十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

プロフィール

十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
メッセ&スカイプは大歓迎です
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どなたでもどうぞ
もしご連絡いただければ高所から
イヤッホォォォォ!!します


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大体マルチ対応ゲームやってると思います。

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玉兎のごとく2

プロットドルルンさん、本文私なSS第二弾。

おい、第一回はレイセンだったのに、第二回はよっちゃんかよ。


『玉兎のごとく2』



依姫、霖之助、サニー、スター、ルナ、永琳







流れる風も、呼吸をする為の空気も、目に映る景色も、
全てが私にとって好ましくない。

私はこの穢れが蔓延する地上へと再び降り立った。
この場所に来るのは以前八意様と再開した時以来だ。

今回の目的も八意様に会うと言う事だけならばいくらか気持ちも晴れるというものだが、そうもいかない。

今回私が地上へと着た理由、
簡単にそれを説明するならば宿代を支払いに来た。と説明するしか他はない。

私の姉、綿月豊姫が私的な理由で玉兎に命を下し、
地上へと自身の『密書』を運ばせていた。

玉兎は見事、八意様へと密書を渡す事が出来たが、
その途中で地上人に世話になったらしく、

帰還した後その玉兎、『レイセン』が手紙という名の請求書を持っていた事を知った私は、
すぐに地上へと向かった。

どうやら地上で迷って、地上の民に一晩宿を借りたらしい。
そしてそれの請求書がこれと言う訳だ。

地上人に対して何時までも借りを作っておくのは、
正直我慢ならない。

月人として、いや綿月依姫のプライドがそれを許さなかった。
だから私はこうして地上へと降り、その借りを返そうとしている。

レイセンは自分で撒いた種なので全て自分が何とかすると言っていたが、
彼女には小遣い程度にしか給料を与えていない。
衣食住をこちらが全て養っていると言う事もあってか、
彼女達玉兎の給料はそんなに多くないのだ。

それに彼女は「自分がまいた種」と言っているが、
元はと言えば私の姉がそんな事を命じなれば起こらなかった事だ。

彼女の休暇を潰した挙句、
少ない給料から更に自腹を切らせては何とも忍びない。

結果、私は「自分が行きます」と言うレイセンを抑えて、
地上までやって来た。

本当ならそもそもの原因を作った姉が行くべきなのだろうが、
何せチャランポランな姉だ。

きっと厄介な出来事を引き連れて月に帰ってくるかもしれない。
あの姉ならばきっとそうだ、あの姉ならば。

大きな手間を避ける為なら、私は小さな手間を喜んで選択する。
これが物事を進める上で一番合理的なやり方だ。

私は林道の脇に生えた草木が私の肩に触れない様に、慎重に歩く。
ぬかるんだ地面を踏みしめる時は慎重に、
スカートに泥が跳ね返らない様に慎重に一歩一歩を踏み出した。

まったく、ただ歩く為だけにこんな気を使わなくてはならないなんて、この場所は本当に面倒だ。

私は手に持った地図通りに道を進んで、『香霖堂』と書かれた看板を掲げた店へと辿り着いた。
第一印象を率直に述べるなら、何とも汚い店だ。

店先にはゴミが雑多に置かれ、
店の外壁は植物の蔓が伸び放題、絡み放題の状態が放置されている。

一応看板が掲げられている事によって、
ここが店だという事はかろうじて理解できるが、

外見だけを述べるならば物置や廃屋と言った方が正しいのかもしれない。

そう言えばこの店の店主の名前は何だっただろうか?
月を立つ前にレイセンから聞いたはずだったが……そうだモリチカだ。
モリチカリンノスケと言う名前の男性だったはずだ。

レイセンによると、銀髪で眼鏡を掛けていて、
余り感情の起伏が激しくない方らしい。

きっと口数も少ない方なのだろう。
それならば楽だ。余計な会話を重ねなくてすむ。

私は古めかしい店のドアへ手を掛けると、
そのまま手首を捻りゆっくりと扉を押した。

「ねぇ! 結局交換してくれるの? してくれないの?」

「サニーちょっと声が大きいわよ。お願いしているのは私達なんだから」

「ねぇ、店主さん。この星みたいな形をしたお菓子も一緒にくださいな」

店内にはレイセンの言った通りの外見をした男性が一人と、
幼い容姿の女の子三人が会話をしていた。
女の子達の背中には薄くて透明な羽が生えている。妖精か。

聞いている限りでは商品の売買についての話のようだが……

「あの、申し訳ありません店主殿」

「ん、あぁ、ちょっと君達待っていてくれ、新しいお客さんだ」

「こんにちは、店主殿」

「こんにちは、えーっと……」

「綿月です。綿月依姫と申します」

「ご丁寧にどうも。森近霖之助だ、この店の店主をやっている」

「存じております。先日は我が方の玉兎がご迷惑をおかけいたしました」

「玉兎……あぁ、レイセンの事か。すると君はあの娘の上司か何かかい?」

カウンターの前は三人組に占拠されているので、
扉付近から挨拶と自己紹介を行う。

ついでにこの店の中身をチラリと見渡してみるが……何とも形容しがたい。
置かれている商品に統一性はなく、並べ方も雑多だ。
おおよそ秩序というものに無縁な印象を受ける。
やはり、地上なんてこんなものなのだろう。

「はい、そうなります。本日はあの娘がここに泊まった時の宿代を支払いに来ました」

「ほう、それはまた随分と早かった……」

「ねぇ! お姉さんお姫様なの?」

店主の言葉を遮って、金髪で白く輝く八重歯が特徴的な妖精が私の前に飛び出してきた。

「こらサニー、いきなり何を聞いてるのよ」

「ん、だって姫って言うくらいだからお姫様なのかなぁと思って。
 お城に住んでいて、ゴージャスなドレスたくさん持っているのかなーって」

「ねぇ、店主さん。この星形のお菓子……」

三人の妖精の内、二人が私の方を向いた。
残り一人は私の事なんて興味の外とらしく、
金平糖が入った瓶を眺めてただブツブツと小声で何かを呟いていた。

困った、まことに困った。
元々手っ取り早く代金だけ払って八意様の元へと向かうつもりが、
面倒な輩に興味を持たれる事になるなんて。

妖精は一度興味を持ったものには飽きるまでしつこく追求すると聞くし……
適当に嘘でも言って誤魔化すしか無いか。

「え、えぇ、私はお城に住んで……」

「でもお姫様にしては地味よね」

「いい加減にしなさいサニー!」

こ、この妖精。誰が地味か、誰が!
月の民は代々簡素な中に美を求めるもの。
地上の民の様に、派手なだけの美とは違うというのにこの妖精ときたら。
いや、妖精にそんな事を求めても仕方が無いか。
そうだ、その通りだ。たかが妖精の戯言、好きに言わせておけばいい。

「サニーが失礼な事を言ってすみませんでした。ごめんなさい」

そんな事を考えていたら、
同じく金髪で縦巻きロールの妖精が申し訳なさそうに謝ってきた。

先程までサニーと呼ばれる妖精に対して呆れ返っていただけに、この態度は意外だ。

「大丈夫、気にしていませんよ。
 貴方は随分とよく出来た妖精ですね、名前を聞いてもよろしいですか?」

「私はルナチャイルド。さっきの失礼なのがサニーミルク。そしてあそこに居るのがスターサファイア。
 長いからそれぞれルナ、サニー、スターって呼んでください」

先程と同じく、ルナの丁寧な態度には感心する。
地上の生き物で、
しかも妖精なのにここまできちんとした自己紹介が出来るとは。

変わった妖精も居るものだ。

「ご丁寧に。先程も名乗ったように私の名前は綿月依姫。よろしくお願いします」

「よろしく」

私の言葉にルナはペコリと可愛らしくお辞儀をした。
小さな体で行われるその仕草は、心の表面を擽るようで、見ていて笑みが溢れる。

「君……お代の件、いいかな?」

店主の声で私は我に返った。
そうだ、今日は妖精との交流を深めに来たのではない。
レイセンの宿代を払いに来たのだ。

「これです」

私は懐から小さな袋を取り出して、彼へと渡した。
彼は袋の中身を過不足ないか確認してから無言で頷いた。

「結構。わざわざ遠い所からご苦労だったね」

「いえ、何時までも借りを作っておくのは月の民の道理に反します」

「見上げた心意気だ」

何となくこの男の言葉は鼻につく。
いや、私の気のせいかもしれないが、
真面目な事を嘲っている様にも聞こえる。

本当にそれは私の気のせいかもしれないが、
彼の言葉の中には私にそんな感情を呼び起こす何かが含まれているようだった。

まぁいい、ここでの要件は済んだ。
早く八意様の所へ行ってお話をした後、月へと帰ろう。

「あ、そうだ店主、結局交換してくれるのしてくれないの?」

「そうだね、別に構わないよ。数は……そうだね。じゃあ、一瓶あげよう」

「わぁい! やった!」

「ねぇ、この星のお菓子は……」

「それも一瓶あげよう」

「ありがと!」

どうやら彼女達の商談も纏まったらしい。
サニーとスターは彼の言葉に飛び跳ねて喜び、ルナも笑顔でそれを喜んでいるようだった。

だが彼女達の商談とは一体何なのだろう?
古道具でも売りに来たのだろうか、
そしてその対価に金銭か違う道具でも貰って、生活の為に使うのだろう。

「はい、約束のミルクキャンディ」

「きゃあん! これを待ってたのよ! ありがとう店主!」

彼が取りたしたのはキャンディの入ったやや大きめの瓶で、
中には数え切れない程の白いキャンディが入っていて、
小さな子供ならば一目で虜になるような代物だった。

歓喜の声と共にサニーはその瓶に抱きつく。
私からしてみれば小さな瓶でも妖精からしてみれば、随分と大きな瓶だ。
そして瓶の中身はキャンディの山。
一体どんな気持ちなのだろう、お菓子の山を見つめるという気分は。

きっと幸せで、胸がどうにかなってしまいそうなのだろう。

「おっと、引き渡す前に対価としてこいつは貰っておくよ」

「いいわよ、その為に持ってきたんだし。ルナもスターも別にいいわよね?」

「えぇ、いいわよルナ」

「私は星のお菓子が貰えればそれで」

「決まりよ、店主」

彼はカウンターの上にのった小さな小槌を手に取って、それを眺めた。
あの小槌……いや、そんな事が。だがひょっとしたら……

「店主殿」

「何かな?」

「その小槌、もしや打ち出の小槌では?」

店主はすぐに言葉を返さない。
ただ黙って私の目を見ているようだ。

私も彼の目を見て、その視線を離さない。
事実から目を背けさせぬよう
、答えをうやむやにさせぬよう、しっかりと視線を固定する。

「そうだよ、これは打出の小槌だ」

やがて長い沈黙の末に彼がそう私に言った。
やはりか、やはりあの小槌は打ち出の小槌だったか。
以前資料で見たものと似通った点が有ったのでそうではないかと思ったが。

「だとしたらこの取引は不当です」

「不当? どこがだい」

「お菓子と宝具では価値がまるで違うからです。
 貴方のやっている事は商人としての誇りを伴わない行為です」

「ふむ、そうか価値が吊り合わないか。そうだね、少なくとも君の中では」

「逃げないでください」

「逃げていない。なんなら彼女達に聞いてみるといい、この取引に不満があるのかと」

「それでは解決にならないでしょう。第三者が公平に物の価値を計らなくては意味がありません」

「僕は君の言う第三者の物の価値程、無意味なものは無いと思うけどね」

「物の価値は欲しいと願う当人の基準によって幾通りにも意味を変える。
 いいかい、物の価値というものには本来基準なんて有りはしないんだよ。
 そしてそれを決めるのは当人だけだ」

「そうして最もらしい事を言って幼い子供から貴重な物を巻き上げるのですか!」

最後の方で私は我慢ならずに怒鳴っていた。
彼の意見が私には利己心の塊に聞こえて、それを遮りたくての叫びだった。

叫びが木霊した店内は、やがてしんと静まり返って、
私に無言の返事をしているようだ。

そこで私はようやく元来の冷静さを取り戻した。
周囲を見渡すとルナとサニーとスターが怯えた目付きで私を見つめていた。

どうしてだか私には分からなかった。
私はただ目の前で行われようとしている不平等な取引を阻止しようとしただけなのに。
なのに、なのにどうして彼女達はこんなにも怯えた目で私を見つめているのだろうか。

そしてそんな中、店主の目だけが静かに、
何の怯えや不信感も抱かずに私を見つめていた。
「どうしたんだい? さっきの叫びの続きはまだかい」とでも言いたそうだ。

どうして、どうしてこの男はこんな目をしていられるのだろうか。
僅かな対価で幼い子供から貴重な道具を毟り取ろうとしたこの男が、
どうしてこんな目をしていられるのか。

そして、私はどうしてこの男にこんな視線を向けられなければいけないのだろうか。
分からない。私はただ目の前で行われる搾取が許せなかっただけなのに。

「よ、依姫さん」

沈黙に耐えかねたルナが震える声で私に声を掛けた。
その声に、私は爪痕が残るぐらい強く拳を握って「なに?」とだけ短く応えた。

「その……機嫌を悪くしたのならごめんなさい。あの、よかったら依姫さんも一つどうぞ……」

彼女は瓶の中からミルクキャンディを一つ取り出して私に手渡した。
小刻みに震える小さな手で、私に手渡しすると彼女は逃げる様にサニーとルナの元へ戻った。

「おいしいもの食べたら、きっと機嫌が良くなると思って……」

違う貴女達に、貴女に憤っていたのではない。
私が憤っていたのは取引の内容と、それを何とも思っていない店主に対してなのに。
それなのに、そんな顔で、そんな態度で私に接しないで欲しい。

「失礼しました」

殆ど反射的にそう言って、私は店の扉を開け放ち、外へと出ていた。
背中から何か聞こえた気がするが、
私はそれを無視して永遠亭の方角へとひたすら走った。

本当に何も考えず、ひたすら永遠亭へ向けて走った。






永遠亭に到着した私を出迎えたのは鈴仙だった。
だが私は彼女の出迎えに対して適当な相槌を返すだけで、余り話をしなかった。
本当ならば八意様の元で学んだ事柄や、
近況等を聞いておくべきなのだろうが、そんな気分になれない。

結局八意様の元へ案内するように頼み、私は八意様の診察室へと通された。

八意様の診察室は月に居た頃と同じ薬品の匂いがして、
なんだか懐かしい気分になる。

その診察室に設けられた自身のディスクで黙々と作業を進めていた八意様は、
私が入ってきた事に気付くと、
少し驚いた顔をして「あら、貴女も交換日記を始めたいの?」そう冗談っぽく言った。

優しい笑みと、気の利いた冗談は少なからず私の心を上向きにしたが、
それでもそのまま談笑を交わすという気にはなれない。

そんな私の心中を察してか、
八意様はただ優しく「座ったら。色々あったでしょう」と言って着席を勧めてくれた。

「何か飲む?」

「いえ……そうですね、いただきます」

「何がいいかしら?」

「紅茶を」

「なら私もそれにしましょ」

診察室には湯を沸かす程度の簡単な台所と呼べる物が設置されており、
八意様はそこで湯を沸かし、
湯が湧くまでの時間を利用してティーカップと茶葉を慣れた手付きで準備した。

八意様の紅茶か……思えば八意様が月にいた頃はよくご馳走になっていたな。
あの頃は私もまだ訓練生で、日々失敗と挫折の連続だった。

そんな私が落ち込んだ顔をして八意様の元を訪れると、
彼女は決まって「何か飲む?」と聞いた。

八意様が淹れる飲み物は大抵が美味しく、私の心を落ち着けてくれるものだったが、
その中でも紅茶は特にそうだった。

カップに注がれ水面を見つめて、
自身の至らない点や注意すべき事柄をそうして思い直しながら、
丁度いい温度まで冷めたところを一気に飲み干すのだ。

余り行儀のいい行為とは言えないが、それが一番迷った時私には効いた。

「お待たせ。味の趣味、変わってないかしら?」

「はい」

私の味の趣味、砂糖はスプーン二杯でミルクをたっぷり。
濃厚でいて、とても甘いそれを見た姉は「体に悪そうだわ」と言って嫌な顔をしたが、
私にはこれが調度良かった。

疲れた心を癒すには甘い物が一番だ。

「随分と楽しく無い事があったのでしょうね」

「えぇ、まぁ」

「当ててあげましょうか。香霖堂さんの事でしょう?」

「ぎゃふん……はい、確かにそうです」

「貴女がこっちへ来た理由も何となく察していたから、そうだと思ってはいたけど。
 そこまでストレートな反応を見せるとは思わなかったわ」

呆れたようにそう言いながら、八意様は私に紅茶の入ったカップを渡した。
この人には何時まで経っても敵わないと思う。
彼女にとっては私なんてまだまだ子供なのだろう。
それが恥ずかしくもあり、心地良くもある。

「三人組の妖精が香霖堂で取引をしていたのです。
 妖精達はキャンディのたくさん入った瓶を欲していました。
 そしてその為に差し出した対価は打ち出の小槌……宝具だったのです」

八意様は軽く頷いて相槌を打った。

「私にはそれが理解できませんでした。もっと言うならば我慢なりませんでした。
 確かに妖精に宝具の価値は分からないし、使いこなすのも無理でしょう。
 ですが、だからといって、キャンディごときと交換していい物ではありません。
 世の価値観でそれを測れば、それは間違いなく不平等な取引です。 
 私はそれの取引を止めようとして、店主と言い争いになりました」

そこまで続けて、私は八意様が笑っている事に気が付いた。
クスクスと、上品に口元を緩めて小さな声でクスクスと笑っているのだ。

私はまるで信じられない物を見つめる様に八意様を見つめた。
どうして、どうして彼女は笑っているのか。
私にとっては笑い事ではないのに、それなのにどうして。

「八意様……笑い事では」

「ごめんなさい。えぇ、ごめんなさい。それで、続けて? それからどうしたの」

「ついカッとなって……怒鳴ってしまいました。
 そしたら妖精達に怯えた目で見つめられて、それで……」

「なるほど、大体分かったわ。相変わらずね、貴女」

「やはり彼女達はまだあの宝具の価値をよく分かっていないのでしょうか。
 きっと価値が分かればあんな取引は止めるはずです」

「そうじゃないわよ、依姫。そうじゃないの。
 彼女達の取引はそれで正しいわ。彼女達が心からそう思うのならね」

「決して吊り合わないと分かっている物同士でもですか?

「はたして決して吊り合わないものなんて有るのかしらね」

「それはどういう……」

「物の価値は思っている程普遍的なものでは無いという事よ。
 同一の物でも一方ではお宝だったり、一方ではガラクタだったり。当然その逆も然り。
 物の価値というものは常に姿と意味を変えて存在しているの。
 通貨がそれに対して一定のラインと、形を与えてくれるけど、それもある程度までね。
 結局、物の値札は他人の心の中にしかないのよ」

先程彼から言われた言葉と同じ言葉だった。
彼の言葉よりもいくらか詳しく物事を述べているが、意味は大体同じだ。

ついさっき反発したはずの言葉なのに、
八意様にそう言われると私は言い返すことが出来ない。

その代わりにカップに入った紅茶を口元に運ぶと、一気に飲み干した。
そしてカップをディスクの上に置いて、私は自分のポケットからある物を取り出した。

先程ルナから貰ったミルクキャンディだ。
強く握った時に体温で若干溶けてはいるが、まだしっかりと形を保っている。

「貴女は少し真面目過ぎるのかもしれないわね」

「真面目でいけませんか?」

「いえ、それが貴女の良いところよ。
 でも昔私は教えてはずよ、過ぎたるは及ばざるが如しってね。
 もう少し、肩の力を抜けないかしら」

「私は月の秩序を守る者です。それがどうして肩の力を抜いて不真面目に生きられましょうか。
 この身は月の秩序の為、平和の為に存在するのです。
 ですから八意様、私は自身の態度に、生き方に対して誇りを持っているつもりです。
 ましてやそれが間違いだと疑った事など、一度もありません」

「私が貴女を評価していた点はその真っ直ぐさだけれど、
 危ういと思って危惧していたのもその真っ直ぐさよ。
 ねぇ、依姫。何時か前に進むだけではどうしようもない壁にぶつかるわ。
 何時になるかは分からない、
 けれど何時かその壁は貴女の短くない人生にどしんと重い腰を降ろして貴女の行方を遮るの。
 そこで貴女のとるべき行動はそのまま立ち止まるか、迂回して進むか。
 今まで何人もの立ち止まった人物を見てきたから言うけれど、
 私はそんな人物に貴女をしたくないの。それは分かってもらえる?」

私は声に出して返事をする事も、ただ黙って頷く事も出来なかった。
先程まで笑っていた八意様の目が余りにも真剣で、
私はその前にただただ萎縮して、肯定とも否定とも取れぬ沈黙を続けるだけだった。

そんな私を見かねてか、真剣そのものだった八意様の目が不意に緩んだ。
先程までと同じ、優しさを秘めた静かな瞳に戻ったのだ。

その姿に安居してほっと胸を撫で下ろすと、今度は八意様の言葉が私に重くのしかかった。

何時か、今のままの私では解決出来無い状況に出くわす。
そしてそれを切り抜ける為に私は変わらなくてはいけない。
自身でも美徳であると信じてきた元来の真っ直ぐさだけが取り柄の自分から、
私は変わらなくてはいけないらしい。

変わるといただ漠然とした言葉の意味をまだ半分も理解できていなかったが、
それに対する決意は何となく出来た気がする。

私は掌にあるミルクキャンディの包を剥がし、その白い玉を口の中へと入れた。
舌先でキャンディを転がすと濃厚な香りと共に、煮詰められたミルクの味が口の中いっぱいに広がる。
先程私が口にした紅茶と同じ様に、とても甘く、濃い味だ。

「……甘い」

本当にとろける程甘く、私はしばらくその味に夢中になっていた。
そしてそれが本当に溶けて無くなった後も、名残惜しそうにもそもそと口の中で舌を動かした。






一度はもの凄い勢いで開け放ち、
脇目も振らずに出て行った扉をもう一度じっくり眺めるというのは何だか変な気分だ。

八意様とのやり取りから一夜明け、
永遠亭で宿を借りた私は月へ帰るついでにもう一度この香霖堂へとやって来た。

理由は色々ある。
八意様の言葉が引っ掛かった事。
いけ好かない相手とは言え部下がお世話になった相手に対してあの態度は失礼であった事。
意外と美味しかったあのミルクキャンディがもし余っているのならそれを買って帰ろうと思った事。

さて理由だけを並べたならばこの程度だろうか。
特にこの店へと訪れる理由について私は困っていない。

私が困っている事、それは言い訳だった。

昨日あんな態度で店を出ていったのだ。
今更平気な顔をしてまた店にやって来るのはいささか不自然だし、
その態度を崩さない自信がない。

ここは素直に先日の非礼を詫びたいと言うべきか。
いやいやきっとあの店主の事だ、素直に謝罪してもいけ好かない皮肉の一つや二つ……

そんな時、店の扉が突然開いた。
胸の前で腕を組みながら「うーん」と頭を捻って唸る私はそれに驚いき「きゅん!」とみっともない声を出して後ろへ飛び退いてしまった。

な、情けない。何だ今の声は。「きゅん!」は無いだろう「きゅん!」は。

「当店に何か御よ……君は昨日の」

「ま、また会いましたね。地球人!」

何を言っているんだ私は。落ち着け、冷静になれ。

「先日は失礼いたしました。つい、カッとなってしまい……」

「あぁ、なんだそんな事か。あの事をわざわざ謝りにここまで?」

それも有る。本当は他に二つ程理由がるのだが、それは言わなくてもいいだろう。
彼の態度を見る限り昨日の事を余り気にしていないようだった。

それどころか私を店に招き入れると、着席を勧めお茶を淹れてくれた。
何だか変な気分だ。嫌われるような態度はとっていたが
、好かれるような態度をとった憶えは一度もない。

なのにどうしてこの男は昨日激しい口論をした相手に対してここまで友好的なのだろうか。

私はその疑問を素直に店主へとぶつけてみる。

「あの、店主殿。貴方はどうして私にこの様な態度をとるのでしょうか?」

「この様なって?」

「歓迎の態度です。私は先日と激しい口論を交わしました。
 その中で貴方に良い印象を貴方に与えたとは言い難いはずです。
 なのにどうして貴方はこうして私を歓迎してくれるのでしょうか?」

「ふぅむ」

店主は顎に手を当て、何度かさすってから口を開いた。

「君がどう思っているかは知らないけれど、
 僕はあのやり取りを意義のあるものだと思っているよ。 
 何と言うか、あんな風に誰かと意見が真っ向から対立するなんて久々の事だから、楽しかったよ」

『楽しかった』どうやらこの男はこの言葉を本気で口にしているらしい。
分からない、他人との諍いが楽しい事だと思えるその考えが分からない。

「少なくとも僕は君の事を知的な人物だと思っているよ。
 あの時は怒っていたけど、
 言葉遣いや平生の態度を見ているとそんな事がよく分かる。
 そしてそんな人物は嫌いじゃない。面白い話が出来るしね」

「では昨日の私の態度に対して不快感は抱いていないと言う事ですね?」

「そうなるね。それより君の方こそ昨日の事はいいのかい?
 随分と怒っていたようだが。
 不快だと思ったのならすまない。どうも加減を知らなくてね」

なんだこれは、本当に調子が狂う。
こちらの方から謝罪するつもりが、逆に向こうの方から謝られていた。
何を言っているか分からないかもしれないけど、私も何が起こったか全く分からなかった。

決して自分の意見を撤回しない昨日の態度とは打って変わって、
今日の彼は発言を柔軟に変化させて私と会話をしている。

どういう事……いや待て、まさかこれが。

「八意様の言っていた事なのかしら」

「ん、どうかしたかい?」

「あ、いえ! 何でも有りません」

いけない、つい考えが口に出てしまった。気を付けなければ。
だが、私の中でパズルのピースがパチリと気持ちのいい音を立てて、当て嵌った。

うん、柔軟性とはこういう事なのだろう。

「あ、そう言えば店主殿。先日のミルクキャンディ、まだ余っていますか?」

「あぁ、一応有るといえば有るが。半端しか残っていなくてね。それでもいいかい?」

「えぇ、構いません」

「ハマったね」

「な、何の事でしょう」

店主が取り出した半分だけキャンディの入った瓶を受け取り、
私は財布の中からその分の代金を支払った。

「そうだ、店主殿。一つ言伝をお願いしたいのですが」

「誰にだい?」

「ルナとサニー、それからスターにです。
 先日怖い思いをさせてしまったようですから、
 私が申し訳なかったと言っていたと伝えておいてください」

「確かに承ったよ。次に来店した時に伝えておくよ」

キャンディの入った瓶を小脇に抱えて、私は店の扉へと向かった。
扉の前でクルリと方向を変えて、彼の方を向くとペコリと軽くお辞儀をする。

「あ、そうだ、また質問が出来ました」

「またかい」

「またです」

「言ってごらん」

「やはりキャンディ一瓶の対価が打ち出の小槌は高すぎですよ。
 せめて何かおまけをしないと」

「したじゃないか、金平糖一瓶」

「貴方という人は」

「君は打ち出の小槌の用途を知っているかい?」

打ち出の小槌の用途。確か……

「願いを叶える。ですか?」

「そうだ。名称は打ち出の小槌。用途は願いを叶える。
 打ち出の小槌を持った彼女達はキャンディと金平糖を欲しいと望んだ。
 だからその両方が打ち出の小槌の力で手に入った。そういう事だよ」

「屁理屈です。もう一度言います。屁理屈です」

本当に呆れ返ってしまいそうな程の屁理屈だ。
だが、それに対して不思議と嫌悪感は湧いてこなかった。

そうだ、確かに彼の言う通りもである。
彼女達は打ち出の小槌を持ってそう望んだから、望みが叶った。

そこまで考えて私の中に新たな疑問生まれ落ちる。

「そう言えば、現在の所持者である貴方の望みはなんなのですか?」

「うーむ、結構プライベートな質問をするね」

「気になったもので」

「そうだね、まぁいいか。僕の望みはね」

コホンと店主は小さな咳払いすると、真っ直ぐ私の目を見据えてこう言った。

「何時何時までも商人でいる事だよ」

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