霖之助の静かな優しさが嬉しい反面、どうにも落ち着かない。

少なくとも、この時計に関する思いが一方的な片思いで無かったと分かった事がそうさせるのだろう。
霖之助が慧音に恋心から懐中時計をプレゼントしたのかそうでないかは分からないが、
それでも霖之助は慧音に高級な物を心からのプレゼントとして贈った。

嫌われてはいないだろうと自負していたが、
ハッキリと好かれているだろうという自信もなかったので、
このプレゼントの意味は大きい。

霖之助は慧音の事を少なからず好いてくれている。
その事が嬉しくて、恥ずかしくてこんな気持になるのだろう。

「慧音。その、急に黙りこんでどうしたのかな?」

「ん、あぁ、すまない。せっかくの機会なのに黙ってしまって。
 何でも無いんだ、気にしないでくれ。少しほうけていただけだよ」

出来るだけ何事もない様な態度で、霖之助に言葉を返す。
もう既に変な態度だと思われているかも知れないが、
出来るだけそれを大っぴらにしたくなかった。

「目線ぐらい合わせて欲しいものだね。
 話していて余り良い気分ではないよ」

「悪かった……はは、二人きりなんて久しぶりだからな。
 何を話そうか迷ってしまったんだ。
 ほら、何時もは朱鷺子が一緒だから話も自然とあの子関連で弾むし」

「確かにそうだね」

「だろう、だから……」

「でも僕は、久しぶりに君と僕の話をしたいな」

「え……」

霖之助の言葉に頭を持ち上げられて、
慧音は霖之助の顔へと視線をやった。

彼の表情は至って真面目だ。
何時も通りその金色の目には曇がなく、自身が見据えた物事だけに視線が向けられている。
そしてその彼が見据えた物事とは、慧音の事だ。

「昔はよく、自分達の事について話をしたね。
 日常の失敗談や、成功談、今日はこんな事があった。
 昨日の晩ご飯の献立や、寝る前に何をしていたか。
 本当にとりとめもない事を話し合ったね」

「霖之助」

制止を含んだ呼び掛けだった。
慧音にとって昔の事を思い出すのは辛い。
何も考えていなかった自分を、
自分の想いにすら気付かなかった愚か者を思い出す様で辛いのだ。

「昔の話は止めよう。今更話したところでもう戻らない。
 私達は、あの頃のままで居られないんだ。
 お前が、私が、それぞれの夢と追って道を歩く限り」

搾り出すように慧音が言った。
一語一語を口に出すのが重く、そして辛い。
頭の中で理解していても、声に出してしまえば、
それが一気に実体を持って慧音を襲いそうで、口に出すのが怖かった。

「霖之助、過去は背負うものではあるけれど、戻るものではないよ。
 誰にだって過去に戻りたいと思う気持ちは有るさ。
 過去の思い出は何時見ても輝かしい。
 けれども、それに気を取られてばかりだと私達は前に進めない。
 お前だってそれを思って里を出て自分の店を構えたんだろう?」

慧音だって、出来るならば今のまま過去へと戻りたい。
そして彼が里を出ると言う前にこの胸の思いを告げて、
今の様に離れた関係になるのを阻止しようとするだろう。

ひょっとしたら、霖之助は慧音の告白を受けて、
里を出るのを思い止まるかも知れない。
あの日違えた二人の道は一本のままだったのかも知れない。

「確かに君の言う通り。逆立ちしたって僕達は過去に戻れない。
 時間は不可逆だし、嫌でも勝手に進んでゆく。
 僕が言っているのは比喩的な意味さ」

「それを含めてだよ霖之助。それを含めて人は過去に戻れない」

「はたして本当にそうかな」

彼の目に強い光が見えた。
確信を持って彼はこの言葉を口にしている。
今の自分達にとって皮肉でしかないその言葉を、彼は確信を持って口にしていた。

「人の心は何時だって戻れるさ。生きて行けるのならね。
 現に僕達は朱鷺子を繋ぎ目にして離れてしまった距離を手繰り寄せた。
 もう決して触れられない距離じゃない。
 心だけなら、人は決して戻れない訳じゃない。やり直せない訳じゃない」

ただ黙って彼の一言一句を聞き漏らさない様に、
慧音は注意深く彼の言葉に耳を傾けた。

慧音は彼に「やり直せない」と言った。
だが彼は慧音に「やり直せる」と言っている。

共に違う意見、違う考え。
現状に降伏し、諦めてしまった慧音と、
現状を認めず、諦めていない霖之助の違い。

「強いな、霖之助は」

ぽつりと思わず言葉が漏れた。
皮肉でも、お世辞でもない、率直な感想だ。

無理だと悲観する慧音と違い、
霖之助はまだ間に合うと前向きに彼女を諭した。

一体どこからその自信が湧いてくるのだろう。

「いいや、これは君に対する贖罪みたいなものだから」

「贖罪?」

慧音には彼の言う言葉に心当たりがない。
「自分は彼から何か仕打ちを受けたことがあっただろうか?」
と記憶を辿って思い出そうとしてみたが、やはり慧音に心当たりはない。

「すまない霖之助。一体何を言っているんだ?
 私にはお前の言っている事がよく分からないぞ」

「僕が独立する前のあの夏の日、寺子屋の教室で僕は君を泣かしてしまった」

少ないキーワードだったが、それだけで慧音の思考は途切れること無く繋がった。
あの日、あの夏の日の寺子屋で告げられた霖之助の独立。

忘れるはずがない、彼が慧音から離れていった日を。
だがどうして彼はあの日の出来事が自分の罪だと言うのだろうか。
あれは慧音が彼に思いを伝えなかったから、
自分自身で背負い込んでしまったから起こった悲劇なのに。

慧音は黙って彼の口から紡がれる言葉に耳を傾けた。
何も言わなかったと言うよりは、
何も言えなかったと言った方が正しいのかもしれない。

これから彼と自分のこれからを決める大切な事が起こる。
それを直感的に理解してか、慧音は背筋をピンと伸ばして、
真摯な態度でこれからの出来事に意識を集中した。









出された山盛りの酒饅を一つづつ頬張って、喉が乾いたら美味しい緑茶で喉を潤す。
お茶請けにしてはやたらと量が多い事に妹紅は溜息を付いて抗議したが、
朱鷺子が両手を上げて喜んだのでその抗議は自然と受け流されてしまった。
その代わり「お昼が食べられなくなる程食べないでね」
だとか「霧雨さんは子供に甘いんだから」と言って呆れた顔をした。

「美味しいかいお嬢ちゃん?」

「うん、とっても。霖之助はケチだから何時もこんなに食べさせてくれないの」

「そりゃあそうでしょ。あんまり食べると太っちゃうし」

「大丈夫だよ、育ち盛りだから」

「育ち盛りでも栄養が偏れば太るの。  
 それを心配して霖之助はおやつの加減をしてるって言うのに」

妹紅の言葉を無視して朱鷺子はまた酒饅を一つ手に取って、
半分程その小さな口で頬張った。

「霖之助達今頃何してるんだろうね」

「二人で飯屋に入ってる頃なんじゃないか?
 それなりに会話が弾んで、んでもって出てくる料理の話をしたり」

「私は違うと思うな」

妹紅が霧雨の言葉を否定した。
サラリと言った様に聞こえたが、その言葉には確かな重みと確信が感じ取れた。

「あの二人の事だから気不味い話題でも出して、お互い暗い顔でもしてるんじゃないかしら」

「あー確かに、それも有りそうだ」

「具体的には昔の事とか」

「昔の事?」

朱鷺子は空になった湯呑みに新しい緑茶を注ぐと、
すぐには口元に運ばず、霧雨と妹紅の会話へ参加した。

「昔の二人ってどんなだったの?」

「そうねぇ、少なくとも今よりはずっと自然に触れ合ってたわよ」

「抱きついたりしてたの?」

「慧音が酔っ払った時は時々そうして霖之助に抱きついてたけど、シラフの時はなぁ……
 あ、でも腕を引いたり、自然に食事だとか飲みに誘うぐらいはしてたかな」

「わぁ、今より随分仲良しだったんだね」

「そうそう、霖之助が出て行くまではそんな風に仲良しだったんだ」

「だがな、香霖堂が里を出てからあの二人の関係は変わっちまった」

霧雨の言葉に、コクリと妹紅が静かに頷いた。

「慧音は自覚しちゃったのよ。
 自分の胸の中にある霖之助への好意と、喪う事への怖さを」

「でも里と香霖堂はそんなに離れていないよ?
 会おうと思えば何時でも会えるのに、どうしてそんな事を考えたのかな」

「道が違えたと思ったからよ。 
 自分と彼の道が違えてしまって、永遠に交わらない物だと思ってしまったから、
 慧音は霖之助と接するのが怖くなってしまった」

「好きなのに辛いね」

「諦めきれない、可能性がゼロじゃない物事ほど酷な物なのよ。 
 無いものとして割り切れないからね」

初めて妹紅が饅頭を手に取って、そのまま一口で頬張った。
朱鷺子もそれに合わせて湯呑みのお茶を二口ほど啜る。

どうやらあの二人の関係は朱鷺子が考えているよりも、
もっとずっと拗れたものらしい。
古い建物の外壁を覆う蔦の様に、
真っ直ぐでなく、複雑に絡み合っている。

恋心なんて朱鷺子にはよく分からない。
まだそれを知らない朱鷺子には、
二人がどうして何時までも背中合わせのままで居る事が理解出来なかった。

朱鷺子は何時だって霖之助の顔を正面から見つめて好きだと言える自信がある。
恥ずかしがったままじゃ、怯えたままじゃ想いは伝えられないから、
朱鷺子は出来るだけ他人のへの好意を物怖じせずに伝えるようにしている。
かつて人見知りだった朱鷺子に霖之助がそう教えてくれたからだ。
霖之助に出会う前、朱鷺子は友達の作り方さえ知らなかった。

「私みたいに簡単に好きだって言えないのかな」

「ねぇ、だったら楽なのに。
 でも二人は子供じゃないからそう簡単にも行かないんだと思う」

「むぅー私が子供だって言いたいのー」

「まぁ、そうなるわね」

「そうなるわな」

霧雨と妹紅の両者が言葉を揃えて頷いた。

それを見た朱鷺子は少しムスっとした表情で饅頭を頬張る。
一口、二口、勢い良く口に入れて素早く咀嚼する。
だが、すぐに咀嚼する速度が落ちて、しまいには殆ど口が動かなくなってしまった。

「どうしたの? 気分でも悪くなってきた」

「うんとね」

精一杯努力して口の中の饅頭を食道へと流しこんで朱鷺子が口を開いた。

「……お、お腹いっぱいになってきちゃった」

沈黙が三人の間を通りぬけ、
そして無言のままで妹紅が朱鷺子の頭頂にげんこつを落とした。

「いったーい! 何するの妹紅!」

「何するもこうするもないでしょ、この子は!
 お昼もまだなのに食べ過ぎてホントにもう!」

「ま、まぁまぁ、藤原さん。少し落ち着けよ……」

怒る妹紅を宥めようと横から霧雨が割って入ったが、
妹紅はギョロリと霧雨の方を睨み「大体霧雨さんが甘やかしてこんなにたくさんお饅頭を出すから」
と怒りの矛先が霧雨に向かっただけで、余り変化はなかった。

妹紅と霧雨が言い争う脇で朱鷺子は耳を抑えながら考える。
慧音と霖之助はこんな風に言い争わないで上手くやっているだろうか。

あの二人なら特に問題無いと思うが、
逆に静か過ぎて話が全く進展していない気もする。
大人というのはつくづく面倒な生き物だ。
とっても簡単な事に何年もの歳月を使っても今だに解決出来ていない。
何ともじれったい話だ。








「正直な話、君の強さを楽観視していた」

改まって聞く彼の声は普段よりも低く、そして重く聞こえた。
ただ少し物悲し気でもある。
それだけ二人の関係はあの日から変わってしまったという事だろうか。

「君は強い女性だ。だから僕はそれに甘えて君を投げ出して一人里を出てしまった。
 僕が里を出たのは必然的で止めようのない事だったのかも知れない。
 でもね、その事を前もってそれとなく君に伝えておくべきだった。
 何の前触れもなく君に伝えて、それで終わりなんて馬鹿な真似をするべきではなかった」

あの夏の夕暮れ、慧音は彼から突然独立の話を聞かされた。
彼の口から里を出ると聞いた時、慧音は世界の時間が全て停止したかの様な錯覚を受けた。

「君と再び会うまでの数年間、僕は知り合いから君の近況を何度か聞いたよ。
 里を出てしばらくの間、随分と落ち込んでいたらしいね。
 後に先にも里を出て後悔したのはその知らせを聞いた時だけだ。
 独立したての頃はよくあの日の夢をみたんだ、寺子屋で泣いている君の夢を。
 そして……昨日久しぶりにその夢をみたよ」

確かにあの日、彼の口から独立を告げられた時、慧音は思わず泣き出してしまった。
そして慰めようと彼が差し出した手を叩いたのも覚えている。

彼の言葉が心に刺さった、彼の情けが痛かった。
自分から離れていく癖に、自分に優しくしようとする彼の態度が許せなかった。

それは一過性の怒りだったが、その後に慧音を襲ったのは漠然とした喪失感だった。
自分と違う場所で自分の夢を追った彼。
その彼は自分等眼中に無く、自分の目標だけに歩いている。

会いに行けば会える距離なのに、慧音はそれを拒んで数年を過ごした。
自分から会いに行くのは、
置いて行かれたものが自分を置いて行った者に縋りつくようで、
酷く惨めに思えたからだ。

「結果として僕達はまた顔を合わせて会話が出来る程度の関係には戻った。
 けれども完全に戻った訳じゃない。
 朱鷺子が僕達の仲を取り持つまで、僕等は深い溝を挟んで向かい合っていた。
 でもその溝は埋められ今こうして僕は君にあの日の事を謝ろうと思う。
 そうして、また一歩前に進みたいんだ」

テーブルを掌で撫でて、それから霖之助の方を見つめる。
真っ直ぐな瞳だ。
今口にしている事に偽りも、後ろめたい意味もない。

慧音は彼の態度に正直言って驚いていた。
霖之助がこれ程真っ直ぐに自分の思いをぶつけてくるとは思っていなかったし、
彼も慧音と同じだけ悩み、そしてそれが重石になっていた事を知ったからだ。

初めて彼と知り合った時、慧音は彼と自分は同じ混じり物だと思った。
次に思った事は、自分の道の為にはひたすら頑固になるという事。

そして今日知った、二人共あの日の事をずっと心に抱えていたという事。

「慧音、すまなかった。僕が無遠慮なばかりに君を傷つけてしまって。
 あの日の事を、今日改めてここで詫びようと思う」

表情が見えなくなる位の角度で頭を下げ、霖之助は一語一句噛み締める様に言った。
彼の言葉には二十年分の溝を埋めるだけの大きさが有り、彼の感情が全て詰まっていた。

慧音と同じ年月を同じだけ悩み、苦しんだ彼を許さない道理がない。
彼と慧音は同じなのだから、それを許さない理由なんて何処にも無かった。

慧音は身を乗り出して、テーブル越しに霖之助の方へと体を近づけると、
そっと手を差し伸べ、彼の頬を撫でた。

愛惜し気に、そして優し気に彼の頬を優しく撫でる。
彼はその行動に抵抗したりする様子は見せなかった。
ただ少しだけ顔を上げて慧音の顔を見た。

慧音は目頭から溢れる涙を拭おうともせず、ただ目を細めて優しい笑みを浮かべていた。
恐らく霖之助には慧音がどうしてこんな顔をしているのか分からないのだろう。
ただキョトンとした表情をするだけの霖之助に対して慧音は問い掛けた。

「また、同じ道を歩けるだろうか。私とお前、今度は朱鷺子も混ぜて同じ道を歩けるかな」

泣いているせいか声が震えている。
だが、彼女らしい芯の強い言葉だった。

「歩けるさきっと。少し疲れたら脇道で休もう。雨が降ったら雨宿りをしよう」

「手は……引いてくれるのか?」

「勿論、でも朱鷺子の手も引かなくちゃいけないよ」

「分かってる。これから歩くのは私達の道だから」

流れる涙に構わず霖之助の頬を撫で続ける慧音を見かねてか、
霖之助は自身の袖で慧音の頬を伝う涙を拭いた。

途中で顔が紅いよと霖之助が言ったが、
慧音は照れた様に涙のせいだと言って誤魔化した。

霖之助の頬を撫でる慧音と、慧音の涙を拭う霖之助。
二人のこの行為は、料理を運んで来た店の者に目撃されるまで続けられた。

店の者に観られた後、互いに赤面(慧音の場合は更に)する事になるのだが、
何だかそんな出来事さえ幸せに思えた。

Comment

#No title
つ、ついに朱鷺のすみかの続きが・・・
ずっと待っていた甲斐がありました!慧霖(+朱鷺子)はマイジャスティス!
このまま、慧音と霖之助の距離が近いまま、そしていつか0になること、
そして、そのときも二人のそばには朱鷺子と妹紅がいることを願って・・・
  • by:
  •  | 2010/09/27/20:41:13
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