十四朗亭の出納帳

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Author:十四朗
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朱鷺のすみか 5

朱鷺霖五日目!
多分今回が一番長いと思う。

それと朱鷺霖って言うより慧霖な気がしなくもない。
てか完璧慧霖だろこれw

まったく恐ろしいぜ。


『 朱鷺のすみか 5 ~朱鷺子と祭りと慧音~ 』




朱鷺子、霖之助、慧音、親父さん






夏に入る前、霖之助は慧音からある誘いを受けていた。

何時も口喧しく「里で店をやれ」だとか「生活が乱れ過ぎている」だとか言ってくる慧音が、
珍しく改まった態度をするので思わずこっちも真剣に耳を傾けてしまった。

「この夏に行われる夏祭りに来ないか?
 妹紅の提案で何人か集めて行くつもりなんだが、
 中々人が集まらなくてな。
 だから付き合ってもらえないか?」

夏祭り、懐かしい響きだ。
独立して店を持った頃は霧雨の親父さんに顔を見せるのと、
その娘である魔理沙を祭りに連れて行くのとで言っていたが、
最近はとんと御無沙汰だった。

どうも騒がしいのは苦手なのだ。
どっと人が道に溢れかえり喧騒で耳が持たない。

そのうえ溢れかえる人の波を縫って移動しなければならないので、
疲れるにも程がある。

そんな訳で最初は渋っていた霖之助だったが、
その日の慧音はいつもと違い粘った。

「年に一度なんだぞ?」とか、
「親父さんに顔を会わせろ」とか、
少々痛い所を的確に付いてくる。

特に親父さんの事に関しては耳が痛い。
ここ数年で会う機会がめっきり減ってしまった。
今回断ってしまうと次に何時会うのかわからない。

親父さんもそろそろ歳だ、
機会がある内に出来るだけ言葉を交わしておきたい。
もっとも、あの人がそう簡単にどうにかなってしまう様な人間だとは思わないが。

結局霖之助はその意見を了承してしまった。

さっきも言ったようにそれが夏が始まる前の話。
後日細かい予定を聞いたみたら行くのは妹紅と慧音だけらしい。
霖之助以外に人数が集まらなかったようだ。
張り切った割になんとも残念な結果である。

三人で祭りか、身動きが取り辛そうだな。

なんて考えていたのが一月程前。

祭りは四人で行く事になるな。

なんて考えているのが現在の霖之助。
祭り当時の朝だ。

約束を取り付けた時には頭数に入っていなかった朱鷺子が今は居る。
勝手に人数を増やしたら文句を言われそうだが、
自分が全て面倒を見ると言えば納得してくれるだろう。

他に問題があるとすれば祭りに行く事をまだ朱鷺子に伝えていない事だ。
それをこれから伝えなくては。

だが若干どころか重度の人見知りの気がある彼女が、
そんな人だらけの場所に来るだろうか。

とりあえず聞いてみよう。
行かないなら行かないで聞いておかなければ不味い。

「なぁ、朱鷺子」

「ふぉ? おかわりはいらないよ」

「おかわり違う、それから何時までも寝ぼけてるんじゃない」

活力が入っておらず、まだ眠気が完全に抜けきっていない眼。
左手で持つ茶碗が常に左右に揺れ、箸の握りは緩い。

霖之助は知っていた、彼女が昨日夜遅くまで本を読んでいた事を。

彼女はそうやって夜更かしする事がよくある。
霖之助も注意はしているが中々直る気配がない。

本を読んでいたいという気持ちは分からなくもないが、
そんな事をしているから朝が疎かになる。

今度キチンと言ってやらねばなるまい。
霖之助は心の片隅でそう決心した。

「今夜人里でお祭りがあるんだ。
 僕は行くつもりだけど君はどうする?」

「お祭り? お祭りって、
 へいらっしゃい! とか、
 美人を連れて憎いねぇ社長! とか言うやつ?」

「微妙に違う、いや大分違う。
 縁日へ行った事ないのかい?」

「ないよ、でも遠くから見た事はある」

まぁ、彼女の性格からしてそんな場所に、
自分一人で行った事が無い事は予想で来ていた。

「なら行ってみたいかい?」

「うん! 霖之助が行くって言うなら私もついてく」

眠たそうだった目にどんどんと活力がみなぎっていく。
彼女は意外とアクティブな事が好きなのかもしれない。
何より行った事が無いという祭りに興味を持ったのだろう。

いい事だと思う。
興味は何時だって前に進むための帆になる。

例え誰かが横から邪魔をしようとも興味はそれを押し退ける。

いや、むしろそれは風になる。
風は帆を大きくはらませ時には信じられない速度で船を前へ運ぶ。

だから人間であれ妖怪であれ、
興味と言う感情を無くした時、前へ進むのは止まってしまうのだ。

帆の無い船は進まない。




「ねぇ、霖之助くすぐったい」

「我慢するんだ、ほら両手を上げて」

「ひゃん! ちょ、ちょっと! いきなりキツイじゃない」

「ここは緩くすると……フンッ! すぐに駄目になるからね」

「ふぁぁ! んっ! だ、だめだってば!」

「駄目だ、こればっかりは容赦しない」

途中で緩くならない様に浴衣の帯はしっかりと絞めておく。

濃い青と薄い水色、彼女に合うだろうと思って用意してみたが、
予想通りよく似合っている。

帯は女の子らしく赤色にしてみた。
帯を結ぶのなんて久しぶりだったが案外体が覚えているものだ。
難なくこなせた。

「それにしても今日は朝から浮かれっぱなしじゃないか」

「だって、楽しみじゃない。
 霖之助は楽しみじゃないの?」

「楽しみにはしているけど、
 君みたいにはしゃいだりはしないよ」

「冷めてるし枯れてるのね」

「落ち着いてるのさ」

朱鷺子はぶーぶーと文句を言っているが聞き流す。
一つ一つ対処していても埒があかない。

朱鷺子の着替えが終わると今度は自分の着替えだ。

普段着にしては重装備だとよく言われる服を脱ぎ、
朱鷺子と同じように青を基調とした浴衣に袖を通し、
胴を帯で絞めて完成だ。

実に手早い、脱ぎ始めてから着替え終わるまで五分も掛っていない。

縁側で足をブラブラさせ暇を持て余している朱鷺子を尻目に、
霖之助は財布を懐に入れ勝手口などの戸締まりを確認する。

全てに異常はなし。
もうじき夕日が山の向こうに沈む、
そろそろ出発の頃合いかもしれない。

「朱鷺子、そろそろ行こうか」

「うん、やっとだね」

「財布はあるかい?」

「ある、お小遣い貰ったばっかりだからホクホク」

「はぐれた時は?」

「霧雨道具店って所に行く」

「初めて会う人には?」

「自己紹介と挨拶」

「よし完璧だ。
 今日は里に住んでる僕の友人と一緒に回る事になるから、
 彼女に迷惑をかけるんじゃないぞ?」

「女の人なの?」

「ん、あぁ、里の寺子屋で教師をやっているんだ。
 僕が里に居たころからの知り合いだよ」

「ふーん、まぁいいわ行きましょう」

下駄を履き玄関先に出た朱鷺子を追うように、
霖之助も下駄をはく。

カラコロカラコロと霖之助が歩く度に下駄の音が店内に響いた。

カラコロカラコロ。






人里の入口付近を行き交う人々を眺めながら、
人里の守護者、上白沢慧音は静かに焦っていた。

キョロキョロしたり胸の前で組んだ腕をしきりに組み替えたり。
心ここにあらずと言った様子だ。

今日はこの里でお祭りがある、勿論慧音もその祭りに参加する。
彼女の友人である藤原妹紅と森近霖之助、この二人と参加する予定だった。

だが、昨日になって妹紅が祭りには行けないと言いだしたのだ。
何でも彼女の住んでいる竹藪で焼き鳥パーティーがあると言っていた

嘘だ!と言ってくれと言わんばかりの嘘だ。

普通数ヶ月前から予定が入っている日に新しい予定入れない。
と言うより用事の意味が分からない。

嵌められた、思いっ切り嵌められたのだ。
お節介焼きの健康マニアに余計な気を使われた。

元からおかしいと思った。
行事やイベントに対しても物臭な彼女が、
自分から祭りに行こうなんて言うはずがない。

今頃竹林で一仕事終えた顔をしながら酒でも飲んでいるんだろう。

冗談じゃない、こっちはまだ終わってない。
大体霖之助と一対一で祭りを回ると言う事自体冗談じゃない。

まず周りの目が気になる。
霖之助は結構目立つ容姿だ。
それと同じく慧音の容姿も人里では中々目立つ。

そんな二人が一緒に歩いていたら物凄い目立つ。
周りからみたらきっと……… 

そこまで考えて慧音は頭を左右に振ってその考えを振り払った。
悪くないけど恥ずかしい、すごく恥ずかしい。

すでに茜がかった太陽は半分以上が山の向こうに隠れ、
瑠璃色の空が頭上に広がるばかりだ。

待ち人はそろそろ来るだろう。

この日の為にめったに着ない浴衣を引っぱり出してきた。
本当は妹紅の分も用意していたのだが、
来ないようなので祭りが終わればもう一度タンスの中だ。

慧音の浴衣は青色で裾の方に行くほど、
淡い水色になるグラディエーションが掛っている。
ちょっと派手だと思ったが帯は赤色にしてみた。

髪もちゃんと結い上げてある。
外見に関しては隙がない。

心理面に置いてはガタガタだが。

「やぁ、慧音。遅くなってすまない」

背後から掛けられる声、
低さと重さ、それから若干の若さを含んだ男の声。

間違いない慧音の待ち人、森近霖之助だ。

「まったくだ、来るのが遅いぞ。 
 大体お前はいつも……」

お約束の小言を口にしながら霖之助の方を振り返る。

そして慧音が固まった。

霖之助の左側、
霖之助が来ている藍色の浴衣の袖をちょこんと掴み、
霖之助と並んで立っている少女を見てしまったからだ。

霖之助と同じような銀色の髪に青い毛が一部混じっている。
背中には赤と白の羽が生えてあった。

だが一番慧音が気になったのは容姿よりも彼女の服装だ。

青と水色の浴衣に赤い帯、どこかで見たような色合いだ。
と言うか、慧音と殆ど一緒だ。

「ほら、初めて会った人にはどうしたらいいんだい?」

霖之助が傍らに寄り添う彼女の背中を押して自分の前に出す。
不貞腐れたような顔の彼女は慧音の頭から爪先まで見渡すと、
ゆっくりと口を開いた。

「………はじめまして、私は朱鷺子って呼ばれてるわ。よろしく」

「あ、あぁ、はじめまして。
 上白沢慧音と言う、この里で寺子屋の教師をやっている。
 よろしく」

挨拶が済むと朱鷺子は出会った時と同じように霖之助の傍に戻ってしまった。
だが目は常に慧音の顔を覗いている。

警戒の色を表す態度だ。

「気を悪くしないでほしい。
 どうも人見知りの激しい子でね」

「いや、うちの生徒も最初はこんなものだよ」

「今日はこの子も一緒に回る事になるけどいいかな?」

「ここまで来てその子だけダメだなんて言えないだろう」

「ありがとう、後は妹紅だけかい?」

「いや、妹紅は予定があってこられないそうだ」

「そうか、彼女も残念だね」

「なに、その子がいれば人数的には予定と変わらんさ」

なんて事を口で言ってみたが本心は真逆だ。

妹紅は来ないし、霖之助と関係不明の少女は一緒だし。
最初からあった予定と言う物は砕けて散ってしまった。


 



お祭り騒ぎの中を三人が行く。
祭りに参加している妖怪の数も少なくはないが、
この三人組は中々目立つ。

霖之助の手を朱鷺子が引いて、
朱鷺子に連れまわされている霖之助を慧音が後ろから追いかける。

大体こんな構図だ。

朱鷺子には見る物全てが目新しく感じたのだろう。
興味が湧いた出店には必ず寄っている。

先程も綿飴を買ったばかりで、
右手には入道雲みたいな綿飴を持っていた。

「ねぇ、霖之助。次はアレ食べたいんだけど」

「ん? どれだい?」

「あの焼きトウモロコシって書いてるやつ」

「おいおい、朱鷺子まださっき買った綿飴を食べてる最中じゃないか。
 そう言うのは食べ終わってから言うんだ。
 それに霖之助、お前も買うつもりで返事をするな」

「いや、僕はそんなつもりで………」

「大体さっきから食べ物を買い与え過ぎだろう。
 お好み焼き、飲み物、ベビーカステラ、タイ焼き。
 いくら欲しがるからと言っても買い過ぎだ。
 夜中の飲食は程々にしないと成長に影響が出るぞ」

「………ケチ」

慧音の説教に朱鷺子がぼやいた。
どうも自己紹介してから慧音に全くと言っていいほど懐いていない。

普段寺子屋の教師をしている身なので、
子供への接し方には自信が有ったのだが、
ここまで懐かれないとその自信も危うい。

「まぁまぁ、慧音。これで最後にしよう、
 彼女に食べ物を買い与えるのはこれで最後だ。
 朱鷺子もいいね? 次で最後だ」

「………うん」

どことなく納得がいかない様子で頷く朱鷺子。

その様子を見て慧音も納得がいかない。

霖之助は少々この少女に甘過ぎるのではないか?

そんな疑念が湧き出てくる。

カラコロと下駄の音を響かせ朱鷺子が屋台へと駆け寄る。
霖之助と慧音の二人も続いた。

「おや、お嬢ちゃん。
 一本買ってくのかい?」

「えと、えーっと」

出店の男に声を掛けられた朱鷺子が固まってしまった。
不意をつかれたのと、屋台特有の威勢の良い声に驚いた様だ。
何か言いたげに口をパクパクさせている。

「いや、三本お願いするよ」

「はいよ! 三本ね!」

見かねた霖之助が後ろから焼きトウモロコシの注文をする。
今日はこんな光景を何度見た事か。

回った出店の数だけ見た気がする。

「……あの、ちょっと……違う」

手早くトウモロコシを三本焼き始めた店の男に対して朱鷺子が何か言ったが、
蚊がなく様な声だったので男には聞こえなかったようだ。
霖之助も財布から代金を出していたので気付いていない。

この場に置いて朱鷺子が何か発言しようとした事に気付いたのは慧音だけだ。

一体何を言おうとしたのだろうか。

「朱鷺子、今なんて言おうとしたんだ?」

慧音がしゃがんで朱鷺子の目線に自分の目を合わせると、
そう静かに聞いた。

「………アレを乗っけてみたくって」

朱鷺子が指さす方向、
そこにはバターを乗っけた焼きトウモロコシを頬張る女の子が居た。
両脇には両親と思われる男女が笑顔で立っている。
そして少女が頬張る焼きトウモロコシには半分溶けたバターが乗っていた。

成程、アレか。
初めて焼きトウモロコシを食べる割には中々通な楽しみを知っている。
確かに焼きトウモロコシの焦げた醤油にバターは絶品だ。

「分かった、私が言ってやろう」

「え?」

慧音は立ち上がり屋台の店主の方を向く。
店主は今焼いたトウモロコシに、
醤油タレを縫ってる最中のようだ。

まだ間に合う。

「すまない店主殿」

「はい! どうしました?」

「トッピングにバターを乗せてくれないか。二つ分」

「分かりました! バター追加で!」

威勢の良い店主の声が響く。
慧音の隣に立っている古道具屋の店主とは大違いだ。

まぁ、霖之助が威勢良く「いらっしゃい!」
なんて言う姿は想像できないし、想像したくない。

「なんだ君達、トッピングに関して注文があるなら最初から言ってくれよ」

「すまない、どうも朱鷺子が物欲しそうな顔をしていたのでつい」

「ついでに自分の分もかい?」

「は、はは、気にするな」

「はぁ、相変わらず世話焼きだね」

「私はそれが取り柄だからな」

慧音が乾いた笑みを浮かべながら会話をしていると、
誰かが慧音の着ている浴衣の袖を引っ張った。

振り向いてみると引っ張って居るのは朱鷺子だった。
慧音の顔を見上げて何か言いたそうに口をもごもごさせている。

「どうした、朱鷺子?
 そろそろトウモロコシが焼けるぞ」

「……がとう」

「?」

「ありがとう……言ってくれて」

やや俯きながら気恥かしそうに朱鷺子がそう言った。

今日初めて朱鷺子が慧音に対して敵意を持たずに接した瞬間だった。
思わず頬が緩み、朱鷺子の頭にポンっと手を置く。

「どういたしまして。
 それから、よく言えました」

そう言うと優しく頭を撫でてやった。





バターを乗せた焼きトウモロコシを頬張る二人をひきつれて、
霖之助はこれから上がる花火を見物する場所を探していた。

とはいえ周りは同じような事を考えている連中ばかり。
茶屋等のめぼしい場所は先客いて入れそうもない。

こうなれば屋外のベンチ等でもいいので三人分、
いやせめて二人分は座れそうな場所を探す。

その時、見覚えのある人影が視界にちらついた。

短く刈りそろえた髪に霧雨の文字が書かれた法被。
見かけは五十を過ぎた辺りの男性。

顔付は厳ついが中々味がある。
若い頃は男前と持て囃されたタイプの顔だ。
いや、今でも渋くて男前な顔立ちと評判らしい。

彼こそは霧雨魔理沙の父親で里一番の道具屋『霧雨屋』の大将で、
人里に居た頃の霖之助の師匠にあたる人物だ。

「お久しぶりです親父さん」

親父さんの背後から祭りの喧騒に負けないくらいの大声で声を掛ける。
普段出す事が無いほど大きな声だったが、
騒がしさも相まって丁度良いぐらいに聞こえた。

「ん? おぉ! 香霖堂じゃねぇか。
 それに慧音先生も………この子は?」

霖之助の声に気が付き親父さんが大層驚いた顔をした。

騒がしいのが苦手な霖之助がこの場に居た事もあるが、
何より霖之助と一緒に居た人物に驚いたのだろう。

特に朱鷺子には眼を丸くして驚いている。

「しっかし、驚いたな」

「何がです? 僕が騒がしい場所に来た事ですか」

「違う違う、お前が連れてる子供だよ。
 だってほら。その子お前のむす……」

「違います」

「え? だけどアレはどう見ても」

「違います」

「母親は………聞くのは野暮か。
 先生、立派な母親に」

「私も違います!」

割と真剣な顔をした親父さんを二人で止める。
思考が飛躍しすぎだ、男女二人に女の子が一人で何故そうなる。

「彼女は色々あって最近僕が面倒を見ているんです。
 ほら、君も自己紹介をするんだよ」

厳つい顔の親父さんに対して朱鷺子は、
何時も以上に霖之助の後ろへと隠れていた。

後何回このやり取りをすればいいのだろう。
霖之助はぼんやりとそう思った。

「私は朱鷺子、よろしく………お願いします」

霖之助の後ろに隠れたままの朱鷺子が、
小さな声でそう言った。
親父さんともろくに目を合わせていない。

自己紹介としては赤点だが、
朱鷺子にしてはまぁまぁ、良い方だ。

とりあえず褒めておこう。

「よし偉いよ朱鷺子、
 じゃぁ、次は僕の前に出て親父さんと目を合わせて話そうか?」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか香霖堂。
 この年頃の子は初めて会う人間に対してはこんなもんだ」

「この年頃と言ってもこの子は妖怪ですから、
 少なくとも貴方の娘よりは年上ですよ」

「はっはっは、気にするな」

「娘?」

「あぁ、親父さんは魔理沙………白黒の父親なんだよ」

「違う元父親と言え、元父親と」

「お父さんなんだ」

「お嬢ちゃん、それは違うって言ってるだろ」

「いい加減諦めたらどうです?霧雨さん。
 家族、友人、恋人、最後まで切れない縁は家族じゃありませんか」

「おいおい、男女の恋心は切れるっての言うのかよ?」

「夫婦の誓いを立てて家族になったなら永遠に切れませんよ」

「ほぉ~なら先生も早いとこ切れない縁とやらを実践してみたらどうだい?」

「な!? それは、ま、まだ早いと言うか、手を繋ぐところから……」

「慧音?」

「ち、違うぞ! わ、私は何も考えてないぞ!」

必死の形相で声を荒げる慧音。
彼女の声は喧騒の中でもよく響いた。

慌てるなこれは親父さんの罠だ。

「はぁ、親父さんはお変わりない様で」

「はっはっは、そう簡単に変わってたまるかよ」

「まったくです、僕も親父さんが大人しくなる姿なんて想像できませんから」

「俺もお前が愛想よく商売に精を出す姿が想像できねぇよ」

「何を言うんです、僕は毎日商売に精を出していますよ。
 有力な妖怪達に太いパイプを作り、ゆくゆくは幻想郷最大の……」

「売上で一番になれ! ゆくゆくはなんだ!?
 幻想郷で最大の黒い組織にでもなるつもりか!」

慧音の冴えた突っ込みが入る。
生真面目な彼女らしい反応だ。

霖之助と親父さんの笑い声が響く。
朱鷺子も口元を緩めて静かに笑っている様だ。

「それじゃ、俺はこの辺で失敬するぞ、
 楽しんでるところ邪魔してすまねぇな」

「いえ、親父さんに会うのが今日の目的でもありましたから」

「はっはっは、一人前の事を言うじゃねぇか!
 それじゃな、慧音先生もお嬢ちゃんも」

「ばいばい、小父さん」

あれだけ親父さんの事を警戒していた朱鷺子が、
彼に対して別れの言葉をかけ、おまけに手を振った。

あの人見知りの朱鷺子がだ。
それが霖之助には少々意外だった。

その後親父さんは「花火を見るつもりなら河原がいい」
と言い残して人ごみの中へ消えていた。





里の中心を跨ぐ様に流れる川。
広い川幅があるとは言い難いが、
昼間に運河として活用したり、
夜間に屋形船を浮かべるのには不自由しない。

勿論花火を打ち上げる際に関しても不自由はしない。

霖之助達は河原に設置されたベンチに腰を掛けると、
少し遠くなった祭りの喧騒と明かりを眺めた。

座る位置は川を正面として、
右端から慧音、朱鷺子、霖之助の順番だ。

この場所は川の下流、つまり里の外れに位置する。
ここまでくると流石に人は疎らだ。

祭りの喧騒から一服しようと、
一人フラフラしている者が数人通りかかるだけだ。

「もうお祭りがあんなに遠いね」

「仕方ないよ、こんな場所しか空いてないんだから」

「もっと早くに場所を取っておくべきだったな。
 私が昼間から茶屋や屋形船の予約をしていればよかった」

「よしなよ、お金がかかって勿体ない」

「霖之助ってケチなのかそうじゃないのか分からないよ」

「風流ってのはね、お金を掛けて買うものじゃないんだ。
 多少例外はあれど風流なんてのは自然に感じるものさ。
 夏の日に開け放った窓から入って来て、
 風鈴を鳴らす風に誰もお金は払わないだろう?」

「確かにね、払おうと思っても払えないし。
 そう言えば………私にしてくれた事って全部お金掛って無かったね」

「あぁ、全部店に有ったものと自分で作ったものだ」

「お前には手塩にかけて可愛がるって言葉は無いのか?」

「さぁね、手間のかかる妹分と人見知りの激しい居候のお陰で忘れてしまったよ」

そんな友人の言葉を聞いて慧音は軽い溜息を一つ漏らした。

何時だってこの男はそうだった。
他人に距離を置いた風な態度を取りつつも、
何かあったら一足飛びで駆けつける。

そんな面倒な性格をした男なのだ。

走って駆けつけてくれるぐらいなら最初から近くに居ればいいのに。

「なぁ、朱鷺子」

隣に座る朱鷺子の耳元でそっと囁く。

「ん、なに?」

慧音は朱鷺子に出来るだけ優しい声で彼女に問いかける。
今なら聞けそうだ、彼女にとって霖之助どんな存在なのかを。

いや、もう聞かなくても分かっているのかもしれない。

霖之助に寄り添う朱鷺子。
人ごみの中でずっと霖之助の袖を掴んでいた朱鷺子。
出店の売り物を買って欲しいとねだる朱鷺子。
初めて会う人の前では霖之助の後ろに隠れてしまう朱鷺子。

その姿はまるで………

「お前にとって霖之助はどんな存在なんだ?」

「私にとっての霖之助?」

「そうだ、最近ずっと一緒に居るんだろう?
 お前がどういう風に霖之助に接しているのかと思ってな」

「んーとね、一緒に居ると安心する」

「それから?」

「頼りになって優しい」

「優しい………か」

間違ってはいないが、
まさか霖之助の事を優しいとストレートで言う者がいるとは思わなかった。

「それでね、ちょっと前まではそれがなんて言う存在なのか分からなかったの。
 でも最近………やっと答えが見つかったわ」

一呼吸だけ朱鷺子が間をおく。
時間が止まった気がした。

朱鷺子の瞬きがひどく遅く感じられる。
薄い瞼の幕が閉じて眼球を包み込み、また開くまでの刹那の時間が、
こうも長く感じるとは思わなかった。

やがて朱鷺子がゆっくりと唇を動かす。

「霖之助はね、私のおと」

そこまで言いかけて、朱鷺子の言葉は大きな爆発音に遮られた。
水面を照らす色鮮やかな光。

見上げてみると暗い群青色の空には花火が大きな花を咲かせていた。

花火はヒューっと言う音を上げて空へ駆け上がると、
赤や青の大きな花弁を闇夜に咲かせる。

一度咲いた花火は燃えながら光の粒になって下へと落ちてゆく。

幻想郷の少女達が日頃から興じている弾幕勝負と似て非なる光の花。

見た目麗しいのは弾幕と変わらないだろう。
だがしかし、弾幕がどう足掻いても相手を倒すためにあるのに対して、
花火は純粋に見せる為のもの。

何処の誰それに対して敵意を向ける為の物ではない。
人を感動させ魅了させる為の物だ。

なんて朱鷺子の隣に座る男なら言うのだろう。
慧音にはそう思えた。

花火が打ち上げられる度に歓声を上げる朱鷺子。
そしてそれを見守る慧音と霖之助。

最初朱鷺子に会った時は心中穏やかではなかったが、
今ではすっかり打ち解けられた。

無愛想に見えてどこか憎めなくて、
偏屈だけど人と触れ合うのは嫌いじゃない。

誰かに似てると思えば霖之助にそっくりだ。
本当に親子みたいだ、なんてぼんやり考える。

だとしたら………自分はお母さんか。

そこまで考えて、慧音は自分の顔が真っ赤になってゆくのを感じた。
ぽぅっと顔が染まり熱が顔を熱くする。

今が夜でよかった。
でなければ慧音は真っ赤な顔を二人に曝していたのだから。

霖之助がお父さん、自分がお母さん、朱鷺子が娘。

そんな事を考えていたなんて口が裂けても二人に言えない。





祭りのメインイベントである花火が終わり、
大通りに溢れていた人ごみが疎らになり始めた頃。

やっと霖之助達は身動きが取れるようになった。

散々はしゃいでせいで疲れて眠ってしまった朱鷺子を霖之助が背負い、
その隣を慧音が同じ速さで歩く。

朱鷺子が起きてしまわない様に歩幅は余り大きくとらない。
あまり速いとは言えない速度だが、
二人とも気にしていなかった。

隣に目線をやれば空を思わせる青い浴衣を着た慧音が居る。
上半身が深い青色で足の方へ行くほど、
白みがかった薄い青のグラデーション掛っている。
その配色は夜明けの空によく似ていた。

青味がかった長い銀髪はキッチリと結い上げられ、
白いうなじを露わにしている。

一言で言って今日の慧音は綺麗だった。
こう言うと何時もの慧音がそうでない様に聞こえるかもしれないが、
決してそう言う訳ではない。

普段の彼女だって十分人の目を引く美貌を持っている。
だが今日は、今日の彼女は、その中でも特別に思えた。

早く良い相手でも見つければいいのにと霖之助は思う。
昔の古馴染みが何時までも独り身で居ると聞いて、
何度か霧雨の親父さんに頼んで見合いの下準備(慧音には霖之助が関わっている事を話していない)
を進めた事があるが、彼女は一度も首を縦に振らなかった。

相手が大きな商家の跡取りでも、
相手が代々続く大工の若頭でも、
相手が里一番の伊達男でも。

彼女は頑として首を縦に振らなかった。
親父さんが理由を聞くと。

「恥ずかしい話ですが、もう心に決めた人がいるんです。
 でも中々気付いてくれませんけどね。
 それでも今は、その人と偶に会ったりするだけで満足ですよ」

なんて照れた風に言ったそうだ。
慧音はその鈍感な男を一途に思い続けているらしい。

まったく、こんな事を言わせるまで慧音を待たせる男とは一体どんな人物なのだろう。

よっぽど素敵な男なのだろうか。
地位も名誉も財産もある男なのだろうか。

それとも地位も名誉も財産もそんなに無いが、
何か彼女が惹かれるものを持っている男なのだろうか。

もしその男が誰だか分かったら言ってやろう。

「ちょっとは女性の気持ちに答えてあげるといいよ。
 特に寺子屋の先生は素直じゃないから君が積極的にしてあげないと」

なんて言えば少しは現状が解決するだろうか。

「どうした霖之助? 口元が緩んでるぞ」

「何でもないよ、ちょっとね」

「ふぅむ、まぁいい。
 それにしてもよく寝ているな」

「あぁ、里に来てからはしゃぎっぱなしだったからね」

「まったく、お前は甘やかし過ぎだ」

「っむ、そんなつもりは無いんだけどね」

「いや、ダダ甘だったぞお前は」

「明日から改善してみるよ」

笑い合いながら大通りの角を右に曲がる。
ここを真っ直ぐ行くと今日初めて慧音に出会った場所。

つまり里の出入り口に行きあたる。

「今日はすまなかったな。
 元々お前は祭りの様に騒がしいのは嫌いだと言うのに、
 妹紅の提案のせいで無理矢理参加させてしまって。
 おまけにその当人は今日来ていないと来たものだ。
 妹紅には私の方からキッチリ言っておくよ」

「いや、別にいいよ。
 今日はそれなりに楽しかったしね。
 彼女には感謝こそすれど、怒りはしないよ。
 誘ってくれてありがとうと伝えておいてくれ。」

「そ、そうか。ならよかった」

「今日は君達と一緒に居て楽しかったよ。
 朱鷺子も君に懐いてたみたいだしね」

「懐いてた、って言っていいのかな?」

「十分だよ、未だに紫とかには懐かないから」

民家から漏れる明りと月明かりがあるので、
随分と明るく感じる。

もう少しで彼女ともお別れだ。
そう思うと少し寂しい。
祭りが本当に終わってしまうのを実感するみたいで。

騒がしいのが苦手な霖之助でも、
祭りの終りには少し感傷深くなる。

活気が四散してゆくようで寂しいのだ。
だからこうして今日あった事を誰かと語り合う。

今日の事を忘れて島は無いように。
祭りの活気と同じように思い出が四散してしまわない為に。

「やっぱり君は子供の面倒見がいいね」

「いまさら何だ、当然だろう? 寺子屋の教師なんだから」

「いや、僕が言いたいのは………」

今日の君は母親みたいだった。

なんて言おうとして、慧音が怒ると思って言うのを止めた。
急にどもってしまった霖之助に慧音は怪訝な顔をしたが、
人里の門まで来ると笑顔で見送ってくれた。

霖之助には見送ってくれる慧音の笑顔がやけに温かく感じられて、
思わず彼女に「いってきます」を言いかけた。

これから自宅に帰ると言うのにおかしな話だ。

Comment

#No title
これは確かによい慧霖です、ハイ
父 霖之助 母 慧音 娘 朱鷺子 
だと……俺の追い求めたジャスティスが今ここに!

続きが見たいぜよ
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  •  | 2009/12/28/01:02:45
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#No title
外見と性格の組み合わせは完全に親子ですよね。
三人並んで歩いたら誤解されない方がおかしいレベル
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  •  | 2010/01/02/18:40:04
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#No title
あぁもう霖之助と慧音は朱鷺子ちゃん養子にしてさっさと結婚しちゃえよ!
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  •  | 2010/02/21/09:55:36
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朱鷺子「霖之助、私お母さんが欲しい」
これでなにも問題はないな、うん。
  • by:
  •  | 2010/08/04/00:13:16
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#No title
けーねせんせいが可愛すぎて生きるのが辛い。
  • by:
  •  | 2011/05/30/00:39:49
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