十四朗亭の出納帳

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十四朗

Author:十四朗
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桜きたる香霖堂

やったー霊霖SS書けたよー

『風をひいたなら』『廻る季節』の続き。
甘ったるくしたかったけどそうはならなかったぜ。

うーむ、距離感測りづらいw



『桜きたる香霖堂』



霊夢、霖之助




突き抜けるような青空に満開の桜。
暖かい春の風が緩く吹く度に桜の花弁は風に誘われひらひらと宙を舞った。

何処か遠くで鳴く鶯の声。
美しいその歌声は春のぼんやりとした空気に朗々と響き渡る。

いかにも春と言った陽気に囲まれて、博麗霊夢は弁当の準備をしていた。
それもご飯とおかずをただ詰めただけの簡単な弁当ではない。

黒い漆が艶やかに輝く大きな重箱を三段に渡って使う非常に手の込んだ弁当だ。

この時期に大きな重箱と言うだけで何の為に用意しているのか察しが付く。
今日はお花見がある、だから霊夢はこうして手間を掛けながらも豪華な弁当を用意しているのだ。

花見の場所は香霖堂。あの店の裏には大きな桜が優雅に咲き誇っている。
香霖堂の桜は、普通の桜と違いその花の色はピンク色が薄く雲の様に白い。

木によって色の濃淡はあれど、
あそこまで色が白い桜を、霊夢は香霖堂にある桜以外知らない。
変わっていると言う点では、
店の店主である霖之助と似たり寄ったりか。

その事を霊夢が指摘すると霖之助は軽い溜息と共に、
「君にだけは変わってるなんて言われたくないよ」
と言うのが霊夢と霖之助の毎年変わらない春の光景だった。

彼自身も白い桜はそれなりに気に入っているようで、
霊夢がこの時期に香霖堂を訪れると決まって桜の木がある方角の窓が開いている。

古今東西あらゆる道具が集められ、
雑多に陳列された香霖堂の店内と美しく咲き誇る桜とでは、
店内の壁から切り取られたその景色が酷く遠い別の世界にあるように思えた。

だが春風が白い花びらを数枚店内に運んでくると、
それは紛れもない香霖堂の近くにある景色なのだと実感できる。

桜は近くにあるのに、まるでそれが物凄く遠くに有るような錯覚。
ここ数年はあの桜を見る度にそんな感覚が脳裏をかすめた。

桜の魔力と言うやつだろうか。
確か白玉楼にある大きな桜は強大な魔力を持っていたらしい。

幻覚………とまで言うと言い過ぎだが、
特別な桜には何かしらの力があると言う事だろうか。

そんな話はともかく、霊夢は上機嫌な様子で料理を進める。
鼻歌交じりに卵とあらかじめ冷ましておいた出汁を混ぜ合わせ、熱した型に流し込む。
ジュ! と言う音と卵が焼けるいい香り。
火は強過ぎず弱すぎず、適度な温度を心がけ丁寧に焼く。
卵が固まって来ると、今度は慣れた手つきで卵を巻きながらひっくり返した。

まだ重箱は半分ほど空きがある。
このだし巻きを焼き終えたところでまだまだ作るべきおかずは山の様に有った。

だが不思議と苦にはならない。
多分霖之助はこれだけの量の料理を見て驚くだろう。

苦い笑いを口に浮かべながら「食べきれないよ」なんて言うはずだ。
霊夢は彼のそんな顔が見てみたい。

何時もムスッとした顔で店のカウンターに座っている森近霖之助ではなく、
一人の男性としての森近霖之助の表情を見てみたい。

昨年の冬に自分が体調を崩した時に見せてくれた心配そうな顔。
ついこの間そのお礼を言った時の照れた顔。

彼との付き合いは魔理沙程では無いにしても、
それなりに長い方だと自負しているつもりだが、
あの時は自分が見た事の無い顔を二つも見る事が出来た。

いや三つか。

実は今回の花見の立案者は霊夢ではなく霖之助なのだ。
何時もは物臭で、自分から動こうともしない霖之助の方から珍しく誘ってきた。

突然の事で少々驚かされたが、断る理由など何処にもないので了承した。
どのみち彼が言わなくても自分から言い出していた事だ。
結果的には変わりない。

彼が花見の話を切りだした時の顔は今でも覚えている。

「霊夢」と彼女に声を掛けた時は彼女の眼を真っ直ぐに見据えた真剣な表情で、
次に「今度うちで花見をしないか?」と言った時の照れたような、笑ったような顔。

あんな顔は見た事がない、多分魔理沙も見た事がないだろう。
少なくともあんな表情は家族同然の仲である魔理沙に見せるような顔には思えないからだ。

自分だけが知っている彼の特別な表情。
そう思うだけで霊夢がその日自宅まで機嫌よく帰路に着けたのは言うまでもない。

程よく焼きあがっただし巻き卵を巻きすの上に乗せ、
まだ熱々のそれを巻きすでふんわりと押さえて形を整える。

掌に伝わる熱さ。
遠慮のないその熱さは霊夢の手を赤くし、少し彼女の表情を曇らせる。

その温度に少々苦戦したが、
なんとか上手い具合に形を整える事に成功した。
後は冷めたところを包丁で適度な大きさに切り分けるだけだ。

冷ましている間に他の料理へと取り掛かる。
ぐずぐずしては居られない。今日の昼までには完成させなければ。

彼のとびきり驚いた顔を見るために。






ありとあらゆる道具が雑多に並べられた店内に比べて、
香霖堂の居住スペースは幾分片付いていると言える。

香霖堂の主である霖之助自身が、
手に取ったものはちゃんと元あった場所に返すと言う性格もあるし、
普段から生活の拠点を店の方に置いていると言う事もある。

なので店の方から居間の方へ上がった客などは、
余りの落差によく驚く。そして次には決まってこんな言葉を口にする。

「店の中も同じように片付ければいいのに」と。

霖之助からしてみればそんなのはまっぴらゴメンだ。
雑多に道具が並べられた姿こそが香霖堂の基本であり秩序なのだ。
それを乱すなんてとんでもない。

古今東西ありとあらゆるものが混在している。
それが香霖堂の色だと霖之助は日頃から自負していた。

そんな訳で余程の事がない限り香霖堂の居住スペースは片付いているのだが、
今日はそのよどほどの事が有ったために少々散らかっている。

いや散らかっていると言うには余りに規則性がありすぎる。
なんせ香霖堂の台所から廊下にかけて大量の一升瓶が並べられているのだから。

勿論中身がちゃんと詰まった一升瓶だ。
無色の一升瓶もあれば茶色い一升瓶もある。
中身が濁った酒や清流のように一点の曇りもないものまで、
実に様々な酒が並べられていた。

収集癖のある彼らしい品揃えだ。

普通に人里にある酒屋で購入したもの、
商談の結果、鬼から譲って貰ったもの、
紅魔館では清酒は飲まないと言うことで貰ったもの、
八雲紫が商品代として置いて行ったもの、
並べられた酒の価値と入手経路は様々で、バラエティー豊かだった。

その中で霖之助は比較的口当たりのいい酒を探す。
口に含んだ時に刺激が強すぎず、
そのまま自然と喉を流れるような甘い酒。
桜を見ながら料理を摘み会話の花を咲かせるには調度良い酒だ。

顎に手を当てながら霖之助は考える。
果たして自分の希望に答えてくれる酒はどれだったかと。

一応自分の手に渡った時に全て試飲をしているので味は覚えている。
その味を頭の中で再現しながら霖之助はどの酒がふさわしいか考える。

人里で購入した酒は普通だった。
可もなく負もなく、本当に普通な味だ。
自己主張の強くないその味は大体の料理に合ったが、
今ひとつ面白味と新鮮さに欠ける。

つまりこれはパスだ。

次に鬼から譲って貰った酒。
貫くような香りと辛味。
喉を熱く焼く感じは癖が強く度も高いが、
風味、味、深みの全てにおいて高い水準を誇っている。
間違いなく名酒の称号が相応しい逸品だが、
前途したように癖が強く飲み辛い。
今霖之助が求める酒とは真逆だ。

よってこれもパス。

次に紅魔館から貰った酒。

この酒は口に入れた時に酷くぼやけた感覚が広がる。
霧のように手応えが感じられなかったが、
酒の味は確かにそこにある。
頭が騙されたような気分になるその酒は時に辛く時に甘い。
面白い酒ではあるが、桜を見ながら飲み交わす酒ではない。

残念ながらこれもパス。

最後に八雲紫から商品代として貰った酒。

この酒はとにかく甘い。
その割には度数がそれなりにある。
気付いたら酔っていた。なんて言葉が似合いそうな一品だ。
何処と無く春を連想させるその味は甘みだけでなく、
染み渡るアルコールの感覚が五感を刺激し、
なんとも良い心地にさせてくれる。
その割には意識はしっかりしているので、
誰かと話しながら飲み交わすにはピッタリの品だ。

霖之助は手に一升瓶を抱えて立ち上がる。
今日の酒はこれに決定だ。

予め用意しておいた朱色の杯を抱え裏庭へと向かう。
裏庭に咲いた桜の根元には茣蓙が敷いてあり、
霖之助はその上に腰掛けた。

背を預ける桜の幹がこれ以上に無い程逞しく、心地よい。
春風が満開の桜と霖之助の髪を誘う度に、
花弁が舞踊り、茣蓙の上へと揺らめきながら音もなく落ちた。

待人を待つ高揚感と美しい桜に対する感嘆の気持ち。
この上なく満たされた胸の内でぼんやりと待人の姿を連想する。

磨き上げた黒曜石のように黒く艷やかに光を放つ黒髪。
少女の表情と女性の顔を合わせ持つ整った顔立ちに、
ほっそりとした首筋から繋がるスレンダーな肢体を、
霖之助が作った特注の巫女服に身を包んだ博麗の巫女。
それが霖之助の待人だ。

どこまでも気ままで掴みどころの無い性格。
「ツケでお願いするわ」
の一言で店の品物を拝借していくなんてのは香霖堂において日常茶飯事だ。
因みに彼女がツケを払ったことは一度も無い。
払う気も無いのだろう。

別に構わない等と言う程懐が広いわけでもないが、
今すぐに血相を変えて取り立てようと言う気も起きない。

彼女の速さで、彼女の時間で返してくれればいい。

霖之助は最近そう思うようになっていた。

突然先程までよりも強い風が桜と霖之助を襲った。
吹雪のように舞い散る花弁。
白味の強いその花弁は量も相まって本物の雪と錯覚させるほどだった。
そんな光景が眼前に広がり霖之助の視界を奪う。

見渡す限りの白、白、白。

切れ間が店の程の桜吹雪は霖之助の意識を夢と現の境界線へと誘う。
そんな中、ある光景が霖之助を現へと引き戻した。

乱れ舞う桜吹雪の壁を押し除け一人の人物が霖之助の元へ現れた。
黒曜石の様な黒髪に袖の長い特注の巫女服が特徴的な少女。
間違いない、博麗霊夢だ。

手には大きな風呂敷を下げている。
おそらく今日の花見用に作った弁当だろう。

「こんにちわ、霖之助さん。よいお日柄ね」

「あぁ、今日は良い日だね霊夢」

「本当に桜が綺麗。少し風があるから桜吹雪になってもっと綺麗に見えるわ」

「あぁ、桜を楽しむと言う点ではこれ以上に無い」

「前に特別じゃない日なんて無いって言った事があるけど、
 ちょっと揺らいじゃうかもしれないわ」

「いいんじゃないかな? ほら、春だし」

「そうね、仕方ないわ。春だし」

吹き荒れる桜吹雪の中、霊夢を桜の下に敷いた茣蓙に座るように勧める。
いつもは好き勝手な彼女もこの時ばかりは、
霖之助が座るように勧められるまで茣蓙に座ろうとはしなかった。

「あぁ、そうだ霊夢」

「ん? なにかしら」

茣蓙の上へ座り、風呂敷の結び目を解き始めた霊夢が霖之助の声に応じて顔を上げる。
小さな間を一呼吸置いて霖之助がゆっくりと口を開いた。

「ようこそ香霖堂へ。博麗霊夢さん」







菜の花の様に凛とした色のだし巻き玉子を、
箸で摘みそのまま口へと運ぶ。
卵の香りとうっすら漂う出汁の風味。
基本に忠実なその味は舌の上で溶け出し、さらに食欲を刺激する。

霊夢の作って来た弁当はかなり量が多く、
大きな重箱に三段は二人分にしては少々場違いと言わざるをえない。

これに対して霖之助が「多いよ」と苦笑いを含みながら意見すると。
霊夢が言葉ではなく嬉しそうな笑みで返した。

霖之助にはその笑顔の意味が分からなかったが、
霊夢が満足そうなのでそれでよしとした。

一通り霊夢が作った料理を堪能すると今度は酒を杯に注ぐ。
艶のある朱色の杯は透明な清酒を注がれ更に艶を増す。

軽く腹ごしらえをしない飲酒は悪酔いの元だ。
そんな醜態はこの優美な景色に似合わないので御免被りたい。

「乾杯」

「乾杯」

お互い杯の縁を軽くコチンと当てて酒盛りの開始を宣言した。
もはや形式だけのやり取りとなった行為だが、
それでも二人はこの儀式を忘れない。

互いが互いのためにに捧げる儀式。
慎ましくも相手を敬う心を忘れないための儀式だ。

乾杯が済むと霖之助は杯をまっすぐ自分の口元へ運ぶ。
鼻を刺激する酒の芳醇な香り。
それを一気に口の中へと流し込む。

先程までとは比べものにならない程の香りと、
舌先を流れる甘く濃厚な味わい。

アルコールのアクが少なく、口当たりがマイルドなせいか驚くほど飲みやすい。
横目で霊夢を見てみると彼女も同じようにこの酒を深く味わっていた。

「美味しいわ。ちょっと甘いけれど、
 お花見をしながらだとこれぐらいが丁度いいかもしれないわね」

「桜を見ながら会話に花を咲かせるには丁度いいと思ってね。
 勿論君の料理にも合うように選んだんだ」

「私の料理は美味しかったかしら?」

「それは勿論」

クスクスと笑う霊夢に対して霖之助も口元を緩めて答えた。
二人の間に流れる穏やかな時間。
何物にも代え難いこの時間は、どんな宝石よりも煌めいて見えた。

ふと霊夢の杯に一枚の桜の花弁が舞い降りる。

それは酒の水面に静かに降り立つと屋形船が水面を滑るように浮かんだ。

「ねぇ、霖之助さん。今日はどうして誘ってくれたの?」

じっと自らの杯を見つめたままの霊夢が霖之助に尋ねる。

「花見をする理由に桜が綺麗だから意外の理由がいるのかな?」

「花見の理由じゃないわ。私を誘ってくれた理由よ」

「それは………まぁ、君だったから」

「なぁにそれ、答えになってないわ」

呆れ半分、笑い半分といった表情で霊夢は霖之助の杯へ酒を注ぐ。

「おっとっと、溢れるよ霊夢」

「あらゴメンなさい。それにしても素敵な桜ね」

「あぁ、例年にも増して良い桜だ」

「ほら、飛んでく花弁が踊ってるみたい」

花見を始めた時から舞散りつづける桜を改めて霊夢が呟いた。

「舞か。神社の行事で君が踊っていたのを思い出すな」

霖之助が言う行事とは秋にある奉納行事や、
春先に行われる例大祭の事である。

この時ばかりは普段閑散としている博麗神社も人妖問わず集まり、
博麗の巫女が踊る舞や参加者全員に振る舞われる酒を堪能するのだ。

「止めてよ、みっともない」

「そうかな? 僕は結構いいと思うけどね。
 君がクルクル回る度に長い袖が棚引いて………」

「あーあー聞こえないわー」

博麗神社が盛り上がる数少ない行事にも関わらず、
霊夢自身はこの行事を酷く面倒に思っている。

どうやら準備と後片付けを、
先陣に立ってしなければならない事が気に入らないようだ。

その時期になると霊夢は知り合いに準備を手伝うように、
脅し半分でお願いして回っている。

勿論霖之助もその被害者の一人だ。

「大体舞だなんて大層に言うけれどあんなのは勘よ、勘」

「………いいのかい? そんないい加減で」

「いいのよ、それで誰も文句を言わないんだから」

彼女は自身の舞を勘だと良うが、霖之助にはそう思えなかった。

まるで花が咲き乱れるような動きと、華麗さ。
霊夢が軽く飛ぶ度に彼女の長い袖が棚引き揺れた。

揺れる袖はさながら今眼前で吹き荒れる桜吹雪の様だ。

「見てみたいかもね」

「嫌よ」

「まだ何も言ってないよ」

「どうせ私の舞が見たいとかいうんでしょ?」

「あぁ、そう言おうと思ってた」

「だから嫌よ。面倒だわ」

「そうかい、それは残念だ」

また霊夢お手製の出汁巻きを口へと運ぶ。
相変わらず絶妙な味加減が実に美味しい。

だが二人はそれっきり黙ってしまった。

まるで譜面を覚えずに演奏した曲のように、途中から二人のリズムは途切れた。
非常に歯切れの悪い沈黙。

低い風の音だけが二人の間に響く。
この沈黙を破ったのは霊夢だった。

「………少しだけならいいわよ」

「ん?」

「少しだけなら踊ってあげていいわよ」

プイっとそっぽを向き自分の杯を差し出す霊夢に、
思わず霖之助は吹き出しながらも、彼女の杯に酒を注いだ。

霊夢は注がれた酒を一気に煽ると、彼女はゆらりと立ち上がった。







白い桜吹雪の中で霊夢が舞う。

軽やかにステップを踏みながらクルクルと時計回りに回り、
彼女の袖が動きに追従して中を泳いだ。

そこから三歩程先へ軽く飛び、音もなく着地する。

風が彼女の体を運ぶ様な動きは、重さと言うものを感じさせず、
不思議な浮遊感を生み出す。

桜と言う自然の産物に人が溶け込んでいる。

『幻想』

あらゆる意味を内包するその言葉だが、
霊夢の舞には、この言葉が持つ多面性を十二分に発揮している。

そして最後に霊夢が大きく跳ねる。
渡り鳥の飛翔にも似たその跳躍は今までで一番大きかった。

「素晴らしいよ霊夢、見事だった」

彼女の舞が終わった後に、霖之助が拍手と共に霊夢を迎えた。

呼吸一つ乱していない彼女は茣蓙のところまで来ると、霖之助の隣へと腰を下ろした。

「お疲れ様」

腰を下ろした霊夢に霖之助が杯を渡し酒を注ぐ。

「ほんっと、余計な事をさせてくれるわ」

「すまない。少々厚かましいお願いだかな」

「そうね、でも今日ぐらいならこんなのも悪くないわ」

「おや、これまたどうして?」

「気まぐれよ。たまにはこうして霖之助さんのお願いを聞いてあげるのもいいかなって」

「光栄だね、博麗の巫女に贔屓してもらえるなんて」

「どこが贔屓なのよ。全然違うわ」

「違わないよ」

「違うわ」

無益な押し問答が緩やかに繰り返される。
そのやり取りは甘ったるく、
恋人同士が一目もはばからずにイチャつく様子に似ていた。
もっとも、当の本人達にその自覚はないのだろうが。

桜の気に当てられたのか春の陽気がそうさせるのか。
それは誰にも分からない。

ただそれに応えるかのように一陣の風が二人の間を吹き抜けた。

その風は先程から散り続けている桜の花と、
二人の髪を軽やかに攫って行った。

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