十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

プロフィール

十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
メッセ&スカイプは大歓迎です
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リンクはフリーなので
どなたでもどうぞ
もしご連絡いただければ高所から
イヤッホォォォォ!!します


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大体マルチ対応ゲームやってると思います。

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四畳半慧霖

少女が霖之助と一緒に外の世界に行くとしたら、どんな生活になるだろう。


紫が原因で起こしてしまった異変を、ひょんなことから解決してしまった霖之助。
彼女から報酬にと、霖之助が望んでいた外の世界へ行く権利を与えられる。

ただし、1年間という期限付き。
旅をするのもよし、一つ所に留まるもよし。
支度金と場所は紫が用意してくれるらしい。
必要なら仕事も紹介してくれる、と紫は言った。


それから1ヶ月間、霖之助は外の世界について勉強する。
そして……。


~ここまでテンプレ~

原案:ひげねこさん テンプレ:道草さん 本文:私な感じで送るSS。
慧音と霖之助、この二人が外の世界へ行ったらどうなるのか?
と言う内容のSSでございます。







見上げる空も、見下げる地面も、正面にある建物も、全て幻想郷とは違う。
文字通りの『異界』

そんな場所に、上白沢慧音は手を引かれてやって来た。

手を引かれて、と言うのは比喩表現の様に思えるが、
初めてこの地に来た時、彼女の手はしっかりとある人物に握られていて、
その温かさと力強さがこの見知らぬ地で勇気をくれた。

いつでも彼はそうして慧音に勇気を与えてくれる。
それはきっとこれからも。
二人が共に居る限り、ずっとずっと。









その日、『森近』慧音は台所からする物音で目を覚ました。
毎日毎日不愉快な寝汗で朝を迎えるはずなのに、
今日は余り寝汗をかいていない。

見れば枕元には畳んだ状態のタオルが置いてあり、
慧音の布団から少し離れた位置に敷かれた彼の布団はもう既にもぬけの殻であった。

この二つの状況と、台所からする物音。
それだけ手掛かりが有れば大方察しが付く。

今日は休日で、昨夜は二人で晩酌をしていたせいか、
起きるのが彼より遅くなったのだろう。

まだ僅かばかりアルコールが残っているらしく、
頭の中で拳位ある石ころが転がっているみたいだ。

このまま枕に頭を埋めてじっとしていたい。
だがそれは出来無い事だ。

何せ今慧音が寝ている部屋はとても狭い。
少しの家財道具と二人分の布団を敷くだけで部屋は一杯になってしまう。

慧音は何度か頭を左右に振り、眠気を頭の外へ放り出すと、布団から出た。

眩しい朝陽は布団の中に居る時よりもよりはっきりと感じられ、
慧音の眠っていた細胞一つ一つを揺り起こすようだ。

小さな欠伸を一つ、口の前に手を当ててする。
おまけに右手を真上に伸ばして背中から腕にかけての筋肉を伸ばしてほぐす。

「起きたのか。おはよう慧音」

隣接する台所に居た彼は慧音が起床した事に気が付いたらしい。
布団が捲られる音や、衣擦れの音、体を起こす時の物音。
慧音が起きたという事を知らせる要因はいくらでもあるが、
やはり一番の要因は『一緒に暮らしている』と言う事だろうか。

一つ屋根の下で暮らし始めてまだ半年しか経っていないが、
最近言葉を交わさずとも互いにある程度の意思疎通が出来るようになった。

細かな表情の変化、目線、仕草、直前の行動。
言葉が無くとも相手の行動を察する手段はいくらでもある。

そして今では互いにそうした行動が無意識の内に行えるようになった。
不思議な事だと慧音は思う。

言葉は文明の要と言っていい。
言葉と文化は密接に絡み合っている物だ。

だがその言葉が無くとも、自分と彼は意志を伝え合う事ができる。
これは文明の破棄と言うのだろうか。

それとも、今の二人の状況は、文明や言葉と言った物が必要のない物なのかもしれない。

「あぁ、おはよう霖之助。
 すまない、休日なのに私が遅くに起きてしまって」

既に着替えた姿で台所に立つ、
彼女の『夫』森近霖之助は特に気にする様子もなく、何時も通りの仏頂面で慧音を見つめていた。

「いや、いいよ。昨日は君も大分飲んでいたみたいだしね」

霖之助は特に気にしている様子もなくそう言った。
冷蔵庫から玉子を二つ取り出すと、熱したフライパンの上に落とし、
しばらくすると水を入れて蓋をした。

高温の油と水が反発し合い、弾ける音を聴きながら、霖之助はゆっくりと続ける。

「布団を片付けてテーブルを出してくれないかな。
 ついでに飲み物を入れてくれると有り難い」

コクリと頷き慧音は早速自分の仕事に取り掛かる。
まず自分と霖之助、二組の布団を押入れに片付け、
テーブルの出せるスペースを確保すると折りたたみ式の卓袱台の足を立てて、部屋の真中に設置する。

飲み物は今の季節が六月の後半という事もあり、
冷蔵庫に入っていたアイスコーヒーを二人分グラスへと注ぐ。
ついでに箸や取皿といった物を出しておく。

片方のアイスコーヒーにはガムシロップを一つ入れ、
もう片方には何も入れない。

ガムシロップを入れた方が慧音のアイスコーヒー。
何も入れていない方が霖之助のアイスコーヒーだ。

彼はこうした飲み物に不純物を加える事にあまりいい顔をしない。
そのままを楽しみたいと彼は言うが、
慧音は彼の言うそのままの状態では苦くてとても飲めない。

ガムシロップを丸々一つ入れてやっと美味しく飲める程度だ。

ただガムシロップ入のアイスコーヒーと、
何も入れていないアイスコーヒーでは見かけ上の差異が無い為、
慧音は必ずガムシロップを入れてかき混ぜる時に使ったマドラーを出さずに、
そのままにしておくのが二人の間に交わされた暗黙の了解だった。

この日もその例に漏れず、マドラーが入ったままのアイスコーヒーは慧音の分。
何も手を加えられていないアイスコーヒーは霖之助の分となっていた。

箸と皿、グラスをそれぞれ向かい合うように並べると、
台所に向かって既に出来上がった料理を卓袱台へと運ぶ。

出来上がっていると言っても、朝食なのでそこまで凝ったものはない。
昨夜の夕食を作る時に余った野菜で作ったコールスローサラダ。
温め直した残り物のポトフにトーストと、霖之助が焼いた半熟の目玉焼き。

以上が二人の朝食だ。
慧音が先に食卓につき、少し遅れて霖之助が食卓についた。

二人でいただきますを言って食事を開始すると、
今日の予定でも話し合いながらゆっくりと箸を進める。

「今日はどうするつもりだい? 僕は何時も通り本を書く作業をするけれど」

霖之助の言う本とは彼の日記の事だ。
幻想郷に居た頃から日記は付けていたようだが、
外の世界に来てからは別の日記帳に日記を書いているらしい。

霖之助は元々その日記帳を歴史書として出版するつもりでいるようだが、
今書いている日記はそれとは別に、外の世界の記録書として出版するそうだ。

「私は特に何も。やるべき事といえば家事ぐらいだな」

「そうかい。まぁ、休日だしそのくらいが一番だろうね。
 ゆっくり休むといい。日々の仕事も大変だろうに」

「殆ど趣味でやっているような事だから苦ではないよ。 
 逆に何もしなくていいと言う事程落ち着かないものはない」

「仕事中毒だね」

「返す言葉もない」

慧音は外の世界に来てからは小さな学習塾で講師をしている。
本当は学校の教員を希望したのだが、
外の世界で教師をするには資格が必要だと聞いて諦めるしか無かった。

それに一年しかこちらの世界に居られない自分が、
子供達と深く関わる仕事に就くのも問題がある。
結局は塾の講師という形で落ち着く事となった。

一方の霖之助はというと。
こちらに来ても相変わらず道具屋を営んでいる。

普通の日用雑貨から、珍しい輸入雑貨に骨董品まで、
彼が店で扱う商品は実に様々だ。

以前商家だった物件を借りて、
規模は大きくないにしても細々と商いをしていた。

お互い様だが、こちらに来ても二人は何も変わらない。
そう、何も変わっていない。
一つ屋根の下で暮らしているのに二人の関係に変化らしいものは見られなかった。

それを自覚するたびに、慧音の胸は締め付けられるような痛みに襲われる。
これでは何の為に彼の誘いを受けたのか分からない。

「そうだ、その……買い物なら行くかもしれないな。
 うん、夕飯の支度だとか、その他の消耗品を買い足す為に」

「へぇ」

そっけなく霖之助は相槌を打った。

「買い物か……僕も行こうかな」

「えっ」

先程の素っ気ない相槌と同じ様に、
その言葉には余り感情が見られなかったが、確かに彼はそういった。

少しだけ言葉に対する反応が遅れる。
今まで二人で出掛けた事が無い訳ではなかったが、
かといって二人が積極的に何処かへ出掛けるという事も無かった。

だから彼のこの言葉は慧音にとって意外なものだった。
胸の鼓動が一段高くなり、次に発する言葉を見つけるのに時間がかかる。

「どうかしたかい?」

「いや何も、本当に何でもない。
 そうだな、うん、たまには二人で買い物も……いいな」

彼は普通に何でもない表情をしているのに、
自分だけ慌てた顔をしているのは可笑しな話だと思い、
精一杯冷静な表情を取り繕った。

「午後からになると思うが構わないか?」

「あぁ、僕は何時でもいいよ」

「それにもう一つ……せっかく二人で行くんだし、買い物は駅前通りでしたいな」

「そうか分かった。それでいいよ。
 さてそうと決まれば僕は早めに本を書いてしまおう」

「その前に……その……」

「ん、何だい?」

恥ずかしそうに俯きながら、もじもじと体を動かして、
慧音は立ち上がろうとした霖之助を制止した。

「今からき、着替えようと思うんだ……だから……」

「あ、うん。そうだね、すまない気付いてやれなくて。
 表で待っているよ、終わったら呼んでくれ」

「うん。ごめん、霖之助」

「気にしなくていい。何せ僕たちは夫婦なんだから」

そう言って霖之助はタバコの箱とライターを手に取り、表へ出て行った。
霖之助が居なくなって、部屋の中は使用済みの食器が並ぶ卓袱台と慧音だけが残った。

「夫婦なのに、どうしてこんなにも余所余所しいんだろうな」

ポツリと呟いたそれは霖之助に対してではなく、自分に対して向けられたものだ。
何時までも臆病で、一つ屋根の下に住んでいるのに、
何も言い出せない自分に対して向けられたものだった。









二人が外の世界へ来る時、八雲紫は幾つかの条件を提示した。

一つ、妖としての部分と力の封印。
二つ、幻想郷の秘匿。
三つ、外の世界の人間に危害を加えない事。
四つ、外の世界は『今の幻想郷の外の世界』ではないという事。
五つ、幻想郷に持ち帰れる物は一つだけ。

この五つと外の世界の法さえ守れば何をしてもいいらしい。
何処に住んでも、何処へ行っても、何をしても。

紫は一切干渉しないそうだ。
それどころか金銭的な援助まですると言ってきた。

本来ならば紫の行為に甘えて資金援助を受けるべきなのかもしれない。
そうすれば今よりももっと豊かな生活を送りながら、
外の世界を『見る』と言う事が出来たのかもしれない。

だが霖之助はそれを断った。
「おんぶに抱っこは柄じゃない」と言って断ったのだ。

そんな霖之助を見て紫はやや諦めたような態度で。

「言うと思ったわ。貴方そういう所は絶対に譲らないから。
 でも外の世界で行動するには少なからず資金が必要になる。
 だから最低限の資金だけは受け取って欲しいの」

と言って最初の資金と、外の世界での生活必需品を霖之助に渡しただけであった。
その後、物件選びを手伝ってくれたり、
外の世界の常識を教えてくれたりもしたが、
彼女はやる事だけすませるともう慧音達の前に現れなくなった。

結局支援も受けずに、霖之助の店となる物件の家賃を払いながら、
自分達が住む場所の家賃を確保するとなると。
今住んでいるような古くて、部屋も狭い物件しか見つからなかった。

慧音はそれに対して何も言わなかった。
彼がそうしたいのなら、慧音は喜んでそれを受け入れる。

確かに今住んでいるアパートは古くて狭いが、
この古い外観は何だか落ち着く。

それに狭いと、彼と触れ合う機会が増える。
もっとも先程の様に、
慧音が恥ずかしがってチャンスを逃してしまう事の方が多いのだが。

とにかく、慧音は霖之助の決めた事なら何も意見するつもりはない。
彼は望んでこの地に来た、そして彼は慧音と来る事を望んだ。

それだけで、それだけでもう胸がいっぱいだ。
彼が少しでも自分を必要としてくれたのなら、
それだけで慧音は嬉しかった。

昼食が終わって、
慧音は黙々と執筆作業を進める霖之助の後ろで、出かける準備をしていた。

ショルダーバッグの中に財布や連絡用の携帯電話(紫からの支給品)を入れ、
その他に必要と判断したものを少量詰め込む。

別に特別な買い物でもないのに、
何故か執拗に持ち物のチェックをしてしまう。
そうでもしないと胸の中が落ち着かない。

狭い部屋なのに、何度も何度も隅から隅まで見渡して、
途中で目に映る霖之助に少しの間視線を合わせると、また視線を隅から隅へ動かす。

そんな事をしている方がよっぽど変なのに、
そうでもしないと心が静かにならない。

「慧音」

「はい!」

「時間、いいのかな?」

「あ、あぁ、うん……そうだな、そろそろ行こうか」

そわそわしすぎて時間の事なんて全く意識の外だった。
慌てて立ち上がり、バッグを肩に掛け、霖之助の待つ玄関へと向かった。
 
靴を履くと、
しゃがんだ状態の慧音が立ちやすいように霖之助が手を差し伸べて来たが、
慧音はそれを「大丈夫だよ。一人で立てる」と言って断る。
心の中に広がる後悔を雁字搦めの感情で抑えて、慧音は霖之助とアパートを後にした。

並んで歩く二人の肩と肩の間には拳一つ分の空間があり、
いくら歩いてもそれが無くなることはなかった。









何時来ても駅前通りの賑やかさは変わらない。
一時間に何本かやって来る電車は絶えず人を吐き出し、
街の活気を絶やさないようにしているようだった。

行き交う人々の顔には表情が見いだせず、
能面を付けた人間がせわしなく動いているように見える。
いや、実際は暑そうな顔をしていたり、不機嫌そうな顔をしていたり、笑顔でいたり。
様々な顔をしているのだが、慧音にはそれが能面に見えるのだ。

慧音はそれが少し苦手だった。
だから一人ではあまり人の多い場所へ近付こうとはしない。

二人なら幾らかましだが、それでも苦手なものは苦手だ。
傍らを歩く霖之助から離れないように、
慧音は注意深く人の動きを読みながら彼に続いた。

右手に大きな買い物袋を抱えた霖之助はいささか歩き難そうではあったが、
それでも器用に人を避けて慧音の前を歩いてゆく。

だが慧音を置いてゆく程の速さではない。
人混みを歩くのが苦手な彼女を気遣って、
彼女が付いてこられる速さに抑えているようだ。

霖之助とは随分と長い付き合いになる。
それこそ慧音が幼い時からずっとずっと付き合いがあった。
年は霖之助の方が少しだけ上なので、何時も慧音は霖之助の背後をついてまわった。

食事をする時も、風呂に入る時も、寝る時も。
幼い頃はずっとそうして一緒だった。

だが、成長して一人の女性としての自覚が芽生えると、
昔の様に素直に甘えることが出来なくなってしまった。

昔は常に手を繋いでいたり、正面から抱きついたり、背後から飛び掛ったり。
当たり前のようにそうして接していたはずなのに、それが出来ない。

理論だとか、理性だとか、そんな物で感情を塗り固めて、
自分が伝えたい事を彼に伝えられない。

この数十年間ずっとそうだ。
ずっとそうして縮まない距離を見つめて、
爪が食い込んで血が出るくらい、強く拳を握っていた。

「慧音」

自分を呼ぶ声。
ハッとなって慧音は顔を上げる。
随分と遅れていた慧音に対して霖之助が気になって声を掛けたらしい。

「気分がすぐれないのかい? 少し休もうか」

「いや、そんな事は……」

「ぼんやりと呆けた顔をして歩くなんて君らしくもない。
 やっぱりどこかで休もう。あそこの飲食店なんかどうかな」

そう言って霖之助は、少し先にある飲食店を指差した。
軽い食事や、飲み物なんかを提供する店だ。

そう言えば何だか喉も乾いた気がするし、
随分と気分を重くしていた気もする。

慧音は「うん」と首を縦に振ると、霖之助に連れられて飲食店の中へ入った。

店の中は空調がよく効いていて、ひんやりとした空気が肌を撫でる。
不自然な冷たさを持ったこの空気を、慧音は苦手としていた。

お昼時を過ぎた事もあり、店内に余り客は居ない。
二人は店員に煙草を吸うか吸わないかを聞かれた後、
「吸う」とだけ答えて喫煙席に通された。

二人が大きな買い物袋を脇に置いて座ると、
すぐに店員がやって来てお冷とおしぼりを提供した。

霖之助は去り際の定員にアイスコーヒーとショートケーキを注文すると、
慧音にも何か注文を勧めた。

正直な話、頼むものなど何でも良かったので霖之助と同じ物を注文した。

「ふぅ、外の喧騒から開放されると堅苦しい儀式用の服を脱いだ気分になる」

「すまないな。私の方から誘っておいて、誘った本人である私がこんなで」

「いいや、楽しかったから構わないよ。
 君とこうして買い物に出るのなんて本当に珍しい事だから。
 何時も家で顔を合わせているけど、やっぱりこうして出かけるのは違うよ」

「そ、そうか。それは良かった」

慧音は俯いて、たどたどしくそう言った。
俯いたのは少し赤くなった頬を見られたくないから。
そして楽しかったと言う彼の表情を直視したら、きっともっと顔が赤くなるだろうから。

「僕等がこっちに来てからもう半年になるね」

「もう、それくらいになるな」

俯きながらも、霖之助の言葉に慧音はちゃんと返事をする。

「どうかな? こっちの世界は」

「良い所も悪い所もある。
 いろんな物が、特に科学が高度に発展して魔法と区別がつかない程だよ。
 ただ、所々無機質な印象を受ける。
 触れた感じが、金属の塊みたいに冷たくて固いんだ」

「科学技術の代償かもしれない。或いは科学の手触りがそれなのかもね。
 どちらにせよ、僕もその意見には同意する。
 よく、そんな無機質さを感じ取って寂しく思う時が有るよ」

「お前が? 意外だな。私はそんな風には見えなかったから」

「君のお陰だよ。
 君みたいに心を開いて接する事が出来る人が居るお陰で随分と楽になれる」

「私は何もしていないよ。ただお前に付いて来て、お前と一緒に居るだけだ」

「それでいい。それだけでいいんだよ」

慧音は少し上目遣いになって霖之助を見つめる。
霖之助は普段と変わった様子もなく、
ポケットから煙草を取り出すとライターで火を付けた。

少し古い、銀色のオイルライターだ。
このご時世、オイルライターを使っているような人間は稀なので、
燃料を手に入れるのも一苦労らしい。
よく彼は「向こうでもこっちでも、こいつの面倒を見るのは一苦労だ」と慧音に笑って言った。

「何処を見ても目に映るのは知らない物。
 知らない文化、知らない技術、知らない物尽しだ。
 そんな中で、僕の事を知っている、
 僕が昔から知っている人物が居る事でどれだけ助けられたか。 
 ありがとう、慧音。側に居てくれて」

「霖之助……」

上目遣いで彼を見るのを止めて、今度はしっかりと顔を上げて霖之助を見つめた。
同じ様に彼も不安だったという事だ。
彼もこの見知らぬ土地で、慧音と同じ様に不安に胸を掻き乱され、
精神を擦り減らしてきた。

だが、慧音はそれを知らず知らずの内に支えて来た。
側に居て、彼と一緒に暮らしていただけだが、
それでも彼女の存在は彼にとって大きな支えになったらしい。

「でもまぁ、申し訳なくも思ってはいるんだ。
 僕の方から声を掛けておいて、連れて来たのに、
 余り豊かな生活をさせてあげられなくてね」

「それは違う。それは違うよ霖之助」

耐えきれず、慧音が霖之助の言葉を遮った。
火が付いたままの煙草を手に持った霖之助の動きが止まり、
少しだけ驚いた様な表情をしていた。

「私はお前から一緒に来てくれないかって言われた時凄く嬉しかった。
 霖之助の夢に、私も付き合わせてくれるんだって。
 ずっと昔から目標にしていた夢に、私を付き合わせてくれるんだって。
 だから、もう私はそれだけで十分なんだ。
 側に居て、お前が自身の夢を叶える姿が見れて、私は満足だよ」

「それでいいのかな、君は」

「十分だ。お前が楽しいのなら私も楽しい」

「……ありがとう」

灰皿に灰を落とし、それきり霖之助は無言になった。
慧音も今さっき自分が言った事を思い返して、激しく赤面した。

霖之助の言葉に対してつい自分もあんな事を口走ってしまったが、
アレでは告白を通り越して夫婦みたいではないか。

確かに慧音と霖之助は夫婦という設定ではあるが、
本当の意味の夫婦ではない。
だが、さっきのあの言葉は……

慧音の頭の中で思考がグルグルと同じ場所を回り、
更に頭の中を掻き乱す。

「慧音、そう言えば聞こうと思っていたことが有るんだけど」

「は、はい! 何でしょう」

上ずった声で、しかも何故か敬語でそう答えてしまった。

「いや、さっき君に言った事だけど。
 やっぱり二人で出かけるのは良いものだね」

「うん、悪くないな」

「そこで何だが……もし良かったらもう少し遠出をしてみないかい?
 そうだ、旅行だ。二人で何処か遠くへ旅行しよう」

「えっ、そんな、突然だな。
 でもまぁ、確かにいいかもしれないな。
 その……二人で何処か遠くへ旅するのも」

突然の提案に慧音は不思議と肯定の意を示した。
だが頷いておいてすぐに頭の中で霖之助と旅行する自分を想像した。

だが上手く頭の中でイメージが固まらない。
何処か現実味を大きく欠いている様なその光景を明確に思い浮かべる事は出来なかった。

「どうする? 行くか、行かないか」

その言葉を聞くより前に、慧音の答えは決まっていた。
頭の中に思い浮かばない景色を、イメージするよりも早く現実にしてみようじゃないか。
予想も出来無い光景だから、何があるか分からなくて楽しそうだ。

慧音はゆっくりと息を吸い込む。
やがて頭の中で答えだけを言葉として纏めると、
出来るだけ冷静を取り繕って口を開いた。

「行くに決まっているだろう。お前と一緒なら」

貴方の居ない場所に、自分が居る道理などある筈もなく。
また、貴方が居る場所に私が居ない道理など存在しない。

貴方が居るなら隣に自分が居て。
自分がいるならその隣には貴方が居る。

手を繋がなくてもいい、肌と肌が触れ合わなくてもいい。
ただ、貴方の傍らに居たいから。

Comment

初コメ失礼します!
少し甘めな感じが出てて、文の質・量とも非常に良かったです!
貴重な慧霖分をありがとう!(^人^)
  • by:網走ペンギン
  •  | 2010/11/14/23:04:49
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