十四朗亭の出納帳

アニメの感想、ゲームホビーの感想など 作品のジャンルにこだわらず書いていく予定です,SSとか書いてます

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十四朗

Author:十四朗
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廻る季節

『風邪をひいたなら』の続き。多分後日談的な話。
霊霖は書いてて楽しいのぉ、楽しいのぉ。
全体的に霊霖って静かな話が多い気がする。
淡々とお互いの胸中を打ち明ける姿って良いよね。



『廻る季節』


霊夢、霖之助









幻想郷に春が来た。

現博麗の巫女、博麗霊夢はその言葉を身をもって感じていた。

ほんのりと色付いた桜の蕾が本格的な春の訪れを今か今かと待ちわびている。
吹く風は暖かで頬を撫でる度に気分が和らいだ。
縁側で湯呑み片手にお茶請けと仲良くなるには最高のシチュエーションだ。

あえて文句を付けるなら風がやや強いと言ったところか。
自分勝手な春の風が霊夢の髪を右へ左へ弄ぶ。

「やーね、鬱陶しくて仕方ないわ。髪を切ろうかしら」

ここ最近髪を切った覚えがない。

最後に切ったのは冬の初めだった気がする。
髪は女の命なんて言うほどなので、手入れ事態は毎日欠かさないが、
週に何度も里にある美容院に通う事もない。

気が向いた時に霖之助に頼んで切ってもらうので、
お金を払ってまでそんな場所へ行こうと言う発想は欠片も浮かんだ事がない。

霊夢は決心を固めるとお茶請けのアラレを口に頬張り、お茶で流し込む。
口の中のものを全て胃に流しこみ、空になった湯呑みを台所の流し台に置いた。

持ち物は特に要らないだろう。
お代はツケだし、お茶も向こうに行けば出てくる。

玄関で靴を履き外に出る。

小さな雲が風に押されて早い速度で流されてゆく。
ここから見ると穏やかだが、今日の空は荒れている方らしい。

タン! と地面を蹴って中へ飛び上がる。
みるみる内に遠くなる地面と神社。
目の前に広がる幻想の大地。

その中でも木々が鬱蒼と生い茂る薄暗い森へと体を向ける。
目的地は魔法の森入口にある香霖堂だ。








少し風が強い事を気にしなければ、春の陽気が気持いい春先の一日だ。

霖之助は庭先で布団を干していた。
冬の間は布団を干せる機会がなかったので、今日みたいな日は嬉しい。

普段自分が使っている布団と滅多に使わない来客用の布団を物干竿に掛け。
自分は縁側で春の陽気と心地よい春風を堪能する。

こんな日は………

「気持ちがいいわね」

突然頭上から声が降って来た。
聞きなれた声に反応して上を見上げてみると、霊夢が香霖堂の屋根に腰かけていた。

自分の心中を丸々代弁してくれた彼女に礼を言いたい気分だ。

「そんな所に座らないでくれ。 
 瓦がずれると雨漏りするじゃないか」

「そう、それはごめんなさい」

シュタ! と霊夢が屋根から飛び降りて地面に着地する。
軽やかな身のこなしだ。

高所から落下した時の衝撃を全身で吸収して受け流す姿は猫に似ていた。

「でも今日は本当に気持ちがいいわ」

「あぁ、今日みたいな日は胸がスッキリするよ」

「良い御身分じゃない。お店はいいの?」

「お客が来ればベルが鳴るだろう?
 だからお客が来たかどうかはすぐに分かる」

「呆れた。怠ける為のベルだったのね」

「どうとでも言うがいいさ。
 それで今日は何の用だい?」

「髪を切って欲しいの」

少し強めの風が吹いて霊夢の髪を横へ攫った。
確かに、冬の頃から比べると少し長くなったかもしれない。

「僕は道具屋だよ。髪を切るのは専門分野じゃない」

「私は香霖堂さんにお願いしてるんじゃないの。
 森近霖之助さんにお願いしているのよ。
 もう一度言うわ。私の髪を切って頂戴、霖之助さん」

「ああ言えばこう言う」

「ああ言うからこう言うのよ」

霖之助は観念したように首を力なく左右に振ると、
準備をするから待っているように霊夢に伝えた。

毎度毎度、何か有ったら彼女に使われている気がしないでもない。
髪を切るための準備を整える為に霖之助は店の奥へと向かう。

とりあえず、霊夢からこうして何かを頼まれるのは慣れっこだ。
特に変わったことでもない。








古新聞に専用のハサミと櫛、霊夢が座るための椅子。
後は髪が衣服に付着しないように首から下に被るための大きな布だ。

偶に髪を切りに来る霊夢用に散髪セットは固めて置いてあるので、
準備は早く進んだ。

「どうぞ、椅子に座ってくれ」

「よっしょと」

全ての準備が整ったところで霊夢が椅子に腰掛ける。
何時も頭に付けているリボンは霖之助が準備をしている間に外したようだ。
霊夢が腰かけたところで、霖之助が彼女の首から下に散髪用の大布を被せた。

「さて、今日はどうするんだい?」

「そうね。春もそろそろ本番だからさっぱりした髪型がいいわ」

「君は何時だってそう言うんじゃないか」

「そうかしら? まぁいいじゃない」

「君がそう言うならそれでいいんだろうけど」

「なら可愛らしい髪型にして頂戴」

「はいはい、畏まりましたお客様」

茶化すように霖之助がそう答えると、
櫛で髪を梳かしハサミで丁寧に髪を切ってゆく。

ハサミを動かすたびに霊夢の艶やかな黒髪が古新聞の上に落ちた。
夜の闇が吸い込まれたような黒だ。
あるいは鴉の羽にも似ている。

ハサミが動く音と髪が床に敷いた古新聞に落ちる音。
この二つだけが交互に積み重なって行く。

二人の間に言葉は少ない。

数分間に一度の割合で事務的な会話が行われるだけだ。
だが気まずい雰囲気はせず、和やかな空気だけが悠々と流れる。

この空間には言葉が要らない、そんな印象だ。

有史以前から人が最も使用してきた言葉を必要としない二人の空間は、
霖之助と霊夢以外誰も必要としていなかった。

霖之助は霊夢の首筋に付いた毛を掃う。
白くほっそりとした彼女のうなじが露わになった。

本当に細い。
乱暴に扱えば折れてしまいそうな錯覚を覚える。

実際の霊夢はそこまで貧弱ではない。
むしろ一般的な人間よりも頑丈な方だ。

なんせスペルカードルールに則ってはいるものの、
名だたる妖怪達と互角以上に渡り合い数々の異変を解決してきたのだ。
体が丈夫でなくてはやっていられない。

霖之助が知る限り霊夢が大きな怪我をしたと言う記憶が無い。

小さな切り傷や擦り傷程度なら何度も見た事はあるが、
骨折や大量の出血を伴う切り傷は見た事がない。

彼女曰く危険が勝手に避けて行くそうだ。

だから霊夢が異変を解決しに行くと言っても魔理沙ほど心配はしない。
博麗霊夢ならきっと大丈夫だと言う確信があるからだ。

だからこのあいだ霊夢が病気で寝込んだ時は酷く狼狽した。

普段の凛とした彼女が弱々しく息をしている様に、
胸の中がざわめかずには居られなかった。

苦しそうな霊夢の顔を見たのが本当に久しぶりだった事もあってか、
非常にみっともない慌てっぷりだった。

彼女を永遠亭まで連れて行き、ほぼ強引に入院の手続きを進めた。

数日間で彼女は平常を取り戻し退院したが、
彼女の入院中霖之助はずっと付き添いで永遠亭に泊まり込んだ。

朝は泊めてもらっている代償に永遠亭の雑務を手伝い、
霊夢の朝食を彼女の病室に運んで食べさせる。
それが終われば顔の汗をタオルで吹いた。

自分の朝食はそれが終わった後になるので、永遠亭の住人たちより大分遅い。

霖之助が永遠亭に居た数日間は大体このパターンが朝昼晩と三回繰り返された。
流石に着替えと体の汗を拭く事は鈴仙がやってくれたが、
それを除けば一日中霊夢の世話をしていた気がする。

この事については永遠亭のお姫様、蓬莱山輝夜に散々からかわれた。
顔を合わす度に何かを言ってきた気がする。
三回に一回ぐらいの確率で永遠亭に住まう兎の長、因幡てゐも一緒に居た。

「香霖堂は博麗の巫女にぞっこんねぇ~ 女として羨ましいわ。
 そんな姿を見ていたら難題出して苛めたくなるじゃない」

「そんな事を思うのは君だけだよ」

なんてやり取りが数日間の内に数え切れないほど交された。

あの時は霊夢の看病に忙しく、話の内容にまで手が回らなかったが、
今思い出すとかなり恥ずかしい。

あの時の自分はどうかしていたと思う。
何をするにしても霊夢霊夢霊夢。ずっと霊夢の事を考えて行動していた。

「手が止まってるわ、霖之助さん」

「あぁ………すまない」

当の本人に声を掛けられて思わずハッとする。
心の中で考えていた事を射抜かれて妙な気分だ。

「どうかしたの?」

「なんでも無い、少し考え事をしていただけだよ。
 君の……そう、君の髪型をどうしようかなってね」

「ふーん、そう。別に普段と同じでいいわよ?」

「切る前に可愛い髪型にしてね、なんて言っていたじゃないか」

「そうだったかしら? 別になんだっていいわ」

軽く深呼吸をして霖之助はハサミを動かす手を再開する。

「ねぇ、霖之助さん」

「なんだい霊夢」

「この前はありがとう。感謝してるわ」

「この前? 何の事だい」

分かってはいるがわざとはぐらかす。
出来るならばあの時の自分には触れて欲しくない。
それが当事者である霊夢がと言う事なら尚更だ。

「惚けないで。私を永遠亭に連れて行ってくれた時の事よ」

霖之助の思惑は手斧で薪を割るように綺麗に一刀両断された。

「そう言えばそんな事もあったね」

「そう、霖之助さんにとってはそんな事なの」

「いや、別にそう言う訳では………」

「私にとってはそんな事で済ませない事よ。
 何時か言おうと思っていたのだけれど、中々言う機会が無くって」

「アレから君はよく香霖堂に来ていたじゃないか。
 いくらでも言う機会は有ったと思うよ」

「私がここに来る時は大概魔理沙が一緒だったわ」

「二人だけの時もあった」

「恥ずかしいじゃない」

「嘘だね。本当に恥ずかしいならそんな言葉は口から出ない」

「本当よ。改めて霖之助さんにこんな事言うのが恥ずかしかったのよ」

霖之助の手が再び止まった。
返す言葉が見当たらない。

いや、正確にはどんな感情で霊夢に言葉を返したらいいのか、
霖之助はその答えを見つける事ができなかった。

「何か言なさいよ、霖之助さん」

「そうだな………どういたしまして」

結局霊夢に急かされる形でありていな答えを返してしまう。
もう少し気の利いた言葉を探す事が出来たのでは無いかと思ったが、
あの調子だと何時まで経っても同じだと自分で区切りを付けて諦めた。

「なにそれ。まぁ、別に期待なんてしてなかったけど」

「ただね、霊夢。あの時の僕は必死だったと思う」

「え?」

何時も揺らぐことのない霊夢の表情が困惑の色で揺れた。

「必死に君の看病をして、必死に永遠亭まで連れて行って、必死で君の傍に居た。
 何故あそこまで必死だったのか今でもよく分からない。
 でも、そうしないといけない気がしてね」

「………理屈ばっかり捏ねる霖之助さんにしては随分と不確かな言訳じゃない」

霖之助は口元に苦笑を湛えてハサミを動かした。
次は耳元へとハサミを進めてゆく。

「一つ言い訳をするなら………不安だったからかな」

「不安?」

「あぁ、君が弱ってる姿を見て僕はとても不安になった」

「別に弱ってなんか………」

反論するような霊夢の声。
それに構わず霖之助は続けた。

「辛そうな顔で荒い呼吸を繰り返す君を見ていると、
 言いようのない不安が胸の底から湧いて来たんだ。
 君が………君がこのまま死んじゃうんじゃないかってね」

その言葉を聞いた瞬間、霊夢が吹き出した。
大きく口を開けて腹の底から声を出して笑った。

「動かないでくれよ霊夢。耳を切り落とすところだったじゃないか」

「ごめんなさい、ふふふ! 耐えられなくって、ふふ!」

笑いを堪えようとする霊夢だが、隠しきれずに肩が小刻みに震えていた。

「確かに死んでしまうと言う表現はオーバーかもしれない。
 でもね、霊夢。君が思っている以上に僕は親しい者の死に対して敏感なんだ」

「例え季節事に流行るような病気であっても?」

「そうだよ。心配な物は心配なんだ」

「ふふ、おかしい」

クスクスと笑う霊夢に霖之助はなるべく気だるそうに対応をした。

穏やかな春の空気が漂うこの空間はとても気持がいい。
時間の流れを忘れて二人で話をしている様な錯覚が霖之助を襲う。

甘い笑いを見せる彼女の表情は儚げで、
油断していると春の夢の様に何処かへ立ち消えてしまいそうな気さえした。

「でもそこまで心配してくれていたのなら私もちゃんと言わないとね」

「そうさ、僕がどれだけ心配した事か」

スゥーっと霊夢が目を瞑って大きく深呼吸をする。
呼吸に合わせて彼女の方がゆっくりと上下に動いた。

その様子は霖之助に生をありありと感じさせる。

「私を看病してくれてありがとう、霖之助さん」

「どういたしまして。
 君がこうして普段と変わらずに香霖堂に来てくれる事が何よりのお礼さ」

散髪用に被った大布から霊夢が手を出した。
その手は霖之助の右手を優しく掴む。あの時と同じように。

「お互い言う事言ったらお腹が減っちゃったわ。
 ねぇ、今日のお夕飯はなんなのかしら?」

「はぁ、結局君はそれかい。
 今日は山で採って来た山菜が沢山あるからそれで天ぷらかな」

「いいじゃない、山菜は苦味が効いててお酒に合うわ」

「食べて行く事はともかく、酒が出る事が前提なのかい?」

「それはまぁ、当然」

じんわりと彼女の手の平から温もりが伝わって来た。
それは死人の冷たさではなく生きている者の温もり。

博麗霊夢ではなく、霊夢と言う少女の温もりだった。

「でも、今日ぐらいは私が夕食の用意をしてあげてもいいわ」

「どうしたんだい? 急に」

「だって………こんなにも良い日なんですもの」

その言葉に霖之助は「違いない」と静かに頷いた。

霊夢が霖之助の手を握ったままなので作業は中断されたままだったが、
それでも二人は別段問題なさそうに話を続けた。

日が暮れるまで。

Comment

#No title
霊夢は博麗の巫女の性質なのか元からなのか
超然とした所を感じるのでこういう女の子らしい部分を
見ると安心しますね。
二人が気づかずお互いを求めて距離を縮めているのが
微笑ましい気分にさせてくれます。
  • by:
  •  | 2010/01/15/21:03:42
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