十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

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十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
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愛々傘 中

小傘霖中編です。
妖夢が小傘に驚かされて泣いてしまうと言うネタは、
某スレで見た時から使いたいとなと考えておりました。

流石に出すもの出しませんけどね。
次でラスト、上手くまとまればいいのですが。


『愛々傘 中』


霖之助、小傘、咲夜、妖夢








「おどろけ~!」

「何この子? この店は新しく喧嘩も商品として売るようになったのかしら」

魔理沙御用達の壺の中から突然飛び出してきた小傘を、
咲夜が冷ややかな目線で見つめながら言った。

「彼女は売り物じゃないよ。それに彼女なりの一生懸命だから大目にみてやってくれ」

咲夜が購入したアンティーク物のティーカップを袋に包みながら、霖之助が対応する。

「まぁ、ちょっとぐらいなら」

「すまない」

「ねぇ? 何かわちきが可哀想な子扱いされてるんだけど?」

小傘が香霖堂に居着いてから早くも一週間が過ぎた。

当然ながら小傘がまだここに居ると言う事は、
彼女の新しいご主人はまだ見つかっていないと言う事になる。

そんな彼女は最初の数日間こそ店を訪れる客に自分をアピールしていたが、
どの客もまともに相手にしてくれないので、
最近ではこうして店に着た客を驚かそうと奮闘していた。

段々当初の目的からズレてきた気がしなくも無い。
彼女曰く「人を驚かせるのはわちきの糧」らしい。

と言っても彼女の古典的な脅かしに驚く人物は、この数日間で皆無だった。

「ねぇねぇ、さっきの驚いた? ねぇ、驚いた?」

「お掃除してもいいかしら店主さん」

いい加減癪に触ったらしい。
表面上は何時もの態度を崩していないが、言葉の意味から憮然とした態度が感じ取れた。

「常連の君に掃除を頼むのは僕としても忍びないなぁ」

「そう遠慮なさらずに」

「そうかい、ならお願いしようかな」

霖之助が咲夜の案に頷くと、咲夜はまだ「べろべろば~」だとか、
「うらめしやぁ~」と言っている小傘の襟を掴んで、店の外へと出て行った。

引きずられている間、小傘は「助けてー!」等と叫んでいたが、霖之助は聞こえない振りをした。

二人が出て行った後、ゆっくりと湯呑みに残った緑茶を食道へと流し込む。

最近少々騒がしい気もするが、以前よりも自分の生活は鮮やかになったと思う。
小傘が居るお陰でキチンと三食は摂るようになったし、何より話し相手に困らなくなった。

霊夢や魔理沙が店に来ていれば割と話し相手に困らないのだが、
やはりこうして一日中誰かと居るのでは会話量に差が出てくる。

「客にさえちょっかいを出さなければ文句は無いんだけどね」

窓の外でナイフの雨に晒されている小傘を眺めながらそう呟いた。
あの調子だと持って後数分と言ったところか。

だが、初めて小傘の弾幕勝負を見た時よりは、良い動きをするようになったものだ。
この数日間ちょっかいを出した客の数だけ弾幕勝負をしているんだ、無理もない。

上空からナイフを投げ続ける咲夜に対して小傘は化傘を開く。
雨が降っているのだから傘を差せばいいと言う考えか。

確かに上空からの攻撃は完全にシャットアウト出来る

化傘は普通の傘に比べて頑丈だ。
投げナイフ程度なら少しぐらいは防げるだろう。

だがこの作戦は余りにも化傘が可哀そうだ。
きっと大きな瞳に大粒の涙を貯めているに違いない。

だが小傘はそんな事などお構いなしに上空へと飛び上がった。
長時間傘で防御するのは不利と判断したのだろう。
一気に畳み掛けるつもりだ。

傘の石突部分に光が集まる。

そして上空の咲夜との距離が数メートルにまで近づいた時、
傘から無数の弾幕が洪水の様に放たれた。

弾幕の洪水はあっと言う間に咲夜が居た場所を完全に飲み込み、空を虹色に染めた。

そしてたっぷりと時間を掛けて、
まるで大雨で溢れかえった川の水が徐々に減っていくように、弾幕はその姿を消して行った。

傘をぶんぶんと振り回し小傘が勝ち名乗りを上げる。

だが小傘は気付いていない。
まだ自信が咲夜ダウンしている咲夜の姿を見ていない事に。

「また服と傘の修理か、いい加減勘弁して欲しいな全く」

霖之助が心底気怠げにそうこぼす。

次の瞬間、小傘の周囲にナイフの群れが現れた。
小傘はとっさに傘での防御を図ったが、ほぼ全ての角度から向かってくるナイフに、
一方方向しか防御出来ない傘で防ぎきれる訳もなく。
店内まで聞こえる悲鳴を上げて小傘はナイフの嵐に屠りさられた。

「お掃除完了です」

ボロボロの小傘がナイフから開放され、
地面に落下するのと同じタイミングで店内に咲夜が現れた。

「相変わらず見事な手際だね」

「そうかしら、実のとこ少し遊んでいたの」

その割に彼女は何時もの完璧な身成を少しも崩していない。

「さて、お掃除もした事ですし。何かお礼をしていただこうかしら」

「そうだね、少し上等な紅茶の茶葉が有るからそれをサービスしよう」

「あら、いいの店主さん?。今日は何てついているのでしょうか」

「わざとらしい」

さも偶然の様に言う咲夜に、霖之助がすっぱりと切り込んだ。
ノリが悪いとぼやく咲夜をよそに、戸棚から茶葉が入った缶を取り出し、彼女に渡す。

缶を受け取った咲夜は蓋を開け、
茶葉を一摘みすると鼻先へ持って行き、香りを確かめる。

ニ、三回香りを嗅ぐと、もう結構と言って一人で納得し、蓋を閉めた。

「良い茶葉です。これならお嬢様に喜んでいただけます」

「それはよかった」

「では私はこの辺りでお暇させていただきます」

「あぁ、以後も変わらず香霖堂をご贔屓に」

「気が変わらなければ」

スッと咲夜の姿が消えて無くなる。
その代わりにさっきまで咲夜が立っていた場所には、ボロボロの小傘が転がっていた。

彼女もあれでいて中々面倒見がいい。
流石は紅魔館に何十と居る妖精メイドを束ねるメイド長に就いているだけの事はある。

「大丈夫かい小傘」

「もう駄目、両親には立派に戦ったと伝えて」

「君に両親なんて存在するのかい?」

「っは!? そうだった」

「うっかりし過ぎじゃないかな」

「ほら、うっかり屋さんは私のチャームポイント」

床に寝そべったままの体勢でビシッ! と霖之助に向けて親指を立てる小傘。
初めて会った時の寂し気な印象はこの一週間の内に吹き飛んでしまった。

今では能天気な子だと言う印象しかない。

「でも私の場合、私を作った職人さんが親になるのかしら」

「まぁ、生みの親ではあるね」

「だったら配色をもうちょっと考えて欲しかったわ………」

「そんな風に自分と自分の生みの親を言うもんじゃないよ」

「どうせ私の生みの親なんて無名の傘職人に決まってるわ」

「いや、ひょっとしたらあの越後屋甚平の作品かもしれないよ」

「誰?」

「僕も知らない」

「なぁんだ」

小傘は呆れた様にそう言うとそっぽを向いて黙り込んでしまった。
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。

少々遊びすぎたかもしれないな。

「ほらほら、傘と服を直してやるから機嫌を直してくれよ」

「むー今夜はナスの生姜焼きがいい」

「よし、いいだろう。だから早く化傘と服を僕に渡すんだ」

「うわぁーい!」と叫びながら床から飛び起き、せっせと服を脱ぐ小傘。
この場合は現金と言うよりは単純と言った方がいいかもしれない。

すぐにカウンターへ化傘と脱いだ服を置き、下着姿のまま笑顔で霖之助を見つめた。

「何してるんだい?」

「店主さんが傘と服を直してくれるまで待ってるの」

「それは別に構わない。だけど服ぐらいは着た方がいいと思うよ」

小振りながらもしっかりと膨らんだ胸と柔らかそうな太股、
そしてスッキリとした肉付きの腰回り。

彼女を介抱した時に服を脱がせて手当をし為、
彼女の肌は見た事があるが、その時は手当の事しか頭に無かったので、
その他の事等、全く頭に入ってこなかった。

だが今は違う。
こう言う姿は否応なく頭に入ってくる。

どうしてこうも人前で服がポンポン脱げるのか。
風呂に行く時だって平気な顔をして居間で脱ぎだすし、
朝の着替だって霖之助が目の前に居る中で平然と行う。

はしたない行為なので止めてほしいのだが、注意しても次の日には忘れているのでどうしようも無かった。

「そう? だって今の季節はあんまり寒くないし」

「いいから何か着なさい。ほら君がここに来た時に着せたガウンがあるだろう」

「あれは動き辛いからやだ。だって引きずっちゃうんだもん」

「何だったらいいんだ」

「うーん………そうだ!」

小傘が手を叩いて声をあげる。
何か閃いたらしい。

「店主さんの上着貸して」

「なんだって?」

「上着、店主さんの上着を上から羽織るから上着貸して」

「何だってこんなものを、他にも着るものぐらい………」

「いいから貸して~」

「ったく、しょうがないな」

呆れ半分、諦め半分の溜息と共に、
霖之助は服を帯を解き、胴当てを外して上着を脱ぐ。

「別に今着てるのじゃなくても、奥から新しいの取ってくればいいのに」

「洗濯物が増えると面倒だろう」

「ものぐさはいけないと思うわ」

「ものぐさ違う、節約だ」

「なんとでも言えるじゃない」

ぶーぶーと文句を言いながらも、霖之助が上着を渡すと黙って袖を通した。

「ねぇ、似合う?」

「やっぱり僕の服だからブカブカだね」

小傘は腰の帯を締めると、小傘はブンブンと両手を振って、
服がブカブカだと言う事をアピールした。

だらんとした袖はお化けの腕の様にも見える。

「さて、君の服を修繕しないとね。
 すまないが小傘。奥へ行って裁縫箱を取ってきてくれないか」

「うん、いいよ」

霖之助の服を上から羽織った小傘は、
トテトテと足音を立て店の奥へと消えて行った。

彼女が居なくなった事によって、店に再び沈黙が訪れる。
昼を過ぎてやや西に傾き始めた日の光が、
店の窓から射してカウンターに座った霖之助の顔を照らした。

霖之助はその光に顔をしかめると、
窓とは反対の方を向き、小傘の服を修繕する為に彼女の服の被害を確認した。

「これは酷いな」

思わず独り言が漏れる。
ざっと見てみたところ、修繕するべき箇所は二十以上あるだろう。

もはやこれは衣服ではなく、ぼろ布と言った方がいいかもしれない。

霖之助はポリポリと困ったように後頭部を掻きながら、先程小傘が消えていった店の奥へ目をやる。
まだ小傘の姿は見えない。
探すのに手間取っているのだろう、急ぎの用でも無いので時間が掛かるのは別に構わないが、
あの格好のままうろつかれるのは少々問題だ。

妙な勘違いをされて困るのは霖之助自身なのだから。

不意に霖之助の背後で、ドアベルがカランカランと鳴った。
少し遠慮がちに鳴ったベルはしばらく店内に余韻を残して、完全に静まった。

霖之助はドアを開けた張本人と顔を合わす。
見てみればよく知った顔だった。

銀色で肩に掛からない程度のボブに黒いリボン。
そして緑色のツーピースを着ていて、傍らには大きな綿菓子に似た幽霊を連れている。
背はそんなに高くない、小傘より少し低いぐらいか。

少女の背中には自分の身長の半分以上はあろうかと言う刀、
そして腰にはその刀の半分程の長さをした、白い鞘の刀を差していた。

幼さが残る顔立ちはそのまま彼女の未熟さを物語っている。
いまいちその風貌と立派な刀が似合わず、見る者に酷くチグハグな印象を与えた。

「ごめんください。白玉楼の西行寺幽々子様から命を帯びてやってまいりました」

少女、改め魂魄妖夢がそう言った。
風が無い日の湖の様に澄ましたその表情からは、
生真面目な彼女らしい使命感が感じられた。

幼く未熟な彼女でもこうしていると少しだけ頼もしく見える。
本当に少しだけ。

「いらっしゃい。その命と言うのはお使いの事かな?」

「はい、そうです」

「では何が欲しいんだい?」

「お皿を数枚所望します。大きさはそれ程大きくなく、
 一人か二人が囲めれば十分な位の物を。
 出来れば花の意匠が有れば尚いいです」

「ほう、これまた随分と注文の多い買い物をするね」

「ですからお使いです。
 幽々子様が毎日同じ皿では食事も退屈だと仰るので、
 これを期に皿を新調しようと思いまして」

「お金は出せるのかい? 
 生憎今は店の外の草むしりぐらいしか仕事が無いけど」

「あ、ありますよ。失礼な方ですね。
 私と肉体労働をイコールで結ばないでください」

「ああ、それはすまなかった。失敬失敬」

プンプンと怒る妖夢。
少しからかってみたつもりだったが、彼女には本気でとられてしまったようだ。

冗談を冗談と受け取れないあたりまだまだ半人前と言ったところか。

「さて、お皿だったね。少し待っててくれ、君の要望に応えられそうなの物を見繕うから。

カウンターに妖夢を残して霖之助は食器類が積まれた棚へと向かう。
そして彼女の注文に答えられそうな皿を数枚手に取った。

その時、カウンターの方から妖夢の悲鳴が聞こえた。
霖之助は何事だと思ってカウンターの方へと目をやる。

「ひぃぃぃ!! なんなんですかこの傘ぁ~!」

見れば小傘の化傘が妖夢の顔を長い舌でベロベロと舐めていた。
多分カウンターの上に置いてあった、趣味の悪いボロ傘が気になって手に取ったのだろう。

「うぁうぅ、舐めないでぇ………店主さぁん!」

「とりあえず傘から手を放しなさい。
 その傘も突然握られて驚いてるんだ」

「うぅ、はい」

霖之助の言葉通り妖夢は傘から手を放してカウンターの上へと置いた。
すると傘は、妖夢の顔を舐めるのを止め大人しくなった。

「まったく、勝手に物を触るからこうなるんだ」

「こ、こんな場所にこんな物を置いておく店主さんが悪いんです!」

「おいおい責任転換はよくないな。
 そうやって自分の責任を他人に擦り付け、
 自分はそ知らぬ顔だなんて一人前のする事じゃないよ。
 だから君は半人前なんだよ」

「それとこれとは関係ないでしょう!
 もう! 店主さんまで私を半人前半人前って!!」

「少なくとも一人前ではないよ」

「むぅ! いいですか、私はこう見えても師匠からこの楼観剣と………」

「ばぁ! うらめしやぁ~!!」

「ひゃぁぁぁぁぁぁ!?」

霖之助と妖夢が言い争っていると、
裁縫箱を持って店の奥から出てきた小傘が妖夢を後ろから驚かせた。

驚いた妖夢は先程と同じく大きな悲鳴を上げて、今度は香霖堂の床にへたりこんでしまった。

「小傘………」

「あ、店主さん裁縫箱持ってきたよ」

「ありがとう、でも僕が言いたいのはその事じゃない」

「?」

不思議そうな顔をする小傘。

「前から言おうと思っていたけど、あまりお客にちょっかいを出さないでくれ。
 咲夜や紫なんかは冗談が分かるからいいものを、
 この娘みたいに本気でそう言うのが駄目だったらどうするんだい?」

「う、ごめんなさい。店主さん」

「とにかく、人を驚かせたいなら店の外でやってくれ。いいね?」

「分かった次からそうする………だからまだここに居てもいいよね、店主さん」

霖之助の口調が少し厳しく、小傘の心に響いたのか、彼女の反応は弱々しいものだった。
表情は暗く梅雨時の雲の様に鉛色をしていた。

悪い事をしたのは小傘なのに、こんな表情を見ているとこれ以上強く叱れない。
霖之助はそんな甘い自分に嫌気がさすが、そう言う性分なのでそう簡単には変えられないだろう。

「君が僕の商売を邪魔しないのであれば構わないよ。
 さぁ、僕だけじゃなくてこの娘にもちゃんと謝るんだ」

「うん! 許してくれてありがとう店主さん」

ぱぁ、っと小傘の表情が明るくなる。
まるで厚い雲の間から日の光が差した時のような笑顔だ。

「驚かせてすまなかったね妖夢。彼女、小傘が君に謝りたいそうだ」

床にへたりこんだままの妖夢の目線に合わせるように、霖之助も屈む。

「妖夢? 聞いてるのかい? 彼女が………」

その時、霖之助は彼女の肩が細かく震えている事に気付いた。
これはもしや。

あわてて霖之助は妖夢の表情を伺おうとする。
だが、彼女は顔を俯けていて表情が見えない。

「妖夢、すまなかった。君を酷く驚かせてしまった事を詫びたいんだ。
 僕だけじゃなく彼女も、だから……」

「……かぁ………」

蚊の鳴くような声、だか霖之助の耳には確かに妖夢の声が届いた。
一体何を喋っているのだろうか。

「ん? 今なんと」

「てん……しゅ……さん……かぁ……」

先程よりも幾分聞き取りやすくはなったが、それでもまだ声が小さい。

「妖夢、もう少しハッキリと……」

「店主さんのばかぁ!! うぅ! ひっく! うあぁぁぁぁ!!!」

霖之助が言葉を言い終える前に、
大粒の涙をぽろぽろ流した妖夢が顔を上げ、大きな鳴き声を上げた。

予想以上の反応が帰って来たので、霖之助は思わずたじろいてしまった。
横目でちらりと小傘を見る。

やはり小傘も同じ様に驚いているようだ。
霖之助と妖夢の双方に目線を行ったり来たりさせながら様子を伺っている。

その姿はまるでいたずらを成功させたはいいが、
その効果が思った以上に大きく、どうしていいのか分からず慌てている子供に似ていた。

「小傘」

霖之助は慌てふためく小傘に声を掛ける。
小傘は一瞬ピクッと体を反応させると、
いままで一所に定まっていなかった視線を霖之助に固定した。

「すまないが何か温かい飲み物をいれてきてくれないか?
 確か台所の戸棚に粉末のココアが有ったはずだ。
 作ってきてくれないか?」

「わ、わかった! すぐに作ってくる」

「砂糖は多目で頼むよ」

妖夢の味の趣味を知っている訳ではないが、
泣いてる子供をなだめるには温かくて甘い物が一番はずだ。

小傘は霖之助の言葉を聞くとすぐに店の奥へと駆けていった。
ギシギシと言う廊下を踏みしめる音と共に、
小傘は再び店先から姿を消した。

「さて」っと呟くと、霖之助は泣きじゃくる妖夢をまっすぐに見据える。

「妖夢、すまなかったね」

出来るだけ優しく、出来るだけゆったりとした声で霖之助は妖夢に声を掛けた。
だが妖夢は泣き止む様子を見せず、泣き続けた。

「続け様にあんなに驚いて怖かったんだろう。
 大丈夫、もう怖いのは全部なくなたから」

まるで幼子をあやすような口調だったが、かえってそれが妖夢の心に響いたらしい。
今だに涙を流す妖夢の双眸がしっかりと霖之助を捉えた。

「だから泣き止んでもらえるかな?」

霖之助はそう続けて妖夢の頭に自分の手を置いて、優しく撫でた。
妖夢はそれに対してピクン! と肩を震わせたが徐々にそれを受け入れた。

一撫でする事に妖夢の泣き声が小さくなっていくのが分かった。

その時、霖之助の胸に小さな衝撃が生まれた。
妖夢が霖之助の胸に顔を埋めたのだ。
彼女の髪が鼻先を擽る。

大きな泣き声は無くなったとは言え、まだ小さな嗚咽は収まっていない。

霖之助はそれを甘んじて受け入れると今度は妖夢の後頭部から首筋にかけてを優しく撫でた。








小傘は目の前の光景に対して、自分の中から出すべき答えを探していた。

霖之助が泣きじゃくる妖夢を自分の胸に抱き入れ優しくあやしている。
その姿はとても温かく、普段の彼からは想像も出来ない程優しく見えた。
いや、実際彼は優しい所もちゃんとあるが、普段はそんな素振りをちっとも見せない。
でも本当に困っている人には、何だかんだ言って手を差し伸べる様な甘い人物なのだ。

その霖之助が、今小傘の目の前で妖夢を胸に抱きながら優しくあやしている。

たった今、彼に言われて淹れて来たココアのはいったマグカップをギュッと握る。
淹れたてのココアの熱さが手に伝わるが、そんな事は意識の内に入ってこなかった。

今はただ、目の前の光景が自分の胸の内を揺らして仕方がない。

あの時、ここに居てもいいと言って優しくしてくれた彼が、
今はあの少女に優しくしている。

自分の時は言葉だった優しさがあの娘の時は、抱き締めると言う行動だ。

その事実が小傘の胸をチクチクとしつこく刺激する。

別に霖之助は小傘にだけ優しい訳ではない。

ここによく訪れる白黒の魔法使いにだって、紅白の巫女にだって優しい。
先程小傘を弾幕勝負で打ち負かしたメイドにだって、多少の善意で値引きをしたりしていた。
名前は知らないが、本が好きな鳥の妖怪にも本を貸してやったりもしている。

彼が見せる優しさは大体が、その仏頂な態度の裏に隠された見えづらいものだったが、
偶に、本当に偶に、愚直な程ストレートな優しさを垣間見る事が出来た。

その優しさを見る度に、小傘は気持ちが暖かくなった。

誰も知らない彼の一面を自分だけが知っているような気がして、
自分が一番彼に近いような気がして、自然と顔がほころんだ。

それと同時にその優しさが他人に行く事に、小傘は我慢が出来なかった。

魔法使いに、巫女に、メイドに、名無しの妖怪に見せる優しさが、
全て自分に向いたらどれだけ幸せだろうか。
その事を考えるだけで胸が熱くなり、心が弾む。

でもそれだけはありえない。
彼の優しさを独り占め出来るなんて事は天地がひっくり返っても有り得ないのだ。

何故なら、彼は大切な物を抱え過ぎている。

彼は巫女と魔法使いを実の妹同然に可愛がっているし、
メイドはただの取引相手以上に楽しく会話をする。
名無しの妖怪とは同じ趣味を持つ同志として、よく読んだ本の意見交換等をしている。

どれもこれも霖之助にとっては手放しがたいもので、
それを守る為なら自分が出来る最大限の努力を惜しまないだろう。

その常連客との日常を含めて、彼は香霖堂店主足り得るのだから。

恐らく彼ほど平凡な日常を愛する者はこの幻想郷にそうそう居ないはずだ。
問題は小傘が彼のこよなく愛する日常に自分が入れているのかと言う事。

恐らくその答えはNOなのだろう。

小傘は巫女や魔法使いの様に彼と長い時間を過ごした訳でも、
メイドの様に気の利いた冗談を交わせる訳でも、
名無しの妖怪の様に同じ趣味を持っている訳でもない。

ただのしがない居候でしかないのだから。
多分、小傘が居なくなっても彼の日常は変わらなのだろう。
少し落ち着いてきた妖夢を胸に抱く霖之助を見ながら、小傘はそう思った。

やがて小傘は意を決したように口を開く。

「あの、店主さん。ココア淹れてきたよ」

「あぁ、ありがとう小傘。カウンターに置いといてくれないか」

「うん」

少し陰りのある笑顔で小傘はその言葉に答えた。
だが霖之助はそんな小傘に振り向かず、ただ胸の内の妖夢だけを慰め続ける。

そんな霖之助の態度に、小傘はまた胸が痛くなった。
見向きもされない苦しみ、捨てられる悲しさ。
味わい続けた苦い味が、実感を伴って小傘を襲った。

やっぱり自分は彼にとってどうでもいい存在なんだと。
考えたくも無い事が、妙な自信を持って小傘に迫ってくる。

「さぁ、小傘が温かいココアをいれてくれたよ。飲んで落ち着くといい」

霖之助のその言葉を最後に、小傘は再び店の奥へと消えた。
これ以上、蚊帳の外へほっぽり出された自分を実感していなくなかったからだ。

色が変わるほど唇を強く噛み、逃げるように店内を後にする。
目頭が熱い、自分勝手だとは分かっていたが、何故かこの感情を抑える事が出来なかった。

なんだろう、この苦しい感情は。








気が付くと小傘は霖之助の寝室に居た。
物で溢れかえっている店先とは違い、僅かばかりの家財道具が置かれただけの質素な部屋。

でも確かな生活の香りがするその部屋を、小傘は気に入っていた。
夜になるとこの部屋で霖之助と晩酌をしたり、彼の蘊蓄等を聞いて過ごしたりもする。

一度彼の話に熱が入ってしまって、一晩中霖之助の話を聞いていた事が有った。
その話が終わる頃には既に辺りは明るくなっていて、昇る朝日を二人で見たものだ。
遠くにある山々の輪郭が朧なものから徐々にはっきりとした線になっていき、
山吹色が視界を染め上げてゆく。

彼が話していた事が何だったのかは忘れてしまったが、この光景だけは今でもありありと思い出せる。

だが、沈んだ気持ちの今となってはそんな思い出も掠れて見えた。
店先で感じた胸を圧迫する苦しい感情はまだ収まらない。
何もしていない状態だと言うのに、息が詰まりそうだ。

不意に生温い液体が頬を伝うのが分かった。
泣いている、やや間をおいて小傘は自分が涙を流している事に気付いた。

涙なんて一体何時以来だろうか。
随分と久しぶりな気がする。

昔はよく泣いたものだ。
自分の意匠について馬鹿にされる度に泣いていた。
でも泣けば泣く程、よけいに馬鹿にされる。

だから、いつしか小傘は涙を流す事を我慢するようになった。
代わりに笑顔、そう笑顔で居る事を何より優先した。

馬鹿にされて辛くても笑顔。
新しいご主人が見つからなくても笑顔。
弾幕勝負で負けてボロボロにされても笑顔。

辛くても笑顔で居れば気分を紛らわせることが出来た。
その笑顔が強がりから来る嘘ばかりだとしても。

でもここ最近は違っていた。
この店に来てからは、本当の意味で笑えていた気がする。

彼と何気ない会話を交わして、柔らかな日差しにそっと笑顔をのせて彼に笑いかける。
そして彼はそんな小傘に優しく微笑みかけた。

心から嬉しいから笑う、心から楽しいから笑う。
そんな笑みを、彼は小傘に与えてくれた。

小傘は膝を抱える腕の力を強くする。
もやもやとした感覚は余計複雑に絡まり合い、理解を拒む。

それが一層小傘の胸を圧迫して、出口のない思考の迷路を形成していた。

その時、ギシギシと廊下が軋む音が小傘の耳に届いた。
その音少し進んでは止まり、少しするとまた進んだ。
調べているのだろうか、部屋の中に小傘が居る事を。

だとしたら、この足音の主は。

やがて足音が寝室の前で止まる。
ドクドクと胸の鼓動が早くなるのが分かった。

そしてゆっくりと寝室のふすまが横へと滑る。

「ここに居たのかい、いきなり居なくなってしまったから驚いたよ」

小傘は答えずに顔を抱えた膝に埋めた。
今は彼の顔を見ているのが辛いし、涙で濡れた自分の顔を見せるもの辛い。

「あの娘はもういいの? 私よりあの娘に構う方が優先じゃないのかしら」

だから小傘は霖之助から差し伸べられた手を払い除けた。
本当は今にも声を上げて泣き出したいのに、それを抑えてはっきりとした拒絶の意思を伝える。

「あぁ、大分落ち着いたよ。もう泣き止んだしね」

「ふーん、そう」

早く行って欲しい。
もう、震える声を抑えることが出来ずに語尾が震えだした。

「だから次は君の番だ」

「え?」

思わず顔を上げて彼の顔を見てしまう。
涙でくしゃくしゃになった小傘の顔と対して、
霖之助の顔には真っ直ぐな視線と真摯な態度が有った。

「僕は君を怒らせてしまったのかな、それとも悲しませてしまったのかな。
 どちらにせよ僕に責任があるのは確かだろう。
 だから、どうしたら君に許してもらえるのかな?
 何をすれば、君は普段どおり笑ってくれるのかな?」

違う、怒ってなんかいない。
違う、悲しいけれどそれは霖之助のせいではない。

自分が勝手に悲しんで泣いているだけだ。
あの娘が霖之助の優しさを独占したから、小傘はそれが面白くなかっただけだ。
そして、寂しかっただけだ。

「わた、わたし………店主さんがあの娘に優しくしているところを見てると………
 変な気持ちになっちゃって。胸が痛いの」

「そうか、それは苦しかったね」

意図して喋った訳ではなく口が勝手にそう動いていた。
それと同時に可能な限りせき止めていた感情が、涙となって溢れ出す。
小傘の大きな目から流れる温い液体は頬を伝って顎から畳へと落ちた。

小傘は止めどなく流れる涙を、霖之助から借りっ放しになっていた彼の上着で拭う。
だが少し拭ってはまた際限なく涙が溢れてくるのでキリがない。

その時、何か大きな物体ふわりと包み込まれた。

「すまなかった、小傘」

霖之助だ。
小傘は今霖之助の胸に抱かれていた。
厚い胸板と大きな腕が小傘の上半身をすっぽりと包み込んでいた。

だが息苦しくはない。

小傘の体を圧迫しない程度の力で、
優しく入れられる腕の力は小傘に心地よい充足感を与えてくれる。

彼の胸板からは涙の匂いがした。
先客の残り香だろう。
彼女も彼の胸でおんおん泣いていたからそうに違いない。

あるいは、もっと過去の先客の残り香なのだろうか。

「謝らないで………店主さん」

小傘も霖之助を真似て、彼の背中へと両手を回す。
だが小傘の腕ではいささか長さが足りず、抱き締めると言うよりは抱きつく形になってしまった。

「私が勝手にあの娘に焼き餅焼いてただけだから。
 元は私が悪いの。それでも何でか自分の気持ちが抑えられなくって。
 私って悪い娘だよね………悪い唐傘だよね」

ポツポツと、降り出した雨が疎らに降り注ぐように小傘が言葉を発する。
震える声はたどたどしく、泣き声混じりだった。

そんな小傘に対して霖之助は言葉を返さず、
ただ穏やかな手付きでトントンと背中を叩いた。

それから小傘は霖之助の胸の中で気が済むまで泣いた。
ついさっきまでの事と、それ以前の辛かった事全てを洗い流す為に。









「さっきはごめんなさい。その、驚かせちゃって」

「いえ、私の方こそみっともない姿を見せてしまって………その」

どこかぎこちない様子で謝り合う小傘と妖夢を見て、霖之助はくすりと笑ってしまった。
お互いにまだ目が赤いのが更におかしく思えた。

「君達、お互いに黙ってしまっては意味が無いじゃないか。
 とりあえず今までの事は水に流して自己紹介から始めたらどうだい?」

「そ、そうですね。それがいいと思います」

「わ、わちきもそれがいいと思うの」

霖之助の提案に二人はすぐ食いついた。

「よし、じゃあそれで決まりだ。さて、自己紹介はどちらが………」

「私から」「わちきから」

「………君達わざとやってるだろう」

「そ、そんな事ありません!」

「そうよ! わちき達は真剣なんだからね!」

「はぁ、分かったよ」

もう好きにしてくれと言いたげに、霖之助は力なく答えた。
小傘は椅子から立ち上がると真っ直ぐに妖夢を見据えて口を開いた。

「じゃあ改めて、わちきから。
 わちきは多々良小傘、傘の付喪神です。
 好きな事は人を驚かせる事。よろしくね」

ぺこりと小傘が頭を下げた。
彼女も普通の挨拶をしようと思えば出来るものだな、と霖之助は思う。

「どうもよろしくお願いします、小傘さん。では次は私が」

そう言うと今度は妖夢が椅子から立ち上がり、小傘を見つめて口を開く。

「私は魂魄妖夢、冥界にあるお屋敷白玉楼で庭師兼剣術指南役を務めています。
 好きな物は特に………しいて言うなら甘いものが好きです」

こちらも小傘と同じくぺこりと頭を下げた。

「甘ものが好きなの? わちきも好きだよ、羊羹とかお饅頭とか」

「わぁ、いいですよね! でも今人里で流行っているシュークリームってお菓子も美味しいんですよ」

「しゅーくりーむ? どんなお菓子なの?」

「えっとですね。こう薄い生地の中に甘いカスタードが包んであって」

「かすたーど?」

「カスタードって言うのは、うーんどう説明しよう。洋風餡子かな。
 とにかく甘くて美味しいのが中に入っているんです」

「ほへー美味しそう」

いざ話てみれば呆気ない程簡単に会話が起動に乗り始めた二人を尻目に、
霖之助は妖夢の半霊と小傘の化傘に目をやる。

見れば化傘が舌を出しその舌を使って何かジェスチャーをしているようだ。
それに対して妖夢の半霊がコクコクと頷いている。

霖之助にはどんなやり取りが交わされているのかは分からなかったが、
何となく妖夢と小傘がしている会話とはお互いの立場が逆だと言う事は分かった。

シュークリームが何かを教える妖夢と、それを一生懸命聞く小傘。
舌を使ったジェスチャーで何かを教えている化傘と、それを理解している半霊。

そんな光景を見ながら霖之助はぼんやりと考えた。
もう小傘も手放せない日常の風景になってしまったなと。

Comment

#No title
待ってましたよー。
やっぱり小傘は小動物なイメージですね。
けどちゃんと恋愛もしてていい感じです。自分じゃこうは書けないんですよ・・・・・・

後編も期待しておりますので、頑張ってください。
  • by:Allen
  •  | 2010/03/26/23:11:38
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#No title
可愛いなあ、小傘は可愛いなあ!
色々なキャラとの会話はやはり可能性を広げてくれますね。
可愛いなあ、妖夢も可愛いなあ!
今から後編が待ち遠しい…
  • by:イガ丸
  •  | 2010/03/27/10:31:42
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