十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

プロフィール

十四朗

Author:十四朗
(じゅうしろう)と読みます
ロボとか好き東方も好き
趣味の守備範囲は日々拡大中
東方の霖之助SSが主流です
一応現役の遊戯王プレイヤー
メッセ&スカイプは大歓迎です
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リンクはフリーなので
どなたでもどうぞ
もしご連絡いただければ高所から
イヤッホォォォォ!!します


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玉兎のごとく

今回のSSはドルルンさんが原案&プロット作成。
私が執筆をおこなったSSです。

ドルさんがレイ霖だよ~って言ってたから私は鈴仙と霖之助だと思っていたのに、
送られてきたプロットを見てみればレイセンと霖之助だった。

私は少し戸惑った。
でも何とか完成しましたよ!



『玉兎のごとく』



レイセン、霖之助、依姫、豊姫、永琳、鈴仙





どうしてこうなった。

私の中では先程からその言葉が頭の中で無限に反復するだけだ。

本当に、どうしてこうなってしまったのだろう。
ほんの一日前まで私は月の都で、久々の非番に胸を踊らせていたはずなのに。

あそこには温かい空気も美味しい食べ物も有る。
確か私は今回の非番を使って、
新しく都の大通りに出来た甘味処へ行こうと考えていた。

何でもその店の豆かんは絶品だと、同僚達の間でも噂で、
一度食べてみたいと思っていたところだった。

別に甘党と言う訳ではないけれど、甘い物は人並みには好きだ。
当然、美味しい甘味処が出来たとあれば興味も湧くし、その興味から足を運ぶのも苦ではない。
むしろ美味しい物には進んで足を運びたい。

そんな訳で、非番の前日から私の頭の中は豆かんの事で一杯になっていた。
「あんまり食べるのも太る元だしなぁ~」だとか「豆かんなんて本当に久しぶりだなぁ~」
だとか考えながら帰路に着こうとしていると、私を呼び止める声がした。

一点の曇もない澄んだ声。
柔らかさと上品さを兼ね備えたその声に私のよく知る声だった。

私が所属する月の防衛隊。
そのリーダーである綿月姉妹の姉、綿月豊姫様だった。

何時ものニコニコとした優しい笑顔ではなく、
キリ、っとした真剣な表情の豊姫様は「頼み事をしたいのだけれど、よろしいかしら?」
と私に言った。

普段の柔らかな態度を崩さない豊姫様が珍しく真剣な顔をしているので、
私は思わず固まってしまい「はい、何なりとお申し付けください。豊姫様」
と普段では絶対にしないようなガチガチの言葉で返してしまった。

「とてもとても重大な使命です。心してお聞きなさい」

そう言うと豊姫様は懐から封蝋で封をした、
いかにも大事そうな封書を懐から取り出して私に見せた。

「この封書を地上に居る八意永琳様に届けて欲しいの」

八意永琳、知らない名ではない。
かつて月の頭脳とまで呼ばれた天才的な科学者。

月では知の最高峰とされるのと同時に、千年前月の姫君と共に地上で行方をくらませ、
今尚指名手配中とされる月史上でも稀代の大罪人。

そんな月の光と影を象徴する様な人物だ。

と言っても別に八意様はとても良識的な方で、罪人とは思えない程優しいお方だ。
私は一度だけお世話になった事がある。

月の防衛隊へ配属される前、私は日々餅を搗くと言う生活をしていた。
本当にただ餅を搗くだけの仕事。

正確に言えば臼の中身は餅ではなく薬なのだが、そんな事は関係ない。
要は臼があって、杵があって、何かを搗ければそれでいいのだ。

何でも幽閉されている嫦娥姫と言う人物の贖罪の為に、毎日餅を搗くのだと言われた。

全く自分と関係のない者が犯した罪を贖罪する為に、
毎日毎日杵を握って臼へ振り下ろす。

こんなに馬鹿げた事はない。

その仕事をしている間はずっと無心だった。
ただ何も考えず淡々と作業を続ける。

上の者からは人の罪を清める気高い仕事だと教えられたが、
そんな感覚はちっとも無かった。

何時終わるかも分からない作業と化した儀式。
思考が錆び付き、ボロボロと崩れ落ちるのも時間の問題だと悟った時、私は月の都から脱走していた。
月の羽衣を片手に地球へと。

この無間地獄から開放されるなら、大罪だって地上の穢れだって受ける覚悟が有った。
そして二度と故郷に帰れなくなる覚悟も。

結果から言って、私の脱走は失敗に終わった。
逃亡中の内容を詳細に語ると長くなってしまうので割合する。

私の逃亡生活は数日で終了。
二度見る事は叶わないだろうと悟った月の都へあっさりと帰って来た。

罪人としてではない、普通の月の住人としてだ。
これもひとえに八意様が私に持たせた手紙の力だろう。

あの手紙が無けれきっと私の手には錠が掛けられ、直ちに極刑に処されていたに違いない。
手紙の宛先は現在の私のご主人である綿月豊姫様と綿月依姫様宛だった。

手紙を見せるとお二人は少しの時間顔を見合わせて、
その後何事も無かったかのように私にこう言った。

「貴女は現時点を持って私達の部下となります。よろしいですね」

断る理由は無かった。
いや、断る権限が無かった。

多分そこで私が嫌だと泣き叫べば私の首は跳んでいたに違いない。

話が逸れたが、要するに豊姫様の依頼とは、地上の八意様に封書を届ける事だ。
私が月に帰ってくる時にした事と逆の事をすればいい。

それ自体はさほど難しい事ではない。

防衛隊に配属されてからは集団戦闘や単独戦闘の訓練を初め、
隠密行動や特殊工作の訓練も受けた。

いわば今の自分はプロフェッショナルなのだ。
しくじる筈がない。

私が気にしたのは任務そのものよりも、豊姫様の方だった。

何時だって穏やかな態度と、柔らかな笑を絶やさないあの豊姫様が、
真っ直ぐな視線で私を見据え、毅然とした態度で綿しに任務を告げたのだ。

その瞬間からもう私の中で非番の予定は意識の中から完全に消えていた。

これ程までに真剣な豊姫様の目を見ていたら、自分のちっぽけな都合なんて皆無に等しい。
もしかしたらその封書の中身と言うのが、月を揺るがすような重大情報なのかもしれない。

自分に与えられた使命の重さに思わず身震いをした。
絶対にミスは出来ない。

豊姫様から命を受けた瞬間から、私の意思は鋼になっていた。

だがその覚悟を決めたは良かったものの、今ではこの有様だ。

鉛よりも重たい色をした空から降る雨粒に全身を打たれ、
全身はグチャグチャだ。

まだ暖かくなりきっていないこの季節、
雨に打たれると言う事は体力を激しく失うと言う事になる。

もう既に足はふらふら、息は荒く、視界もおぼろ気だ。
まさか地上での最大の敵が、密書を狙う敵対勢力では無く、
この気候だったとは。

自分の迂闊さを呪うしかない。
だがそんな事をした所で何も解決しないのは明白だ。

もう嫌だ帰りたい、と言う自分を押し殺してその足を前へ運ぶ。

ぐっしょりとした衣服が重たく体へ纏わり付く。
水を含んだ感触が実に不愉快だ。

吐く息は熱いと言うのに、全身芯まで冷え切って動かすのも辛い。
万が一の事を考えて密書の封筒は月の技術が使われた、防水防火に優れた物だと言うのが幸いだ。

普通の紙ならこんな雨は一溜まりもないだろう。

「あれは………」

降り注ぐ雨の中で、私は一軒の家を見つけた。
その家は外装が古く、周りには沢山のガラクタが積まれていた。
空き家なのだろうか、外見からは人が住んでいると言う気配を全く感じさせない。

とにかく、私はそこが空き家どうか等と言う事に構っていられず、一目散にそこへ飛び込んだ。
もし住人が居たのなら雨が止む間まで雨宿りをさせて欲しいと乞えばいい。

多分、土砂降りの雨の中へもう一度放り出す程、地上の住人も薄情ではない筈だ。

私はその家の丁度縁側の部分から中を覗いてみる。
本来なら玄関から挨拶をするべきなのだが、
必死の思いでその家に飛び込んだ結果、辿り着いたのが縁側だった。

「ごめんください、誰か居ませんかー」

返事はない。
念のため私はもう一度声を掛けてみた。

だが帰ってくるのは先程と同じ無言だけ。
シーンと静まり返った家の中には生き物の気配どころか、生活臭と言うもの自体が欠落していた。

もうこの場所を誰かが使わなくなって久しいのだろうか。
でもその割には縁側から見える今にはちゃんと家具が置いてある。

生活とは無縁と言う訳でも無さそうだ。

単に留守なのだろうか。
留守だとすれば勝手に上がり込むのは大変失礼な事だし………

私は暫く縁側で突っ立たまま考え込んだ。
果たしてこの家に上がり込んでも良いのだろうかと。

そして数分考えた所で結論を出す。
この場所はきっと旅人用の宿泊施設なのだと。

こうして人の集落から外れた場所に小屋を設け、旅の者が一夜の宿を求めて利用する。
成程、いいシステムだ。

これなら自分がこの場所で雨宿りをする道理が通る。
私は早速縁側で靴を脱いで、家へ上がり込んだ。

多少埃っぽいが、贅沢は言っていられない。
雨風がそのげるだけ幸運だ。

とりあえず私は何か体を拭く物と毛布を探す。
毛布は今の隣にある空室で見つけ、居間の斜向かいにある風呂場の脱衣所ではタオルを見つけた。

うん、これだけあれば上等だ。
もう少しこの家を隈なく調べて回りたかったが、目当ての物を見つけたのでとりあえず居間に戻る。
まだ廊下からこの家を見渡した限りでは、まだ何部屋か調べていない部屋がありそうだ。

だがそれも明日でいいだろう。
先程から安心したせいなのか酷い睡魔が襲って来ている。

服を上下とも脱いで下着姿になると、私は頭をワシャワシャと拭いた。
耳の付け根まで丁寧にタオルで拭き取る。
頭が終わったら今度は体も拭く。

これでバッチリだ。
体を覆っていた不愉快な水分は全て拭き取った。
水を含んだ服から開放された私の気分は軽く、
久々の開放感が眠気と共に意識を揺らす。

私は先程脱いだ衣服から、八意様宛の密書を抜き取る。
密書を抜き取った後は衣服を近くのハンガーへ掛けた。

そこまでして大きな欠伸が口の中から漏れ出だす。
もう、限界だ。

ほんのりと熱を取り戻してきた体は確実に睡眠を求めている。
ここは素直に体が発してくる信号に従った方がいい。

私は用意した毛布にくるまると、そのまま床へ寝転がった。
封書は私の頭の近くへ置いておく。

これでも自分は軍人だ。
誰かが寝込みを襲おうとしたり、封書を奪おうと近づいてきたりすれば一発で飛び起きる。
そう、自分はプロフェッショナルなのだから。








鼻を擽る良い香り。
温かい匂い、これは味噌の香りだろうか、
いやこれは味噌汁の香りだ、思えば月を出から何も食べていなかった気がする。

耳を澄ませばトントン、と言う包丁のリズムが私の耳に入ってきた。

味噌汁と来れば当然白いご飯、と来れば何かご飯に合うおかずが欲しい。
今は玉子焼きがいいなぁ。
お砂糖がたっぷり入ったふっかふかの玉子焼きを…………

そこまで考えて私は自分の頭が急激に冷えて行くのを実感した。

この家に、自分意外の誰かが居る?

すぐさま枕元に置いておいた封書を確認する。
ちゃんとある、封も開いていない。

まずは一安心。
封書が盗られていないと言う事は、今ここに居る人物にそう言った意思は無いのだろうか。

確かに考えてみればそうだ。
私が持つ封書を狙っているならまず一番に私の寝首を掻くはずだ。
少なくともそんな輩は敵が寝ている前で呑気に朝食なんか作らない。

だとすれば今台所で朝食を作っているのは、この家に後から来た旅人だろう。
何だ、良かった。

これが不審な輩だったらどうしようかと…………

いや、不審な輩で無くとも足音がした時点で目を覚ますべきだった。
うっかりしていたなんて程度で済まされる程、可愛いミスではない。

私は赤くなった顔を毛布へと埋める。
何が人が来ればすぐに目を覚ますだ、熟睡してたじゃないか。

忘れたい、早く昨日の自分が考えていた事を忘れたい。

そうして私が毛布の中で悶々していると台所の方から足音が聞こえてきた。
とりあえず挨拶だけはしておこう。

そう思い、私はガバっと毛布を払い除けた。

「お、おはようございます! それと初めまして!」

恐る恐る目を開いて、その人物を確認する。

まず目に入ってきたのが青と黒に不思議な模様が施された服。
体格は結構大きい。

体格からして男性だ。

座っているから見上げるのは当然なのだが、それでも中々大きい方だ。
多分立ち上がった状態の私が向い合っても、目線が肩まで達するかどうか。

見上げた顔はまだ若く、視力に難があるのか眼鏡を掛けていた。
ただ一番目を引くのはその髪の色だろう。

まだ若そうな外見だと言うのにその髪は白く見える。
いや、白と言うよりは銀色に近い。

「やぁ、起きたかい? 丁度いいタイミングだね、朝食の準備が出来た所なんだ。
 君には色々と話したい事があるけれど、まずは朝食を済ませてからにしよう」

「え、あぁ、は、はい!」

思った以上にしれっと返された。
当然か、向こうは私が起きるのを待っていた訳だし。

「とりあえず、君が着替えたら朝食にしよう」

「え?」

言われて気が付いた。
今の私は下着姿だと言う事に。








本日二度の赤面の赤面を早々と味わい、本日初めての悲鳴は朝の空気を劈いた。
慌ててブラウスに袖を通し、スカートを履く。

初対面の男性に下着姿を見られるとは、くぅ………なんて羞恥的な体験なんだろう。
まだ胸の中を走り続ける恥ずかしいと言う感情は収まらない。
赤さが抜けきっていない顔がその証拠だ。

男は私が着替え終わるまで廊下に出ていると言った。
気配りをしてくれるのは嬉しいが、どうせならもっと早い段階で言って欲しかった。

朝からとんだ失敗続きだ。

「あの、も、もういいですよ」

まだ少し湿ったブレザーに袖を通した後、廊下で待っている男にそう言った。

「よし、それでは朝食にしようか。
 すまないが配膳を手伝って貰えるかな」

「は、はい!」

やはり男性に声を掛けられるのが恥ずかしい。
先程の出来事に無関心な相手の態度も、十分に私の羞恥心を加速させた。

とりあえず二人分のお箸、二人分のお味噌汁、
二人分のご飯、二人分の玉子焼き、二人分のホウレン草のおひたしを運ぶ。

おかずに玉子焼きが有った事は嬉しかったが、
香りからするに私の好きな甘い玉子焼きでは無いらしい。

焼きたての玉子焼きからは出汁の匂いがした。
だし巻き玉子と言うヤツか。

用意して貰った身分で文句を言うのも筋違いと言うものだ。
それに今はお腹が減っている。

食べられるだけ有難いと思わなければ。
そう自らに言い聞かせ、配膳を終わらせる。

「それじゃ、いただこうか」

「はい、いただきます」

「いただきます」

手を合わせて、食事の挨拶をすませる。
さて、まずは何からいただこうか。

よし、このおひたしからいただこう。
草食系の私は昨日から何も野菜を摂っていないので、非常にありがたい。

箸で青々としたホウレン草を摘まんで、口へと運ぶ。
薄味の出汁に浸され、丁度いい具合の塩加減だ。

ちゃんと味は付いているのに、ホウレン草の瑞々しさは全く失われていない。
うん、美味しい。すっごく爽やかな味だ。

「とっても美味しいです、えっと」

「名前かい? そう言えばまだ名乗っていなかったね」

「私はレイセンと申します。普段は………」

そこまで言いかけて慌てて口を塞いだ。
危うく自分の素性をバラしてしまうところだった。

この男性は私に対して敵意や悪意は持ち合わせていないのだろうが、
何処から情報が漏れるか分からない。

自信の素性に繋がる情報はなるべく秘密にしてかないと。

「ゆ、郵便屋をしています」

よし、我ながら上手い嘘だ。
これなら封書を持っていても、ただ手紙を届けるだけだと誤魔化せる。

偉いぞ私。

「ふむ、郵便屋ねぇ。っでその郵便屋が僕の店に何か用なのかな?」

「え? 店?」

今この男性は何て言った?
僕の店? 所有地? ここは空き家じゃないの?

混乱する私に男性はさらなる追い打ちを掛けた。

「申し遅れたが僕はこの店、香霖堂の店主、森近霖之助だ」







「本当に申し訳ありませんでした! 
 人様のお店とは露知らず、勝手に上がり込んだ挙句、一夜のお世話になってしまって!」

「僕も驚いたよ。なんせ居間に来てみれば、見知らぬ娘が毛布にくるまって寝ていたんだから」

やれやれと言った風に、首を左右に降る店主さんの言葉が胸に刺さる。
改めて自分の行動を思い返してみると、非常識極まりない。

「泥棒にしては大胆だし、すっかり眠りこけていたからね。
 まぁ、害は無いだろうと思ってほっておいたんだ。
 随分とお惚けな泥棒だとは思ったけど、話してみて分かったよ。
 君は本物だ」

うぅ、言わないで。
声に出されてそう言われると余計に心に響く。

「こめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
 一応住んでる方が居ないか声は掛けてみたんです!
 そしたら何も返事が返ってこなくって………
 生活臭も全然しないからてっきり空き家だと!」

もう、必死だった。
出来る言い訳は全てしておこう。

「土砂降りの雨の中、必死に走りまわってやっと辿り着いた家だったから………
 私すっごく安心してしまって」

「はぁ、分かった分かった。少し追求しすぎたね。
 別に僕としても雨宿りを求めるドジな郵便配達員に、
 一夜の宿を提供するのは嫌な訳じゃない。
 困った時はお互い様と言う奴だ」

「あ、ありがとうございます! 私、私ずっと心細くって」

「じゃ、食事の続きと行こうか」

「はい!」

良かった、案外良い人みたいだ。
何と言うか、淡々とした喋り方をする人だから、
ちょっと怖そうなイメージを抱いていたけれど私の思い違いだったらしい。

よかった、よかった。

私は目元をゴシゴシと服の袖で拭う。
目頭には少量の涙が溜まっていた。

きっと先程までの私は今にも泣き出しそうな顔をしていたに違いない。
うぅ、何て情けないんだ自分。

それからは他愛もない世間話をしながら、朝食の時間は何事も無く終了した。
何でも私がこの店に来た時に誰も居なかったのは、
ここ十日間ほどお店を留守にしていて、今朝帰って来たかららしい。

「何故?」と私が質問すると店主さんはこう答えた。

「仕事で人里にある、稗田家に行っていたんだ。
 内容蔵書の整理と写本の制作。最初は断ろうと思ったんだが、
 お礼に稗田家の蔵書を何冊か分けてもらえる事になってね。
 おまけに自由な時間は好きに本を読んでいいと言うんだ。
 それで作業と読書に没頭していたら、十日間も過ぎてしまったと言う事だよ」

人里や稗田家と言った、よく分からない単語が出てきたが、
要するに本の整理と読書に夢中になって、十日間も家を開けていたと言う訳か。

もしかかしてこの人は変な人なのだろうか。
いやいや、お世話になっている人をそんな風に思ってはいけない。
きっとこの店主さんはちょっと本が好きなだけなんだ。きっとうそうだ。

「だから、この場所を空き家だと思われても強くは言い返せないな」

「お勉強熱心なんですね」

「いや、ただ知識欲が旺盛なだけさ」

私の言葉に店主さんはそうやって自嘲気味に返した。

「そうだ、君はこれから八意女史の所へ行くんだろう?
 僕も彼女に用事があるんだ、よかったら一緒に行かないか」

その言葉に、私は固まった。

何故、彼は私が八意様の所へ行く事を知っているのか。
私は目覚めてから一度だって、八意様の所へ行く等と言った覚えはない。

私の行先を知る手掛かりは、この封書の宛先しかない筈なのに。
そしてその宛先を知るには封書を開封するしか方法はない。
どうしてこの男はその事を知っているのか。

私の頭の中で最悪の計算式が人つに噛み合う。

まさか、まさかこの男は見たのか?
この封書の中身を。

月を揺るがす情報が書いてあるかもしれないこの封書を。

私は黙って店主さんの顔見つめる。
もう、口元に笑顔は無かった。

代わりにわなわなと唇が震える。

「ま、ま、まさか見たんですか! 封書の中身を!」

殆ど悲鳴に近い叫び声だった。

「どうしたんだレイセン。急に声を荒らげて」

「どうしたもありません! 見たんですかこの封書の中身を!
 つ、つ、月の秘密を! 見てしまったんですか!」

見られたからには………そのままにしておけない。
何とかして見られたと言う事実を隠滅しなければ。

見たと言う事を隠滅する、それはすなわち口封じ。

生き物の口を封じるって事は……………どうやっても封じられた方は、無傷じゃすまないと言う事だ。

口封じが出来るのか? 
ここまで優しくしてくれた店主さんを。
親切にも食事を用意してくれた店主さんを。

「何か誤解をしているようだが、僕はその封書の中身を見てい無いよ」

「と、惚けないでください! だったら何で宛先が分かるんですか!」

「僕の能力だ」

え? どう言う事なんだろう。

「僕の能力は物の名前と用途が分かるんだ。
 だからその封書の名前は『八意永琳宛の封書』用途は『八意永琳に渡す事』だ」

「じゃ、じゃあ中身は見てないんですね?」

「あぁ、流石に透視能力は持ってないよ。
 だから中身は見ていない、安心するといい」

「よかったぁー」

思わず安堵の溜息が漏れる。
本当に、一時はどうなるかと思った。

「しかし、そこまでして大切にしている封書………中身が少し気になるな」

「だ、駄目です! その………郵便屋としてのポリシーが有りますから!」

それは絶対に出来無い。
もし見せたら今度こそ本当に口封じをしなくてはいけなくなる。

私は血を見るのが苦手だ。
元々血の気が多い方でもないし。

豊姫様や依姫様、そして仲間たちと共に平穏無事に過ごせればそれで十分だ。
でもその平穏を守る為なら心を鬼にする覚悟がある。

「ふむ、まぁいいか。支度が出来たら永琳の場所へ向かおう」

「はい、私の方は何時でも構いませんよ」

「そうか、でもその寝癖は直してから出掛けた方がいいと思うよ」

「寝癖?」

「洗面所に鏡が有るから見てくるといい」

言われるがまま、私は脱衣所の隣にある洗面所へと向かった。

ぴょこ、っと鏡を覗き込む。
鏡の中にはパイナップルの葉のように跳ね上がった自分の髪の毛が映っていた。

私はそんな姿の自分を見て、酷く赤面した。
こんな短時間で三度も赤面するような出来事に出会うなんて。

私はどれだけおっちょこちょいなのだろう。







昨日の雨が嘘だったかのように、晴れ渡る空。
その空の下を私と店主さんが歩いて行く。

向かうは竹林の奥に存在する永遠亭だ。

月では地上は荒廃した不浄の地だと言われているが、実際はそこまで酷くない。
確かに月に比べて技術は遅れていて、所々不便だし、
住んでる住人はいささか俗っぽい所はあるけれど、自然が美しいのは良い事だ。

たまに来る分には良い所だと言えよう。

そうこうしている内に私達は竹林の中へと歩みを進めていた。

竹の緑が今まで余裕の無かった心に穏やかな感覚をもたらす。
やぱり緑は素敵だ。

「竹に興味があるのかな?」

「え? えぇ、まあ」

先程まで無言だった店主さんがいきなり口を開いた。
こう言うのは少し驚いてしまう。

だが店主さんは、そんな私の態度を気にせずに話を続けた。

「竹は古来から清浄な植物とされて来た。
 青々としていて、天に向かって真っ直ぐ伸びる事からそう言われたんだ」

「は、はぁ」

「他にも竹に関する話といえば竹の花が有名だね。
 数十年に一度だけ花を咲かせるので幻の花と呼ばれている。
 この話は知っているだろう?」

「はい、聞いた事は有ります」

「でも幻の花と呼ばれる割に、竹の花は不吉の象徴として忌み嫌われる事があるんだ」

「それまたどうしてですか?」

「竹の花は咲いた時に実を着けるんだけど、その実にはとても栄養があってね。
 結果として野鼠の餌になって、鼠の大量繁殖を招いてしまうんだ」

「それって、よくない事ですよね」

「あぁ、鼠はとても食欲旺盛だ。
 瞬く間に山の食物を喰らい尽くし、今度は人里を荒らす。
 それに流行病の媒体にだってなる。
 これにより鼠が大量発生した集落は壊滅する事だってあるんだ」

「ほへぇー」

落ち着いた態度から、知識の深そうな人だと思っていたけど、
その予想はハズレていなかった。

地上に住まう者は野蛮で、知性の欠片もないと思っている古いタイプの月人に、
彼を見せたらどんな顔をするのだろうか。

「そんな鼠だけど、日本の一部地域では大黒天の使いとされる事もある。
 その地域では鼠も信仰の対象になっていて、
 正月には鼠の通り道に餅などを置いたりするそうだよ。
 神と鼠の関係と言えば日本神話の大国主の話で大国主を助けたのも鼠だ」

「て、店主さん?」

「大国主は大地を象徴する神だ。
 僕が思うに、その大黒主を助けた鼠は大地を代表する生物なんだ。
 先程も言ったように鼠は大量に発生すれば人間すら滅ぼしてしまう。
 どんな武器を持っていても飢えや疫病には敵わないからね」

駄目だ、私の言葉なんて耳に入っていないらしい。
最初何の話をしてたんだっけ。

あぁ、そうだ竹の話だった。
それがどうしてこんな………

私は最初そう思ったが、考えても無駄なので黙って店主さんの話を聞く事にした。
蘊蓄ご馳走様です。









店主さんの話が、大国主と大黒天を初めとする神仏習合から、
日常と宗教の融合に話が移り始めた頃、やっと私達は永遠亭へと辿り着いた。

竹林に佇む純和風の屋敷は静かに私達を見据えている様だ。
長かった、今まで本当に長い道程と店主さんの話だった。

私達は門をくぐりそのまま玄関へと向かう。
玄関を開け「ごめんください」屋敷の中へ呼びかけると、
私と同じ様な服装をした玉兎の女性が姿を見せた。

「貴女は………」

「ご無沙汰しております、先輩」

彼女の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。
かつて私と同じ月の防衛隊に所属し、
豊姫様からレイセンの名を与えられた玉兎だ。

名前からして察しが着くと思うが、今の私の名は彼女の名前からきている。

彼女は昔、私と同じ様に地上へ逃亡し、この場所へ辿り着いた。
ただ彼女は私と違い、この地に留まり続け八意様の元で弟子として働いている。

豊姫様と依姫様にとっては兄弟弟子にあたるのだけれど、
どちらかと言えばあのお二人にとって彼女は元部下、としての感情が強いだろう。

依姫様は私の訓練を見て、よく彼女の話をされる。
話によると優秀な玉兎ではあったが、困難にぶつかるとすぐに逃げる癖があったようだ。

「それさえ無ければあの娘は最高の兵士だったのですが」

と依姫様はよくこぼしている。
表情から察するに自分の元から逃亡したのが、よっぽど惜しいらしい。

確かに彼女が残した訓練のスコア、特に射撃スコアは圧倒的で、
彼女が地上へ逃亡してから今まで隊内では一度も破られていない。

「八意永琳様に御用が有って伺わせていただきました」

「そう、待ってて今呼ぶから」

「ついでに僕も用が有って来たんだ。
 この娘の用事が終わってから僕にも少し八意女史と話す時間が欲しい」

「分かりました、そう伝えておきます」

先輩はぺこりと私達に対して頭を下げると、そのまま奥へ消えて行った。
廊下を歩く後が徐々に遠くへ薄れて行く。

それから私と店主さんは無言になってしまった。
道中であれ程蘊蓄語っていた店主さんが静かになると、何処か不思議なものを感じる。

でも今はこのくらいの無言が丁度いいのかもしれない。
私は今重大な仕事をやり終えて肩の荷が降りた気分だ。

ここまで来ればもう誰も手出しは出来無い。
八意様に封書を届けると言う任務はここに完遂するのだ。

私が胸の内に湧き上がる達成感に満足していると、再び先輩が屋敷の奥から現れた。
どうやら八意様に話がついたらしい。

私達は土間で靴を脱ぎ、それぞれ「お邪魔します」「お邪魔するよ」
と言い、屋敷へ上がった。









永遠亭の長い廊下を先輩先導の元、歩いて行く。
ひんやりとした廊下の感触が、歩みを勧める度に伝わってくる。

玄関で先輩を待っていた時の様に、私達は無言だった。
何となくお喋りをする興ではない。

そして、長い廊下を暫く歩いた後、八意様の診療室へ着いた。

先輩がコンコン、と扉をノックする。
純和風の作りをしている永遠亭の中で、八意様の診療室だけは西洋式のドアだった。
そして扉のドアノブには、猫のマスコットをあしらったドアノブカバーが付いていた。

酷くアンバランスに思える。

だがその不和が非常に八意様らしいとも感じられる。
何故かは分からないが。

「師匠、先程お話したお客様を連れてまいりました」

「どうぞ、入りなさい」

「失礼いたします」

先輩がドアノブに手を掛け手前に引く。
私達は軽く一礼をして診察室の中へ入った。

鼻を突く薬の匂い。
私は注射が苦手なのでこの匂いを嗅ぐとつい身構えてしまう。

「遠路遥々ご苦労様だったわね。さぁ、座って頂戴。
 香霖堂さんもどうぞ腰掛けて。ウドンゲ、椅子をもう一つ用意して」

「はい」

診察室へ入ると、八意様は温かい笑顔で私達を迎えてくれた。
銀色の長い髪を一つの大きな三つ編みにして纏めた髪型と、
座っていても分かる程の(女性にしては)長身。

間違いない、私が豊姫さまより封書を渡すように命じられた八意永琳様だ。

「いや、結構。この娘の用事は第三者が軽く入っていいような問題でも無さそうだし、
 話が終わるまで僕は外で待たせてもらうよ」

「そう、ごめんなさいね」

そう言って八意様は、椅子を出そうとしていた先輩に手で合図を送って静止した。
私は軽く店主さんに会釈をし「すいません、こちらの事情を汲んでいただいて」と言った

店主さんは少し笑うと。

「気にする事はない。それじゃあしっかり手紙を渡すんだよ、郵便屋さん」

そう一言だけ言って診察室を出て行った。

それから八意様が、店主さんの話し相手にと先輩を部屋の外へ行くように命じた。

二人減ってやや寂しくなった診察室で、私は八意様へここに来た理由を述べる。

「綿月豊姫様から封書を届けるように命じられて、こちらへやってまいりました」

「月から大変だったでしょう」

「えぇ、しかし八意様にこの封書を届けたい一心でここまでしたので、
 その程度、何の苦にもなりません」

本当はちょっと辛いと思う事があったけれど、
親切な店主さんに助けてもらったので何とか大丈夫だった。

「こちらがその封書になります」

「確かに受け取ったわ」

私が懐から差し出した封書を、八意様はそっと受け取った。
そしてそのまま自らのディスクの上へと置く。

本当ならすぐに開封して読んでいただきたかったが、
廊下には店主さんが待っている。
余り私ばかりに時間を掛ける訳にもいかないのだろう。

「ごめんなさいね。香霖堂さんを待たせているし、積る話は後にしましょう。
 それと今夜はここに泊まっていくといいわ。疲れも溜まっているでしょうし」

「はい」

「ウドンゲに私が泊まっていくように言ったと伝えればすぐに部屋を用意してくれるわ」

私は椅子から立ち上がると八意様にお辞儀をし、二人の待つ部屋の外へと向かった。
診察室を出たところには腕を組んだ店主さんが、壁に背を預けて待っていた。

その隣には同じく壁にもたれかかった体勢の先輩が居た。
二人とも何か話をしていたようで、
私が診察室から出てきたのに気づくと話を止めて、私に声を掛けてきた。

「終わったようだね」

「はい、お陰さまで滞りなく」

「滞りなくか………それにしては随分とスマートじゃ無かったけどね」

「ははは、厳しいですね」

「まったく、人様の家に勝手に上がり込んで眠りこけるなんて信じられないわ」

「う、先輩。私の傷口を………大体何で知ってるんですかぁ~」

「待ってる間に霖之助さんから聞いたのよ」

「て、店主さぁ~ん!」

あんまりだ、一刻も早く忘れたい事なのに他の人に面白おかしく話てしまうなんて。

「いや、待ってる間暇だったものでつい」

「つい、じゃありませんよぉ!」

「すまない、すまない。
 それじゃ、次は僕の番なんで行かせてもらうよ」

「あ、すいません。引き止めてしまって」

「いや、別に構わないよ。
 それじゃあね、レイセン。次はお客として来てくれると嬉しい」

「はい、機会があれば是非」

とは言ったものの、そんな機会なんて有るのだろうか。
ここは私が来たいからと言って、そうすんなり来れるような場所でもない。 

いや、またきっと豊姫様か依姫様のお使いで地上へ来る事が有るだろう。
いっそどちらかが八意様と文通でも始めたら話が早いのに。

そうすればそれを届ける役割を私が受けて…………

「どうかしたの? ボーッとしちゃって」

ポケーっとしたままの私を不思議に思った先輩が声を掛けてきた。
おっといけない、いけない。
考え事は後にしよう。

「いえ、なんでもありません。
 そう言えば先程、八意様が今日は泊まって行くといいと仰っていたました」

「そう、分かったわ。後で部屋の用意をしてあげる。
 でもその前に何か飲み物でも飲みましょう、
 香霖堂から歩いて来たんだったら喉が乾いているでしょ?」

「はい、是非!」

さっきはあんな事を言っていたけど、やっぱり先輩は面倒見がいい。
先に廊下を歩く先輩に私はトテトテと着いて行った。

長かった使命を終えた私の足取りは軽く、思わずスキップでもしてしまいそうだ。










翌日の朝、私は朝食後に八意様から封書を手渡された。

「あの娘の手紙に対する返事よ、渡しておいて頂戴」

「はい、承ります」

「それからこっちも」

そう言うと八意様はもう一枚同じ様な封書を私へ渡した。

「これは?」

「香霖堂さんから預かっている分よ。
 是非あなたへ渡して欲しいと言っていたわ」

「店主さんが、私に」

「ふふふ、面白い内容だったわよ」

「中身を見たんですか?」

「見たも何も、あの後診察室で筆と紙を私から借りて私の前で書いてたわ」

「どんな内容だったんですか?」

「それは月に帰った後自分で確かめなさい」

「は、はぁ」

話をはぐらかされてしまった。
でも確かに八意様の言う事が正しい。

それから私は永遠亭のみんなに別れの挨拶を済ませ、
先輩と八意様の見送りを受けて永遠亭を後にした。

永遠亭を出た後、私は竹林をゆっくりと歩いてみた。
朝の凛とした空気が美味しい。

隣を見ても誰もいない。
それが妙に寂しく感じられた。

決して長い時間では無かったが、確実に今回一番世話になった人物だ。
彼が施してくれた無償の親切を私は忘れないだろう。

やっぱり世の中には良い人が居るものだ。








月に帰った後、私は真っ直ぐに綿月姉妹のお屋敷へ向かった。
門から中へ入ると庭の方から依姫様の声が聞こえてきた。
それも酷く怒った声で、誰かを叱っている様だ。

玉兎がヘマでもしたのだろうか。

とりあえずその真相を確かめる為に庭へとまわる。
普段は訓練などに使われる広い庭、
その庭に面した縁側に声の主である依姫様は居た。

そして驚いた事に依姫様が怒っている相手は豊姫様だった。
何かあったのだろうか。

「まったく何を考えているんですかお姉様は!」

「うぅ、だからごめんなさいって言ってるじゃないの」

「その態度が反省していないんです!」

う、依姫様が本気で怒ってる。
何となく声をかけづらいなぁ………依姫様のお怒りが収まるまで見ていようか。

「あ! レイセン!」

庭に生えている木の陰に隠れようとした所で、私は豊姫様に見つかってしまった。
頼みますからこういう時だけ機敏に反応するのは止めて欲しい。

これでは逃げられない。
よし、出来るだけ平静を保とう。
スマイル、スマイルだ自分!

「地上から戻りましたか。ご苦労様です」

「いえ、豊姫様から与えられた大事な任務ですから」

「大事な………任務ですか」

そう言って依姫様は豊姫様を見た。

「お姉様、私はここまで純粋な部下を持てて光栄です」

「そうでしょう、そうでしょう」

「お姉様」

「ごめんなさい」

状況を飲み込めない私の前で二人のやり取りは続く。
もやもやとしたスッキリとしない感情が溜まるばかりだ。

いっそ勇気を出して聞いてみるか。

「あの、豊姫様が何かされたんですか?」

「あのね、私が渡した………」

「私が説明します、お姉様」

「………はい」

ギロリと依姫様が豊姫様に視線を送る。
その視線を受けた豊姫様はただ黙り込んでしまった。

ホント、あの視線を受けるのが自分では無かったと言う事が幸福に感じる。

「お姉様が貴女に渡した封書の中身、実はあの中身はただの交換日記だったのです」

「え? 今なんと?」

「ですから交換日記だったのです」

「違うわ文通よ、依姫」

「反省してないようですね、お姉様」

「ごめんなさい」

「いいですか? 自分の私用の為に玉兎を使ってはいけないとあれ程注意したでしょう。
 それにこの娘は本来非番だったのですよ。
 もしこの件が原因になって、日々の職務に支障が出来たらどうするんですか?」

「私が日記を交換していたのは私達の師匠」

「お姉様!」

交換……日記?

今なんと? 交換日記? 私が必死の思い出届けた封書の中身が交換日記?
笑うしかない、笑えない現実だけど。

「そうだレイセン、八意様からお返事は頂いてきた?」

私は豊姫様の言葉に対して無言で八意様からの封書を渡した。
交換日記か、ははは………交換日記か。

「お姉様、本当に反省が足りぬと見受けられますね」

「そ、そんな事ないわよ。今度からはもうこんな事しないから、許してちょうだい」

「ダメです、今日と言う今日は許しません。
 まったく私としてはこんなちゃらんぽらんな姉をもって恥ずかしいですよ」

「ちゃらんぽらんとは何よ! 例え姉妹と言えど言って良い事と悪い事があるわ!」

その場にへたり込む私をよそに、二人は口論を始めてしまった。
いや、下手に構われるより二人で勝手に言い争ってくれていた方が楽でいい。

もう、何もかもどうでもいいや。

そう思った時、ある事に気付いた。
そうだ、店主さんから貰った封書があったんだ。

私は店主さんから私に当てられた封書の封を切り、中身の手紙を手に取る。

一体何が書かれているのだろうか。
全く見当もつかない。また来て欲しいと言う手紙だろうか。
いや、その言葉は別れ際に言っていたし。

まさか恋文………いや、ない。
ないな、それだけはない。
月と地球がくっ付くぐらいありえないだろう。

出会って一日と経っていない相手に恋文だなんて。
節操なしと言うか、惚れっぽいと言うか。

とにかく文面をみて真相を確かめよう。

そう意を決して私は手紙を開いた。

「えーっと何々、毛布代、タオル代、宿泊代、食事代、世話代………」

手紙を持つ手がブルブルと震える。
これって、これってまさか。

「請求書じゃないのぉぉぉぉぉ!!!!」

私の叫び声は二人の言い争いをかき消し、屋敷の外まで響いた。
その勢いたるや、月の都全土に響き渡りそうな程だった。

いっそ届いてしまえ、月の都全土と言わずに地上に居るあの男にまで。

『無償の親切』だなんて思っていた自分を呪ってやりたい気分だ。
でも、この手紙が領収証だとしたら、私はまた地上のあのお店へ行かなくてはいけないのだろうか。

あそこはお店、お店にお金を持っていくと言う事はお客になると言う事。
つまり彼が別れ際に言っていた「次はお客としてきて欲しい」と言う言葉が現実になる訳だ。

いや、彼はこの手紙の意味を含んでそう言っていたのかもしれない。

だとしたらなんて、なんて食えない男なんだ。

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  •  | 2013/09/26/16:40:03
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